それからお菓子を先生方に上げました。先生方はありがとうとおっしやりながら、でも食べられ とうみつかたま るかなというような顔をしてそれをお取りになりました。あたしたちは、甘ったるい糖蜜の塊り をしゃぶりながらロをにちゃにちやさせて、物も言えないでいる先生たちを置いて、その室を出 ました。 ほら、このとおり、あたしの教育は進歩したでしよう ? あなたは、あたしを作家にしないで 画家にさせるんだったなどとお思いにならなくって ? 休暇はあと二日でおしまいになります。また皆に会うのがうれしくってなりません。あたしの お家は少しさびしいのよ。九人の生徒が、四百人を入れるために建てた家に住んでいると、広す ぎて少しガタつきますわ。 まあ、十一ページーー・おじさん、さぞお惓きでしよう ! あたしちょっとお礼の手紙を書くっ もりでしたーーーでも、書きはじめたら、あたしのペンがすうすうひとりでに走るらしいのよ。 さよならーーーーあたしのことを思ってくだすって、ほんとうにありがとうございますーーー・あたし は本当に幸福なんですけど、ただ一つ、地平線の上に恐ろしい雲が見えます。試験が二月に迫っ てます ! 愛をもって うち へや
磚 レ一つ .. に 0 ・アーノルドの詩集。 三、湯たんば一つ。 四、膝かけ一枚。 ( 塔は寒いのよ ' 五、黄色の原稿用紙五百枚。 ( あたしもうじき作家になるところよ。 ) 六、類語辞典。 ( 作家としての用語を豊富にするため。 ) 七、 ( この最後の項をあんまりお知らせしたくないのよ、でも白状しますわ ) 絹の靴下一足。 ・もうこれだけお知らせしたら、まだあるのだろうなんておっしやってはいけませんよ、おじさ ん。 あたしがこの絹の靴下をほしくなったのは、 ( どうしてもわけをききたいとおっしやるなら仕 方がないから言いますけど、 ) 実は下等な動機からですの。ジ = ーリア・ペンドルトンが幾何の勉 ながいす 強にあたしのお部屋へはいって来て、長椅子の上に脚を組んで、毎晩毎晩あたしに絹の靴下を見 やすみ せつけるんです。なに、今に見るがいいわーーージ = ーリアがお休暇から戻ったら、さっそくあた しも絹の靴下をはいて、あのひとのお部屋へ行って長椅子の上へすわってやるわ。おじさん、こ のとおりあたしは情けないやつでしようーーーでも少なくもあたしは正直よ。あなたはとうに、あ たしが申し分のない娘じゃないってことは、孤児院のあたしの履歴書をごらんになってご存じで ひざ
九月二十五日 あしながおじさん いよいよ二年生よ ! 先週の金曜日に大学へ帰りました。ロック・ウイローを立つのは心残り でしたけど、また校庭を見るのがうれしゅうございます。なんだか居慣れた場所へ帰るのは、い カレジ い気持ちがするものですね。このごろあたしは大学にいても気が楽になってきました。そうして 大学生活に自由がきくようになりました。実際、あたしは世の中にいても気が楽になってきまし ひとり たのー・ーなんだかほんとにあたしがこの世の中の一人として生まれて来たような気持ちがします わ。お情けでもって、こそこそ世の中へお仲間入りしたんじゃないって気持ちになりました。 あたしの今言ってることは、何を言ってるのやら、あなたにちっともおわかりにならないで しようね。評議員ともあるお偉い方が、取るにも足らない捨て子風情の気持ちがおわかりになる わけはありませんものね。 さて今度は、おじさん、こういう事です ? ーーあたしが今、だれとお部屋が一緒だとお思いに なって ? サ リー・マックプライドにジューリア・ラットレッジ・ペンドルトン。ほんとのこと なのよ。あたしたちは勉強部屋を一つと、小さな寝室を三つ持っていますーー・ほらこのとおり !
