195 ちゃう 首を昂げて場を下りしに、紳士見送りて、我等はトロヤ人なりきとつぶやきぬ。 ( 原語「フィム、 なはやんぬるかな ス トロエス」は猶已矣と云はんが如し。 ) ふん 代りて場に上りしは、此曲の女主人公にして、これに扮せるは二穴ばかりの女子なりき。色好む いちべっ 〔しし〕 〔ま〕 男の一暼して心を動すべき肉おきかに、目なざし燃ゆる如くなれば、喝采の聲は屋を撼せり。 かたみわが っ さま 此時むかしの記念は我胸を衝いて起りぬ。羅馬の市民のアヌンチャタの爲めに狂せし状はいかな がいせん りしそ。いにしへの帝王の凱旋の儀をまねびつる、アヌンチャタが車のよそほひはいかなりし、 おもひ よのつね ぞ。わが崇拜の念はいかなりしそ。さるを今はこの尋常なる容色にすらけおされ黽んぬ。あは れ、倖なるべルナルドオは身病み色衰ふるに及びて君を棄てしか。さらずば、君は始より眞 くちびる なほしる にベルナルドオを愛せざりしか。君が脣のベルナルドオの額に觸れしをば、われ角記す。君爭で かべルナルドオを愛せざらん。思ふにかの無情男子は君が色を愛して、君が心を愛せざりしな かばねし 路アヌンチャタは再び場に上りぬ。老いたるかな、衰へたるかな、只だ是れ屍の脂粉を傅けて行く はだへあは ひとり もののみ。われは覺えず肌に粟生ぜり。われもアヌンチャタが色に迷ひし一人なれども、その才 の高く情の優しかりしをば、わが戀愛に蔽はれたりし心すら、能く認め得たりき。縱令色は表 ふとも、才情はむかしのままなるべし。かへすがヘすも惡むべきはベルナルドオが忍びて彼才彼 . かうべあ 0 この おは ロオマ ら をなご いへゆるが たとひ
さき ひとむら しき人影のその前にゆらめくを。これ我等に前だてる旅客の一群なり。我等は手足を動して熔岩 いんえい しんこく まっ 〔くまぐま〕 の塊を避けつつ進めり。色褪せたる月の光と松明の火とは、岩の隈々に濃き陰翳を形りて、深谷 ゃうや の看をなせり。忽ち又例の雷聲を聞きて、火柱は再び立てり。手もて探りて漸く進むに、石土の とうじゃう へいくわっ 熱きを覺ゆるに至りぬ。巖罅よりは白き蒸氣騰上せり。既にして平滑なる地を見る。こは二日前 なは に流れ出でたる熔岩なり。風に觸るる表層こそは黒く凝りたれ、底は紅火なり。この一帶の このくわかくふ かなた 彼方には又常の石原ありて、一群の旅客はその上に立てり。導者は我等一行を引きて此火殼を踐 あと あ ましめたるに、足跡炙ぶるが如く、我等の靴の黒き地に赤き痕を印するさま、橋上の霜を踏むに ぎようそく だんもん すか 似たり。處々に斷文ありて、底なる火を透し見るべし。我等は凝息して行くほどに、一英人の導 かれなんち 者と共に歸り來るに逢ひぬ。渠、汝等の間に英人ありやと問ふに、われ、無しと答ふれば、一聲 畜生と叫びて過ぎぬ。 かの むれ 我等は彼旅客の群に近づきて、これと同じく一大石の上に登りぬ。此石の前には新しき熔岩流れ ようろ その ひろ おは 下れり。譬へばの熔爐より聞づる如し。共幅は極めて濶し。蒸氣の此流を被へるものは火に映 あんこう ゅわう じて殷紅なり。四圍は暗黒にして、空氣には硫黄の氣滿ちたり。われは地底の雷聲と天半の火柱 むなさき 〔みきき〕 と此流とを見聞して、心中の弱處病處の一時に滅盡するを覺えたり。われは胸前に合掌して、神 てらのうち よ、詩人も亦汝の預言者なり、その聲は寺裏に法を説く曾侶より大なるべし、我に力あらせ給へ、 かたまり たと たちま がんか あ ら おほい しゅそく かたど
