もちろん、あなたにお金をお返しできるようになってきたのはうれしゅうございます , ! ・・ーあたし、 まだあなたに二千ドルお借りしてますけど。これは年賦か月賦のなしくすしにしてお返しするつ もりですの。今この小切手をお受け取りになるのに、どうぞ、いやなことをおっしやらないでく ださい。これをお返しするのはあたしを幸福にするのですから。あたしはあなたに、お金ばかり でなく、もっともっと大きなご恩を受けています。ですから、そうしたお金以外のものには、こ れからあたしが生きてる限り、感謝と愛とをもってお報いするつもりです。 さて、おじさん、今度は別なお話について書きます。どうぞ、あたしの気に入ろうと入るまい と、それにはおかまいなく、あなたの最も常識的なご意見をおきかせくたさいませ。 あなたもおわかりのとおり、あたしは始終あなたに対して、非常に特別な感情をいたいており ました。いわばあなたという方は、あたしの親兄弟全体になり代わってくださる方のような気持 ちがしていました。でもあなたは、あたしがあなたよりもまだほかの男の方にもっともっと特別 な感情をいだいているとお知らせしたら、あなたはお気を悪くなさらないでしようか ? きっと あなたは、その方がだれであるかすぐにおわかりになるでしよう。あたしの手紙は、ずいぶん長 い間、「ジャーヴィー坊ちゃん」のことばっかり書いたような気がしますから。 あたし「ジャーヴィー坊ちゃん」てどんな方か、そしてどれほどあたしたち二人が気が合っ ているか、あなたのおわかりになるようにお知らせできたらと思いますわ。あたしと「ジャー - ふたり

「ええ、そうするっておっしやるんだよ。ものになるやらならないやら、それは先に行ってわ かるでしよう。月々ふんだんな仕送りをしてくださろうというんだよ。お金というものを持った 経験のない娘には、あんまりふんだん過ぎるほどたけど、万事あの方がおきめになったのに、わ たしがとやこう言うのもどうかと思って控えていましたがね。あんた、この夏はここで暮らすん だよ。プリチャードさんがご好意であんたの入学準備のお世話をしてくださるそうだからね。寄 カレジ 宿料と授業料はあの方から直接大学へ支払い、そのほかに月に三十五ドルのお小づかいをあんた が大学にいる四年間送ってくたさるそうだ。これだけあれば、あんたはほかの学生たちと対等で やって行かれるはすです。そのお金は月に一回あの方の秘書の手からあんたのもとまで送ってく ださる。それに対して、あんたの方でも月に一回お礼の手紙を書くーー , ・・お金のお礼を書くのじゃ ありません、あの方はお金のことを言われたくないんですからーー・あんたの学課の進歩とか毎日 とう の生活などについて詳しい報告を手紙に書くのですよー、・・ー生きていなすったら、あんたがお父さ かあ んやお母さんにあげるような手紙でよいのです。そして、あて名はジョン・スこス様にして、秘 きつけ 書の気付にして出すのです。あの方のお名は本当はジョン・スこスさんじゃないんだけど、名前 はかくしておきたいとおっしやるんでね。ともかくあんたには、ジョン・スこスさんなんだよ。 手紙を送れとおっしやるわけはね、文筆の才を伸ばすには、手紙を書くのが一番ためになるから というあの方のご意見なの。あんたには手紙をやりとりする家族がないんだから、今言ったよう カレジ

134 は違っているのです。あのひとたちはあたりまえのことのようにして、ひとから物をいただくこ とう とができます。あのひとたちにはお父さんやお兄さんや叔父さんや叔さんなどがありますから。 でも、あたしはたれとだってそういう関係にはなりようがないんですもの。あたしは、あなたが 。でも、 あたしのお家のひとであるようなふりをしてみたいのよ。そう思って楽しむために あなたがおいやなのはもちろんわかってますわ。だからあたしはひとりばっちょ、ほんとうに すみつこに追い詰められながら世間というおおぜいを相手にして戦っているのよーーー・こんな せつ ことを考えると、あたしなんだか切なくなってきますの。あたしはこんな思いを心から追いのけ て、あなたをあたしのお家のひとのつもりにしてますの。おじさん、わかってくだすって ? あ たしは余儀なくいただいているお金以上はもういただけませんの。なぜなら、どうせいっかはお 返しする気になるでしようから。それに、あたしは自分が志しているほどの大した作家によしな れたとしても、本当に大きな借金はどうすることもできないでしようから。 あたしきれいな帽子やいろんな身のまわりのものは大好きです。けども、自分の将来まで抵当 にしてはならないと思いますの。 あたしが随分失礼なこと申し上げたのをゆるしてくださいますか ? あたしは何か考えつくと、 向こうみずにすぐ書いてしまう悪い癖があります。ですから、いつも出してしま「てから取り返 しがっかなくなりますの。ですけど、時々あたしが考えなしの恩知らずのように見えても、心か

