481 注釈 2 鉄瓶の名。京都の鋳ェで江戸末期から明治初期にかけてその作を多く残した。 第五高等学校生時代、漱石の家で書生をしていた設野義郎がモデルといわれた。彼は法科を出て実業 家になったが、当時大学あてに親展至急で噂の取消しを申し込んだという。その間の事情は、明治四 十二年 ( 一れ 0 九 ) の「満韓ところどころ」十一にくわしい。 オタンチンはまぬけの江戸俗語。東ローマ最後の皇帝コンスタンチン・。ハレオロガス (Constantin Paleologws) にかけたしゃれ。結婚まもない第五高校教授時代、漱石が夫人によく使っていたことば で、夫人はたすねてくる学生にいちいちその意味をきいていたという。 1 三井のもじり。三平のモデルといわれた股野義郎は当時一二井の三池炭鉱に勤めていた。 1 旧江戸城の外凛を一周して敷設された、私鉄東京市内電車。明治三十七年 ( 一九〇四 ) 着工、三十八 年完成。明治四十四年東京市営になった。 2 『史記』晏嬰伝に、斉の相の晏平仲が一枚の狐の裘を三十年も着つづけたという故事がある。 ゃなか 谷中の墓地と安立院の前を通って妙揚寺へぬける収。 禅の奥義はからりとし大きく聖者凡谷の差はないということ。禅の公案の一つ。「挙す、梁の武帝達 磨大師に問う、如何なるかこれ聖諦第一義。磨云く、廓然無聖」 ( 『碧巌録』第一則 ) 2 汚物のついたまま乾いた糞かき箆。よく禅間答に使われる。 高尚な議論は凡人には理解されない。『荘子』大地篇中にある。 『宋玉』の「対ニ楚下間こ中に、下里巴人という曲には和し 2 気高い境地は谷人には理解されにくい。 て歌う者が多かったが、陽春白雪にはともに歌える者が少なかったとある故事による。 3 金持は慎重で、堂の端にすわって墜落の危険をおかすようなことはしよ、。 オし『史記』袁畚伝に「千金 の子は坐するに堂に垂せす」とある。 衆人にたちまさっているのを鼻にかけて。
「なに大丈夫です、探偵の千人や二千人、風上に隊伍を整えて襲撃したってこわくはありません。 0- たます 珠磨りの名人理学士水島寒月でさあ」 おうせい 「ひやひや見上げたものだ。さすが新婚学士ほどあって元気旺盛なものだね。しかし苦沙弥さん。 探偵がスリ、泥棒、強盗の同類なら、その探偵を使う金田君のごときものはなんの同類たろう , くまさかちょうはん 「熊坂長範くらいなものたろう」 「熊坂はよかったね。一つと見えたる長範が二つになってぞ失せにけりというが、あんな烏金で ごう しんだい 身代をつくった向こう横丁の長範なんかは業つく張りの、欲張り屋たから、いくつになっても失せ しようない る気づかいはないぜ。あんなやつにつかま 0 たら阯たよ。生涯たたるよ、寒月君用心したまえ」 「なあに、℃し 、ですよ。ああら物々し盗人よ。手並みはさきにも知りつらん。それにも懲りす打 ほうしようりゅう ち入るかって、ひどい目に会わせてやりまさあ」と寒月君は自若として宝生流に気炎を吐いてみせ る。 うわけたろ 「探偵といえば二十世紀の人間はたいてい探偵のようになる傾向があるが、どうい う」と独仙君は独仙君だけに時局間題には関係のない超然たる質間を呈出した。 「物価が高いせいでしよう」と寒月君が答える。 「芸術趣味を解しないからでしよう」と東風君が答える。 こんべいとう 「人間に文明の角がはえて、金米糖のようにいらいらするからさ」と迷亭君が答える。 くちト一う 今度は主人の番である。主人はもったいぶった口調で、こんな議論を始めた。 「それはぼくがだいぶ考えたことだ。ぼくの解釈によると当世人の探偵的傾向は全く個人の自覚 心の強すぎるのが原因になっている。ぼくの自覚心と名づけるのは独仙君のほうでいう、見性成 けんしようじよう からすがね