265 注 ″ュングフラウーーーアルプスの一支脈ベルン・アルプスの高峰。海抜四一五八メートル。初登頂一八一 一年。なお「ユングフラウ」はドイツ語で「少女」の意味である。 一三五 7 デスデモナーー一八八ページ「オテルロ宮」注参照。 一三七 3 「ディ・フラアリイ」の寺・ーーサンタ・マリア・グロリオーサ・ディ・フラーリ聖堂。一二五〇年建 立。その後ゴシック様式に再建された。ヴェネッィアの最も大きくりつばな教会の一つで上流階級の墓 所がある。ティッィアーノの祭壇画「聖母昇天」があり、またかれやカ / ーヴァ ( 一八〇ペ 1 ジ「カノ ワ」 ) の墓がある。 一三九 6 トビアスーー旧約聖書外典の「トビアス書ーの中の大トビアスの話。盲目の老人トビアスは天使の助 けによって目があき、息子の小トビアスとともに尊貴な老人として生き永らえた。 ″ 8 、 9 ロオザが兄ーー「ロオザ」と「兄」との関係は、一二一べージに「年長けたる姉」 ( se 一 ne 巴 ( es ( e Schwester) とあり、姉と弟が正しい ( 大畑訳によれば、デンマーク語の原文でもそうなっているように 思われる ) 。しかし外の訳文では、二人の関係が一定せず、左のようになっている。 一八七頁 3 行弟を訪ひ ( 全集ー底本 ) 兄 ( 菊版本、縮刷本 ) 一八七頁 4 行拿破里の弟 ( ″ ) 一八八頁 7 行 亡弟 ( ″ ) 二一五頁 2 行弟の手術 ( ″ ) 一三九頁 8 、 9 行口オザが兄 ( ″ )
わたくし 〔ひとり〕 萬の人をか喜ばせ樂ませ給ふらん。ゅめ一人の人になその奪き身を私せしめ給ひそ。世の中の人、 〔かたくな〕 。し力なる頑なる人の心をも挫きつべ 誰かおん身を戀ひ慕はざらん。おん身の才、おん身の藝よ、、、 こと ! その〔・チワノ〕ふち〔こしか〕 し。期く云ひつつ、夫人は我を引きて、其長椅の縁に坐けさせ、さて詞を綴ぎて云ふやう。猶改 〔さぎ〕 めておん身に語るべき事こそあれ。疇昔の日おん身が物思はしげに打沈みてのみ居給ひしとき、 拙き身のそを慰め參らせばやとおもひしことあり。その時より今日までは、まだしみじみとおん 物語せしことなし。いかに申し解きらんか。おん身は妾が心を解き誤り給ひしにはあらずやと あるひ〔なさけ〕 思はれ侍りといふ。嗚呼、此詞は深く我を動したり、我もしばしば或は情厚き夫人の詞、夫人の・ ふるまび 〔げ〕 振舞を誤り解したるにはあらずやと、自ら疑ひ自ら責めしことあり。われは唯だ、御身が情は餘 しゅはい わが りに厚し、我身はそを受くるにふさはしからずと答へて、夫人の手背に接吻し、自ら勵まし自ら 戒めて、淨き心、淨き目もて夫人の面を仰ぎ親たり。夫人の美しく截れたる目の深黑なる瞳は、 らふたり 極めて靜かに極めて重く、我面を俯親す。若し人ありて、此時我等二人を窺ひたらんには、われ しゃうじゃうむ いづれことば その何の辭もてこれを評すべきを知らず。されどわれは聖母に誓ふことを得べし。我心は淸淨無 〔わ〕 垢にして、譬へば姉と弟との心を談じ情を話するが如くなりしなり。さるを夫人の目には常なら 〔おも〕 ちぶさ ぬ光ありて、その乳房のあたりは高く波立てり。われはその自ら感動するを以爲へり。夫人は呼 〔えり〕 吸の安からざるを覺えけん、領のめぐりなる紐一つ解きたり。夫人は、おん身にふさはしからざ ったな たのし この ひも 〔わらは〕 マドンナ うカカ ひとみ なは
