樂 - みる会図書館


検索対象: 即興詩人 上巻
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1. 即興詩人 上巻

145 り。姫は室にありし男を我に引き合せつ。すなはちこの群の樂長なりぎ。又媼は姫のやしなひ親 〔かど〕 なりといふ。その友と我とを見る目なざしは廉ある如く覺えらるれど、姫が待遇のよきに、我等 きようそこな が興は損はるるに至らざりき。 わが ぎりゃう 樂長は我詩を讚めて、われと握手し、かかる伎倆ある人のいかなれば樂劇を作らざる、早くおも ふしつけ ひ立ちて、その初の一曲をば、おのれに節附せさせよと勸めたり。姫その詞を遮りて。彼が言を 聞き給ふな。君にいかなる憂き目をか見せんとする。樂人は作者の苦心をおもはず、聽衆はまた 〔でもの」 樂人よりも冷淡なるものなり。こよひの出物なる樂劇の本讀といふ曲はかかる作者の迷 を書きたるものなるが、まことは一層の苦界なるべし。樂長の答〈んとするに口を開かせず、 姫は我前に立ちて語を繼ぎたり。君こころみに一曲を作りて、全幅の精神をめでたき詞に注ぎ、 局面の體裁人物の性質、いづれも心を籠めてその趣を盡し、扨これを樂人の手に授け給〈。樂人・ はさ はここにかかる聲を插まんとす。君が字句はそのために削らるべし。かしこには笛と鼓とを交〈 きむとす。君はこれにつれて舞はしめられん。さておもなる女優は來りて、引込の前に歌ふべき - 〔アリア〕はなや を 單吟の華かなるを一つ作り添〈給はでは、この曲を歌はじといふべし。全篇の布置は善きか惡き せめ か。そは俳優の責にあらず。「テノオレ」うたひの男も、これに讓らぬ我儘をいはむ。君は男女 とふら 〔よ〕 の役者々々を訪ひて項を曲げ色を令くし、そのおもひ付く限の注文を聞きてこれに應ぜざるべか へや はじめ うなしま むれ

2. 即興詩人 上巻

しみせ 學校、えせ詩人、露肆 : わが 神曲、吾友なる貴公子 : めぐりあひ、尼君・ ユダヤおきな 太の翁・ 独太をとめ・ たかだち カルネワレ 謝肉祭 をかしき樂劇・ 印興詩の作りそめ・ カルネワレ 謝肉祭の終る日・ せじみび 精進日、寺樂・ 、うぎ 誼と愛情と・ をさなき昔・ 畫廊・ うため オ・ヘラ : ・一 0 六 ・ : 一六七

3. 即興詩人 上巻

134 ゅ うべな カルネワレつらな し我心に協はば、我はこれを贄にせんといふ。我は共に往かんことを諾ひぬ。すべて謝肉祭に連 こころ たのしみ りたる樂をば、つゆ遺さずして嘗みんと誓ひたればなり。 ゅふべ 〔わす〕 〔ヂアリオ戸マ / 〕ひら 今は我がために永く謖るべからざるタとなりぬ。我羅馬日記を披けば、けふの二月三日の四字 おも 〔も〕 に重圈を施したるを見る。想ふにベルナルドオ如し日記を作らば、また我筆に倣はざることを得 ざるならん。そもそも「アルベルトオ , 座といへるは、羅馬の都に數多き樂劇部の中にて最大な ひぎゃう * ゑが こがねちりば 〔さじぎ〕 るものなり。飛行の詩神を畫ける仰塵、オリュムボスの圖を寫したる幕、黄金を鏤めたる觀棚 わ なほあらた 〔さじき〕 など、當時は新なりき。棚ごとに壁に鈎して燭を立てたれば、場内には光の波を湧かしたり。 し げつたんおこた 女客の來て座を占むるあれば、ベルナルドオ必ずその月旦を怠ることなし。 ことばか 開場の樂 ( ウヱルチュウル ) は始りぬ。こは音を以て言に代へたる全曲の敍と看做さるべきものな おどろけうがう 〔むちう〕 はははは卩はは」ⅡⅡ = 〔なぎさ〕 〔きゃうへう〕 り。狂颶波を鞭ちてエネェアスはリュビアの瀲に漂へり。風波に駭きし叫號の聲は神に謝する所 たう くわんこ たちまやはらか はじめ 疇の歌となり、この歌又變じて歡呼となる。忽ち柔なる笛の音起れり。是れヂドが戀の始なるべ はうふつ おもかげ し。戀といふものは我が未だ知らざるところなれど、この笛の音は、我に髣髴としてその面影を かくせ 〔いはむろ〕 認めしめたり。忽ち角獵を報ず。暴風又起れり。樂聲は我を引いて怪しき巖室の中に入りぬ。 あ をんじうきゃう たちまれつばく 是れ温柔鄕なり。一呼一吸戀にあらざることなし。忽ち裂帛の聲あり。幕は開きたり。 エネェアスは去らんとす。去りてアスカニウス ( エネェアスの子 ) がために、ヘスペリア ( 晩國の こ わが わ かな 〔にヘ〕 〔プラフォン〕 〔かぎ〕 ロオマ あャ オペラ