132 「水島という人には会ったこともございませんが、とにかくこちらと御縁組みができれば生涯の 幸福で、本人はむろん異存はないのでしよう」 「ええ水島さんはもらいたがっているんですが、苦沙弥たの迷亭たのって変わり者がなんたとか、 かんだとか言うものですから」 しょま、 「そりや、よくないことで、相当の教育のある者にも似合わん所作ですな。 . よく私が苦沙弥の所 へ参って談じましよう 「ああ、どうか、ごめんどうでも、一つ願いたい。それからしつは水島のことも苦沙弥がいちば ん詳しいのたがせんたって妻が行った時は今の始末でろくろく聞くこともでぎなかったわけたから、 君からいま一応本人の性行学才等をよく聞いてもらいたいて」 「かし一、まりました。きようは土曜ですからこれから回ったら、もう帰っておりましよう。 ろはどこに住んでおりますかしらん」 くろぺい 「ここの前を右へ突き当たって、左へ一丁ばかり行くとくすれかかった黒塀のあるうちです」と 鼻子が教える。 「それじゃ、つい近所ですな。わけはありません。帰りにちょっと寄ってみましよう。なあに、 だいたいわかりましよう標札を見れば」 ごんつぶ 「標札はある時と、ない時とありますよ。名刺を御饌粒で門へはりつけるのでしよう。雨がふる とはがれてしまいましよう。するとお天気の日にまたはりつけるのです。たから標札はあてにゃな りませんよ。あんなめんどうくさい一、とをするよりせめて木札でもかけたらよさそうなもんですが ねえ。ほんとうにどこまでも気の知れない人ですよ」 しようかい
るのではない、。 とうして死ぬのがいちばんよかろうと心配するのである。ただたいていの者は知恵 が足りないから自然のままに放擲しておくうちに、世間がいじめ殺してくれる。しかしひとある 者は世間からなしくすしにいじめ殺されて満足するものではない。必すやに方について種々考究 すうせい の結果、斬新な名案を呈出するに違いない。たからして世界向後の当勢は自殺者が増加して、その 一自殺者が皆独創的な方法をも 0 てこの世を去るに違いない」 「たいぶ物騒なことになりますねー 「なるよ。たしかになるよ。アーサー ーンズという人の書いた脚本の中にしきりに自殺を 主張する哲学者があって : 「自殺するんですか」 「ところが惜しいことにしないのだがね。しかし今から千年もたてばみんな実行するに相違ない よ。万年ののちには死といえば自殺よりほかに存在しないもののように考えられるようになる」 「たいへんなことになりますね」 「なるよき 0 となる。そうなると自殺もたい。ふ研究が積んで立派な科学にな 0 て、落雲館のよう あな中学校で倫理の代わりに自殺学を正科として授けるようになる」 「妙ですな、傍聴に出たいくらいのものですね。迷亭先生お聞きになりましたか。苦沙弥先生の 物御名論を」 「聞いたよ。その時分になると落雲館の倫理の先生はこう言うね。諸君公徳などという野蛮の遺 7 風を墨守してはなりません。世界の青年として諸君が第一に注意すべき義務は自殺である。しかし ておのれの好なところはこれを人に施して可なるわけたから、自殺を一歩展開して他弑にしてもよ