さふら ぞんじまゐらせそろ な 故なき人の上に施し給ひしには候はずと存參候。君の此文を見給はん時は、私は世に亡き人 ま , しあけさふら さふら なるべければ、今は憚ることなく申上候はん。君は我戀人にておはしまし候ひぬ。我戀人は、昔 たえ はか 世の人にもてはやされし日より、今またく世の人に棄て果てられたる日まで、君より外には絶 ひと げんせ て無かりしを、聖母は、現世にて君と我との一つにならんを許し給はで、二人を遠ざけ給ひし そる ゅふべたま きすっ にて候。君の我身を愛し給ふをば、彼の不幸なる日のタに、彈丸のベルナルドオを傷けし時、君 あ さとを が打明け給ひしに先だちて、私は疾く曉り居り候ひぬ。さるを君と我とを遠ざくべき大いなる たちま 不幸の、忽ち目前に現れたるを見て、我胸は塞がり我舌は結・ほれ、私は面を手負の衣に懸しし そのち 隙に、君は見えずなり給ひぬ。ベルナルドオの痍は命を隕すに及ばざりしかば、私は其治不治 しゅゅ おも そば 生不生の君が身の上なるべきをおもひて、須臾もベルナルドオの側を離れ候はざりき。億ふに、・ さふら 此時のわが振舞は君に疑はれまゐらせしことのもとにや候ふべき。私は久しく君の行方を知ら ひと ず、人に間へども能く答ふるもの候はざりき。數日の後、怪しきおうな尋ね來て、一ひらの紙 ナポリ したた しゅせき 路を我手にわたすを見れば、まがふ方なき君の手跡にて、拿破里に往くと認めあり、御名をさへ 書添へ給へれば、おうなの云ふに任せて、旅行券と路用の金とをわたし候ひぬ。旅行券はべ 末 セナトオレ ナルドオに仔細を語りて、をちなる議官に求めさせしものに候。ベルナルドオは事のむづかし おもむき 」」とば きを知りながら、我言を納れて、強ひてをち君を設き動しし趣に候。幾もあらぬに、ベルナル 207 ゅゑ ひま この ふるまひ にどこ マドンナ よ と かた し ふさ きす わが この おと ておひきぬ おは
わ 乘るところの此舟は、印ちヱネチアの舟にして、翼ある獅子の旗は早く我が頭上に翻れり。帆は たちまそとうみ〔はし〕 〔ふないた〕 らんべき きふくながる 風にきて、舟は忽ち外海に駛り出で、我は艙板の上に坐して、藍碧なる波の起伏を眺め居たる りえ ) さち かたへ うづくま その に、傍に一少年の蹲れるありて、ヱネチアの俚謠を歌ふ。其歌は人生の短きと戀愛の幸あるとを あけくちびる たれそなた〔あす〕なあ 言へり。ここに大概を意譯せんか。其辭にいはく。朱の脣に觸れよ、誰か汝の明日角在るを知らん。 むね わか 戀せよ、汝の心の少く、汝の血の熱き間に。白髮は死の花にして、そのくや心の火は消え、 かのけいか ふたり ( おほひ〕 血は氷とならんとす。來れ、彼輕舸の中に。二人はその蓋の下に隱れて、窓を塞ぎ戸を閉ぢ、人 をとめ の來り覗ふことを許さざらん。少女よ、人は二人の戀の幸を覗はざるべし。二人は波の上に漂ひ、 また っ 波は相推し相就き、二人も亦相推し相就くこと其波の如くならん。戀せよ、汝の心の猶少く、汝 た の血の猶熱き間に。汝の幸を知るものは、唯だ不言の夜あるのみ、唯だ起伏の波あるのみ。老は びとふし〔うた〕 至らんとす、氷と雪ともて汝の心汝の血を殺さん爲めに。少年は一節を唱ふごとに、其友の群を うなづ 顧みて、互に相頷けり。友の群は劇場の舞群の如くこれに和せり。まことに此歌は其辭卑猥にし はうしよう ばんか て其意放縱なり。さるを我はこれを聞きて輓歌を聞く思ひをなせり。老は至らんとす。少壯の火 かうゆ た くつがヘ は消えなんとす。我は奪き愛の膏油を地上に覆して、これを焚いて光を放ち熱を發せしむるに及 らんよう わざはひ そむ まぬか つひ ばざりき。こは濫用して人に禍せしならねど、遂に徒費して天に背きしことを免れず。そもそも ゅゑわポ うんゐ 我は誓約の良心を縛するあるにあらず、責任の云爲を妨ぐるあるにあらずして、何故に我前に湧 あ この たふと 〔ホロス〕 た ふさ
