それゆえ足石は布石と関連する。ある一つの隅だけの独立 定石の成立とその変遷 した定石があり得ない所以である。関連する以上に、定石は 定石とは何か ? 布石の部分であるという方がいいかも知れない。このことは 簡単に定義すると、 " 定石とは隅における黒白双方の応接しかし、布石が定石よりも重要だということにはならないの の合理的なものであるれということができる。 で、別のいい方をすれば、定石をはなれて布石は成立しない 定石は従って本来互いに得失のあるべきものでない。このし、布万を有利にすすめるには定石を充分に理解し咀嚼して 定石は黒が悪いとか、これは白が有利の定石であるとか、そ自分のものにしておくことが不可欠となる。 のようなことはあり得ないはすである。すなわち術語にいわ 一たい定石とは、碁のはじめからあったものか、或いは いっ頃から、どのような権成によって規定されたものか ? ゆる″五分の別れ ~ もしくは " 互角の勢い ~ で営になくては ならない。 そして、一たび定石となれば、それはもはや絶対不変のもの であるのか ? 純理からいってそうにちがいないのが、現実では同じ一つ 定石は、過去およそ四百年ほどの間に、各時代の名人巨匠 の定石が、ある場合には黒が得であり、あるときは白にとっ て好ましいものとなる。なぜか ? 定石は、つねに四囲の秉といわれるような人が実戦に打ち出した隅のいろいろな型の一 うちで、これはと思われるような類が、その時代の人々によ 件に支配されるためである。隣隅からはなれ、全局的観点を 無視して、孤立した定石というものが考えられないゆえにで って模倣され、ひろく用いられて、次々の時代を経て今日ま で伝えられ堆積したものである。ある時代に、誰かがエ風し 周知のごとく碁では隅が重視され、互いに隅の優位を占め創作した型で、一時流行し、もてはやされても、人々の研究 ようとするとこらから、着子が隅より側辺へ、側辺より中央の結果、それよりすぐれた打ち方が案出されれば、前の型は へと展開してゆく道程を経て、中盤戦に入る、その道程が布次第に顧みられなくなって、新しい、そして勿論よりすぐれ たものが行われ、やがてそれが一般に普及してくるのは当然 石にほかならないのだが、互いの着子が第一に接触するとこ でしかない。そういうことが昔から、そして今日もなおくり ろは従って必す隅である。その隅における相互の応酬にある 程度の規範を求め、これが定石とよばれるのである。 返されているのたと思っていい。
だからはじめは、定石というものはなかったのである。一れがそのように絶対のものでなく、見方によってはそのよう 部の高級な専門家が創作したある型が、その一統の人々にたに不安定でさえあるとすれば、どうしてそれに研究の価値が け伝えられ、 " 秘伝というようなかたちを取ったこともああるのかというと、定石を知っていれば、どのような隅の打 るが、しかし碁は相手があって打つものである以上、一とたち方に対しても利害得失の判断ができるからである。定石は び盤上に打ち出されれば、それはもはや " 門外不出れではあつまり、隅の打ち方の基底をなすものである。せつかく自分 り得ない。たたそれが一般にひろまる速度が、今日に比べてが定石を打とうとしても相手が型破りを打ってくるので、何 非常に小さかった。新聞、雑誌その他の刊行物のことを考えにもならない、というのは、よく訴えられる不満であるが、 ると、実におどろくほどの遅さたったにちがいない。たからこれなどは定石の考え方を誤っているので、早くいえば、定 秘伝はある程度、あくまでも秘伝でとどまることもできたの石に捉われたものである。 であろうと思われる。 定石は不変でない。それは絶えす進歩しようとする。 それとともに、伝統を重んじ、旧慣からはなれることを恐 しかし、晋の定石が悉く今日すたれて用いられないのかと れた晋の人の考え方もそこには大いに働いたことが否定できいうと、これが必すしもそうでない。百年、二百年前に行わ ない。そして、晋の定石は概して堅実を主とし、静的で、消れた定石で、今もなお生命をもっているものがある。例えば 極的たといえる。対照的に、現代の定石は、堅実、実利を重 小目、一一間バサ、てにおける第 2 型の小ゲイマガケなどは三百 視しながらも勢力的であり、動的で積極性が薯し第 年来のものである。それゆえ今日流行し全盛を誇っている定 その間の事情は、徳川時代から明治、大正の初期までに行石でも、数年後にはすて去られるようなことがあるかも知れ われていた定石と、その後、殊に昭和も十年前後から今日まない。 でに打ち出された定石と、その数を比較してみるとよくわか 定石が不動のものでないと込うことには、もう一つの観点 るのである。現代の碁と者の碁とをならべてみれば、一と眼がある。それは同じ定石が、時にはそれでなくてはならない でその違いがはっきりする。定石は、晋と完全に変貌したの ことがあり、また反対に絶対に、それを用いてはならないこ である。定石は、不変のものでない。 とがある。すなわち一群の型の中から、取捨し選択して、つ 定石とは、隅における合理的な応接であるとい「たが、そねに場合に適するものを打って行かなければならない。どの