「もう五十円になりますー 「いったいあなたの月給はどのくらいなの」これも細君の質間である。 「三十円ですたい。その内を毎月五円すっ会社のほうで預かって積んでおいて、いざという時に そとにりせん 1 やります。 , ー。。・奥さんこづかい銭で外濠線の株を少し買いなさらんか、今から三、四か月すると倍 になります。ほんに少し金さえあれば、すぐ二倍にでも三倍にでもなります」 「そんなお金があれば泥棒にあったって困りやしないわー 「それたから実業家に限るというんです。先生も法科でもやって会社か銀行へでも出なされば、 , ーー先生あの鈴本藤 今ごろは月に三、四百円の収入はありますのに、惜しいことでござんしたな。 十郎という工学士を知ってなさるか」 「うんきのう来た」 「そうでござんすか、せんたってある宴会で会いました時先生のお話をしたら、そうか君は苦沙 ぼくも苦沙弥君とは昔小石川の寺でいっしょに自炊をしておった 弥君の所の書生をしていたのか、 ことがある、今度行ったらよろしく言うてくれ、ぼくもそのうち尋ねるからと言っていました」 る 「近ごろ東京へ来たそうたな」 あ で 「ええ今まで九州の坑におりましたが、こないだ東京詰めになりました。なかなかうまいです。 先生あの男がいくらもらってると思いなさる」 物わたしなぞにでも朋友のように話します。 「知らん」 「月給が二百五十円で盆暮れに配当がっきますから、なんでも平均四、五百円になりますばい。 こきゅう 2 あげな男が、よかしこ取っておるのに、先生はリーダー専門で十年一狐裘じやばかげておりますな
てんかんや イ : しかがなものでありましよう。むろん当家の猫のごとく劣等ではない。しかし癲癇病みのお かめのごとく眉の根に八字を刻んで、細い目をつるし上けらるるのは事実であります。諸君、この 顏にしてこのありと嘆ぜざるをえんではありませんか」迷亭の言葉が少しとぎれるとた , 裏の 方で「また鼻の話をしているんたよ。なんてえごうつくばりたろう」と言う声が聞こえる。「車屋 のかみさんた」と主人が迷亭に教えてやる。迷亭はまたやり始める。「はからざる裏手にあたって、 新たに異性の傍聴者のあることを発見したのは演者の深く名誉と思うところであります。ことに宛 こうえん えんみ ようおん 転たる嬌音をもって、乾燥なる講莚に一点の艶味を添えられたのはじつに望外の幸福であります。 けんこ なるべく通俗的に引き直して佳人淑女の眷顧にそむかざらんことを期するわけでありますが、これ らは少々力学の間題に立ち入りますので、勢い御婦人がたにはおわかりにくいかもしれません、 どうか御辛抱を願います」寒月君は力学という語を聞いてまたにやにやする。「私の証拠立てよう とするのは、この鼻とこの顔はとうてい調和しない。 ツアイシングの黄金律を失しているというこ えんえき となんで、それを厳格に力学上の公式から演繹して御覧に入れようというのであります。ます日を の高さとします。は鼻と顔の平面の交差より生する角度であります。はむろん鼻の重量と御 あ承知くたさい。どうですたいていおわかりになりましたか。 「わかるものか」と主人が言う。 「寒月君はどうだい」「私にもちとわかりかねますな」「そりや困ったな。苦少弥はとにかく、君は 物理学士たからわかるたろうと思ったのに。 この式が演説の百脳なんだからこれを略しては今までや たかいがないのたが・ーーまあしかたがない。公式は略して結論だけ話そう」「結論があるか」と 主人が不思議そうに聞く。「あたりまえさ結論のない演説は、デザートのない西洋料理のようなも のだ、 さて以上の公式にウイルヒョウ、 しいか両君よく聞きたまえ、これからが結論たせ。
れす。向こうは平気なものさ。すわって人を使いさえすればすむんだから。多勢に無勢どうせ、か なわないのは知れているさ。頑固もいいが、立て通すつもりでいるうちに、自分の勉強にさわった 毎日の業務にを及ぼしたり、とどの詰まりが骨折り損のくたびれもうけだからね」 「御免なさい。今ちょっとポールが飛びましたから、裏口へ回って、取ってもいいですか」 「そらまた来たぜ」と鈴木君は笑っている。 「失敬な」と主人はまっかになっている。 