みなぎ あたたか かうべ の左右の端となる人の頭を辨ずることを得るのみ。濃く温なる空氣は漲り來りて我面を撲てり。 〔たひらか〕 われは我精訷の此の如く安く夷なるべきをば期せざりき。その状態は固より興奮せり。而れども 〔たうしよく〕やすさが その諸機に觸し易き性は十分に備はりたり。われは自家の精訷作用の緊張を覺ゆると共に、又 きは あきらか なは ひややか その 共明徹を覺えたり。猶睛れたる冬の日の空氣の極めて冷に兼ねて極めて明なるがごとくなるべ し。 ていしよく へんし 看客は片紙に題を記して聞し、警吏これを檢して、その法律に抵觸せざるを認めたる後、われに はじめ 交付す。われは數題中に就いて共一を簡み取る自由あり。初なる一紙には侍奉紳士と題せり。こ 〔ひとづま〕つか は人妻に事ふる男を譿ふ。中世士風の一變したるものなるべし。されどわれは未だ深く心をこれ 冝ん〕 に留めしことなし。 ( 原註。「イルカワリエルセルヱンテ」又「チチスベオ」、今侍奉紳士と翻 しゃうこ かうはん す。此俗本とジェノワ府商賈より聞づ。その行販して鄕を離るるもの婦を一友に托す。これを侍 さうぎくわんそう 奉紳士といふ。初め僣に托するを常とせしが、後又俗士を擇む。侍奉紳士は婦の早起盥漱する時 ゆる あ しんかうしんっ より、深更寢に就く時に至るまで、共身邊に在りて奉侍す。他婦を顧みることを容さず。聞く侍 〔るゐじ〕 かっ わうわ 5 えうせつ 奉紳士中好褻に及ばざるもの往々にして有り。嘗て一男子の歿するや、其誄辭中侍奉紳士となり くわいしゃ せめ まった て責を負ひ任を全うすといふ語ありきと。 ) われは此俗を歌ふ一曲の人口に膾炙するものあるを おもひかま あた 知れど、急にこれに依りて思を構ふること能はず、 ( 曲とは「フェミナヂコスツメヂマニエ しる よ いっ〔えら〕 えら よめ わが しか
178 ポッジョは海を指ざしてかかる靑く波立てる大面積は羅馬の無き所なり、おほよそ地上の美なる し もの海に若くはなかるべし、宜なり海はアフロヂテの母にしてと云ひさし、少し笑ひて、又ヱネ ドオジェびばうじん チア歴代の大統領の未亡人なりといへり。われ。海を愛する心は、ヱネチアの人殊に深かるべき 、うき ( ことわり〕 理あり。海は己れが母なるヱネチアの母にして、己れを愛撫し己れを游嬉せしむる祖母なれは * もと あはれ か , べた 。ポッジョ。その氣高かりし海の女の今は頭を低れたるそ哀なる。われ。フランツ帝の下に さち ありて幸ありとはいふべからざるか。ポッジョ。われは政治を解せず。ュネチア人は今も不平を びめう もち 〔カリアチデス〕 説くことを須ゐざるなるべし。されどわが解するところのものは美妙なり。陸上宮殿の柱像た らんは、海の女王たらんことの崇高なるには若かず。おもふに君の美妙を崇拜し給ふこと我に殊 し 〔かのび 1 ならざるべければ、君はかしこより來る彼美の呼び迎ふるをも辭み給はぬならん。こは識る所の 〔のぞ〕 酒亭の娘なり。共に往き給はずやといふ。われはポッジョと少女に誘はれて、海に枕める小家に よ たれ えっ えんせい 入りぬ。酒は旨し。友は善く談ぜり。誰かポッジョが輕快なる辯と怡悅の色とを見て、その厭世 ふなびと の客たるを知り得ん。我は共に坐すること二時間ばかりなりしに、舟人は急に我を呼びて歸途に もはや ぐふう〔しるし 1 就かんことを促せり。こは颶風の候ありて、岸區とヱネチアとの間なる波は、最早小舟を危うす そばだ み るに足るが故なりと云へり。ポッジョは耳を鼓てたり。何とか云ふ。颶風は我が久しく観んこと しばら を願ひしところなり。「ア・ハテ」も暫く我と共に留まり給へ。日の暮るるまでには凪ぐべし。若 おの ゅ 〔社すめ〕 をとめ 〔な〕