4. 即興詩人 上巻

186 よそめ 羅馬全都の君がために狂するを見る。餘所目には君、まことに樂しく見え給へり。さるを心には み かうべかたぶ 樂しとおもひ給はずや。かく問ひつつ、我は頭を傾けて姫の面を俯し視たるに、姫はそのそこ ひ知られぬ目なざしもて打ち仰ぎ、そのめでくつがヘられたるをさな子は、父もなく母もなきあ こすゑ はれなる身となりぬ、譬へば木葉落ち盡したる梢にとまる小鳥の如し、そを籠の内に養ひしは世 の人にいやしまれ疏まるる猶太敎徒なり、その翼を張りておそろしき荒海の上に飛び出でたるは ことば ゆかり 〔むやく〕 めぐみ こもあるかな、由縁 かの独太敎徒の惠なりといひかけて、忽ち頭を掉り動かし、あな無益なる詞冫 〔てくび〕 なき人のをかしと聞き給ふべき筋の事にはあらぬをといふ。由縁なき人とはわれかと、姫の手首 ほほゑみ しば とりてささやくに、暫しあらぬ方打ち目守りてありしが、その面には憂の影消え去りて、微笑の 波起りぬ。否々、われも樂しかりし日なきにあらず、その樂しかりし日をのみ憶ひてあるべきに、 うちゑ むかしがたり 君が昔語を聞きて、なくもわが心の裡に雕られたる圖を繰りひろげつつ、身のめぐりなるめで たき畫どもを忘れたりとて、姫は我に先たちて歩を移しき。 かども 〔おうな〕 わがアヌンチャタと老媼とを件ひて族館にかへりしとき、門守る男はベルナルドオが留守におと づれしことを告げたり。我友はこの男のロより二婦人を連れ出だししものの我なるを聞けりとい ならひ さき きづか しかりおも ふ。友の怒は想ふに堪へたり。かかる事あるごとに、我は前の日には必ず氣遣ひ憂ふる習なりし かの が、アヌンチャタに對する戀は我に彼友に抗する心を生ぜしめき。さきには友我を性格なし、意 ま わが このは たちま あゆみ ふ うれひ