鈴木君はもうたいがい訪間の意を果たしたと思ったから、それじや失敬ちと来たまえと帰ってゆ 入れ代わってやって来たのが甘木先生である。逆上家が自分で逆上家だと名乗る者は昔から例が とうげ 少ない、 これは少々変たなとさとった時は逆上の峠はもう越している。主人の逆上はきのうの大事 件の際に最高度に達したのであるが、談判も竜頭蛇尾たるにかかわらず、どうかこうか始末がつい たのでその晩書斎でつくづく考えてみると少し変だと気がついた。もっとも落雲館が変なのか、自 分が変なのか疑いを存する余地は十分あるが、なにしろ変に違いない。、 しくら中学校の隣りに居を る あ構えたって、かくのごとく年が年じゅうかんしやくを起こしつづけはちと変たと気がついた。変で 猫あってみればどうかしなければならん。どうするったってしかたがない、やはり医者の薬でも飲ん わいろ 輩でかんしやくの源に賄賂でも使って慰撫するよりほかに道はない。 こうさとったから平生かかりつ けの甘木先生を迎えて診察を受けてみようという了見を起こしたのである。賢か愚か、そのへんは きどく 別間題として、とにかく自分の逆上に気がついただけは殊勝の志、奇特の心得と言わなければなら ん。甘木先生は例のごとくにこにこと落ち付きはらって、「どうです」と言う。医者はたいていどう
すずき せんが、大欒のおかあさんも、鈴木の君代さんも正当の手続きを踏まないで立派に聞いて来たんで すから、いくらあなたが教師たからって、そう手数のかかる見物をしないでもすみましよう、 あな たはあんまりたと泣くような声を出す。それじゃだめでもまあ行くことにしよう。晩飯を食って電 車で行こうと降参をすると、行くなら四時までに向こうへ着くようにしなくっちゃいけません、そ んなぐすぐすしてはいられませんと急に勢いがいい。なせ四時までに行かなくてはためなんたと聞 き返すと、そのくらい早く行って場所をとらなくちやはいれないからですと鈴木の君代さんから教 えられたとおりを述べる。それじや四時を過ぎればもうためなんたねと念を押してみたら、ええた おかん めですともと答える。すると君不思議なことにはその時から急に悪寒がしたしてね」 「奥さんがですかーと寒月が聞く。 いしゆく 「なに細君はびんびんしていらあね。ぼくがさ。なんたか穴のあいた風船玉のように一度に萎縮 する感じが起こると思うと、もう目がぐらぐらして動けなくなった」 「急病たね = と迷亭が注釈を加える。 つもしかり 「ああ困ったことになった。細君が年に一度の願いたからぜひかなえてやりたい。い しんしよう るつけたり、ロをきかなかったり、身上の苦労をさせたり、子供の世話をさせたりするばかりで何一 さいそうしんす のうちゅう とふつ でつ洒掃薪水の労にむくいたことはない。きようは幸い時間もある、睫中には四、五枚の堵物もおるヂ 連れて行けば行かれる。細君も行きたいたろう、ぼくも連れて行ってやりたい。ぜひ連れて行って くっぬぎ 五〕やりたいがこう悪寒がして目がくらんでは電年へ乗るどころか靴脱へ降りることもできない。あ あ気の毒た気の毒たと思うとなお悪寒がしてなお目がくらんでくる。早く医者に見てもらって服薬 あまき でもしたら四時前には全快するだろうと、それから細君と相談をして甘木医学士を迎いにやるとあ 一みよ