186 十一月九日 あしながおじさん あたしきよう靴墨一つとカラー二、三本と、こんど作るプラウスの材料と、におい入りのクリー せつけん ム一びんと、それからカスチール石鹸一つをーーどれもみんな必要なのよーー買いに町 ~ 出かけ ました。あたしこういうものがないと、一日だ「て満足できませんのーーーそこで電車へ乗 0 て、 電車賃を払おうとしたら、お金人れをもう一つの外套のポケ〉ト〈入れておいたのに気がっきま した。そこであたしは電車を降りて、また次の電車に乗らなければなりませんでした。そのため 体操に遅刻してしまいました。 物覚えが悪いくせに、外套を二つ持つなんて、とんでもないことですわねえ ! ジ、ーリア・べンドルトンがあたしにクリスマスの休暇のあいだ家へいら 0 しゃい 0 て招んで くれました。あなたどうお思いにな「て、スこスさん ? まあ、どうでしよう、ジ「ン・グリー ア孤児院育ちのジルーシャ・アポ〉トが、お金持ちのお家〈行。てお客様になるなんて ! あた しなぜジーリアがあたしを招ぶのかわかりません・ー・・このごろジ、ーリアはあたしをたいへん 好きにな 0 たらしいんです。ほんとはあたし、よ 0 ばどサリーのお家へ行きたいんですけど、 がいと ,

四月十日 お金持ちさん お送りくだす。た五十ドルの小切手を封入いたします。本当にありがとう存じます。が、わた ちょうだい くしはどうもこれを頂戴しておく気にはなれません。毎月送 0 ていただくお金は、わたくしの必 要な帽子を買うのに十分でございます。帽子店のことで、ばかげたことを書きまして、申し訳ご ざいません。あんなことを書きましたのは、わたくしが一度もああいう所を見たことがないから なんです。 とにかく、わたくしはご無心はいたしませんでした ! それにわたくしは、余儀なくいたたい ているお金以上には、いただきたくありません。かしこ ジルーシャ・アポット

のにも、こんなおかしな事があるものかと思いがけないおもしろみを感じたのである。ジルー シャはこんなちょっとしたことからすっかり元気になって、ずんすん事務所へはいって行った。 そして、リペットさんにその笑顔を見せた。ところが、意外なことにはリペットさんも、正確に にこにこしているとは言えないまでも、目につくほどお愛想がよかった。彼女はお客に会う時し て見せると同じ程度の、よそゆき顔をしているのであった。 「お掛け、ジルーシャ、あんたにお話があるんですよ。」 ジルーシャはいちばん手ぢかにあった椅子に腰かけて、何を言い出されるかと固唾をのんで待 っていた。一台の自動車が窓の外をスーツと通り過ぎた。リ。ヘットさんはちょっとそれを見やっ こ 0 「今行った方をお見かけしたの ? 」 「ちょっと後ろ姿をお見かけしました。」 「今の方はね、評議員さんのうちでも一番お金持ちのかたなんですよ。孤児院の維持費にもこ れまで沢山お金を出してくださいました。もっとも、わたしはお名前を教えて上げるわけには行 きませんがね。いつまでも名前は出したくないって、くれぐれもお断わりがあったから。」 ジルーシャはかすかに目をみはった。評議員の一風変わった癖をどうのこうのと院長と差し向 かいで品評するために事務所へ呼ばれたことは、ついぞ今までなかったからである。 えがお ・かたす

五月一一十七日 リペットさんからお手紙がまいりました。リ・ヘットさんは、わたくしが操行にも学課にも成績 いいように祈るとおっしやっています。たぶんわたくしはこの夏どこへも行く所がないでしよう から、リペットさんはわたくしを孤児院へ帰らせて、大学が始まるまで食費代わりに働かせると おっしやっています。 わたくしはジョン・グリーア孤児院が大きらいでございます。 帰るくらいなら、死んだ方がましでございます。かしこ あしながおじ様 みもとに。 ジルーシャ・アポット