Ⅷ何一つ楽しいことはありませんでした。そしてそのアイスクリームすら、年が年じゅうきまりき ったものでした。あたしが、あそこにいた十八年の間に、たった一度すばらしい出来事がありま したーー物置き小屋が焼けた時です。あたしたちは、火が本館に移った場合に、あわてないよう にと、夜中に起きて身じたくしなければなりませんでした。ところが、本館には燃え移りません でした。それであたしたちはまた・・ヘッドにはいってしまいました。 だれだ。て少しはびつくりするようなことが好きですわ。これは全く人間自然の欲求なんです もの。でも、あたしはリペットさんに事務所へよばれて、ジ = ン・スミスさんとお「しやる方が、 カレジ あたしを大学へ入れてくださるということを聞かせられるまでは、びつくりするようなことに出 会 0 たことがありませんでした。その時でさえ、リペットさんが、ばつりばつりとしか聞かせて くださらないので、あたしはやっとびつくりしたくらいですわ。 イマジネーション おじさん、あたしはだれにも一番必要な特性は想像力だと思いますの。これがあると、あた したちは他人の身になり代わ「て見ることができます、そして親切な、同情心の深い、理解のあ かんよ , る人になれます。この想像力は子供のうちに涵養されなければなりません。それなのにジョン・ グリーア孤児院は、ちょ。とでもひらめき出る「想像力」の炎をすぐに踏み消してしまいました。 たたたた義務ということばっかり奨励されました。あたしは、子供というものは義務なんていう ものの意味を知るべきでないと思います。義務なんて、忌まわしいいとわしいものです。子供と
。 ) のような す。カネティカット州はこんなふうに、マルセルウ = ーヴ ( 波のようにちち 地勢で、ロック・ウイロー農場はちょうどその波の一つのてつべんにあります。前 ちょうう は穀物倉が道の向こうにあって、ここの眺望の邪魔をしていましたが、親切な雷様 が天から降りて来て、それを焼き払ってくれたんですって。 この農場にいる人は、センプルさんご夫婦と、雇い女が一人と、雇い男が一一人で すの。雇い人たちは台所でお食事をします。センプルさんご夫婦とジーディは食 ノムエグズとビスケットと蜂蜜とジェリーケーキとそれからパイ 堂で。お夕飯に、、 や漬物やチーズやお茶などをいただきました・ーーそしていろんなお話をしながら。 あたしあんなに人をおもしろがらせたことは初めてですの。あたしの言うことは何 こつけい なか でも滑稽に聞こえるらしいのよ。それというのは、あたしが一度も田舎の生活をし たことがないし、いろんなあたしの質問は一から十まで無知があと押しをしてるか らでしよう。 絵の中の x 字のしるしのついたお部屋は、人殺しのあった室じゃありませんの。 あたしが今いるお部屋なんです。このお部屋は広くって、四角で、がらんとして、 す つつか かわいらしい旧式の椅子と、棒で支えをしないとあいていない窓があります。そし てこの窓には、さわったらぼろぼろ落ちそうな金糸の縁飾りのついた緑色の日よけ ビックル はちみつ へや
びごと、〕それをだれかに感謝しなくともよくって大助かりよ。 ( あたしは神様に対して不敬でしょ う。でも、あなただって、あたしがしたくらいの義務的の感謝をささげていらしたなら、あたし のようにおなりになるでしよう。 ) それはそれはいろんなことがありましたーー - ・何から先にお話ししてよいかわかりません。マッ クプライドさんは工場を持「ていら 0 しやるのよ。それで、クリスマス・イーヴになると、雇い ときわぎひいらぎ 人の子供たちにクリスマス・ツリーをこしらえてやって、これをいろんな常磐木や柊で装飾され た工場の細長い包装室に置きました。ジミーさんがサンタクロースになって、サリーとあたしが、 プレゼントを配るお手伝いをしました。 まあ本当におじさん、おかしな気持ちでしたわ、まるであたし、ジン・グリーア孤児院の評 議員さんみたいに、情け深い気持ちになりました。あたしは顔や手をお菓子でべたべたにしてる 男の子にキスしてやりましたーーでもあたし、頭をなでてやるようなまねはしなかったつもり ! それからクリスマスが済んで二日たっと、皆さんが、わざわざあたしのためにお家で舞踏会を 催してくださいました。 これは、あたしが生まれて初めて出たほんとうの舞踏会でした。ーー・生徒同士で踊る大学のなん か問題になりません。あたしは新調の白の夜会服を着て、 ( あなたからのクリスマス・プレゼント しろじゅす 本当に本当にありがとう ) 白の長手袋をはめて、白繻子の舞踏靴をはきました。この何一つ , ち