180 ともがら の、我等の狂態を見たらんには、定めて尋常時に及びて行樂する徒となすなるべし。ポッジョの、 をなご いふやう。女子の美は羅馬に若くはなし。君はいかにおもひ給ふか。憚ることなく答へ給へ。わ しゅこう この イタリア れ。そは我が首肯する所なり。 : 十ッジョ。さもあるべし。されど伊太利第一の美人は此ヱネチア たえ 〔ボデスタ〕むすめ にこそあれ。憾むらくは君未た市長の女を見給はず。滿楚なること此の如きは、世の絶て無くし も わづか て僅に有るところにして、これをや精神上の美とは云ふべき。若しカノワにして此女を識りたら 〔ハリテス〕 わか ましかば、その三美の像の最も少きをば、必ず此女の姿によりて模し成ししならん。 ( カノワは かっ 彫匠なり。。、 十ッサニョに生れヱネチアに歿す。三美の像は獨逸ミュンヘンに在り。 ) われは嘗て晩 さん 〔サン・モセス〕 餐式ありしとき、寺院にて見、又聖摩西の劇場にて一たび見たり。その高根の花に似て、仰ぎ石 ・〔たやす〕 ひと るだに容易からぬを恨むものは、獨り我のみにはあらず。おほよそヱネチアの少年紳士にして同 た けさう じ恨を抱かぬはあらざるならん。只だ人々と我と相異なるは、彼は懸想し我は懸想せざるのみ。 〔たいしゃう〕 我俗眼もて見れば、彼人は餘りに天人めきたり。されど天人は崇拜の對象とすべきならん。「ア ことば よろこび 。いかに思ひ給ふといふ。われは此語を聞いて、フラミニアの事を思ひ出し、喜の色は我 えんた うれひ 面より消え失せたり。ポッジョ。酒は好し。風波は我筵の爲めに歌舞す。いかなれば君愁の色を 見せ給ふそ。われ。市長は客を招き筵を張ることありや。ポッジョ。稀にそのことなきにあらず ? 〔せ , せい〕 〔おごそか〕 つらな されど招請を愼むこといと嚴なり。や彼人は物に怯るること鹿子の如く、同じ席に列るもの わが ら わ かの 、はん あひ ひと おそ 〔かのこ〕 し み
絶望の境に雀のて後、今又慰藉を自然と藝術とに求むるに至れるを戚して、さて人《のを 垂れてわが印興詩人となることを許されんを願ひぬ。われはその答を得ん日までは、敢て公衆の まだら ために歌はざるべしと誓へり。これを書く時、涙は紙上に墜ちて斑をなし、われは心の中に答書 をは ぶり の至らんこと一月の間にあらんことを祈るのみなりき。書き畢りて、われは久し振にて心安く眠 っ に就きぬ。 あくるひ 翌日フ = デリゴはとある横町なる賃房に移り、己れは猶さきの獨逸宿屋なる、珍らしき山と海と ながめ ひとま の眺ある一間に留まりぬ。われは聚珍館 ( ムゼオ・ポルポ = イ = ) 、劇場、公苑などルねめぐりて、 未た三日ならぬに、早く此都會の風俗のおほかたを知ることを得たり。 考古學士の家 家 あるカメリエリ ふみ の或日房奴は我に一封の書をわたしたり。披きて讀めば、博士マレッチイと夫人サンタとの案内状 古にして、フ = デリゴ君をも伴ひて來ませとあり。初めはわれこは屆先を誤りたる書ならずやと疑 ひぬ。宿屋の人に博士はいかなる人そと間ふに、 いと名高き學者にて、考古學とやらんに長け給 まらうど さうしぎ ふと聞ゅ、その夫人近きころ羅馬より歸り給ひしなれば、客人は途上にて相識になり給ひしには この ロオマ 〔かしべや〕 ひら おの なほ 力アザ・テデスカ