が : : : 」「そんなあいまいなものなら月並みだってよさそうなものじゃありま・せんか」と細君は 人一流の論理法で詰め寄せる。「あいまいじゃありませんよ、ちゃんとわか 0 ています、たた説明 しにくいだけのことでさあ」「なんでも自分のきらいなことを月並みと言うんでしよう」と細君は 我知らすうがったことを言う。迷亭もこうなるとなんとか月並みの処置をつけなければならぬ亠亠儀 となる。「奥さん、月並みというのはね、ます年は二八か二九からぬと言わず語らす物思いのあい だに寝一、ろんでいて、この日や天気情朗とくると必す一瓢を携えて墨堤に遊ぶ連中を言うんです。 「そんな連中があるでしようか」と細君はわからんものたからいいかげんな挨拶をする。「なんた きん かごたごたして私にはわかりませんわ」とついに我を折る。「それじゃ馬琴の胴へメジョー デニスの百をつけて一、二年欧州の空気で包んでおくんですね」「そうすると月並みができるでし うか」迷亭は返事をしないで笑っている。「なにそんなに手数のかかることをしないでもできま し 6 きや す。中学校の生徒に白木屋の番頭を加えて二で割ると立派な月並みができあがります」「そうでし なっとく ようか」と細君は ~ 目をひねったまま納得しかねたというふぜいにみえる。 「君またいるのか」と主人はいつのまにやら帰って来て迷亭のそばへすわる。「まだいるのかは ちと酷たな、すぐ帰るから待っていたまえと言ったじゃないか」「万事あれなんですもの」と細君は 迷亭を傾みる。「今君の留守中に君の話を残らす聞いてしまったぜ」「女はとかく多弁でいかん、 人間もこの猫くらい沈黙を守ると、 しいがな」と主人は吾輩の頭をなでてくれる。「君は赤ん坊に大 根おろしをなめさせたそうたな」「ふむ」と主人は笑ったが「赤ん坊でも近ごろの赤ん坊はなかなか 利ロだぜ。それ以来、坊や辛いのはどこと聞ときっと舌を出すから妙た」「まるで犬に芸を仕込 む気でいるから残酷た。時に寒月はもう来そうなものたな」「寒月が来るのかい ーと主人は不審な
まじめであんなうそがつけますねえ。あなたもよっぽど法螺がお上手でいらっしやること」と細君 うわて は非常に感心する 0 「ぼくより、あの女のほうが上手でさあ」「あなたたってお負けなさる気づかい はありません」「しかし奥さん、ぼくの法螺はたんなる法螺ですよ。あの女のは、みんな魂胆があっ さるちえ て、日くつきのうそですぜ。たちが悪いです。猿知恵から割り出した術数と、天来の滑物迅味と混 同されちゃ、コメディ ーの神様も活眼の士なきを嘆ぜざるをえざるわけに立ち至りますからな」主 人はふし目になって「どうだか」と言う。細君は笑いながら「同じことですわ」と言う。 かど、ー」ぎ 吾輩は今まで向こう横丁へ足を踏み込んだことはない。角屋敷の金田とは、どんな構えか見たこ とはむろんない。聞いたことさえ今がはじめてである。主人の家で生一業家が話に上ったことは一 。へんもないので、 . 主人の飯を食う吾までがこの方面にはたんに無関係なるのみならす、はなはだ 冷淡であった。しかるに先刻はからすも鼻子の訪間を受けて、よそながらその談話を拝聴し、その えんび ふうき 令嬢の艶美を想像し、またその富貴、権勢を思い浮かべてみると、猫ながら安閑として縁側に寝こ ろんでいられなくなった。しかのみならす吾輩は寒月君に対してはなはだ同情の至りにたえん。先 てんしよういん 方では博士の奥さんやら、車屋のかみさんやら、二弦琴の天璋院まで買収して知らぬ間に、前歯の たんてい 欠けたのさえ探偵しているのに、寒月君のほうではたた = ャ = ャして羽織のひもばかり気にしてい 物るのは、 いか・に卒業したての理学士にせよ、あまり能がなさすぎる。といって、ああいう偉大な鼻 を顏の中に安置している女のことだから、めったな者では寄りつけるわけのものではない。 むとんじゃく う事件に関しては主人はむしろ無頓着でかつあまりに銭がなさすぎる。迷亭は銭に不自由はしない 2 が、あんな偶然童子たから、寒月に援けを与える便宜はすくなかろう。してみるとかあいそうなの は百くくりの力学を演説する先生ばかりとなる。吾輩でも奮発して、敵城へ乗り込んでその動静を じようす