圏ではなによりの紹介状なんです。そして・ヘンドルトン家の中で最上の家柄の方は、「ジャーヴィ ー坊っちゃん」なんですーー・・あたし、ジ、ーリアが格式の下がった分家の娘であることを、喜ん でお知らせいたします。 農場はますますおもしろくなります。きのうあたしは干し草を積んだ馬車に乗りました。大き な豚が三匹に、小ちゃな子豚が九匹います。豚の食べるところをお目にかけたいわ。まったく豚 らしいのよ ! 小さな鶏の雛子や、あひるや、ほろほろ鳥などかぞえきれないほど沢山いますの。 農場で暮らすことのできる人間が都会に住むなんて狂気のさたですわ。 鶏の卵をさがし集めるのが、あたしの毎日の仕事ですの。きのうあたし納屋の屋根裏の欒から、 めんどり おっこちました。黒い雌鶏がぬすんだ巣の方へはいあがって行こうとした時なんです。あたしが 膝をすりむいてお家へはいったら、奥さんが、「まあ ! まあ ! ジャーヴィー坊っちゃんもやっ ひざ ばりあの梁から落っこって、やつばりお膝のここをすりむいたのよ。まるできのうのような気が ウィッチ・ヘーゼル しますがねえ ! 」って幾度も幾度も言いながら、まんさくの葉をあてて、繃帯してくださいまし こ 0 けしぎ このあたりの景色は実に美しゅうございます。谷があったり、 川があったり、方々に樹木の生 あいいろ い茂った丘があったり。それからずっとむこうには、高い藍色の山が一つあって、ただ一口にロ の中へとけこんでしまいそうです。 びざ ひょこ なや うたい
186 十一月九日 あしながおじさん あたしきよう靴墨一つとカラー二、三本と、こんど作るプラウスの材料と、におい入りのクリー せつけん ム一びんと、それからカスチール石鹸一つをーーどれもみんな必要なのよーー買いに町 ~ 出かけ ました。あたしこういうものがないと、一日だ「て満足できませんのーーーそこで電車へ乗 0 て、 電車賃を払おうとしたら、お金人れをもう一つの外套のポケ〉ト〈入れておいたのに気がっきま した。そこであたしは電車を降りて、また次の電車に乗らなければなりませんでした。そのため 体操に遅刻してしまいました。 物覚えが悪いくせに、外套を二つ持つなんて、とんでもないことですわねえ ! ジ、ーリア・べンドルトンがあたしにクリスマスの休暇のあいだ家へいら 0 しゃい 0 て招んで くれました。あなたどうお思いにな「て、スこスさん ? まあ、どうでしよう、ジ「ン・グリー ア孤児院育ちのジルーシャ・アポ〉トが、お金持ちのお家〈行。てお客様になるなんて ! あた しなぜジーリアがあたしを招ぶのかわかりません・ー・・このごろジ、ーリアはあたしをたいへん 好きにな 0 たらしいんです。ほんとはあたし、よ 0 ばどサリーのお家へ行きたいんですけど、 がいと ,
天国で思い出しましたがーー・・ーあたしが去年の夏ごろお話ししたケログさんを覚えていらして ? 四つ角の小さい白い教会の牧師さんのことよ。さて、あの気の毒なおじいさんは亡くなりま したーー去年の冬、肺炎で。あたしあの方のお説教を六ペん聞きに行。て非常によくあの方の宗 教がわかりました。あのひとは始めに信じたことをそのまま死ぬまで信じていました。四十七年 きいつぼん の間、一つだ「て考えを変えないで、生一本に物を考えていられる人は、珍物として陳列箱へ納 たて・こと いただ めておくべきだと思いますわ。きっとあの方は天国へ行って、金の冠を戴いて、竪琴をひいてい ら「しやるでしよう。あの方は、絶対にそうなることを信じていたのよ ! 今度ケログさんの代 わりに、たいへんもったいぶった若い人が来ています。信者の集まりはかなり心もとなく思われ ます。ことにカこングス副牧師が反対者の先に立っているんですから。まるで今にも恐ろしい 分裂が教会に起こりそうですの。でも、この近所の人たちは、宗教の改革などは、どうでもいし んです。 雨が降りつづいた一週間の間は、屋根部屋で夜ふかしして、盛んに乱読しましたーー・、おもにス ティーヴンスンのものです。彼の書いた小説の中のどの人物よりも、スティーヴンスン自身の方 が、ず「とおもしろうございます。恐らく彼は本に書いたらすてきに見えるような主人公の型通 と , りに自分をしてしまったのでしよう。ョットを買うのに、お父さんの遺した一万ドルを使ってし まって、そのヨットに乗って南国へ走ったなんて実にすてきじゃありませんか ? スティーヴン のこ
あたしがお部屋をどんなふうに装飾したかお知らせしましようか。黄色と褐色で調和をとりま した。壁はごく薄い白茶色なんです。それであたしは、黄色のデ = ム織りのカーテンとクッショ とういす ンと、マホガ = ーの机一つと ( これは古物で、三ドルしました ) 籐椅子一つと、インキのしみがま ん中についてる褐色の敷物を一枚買いました。そして、籐椅子をこのしみのついてる上に置きま した。 窓はとても高くて、普通の椅子に腰かけては外が見えません。でもあたしは、鏡台付簟笥の裏 側からねじを抜いて鏡を取りはずしてしま。て、簟笥の上側に布を張りました。そしてこれを窓 まどかまち の前まで動かしてやりました。窓框の代わりにちょうどよい高さです。引き出しを段々のように あけて、それに上がりますの。とてもいい気持ちょ ! サリー・マックプライドが、四年生の競売会があ「た時、今お知らせした道共を見たててくれ じようす ました。サリーは今までお家にいたのですからお部屋の装飾はなかなか上手ですの。これまで五 セント玉一つしか持「たことがないのに、ほん物の五ドル紙幣で買い物をして、お釣りをとるな んて、どんなに楽しいものかあなたにとてもおわかりにならないと思いますわ。おじさん、本当 にご送金をありがとう存じます。 サリーは世界じゅうで一番おもしろいひとよーーージ = ーリア・ラットレッジ・ペンドルトンは 一番おもしろくないひと。大学の庶務係はお部屋仲間をきめるのに、なんて組み合わせをするの ラッグ カレジ たんす かっしよく