5. 即興詩人 上巻

ルトオ」の聲を發し畢りて、最高の「ソ。フラノ」の聲に移りしときは、人皆物に狂へる如くなり かろキ一ん 〔まひこ〕 き。姫が輕く艷なる舞は、エトルリアの瓶の面なる舞者に似て、その一擧一動一として畫工彫工 の好粉本ならぬはなかりき。われはこのすべての技藝を見て姫の天性の發露せるに外ならじとお えんこ 〔まま〕 もひき。アヌンチャタがヂドは妙藝なり、その歌女は美質なり。曲中には、間何の縁故もなき こつけい をか ふしふしはさ 曲より取りたる、可笑しき節々を插みたるが、姫が滑稽なる歌ひざまは、その自然ならぬをも自 たはふ 然ならしめき。姫はこれを以て自ら遣り又人に戲るる如くなりき。大團圓近づきたるとき、作譜 ぢや ) 者、これにて好し、場びらぎの樂を始めんとて、舞臺の前なるまことの樂人の群に譜を頒てば、 さ っゑあ 姫もこれに手傳ひたり。樂長のいざとて杖を擧ぐると共に、耳を裂くやうなる怪しき雜音起りぬ。 ほとん うま たなそこう 作譜者と姫と、旨し旨しと叫びて掌を拍てば、觀客も亦これに和したり。笑聲は殆ど樂聲を覆へ けうじ り。我は半ば病めるが如き苦悶を覺えき。姫の姿は驕兒のままに戲れ狂ふ如く、その聲は古の : うしよう ギリシア 希臘の祭に出できといふ狂女の歌ふに似たり。されどその放縱の間にも猶やさしく愛らしきとこ おもひいた * イタリア 〔てんじゃうゑ〕〔あさひ〕 きろを存せり。我はこれを見聞きて、ギドオ・レニイ ( 伊太利晝工 ) が仰塵書の朝陽と題せるを想出 し にちりん いしぬ。その日輪の車を繞りて踊れる女のうちべアトリチ = ・チ , ンチイ ( 羅馬に刑死せし女の名 ) おもかげ わか の少かりしときの像に似たるありしが、その面影は今のアヌンチャタなりき。我もし彫工にして、 しゃうじゃう この姿を刻みなば、世の人これに題して淸淨なる歡喜となしたるなるべし。あらあらしき雜音は かうふんぼん なか をは うため また がくしんむれ か わか いにしへ おは

6. 即興詩人 上巻

174 たましひ きたう し、ベルナルドオを愛せり。この瞬時の愛はかの天上の靈の相愛するに殊ならざるべし。祈疇の 我に與へざりし安慰は、今音樂にて我に授けられたるなり。 、うぎ 友誼と愛情と もととぶら ぞりひら かうきよう 式終りてベルナルドオが許を訪ひぬ。手を握り襟を披きて語るに、高興は能辯の母なるを知りぬ。 わ しゃうがい けふ聞きつるアレエグリイ ( 寺樂の作者 ) が曲、我が夢物語めきたる生涯、我と主人との友誼は我 だんし わがうれひ に十分なる談資を與へたり。けふの樂はいかに我憂を拂ひし。未だ聽かざりし時の我疑懼、鬱 のこり これら 、苦惱は幾何なりし。われは此等の事を殘なく物語りしが、唯だこれが因縁をなししものの主 に我友なりしか、又はアヌンチャタなりしかをば論じ究めざりき。我が今友に對して展べ開くこ あへ 〔ひた〕 ひと めんだう とを敢てせざる心の襞はこれ一つのみなりき。友は打ち笑ひて、さてさて面倒なる男かな、カム たち をなご パニアの羊かひの頃より、ホルゲエゼの館に招かるるまで、女子の手して育てられしさへあるに、 せつかくイタリア 「ジェスヰタ」派の學校に在りしなれば、期くむづかしき性質にはなりしならん、切角の伊太利 の熱血には山羊の乳を雜。せられたり、「ラトラップ」派の信侶めきたる制欲は身を病ましめたり 1 な むげんきゃう うらみ 馴れたる小鳥一羽ありて、美しき聲もて汝を喚び、夢幻境をで現實界に入らしめざるこそ憾な あ そなたよ か き いんねん あるじ