そうして、あたしのためにこんなにご親切に尽くしてくださるあなたに対して、あたしがどうい うふうに振る舞わなければならないかを特別にお話ししてくたさいました。あたし、リべットさ んのおっしやったとおり「十分尊敬を表わすように」しなければなりません。 でも、ジョン・スこスなんて平凡な名前で呼んでくれとおっしやる方に、どうしたら「十分尊 敬を表わすように」できるのでしよう ? なぜあなたはもう少し特色のあるお名をお選びになれ ばうぐい なかったのでしよう ? これじゃあたし、まるで棒杭か物干し柱に向かって手紙を書いてるとお んなじようなものですわ。 この夏じゅうあたしは随分あなたのことを考えていました。幾年と長い孤児院生活をしたあと で、あたしにお世話をしてくださる方ができるなんて、まるであたしは、自分の家族でも発見し たような気持ちになりますの。なんだか自分がだれかのお家の者にな「たようで、ほ「とした気 持ちですの。ですけど、あなたの事を考えてみますと、あたもの想像力は、それを働かせように も、その土台になる材料があんまり少ないんです。あたしの知 0 てることは、た「た三つ 一、あなたはおせいが高い。 二、あなたはお金持ちでいらっしやる。 三、あなたは女の子がおきらい。 あたしあなたを娘ぎらいさんとお呼びしたらとも思うんですけど。たたこれは、何たか自分が うち

159 哲学的になってますの。ですから、つまらない毎日の生活の細々したこと を書くなんて低級なまねはよして、世界全般にわたって大々的に論じたい んです。でも、あなたがぜひニースを聞きたいとおっしやるなら、こん なことがあります この農場にいる九匹の子豚が、先だっての火曜日に小川をわたって逃げ てしまいました。そうして八匹だけが帰ってきました。むやみにひとのこ とを悪く言いたくないのですけど、なんだかダウド後家さんの豚が、あの ひとの持ち数よりも、一匹よけいなんですの。 ウィーヴァさんが、自分のとこの納屋と二つの秣室を、ぎらぎらするよ うなかぼちや色の黄色に塗りたてましたーー・、・・随分みつともない色よ、でも あのひとの言うには「この色は長もちする」んですって。 プリワーさんのお家では、今週お客さまがあります。奥さんのお妹さ めいご んと姪御さん二人がオハイオからいらっしやるんですって。 の ) の一羽が、十五卵を生 ここにいるロードアイランドレッド種 ( 鶏の一種。 んだうち、たった三羽しか雛子を孵さないんです。何がいけなかったのか わかりません。あたしの考えでは、ロ 1 ドアイランドレッドはどうも劣等 びよこかえ まぐさべや

/ 214 たの秘書に、あたしはもうすっかり決心したことを前もってお知らせしときます。 あたしこの夏はチャールズ・パタスン夫人という方とご一緒に海岸へ行って暮らすのよ。そし カレジ て秋に大学へ人学なさるそのお嬢さんを教えることになってますの。あたしこの奥さんには、マ ックプライドさんのお家の方に紹介されて、お目にかかったことがありますの。とても愉快な奥 さんよ。あたしは小さい方のお嬢さんにも英語とラテン語を教えることになってますの。けども、 あたしの時間というものも少しはあると思ってよ。そうしてあたしは一か月に五十ドルいたたく のよ ! このお金高は、全く途方もない金額たなあ ! なんて、あなたをびつくりさせるでしょ う ! 奥さんの方からこれたけ上げるとおっしゃいましたの。あたしなら二十五ドルよりもよけ いには厚かましくってお願いできませんわ。 あたしは九月の初めにマグノリアを ( パタスン夫人のいらっしやる所ですの ) 切り上げて、あと の三週間はロック・ウイローで暮らすでしようーーーあたしセンプルさんご夫婦や、仲よしの牛や 馬にあいたくってしようがないのよ。 おじさん、このプログラムをどうお思いになって ? あたしはだんだんひとりで歩けるように なったでしよう ? あなたが立てるようにしてくだすったのよ。あたしもう今では、ほとんどひ とり歩きができそうですの。 プリンストン大学の卒業式とあたしたちの試験と、かち合ってしまいました たいへんな打 うち