7. 即興詩人 上巻

104 逢ふごとに、我は健康をさへ害せられんとす。ベルナルドオのこわっぱ奴。ハツ・ハス・ダアダア こい′編いめ ~ / 、 が批評は大抵此の如くなりき。 學校の中、ベルナルドオが去りしを惜まざるものなかりき。されどその惜むことの最も深きは我 ふみ や なりき。身のめぐりは遽に寂しくなりぬ。書を讀みても物足らぬ心地して、胸の中には遣るに由 しかに がく 〔もたえ〕 なき悶を覺えき。さて如何してこれを散ずべき。唯だ音樂あるのみ。我生活我願望はこれを樂の うち あきらか 裡に求むるとき、始めて殘るところなく明なる如くなりき。ここを思へば、詩には猶飽き足らぬ 〔わがこん〕 ところあり。グンテが雄鑰にも猶我心を充たすに足らざるところあり。詩は我魂を動せども、樂 ひとむら 〔はく〕 はわが魂と共に、わが耳によりてわが魄を動せり。タされば我窓の外に、一群の小兄來て、聖母 をさな の像を拜みて歌へり。その調は我にわが穉かりける時を憶ひ起さしむ。その調はかの笛ふきが笛 ある ゆりか・こ のペおくり にあはせし搖籃の曲に似たり、又或時は野邊送の列、窓の下を過ぐるを見て、これをおくる信尼 の挽歌を聽き、昔母上を葬りし時を思ひ出しつ。我心はこしかたより行末に遷りゆきぬ。我胸は 押しめらるる如くなりぬ。昔歌ひし曲は虚空より來りて我耳を襲〈り。その曲は知らす識らず 我脣より洩れて歌聲となりぬ。 ハツ・ハス・ダアダアが室は、我室を去ること近からぬに、我聲は覺えず高くなりて、そこまで聞 えぬ。ハツ・ハス・ダアダア人して言はしむるやう。ここは劇場にもあらず、又唱歌學校にもあら ばんか くちびる へや しらべ た ここち わが 〔め〕 なほ マドンナ

8. 即興詩人 上巻

まひは よ。客に相識る人少ければ、我を顧みるものなし。ベルナルドオが舞果てて我儚に來りしとき、 うれひたちま 〔とばり〕 〔うしろ 我憂は忽ち散したり。紅なる帷の長く垂れたる背後にて、我等一一人は「シャム。 ( ニエ」酒の杯を かたぶ がく〔しらペ〕 せきじっふきよう 傾け、別後の情を語りぬ。面白き樂の調は耳より入りて胸に達し、昔日の不興をば少しも殘さず ユダヤをとめ 打ち消しつ。われ遠慮せで太少女の事を語りでしに、友は嘔だ高く笑ひぬ。その胸の内なる きす あと 痍は早くも愈えて跡なきに至りしものなるべし。友のいはく。われはその後聲めでたき小鳥を捕 〔なは〕 へたり。この鳥我戀の病を歌ひ治しき。これある間は、よその鳥はその飛ぶに任せんのみ。その - ゲットオ まこと いオマ 猶太廓より飛び去りしは事實なり。人の傳ふるが信ならば、今は羅馬にさへ居らぬゃうなり。友 わか ふた と我とは又杯を擧げたり。泡立てる酒、賑はしき樂は我等が血を湧しつ。ベルナルドオは又舞踏 ひと さき ちまた の群に投。せり。我は獨り殘りたれど、心の中には前に似ぬ樂しさを覺えき。街のかたを見おろせ あつま よろこ ば、貧人の兒ども簇りて、松明より散る火の子を眺め、手を打ちて歡び呼べり。われも昔はかか る兒どもの夥件なりしに、今堂上にありて羅馬の貴族に交るやうになりたるは、いかなる訷のみ かげひざまづ 惠そ。われは帷の蔭に跪きて神に謝したり。 謝肉祭 むれ あひし ちご 〔つれ〕 カ ル ネ あ あわ まっ にぎ わがかたへ

9. 即興詩人 上巻

信 0 けだこよひ わがむねしづ ぶかっか ) 夢の如くなりき。かかる折に逢ひて、我心を鎭めんとするに、最も不恰好なるは、蓋し今宵の一 はうし ラブルオバブンオペラセリア 曲なりしならん。世に知れわたりたる如く、樂劇の本讀といふは、極めて放肆なる空想の か みやくらく 〔ひたすら〕 産物なり。全篇を貫ける脈絡あるにあらず。詩人も樂人も、只管觀客をして絶倒せしめ、兼ねて やすさが わがまま あまた かっさい 許多の俳優に喝采をする機會を與へんことを勉めたるなり。主人公は我儘にして動き易き性な こっ がくしん たえま おも る男女二人にして、これを主なる歌女又譜を作る樂人とす。絶間なき可笑しさは、盡る期なき滑 ひきおこ の葛藤を惹起せり。主人公の外なる人物には人のおのれを取扱ふこと一種の毒藥の如くならん こころ ことを望める俳優をのみ多く作り設けたり。かくいふをいかなる意そといふに、そは能く人を殺 えき あはれ このむれまじ し又能く人を活す者そとなり。此群に雜れる憐むべき詩人は、始終人に制せられ役せられて、譬 なは へば猶犧牲となるべき價なき小羊のごとくなり。 〔ひらめき〕〔ちゃう〕のぼ 喝采の聲と花東の閃は場に上りたるアヌンチャタを迎へき。その我儘にて興ある振舞、何事に とんぢやく 〔きよどう〕 も頓着せずして面白げなる擧動を見て、人々は高等なる技といへど、我はそを天賦の性とおもひ ぬ。いかにといふに、姫が家にありてのさまはこれと殊なるを見ざればなり。その歌は數千の きょまり かうべあ やはらか 〔しろかぬ〕ひとし 銀の鈴齊く鳴りて、柔なる調子の變化なきが如く、これを聞くもの皆頭を擧げて、姫が目よ よろこび みなぎ り漲り出づる喜をおのが胸に吸ひたり。姫と作譜者と對して歌ふとき相代りて姫男の聲になり、 なかんづく かっさい 男姫の聲になる條あり。この常に異なる技は、聽衆の大喝采を受けたるが、就中姫が最低の「ア かっとう うため 〔わざ〕 きよう てんぶ〔さが〕 ふるまひ たと

10. 即興詩人 上巻

〔あら〕 ねたみ わがむねさわ 嫺と疑ひしとき、我心の噪がしかりしは、妬なるか否ざるか、そはわが考へ定めざるところなり き。 われは殘れる謝肉祭の時間を面白く過さんとて、假粧舞の易に入りぬ。堂の内ににきまで燈 さじきし すがは とっくにびと 〔ところ〕 燭を懸け列ねたり。新せる土地の人、素顏のままなる外國人と打ち雜りて、高き低き棧敷を占 がくじんむれ めたり。平土間より舞臺へ幅廣き梯をわたしたるが、樂人の群の座はその梯の底となりたり。舞 わかざりびもかざり 臺には畫紙を貼り、環飾紐飾を掛けて、客の來り舞ふに任せたり。樂人は二組ありて、代る代る 演奏す。今は酒の神なゑ ( ッコスとその妻なる女神アリアドネとの姿したる人を圍みて、貸車の 御者に扮したる男あまた踊り狂ふ最中なりき。われは梯を踏みてその群に近づき、引かるるま よふ ねぐら か , っ まに共に舞ひしが、心樂しく身輕きに、曲二つまで附き合ひて、夜更けたる後塒に歸りぬ。 にぎ はなや あくるあした 眠りしは短き間にて、翌朝は天氣好かりき。姫は今羅馬を立つにゃあらむ。華かにして賑はしく、 熱して騒がしかりし謝肉祭は、今我を殘して去りぬ。外に出でて風に火かれなば、心寂しきけふ ひとちまた を慰むるに足ることもやと思ひて、獨り街に立ち出でぬ。家々の戸は閉されたり。物賣る店もま まばら しろぎぬある だ起き出でざりき。昨日は人の波打ちしコルソオの大道には、往き交ふ人疎にして、白衣に藍色 ふちと ちょうえきにんひとむらあられ の縁取りしを衣たる懲役人の一群、霰の如く散り・ほひたる石膏の丸を掃き居たり。塵を積むべき こつりふ ながえ 車の轅には、骨立したる老馬の県がれつつ、側なる一團の芻秣を噛めるあり。とある家の戸口に 〔ェッツリ / 〕ふん つら きのふ はしご よ だいだう せきか ) たま まぐさか ゅ とざ まじ ちり