小目定石 小ゲイマのカカリ : 一間バサ ~ 一間高バサ ~ 二間高バサ 三間バサ 一間高ガカリ : 二間高ガカリ 大ゲイマのカカリ 高目定石 小目のカカリ 三々人り : 目外し定石 小目のカカリ 高ガカリ : 三々人り・ : 三々定石
いる意味が自然に理解されてくるものである。意味がわかれ ような場合にも例えば二間バサミの小ゲイマガケには、 )J の 型しかないというのたと、碁は非常に簡単であるが、同時にば、もはや忘れることもないし、従って場合に応じた活用と そこに興味の生まれるはすがなく、定石がそのようなものたいうこともできるようになる。しかし最初のうちは、諳記と いうこともある程度必要たし、ゆるされるであらう。記憶は とすれば、それは死物である。 定石は、隅で最初に接触した双方の石が、互いに最善を尽なんといってもすべての根本である。 し、打った石の全能力をあげている一つの型たとすれば、そ 例えば ( ) 図、白 1 の二間高ガガリ こに打たれた互いの着手は一つ一つ、必す、、手筋、、とか、、形、、と が多く行われるようになったのは、大 いわれるものを多く含んでいるに相違ない。だから定石を研 正年間以来である。それまでは一路右 究して行けば、碁の形や手筋というものが自然習得されるは 上の、小ゲイマのカカリがもっとも普 すである。定石そのものの価値とは別に、定石を研究するこ 通であった。 との価値と重要性が、ここにも見出されるであろう。 この二間高ガガリに対しても、はじ 定石を学ぶにあたり、多くの碁人の慨きは、定石の諳記が めは黒 2 と受けることにほとんどきま 容易でないということであるらし悉くの定石の諳記とい っていた。そしてどのような場合にも うことはしかし専門家といえども不可能なのである。それに かく受けて黒に不利はないといわれていたのである。 もかかわらす専門家が実際に処して誤ることが少いのは、判 それが ( ) 図の 2 とッケる手の案出から、 ( ) 図の黒 2 な 断力をもち、理解する力があるからであって、これには多年 の経験も勿論あるが、結局は、手筋と形の自得と、そして碁いし 8 、という最近の型が生まれるようになった。このもっ とも新しい定石を取ってみても、三十余手にのぼる複雑な型 理の把握というところに帰せしめられると思う。 専門家ならぬ一般碁人はしかし最初はやはり記憶するほかをいきなり諳記したところで大へんな努力の要ることたし、 またこれを記憶するだけで碁が強くなるはすもない。 ない。それにはなるべく基本型となるものをさきに抜いて、 記憶はそれに限りたい。そして碁力が向上するにつれて、次 やはり ( ) 図をまづ理解し、 ( ) 図はもとより、それ以外 第に記憶の労がすくなくてすむばかりでなく、定石のもって ■ 0 ■ 000 ■理
例言 : 定石の成立と変遷 : 星の定石 小・ケイマのカカー 大ゲイマ・ヒラキ ッケ手定石・ : 二間高ガカリ : 大々ゲイマのカカリ : 大ゲイマのカカリ : 一間高ガカリ 両がカリ 目次 ( 五 ) ( 大 ) ・ : ( 四 0 ) ( 五へ )
( — ) 本巻では , 互キ第と " 置碁。の呼称を無視し、いわゆる " 置碁定石 " はすべて " 星 ~ の部に樫含せしめ 先、互先の碁にも隅の着点として星が選ばれることが非常に多いのと、純理からいって、隅の正しい応接とし ての定石に互先と置碁の差を設けるべきでないという考え方から、そうしたのである。 従ってまた白をもったときに打っ定石、黒ならばゆるされる定石、と込うような差も与えてない。 ( Ⅱ ) いわゆる " 大斜定石れその他いたすらに変化の多様を誇るたけで、実際には今日ほとんど行われないも のは省略し、もしくは一応触れる程度にした。代りに、昭和以来の新しい型で生命のあるもの、大いに打たれて いるものは洩れなく採用した。 ( Ⅲ ) 全巻を通じて、星四十型、小目ニ型、一間パサ ~ 十六型、一一間バサミ一一十五型、三間バサ ~ 八型、一間 高ガカリ九型、ニ間高ガカリ十一型、大ゲイマのカカリ八型、高目十型、目外し十一型、三々一一型、すべて百四 十二型を基本定石とした。その他は、重要性、もしくは、大たい行使される厖度に応じて、変化をそれぞれ号数 をもって示した。 ( Ⅳ ) それらの各型、各号の数字は、他の諸巻においてつねに連絡を保って引用される。なお多くの変化のう ち、特に高級なもの、複離なもの、より進んた研究に値するもの、等を巻末に附する予定であったが、紙数に 例限されてできなかった。それらは他の諸巻において、機会あるごとにつけ加えられるであろう。 た。
のより簡単な諸 型を卒業するう ちには、碁力の 、支ネまって 1 ② ( ) 図の理解も 容易となり、労 せすに自然に記 憶されてくる。 定石の研究にあたっては、およそそれくらいの気もちであ りたいと思う。 定石研究の重要性はもっと強く主張されていいのではない かと、自分は平生考えるものである。それは一つ一つの定石 そのものがもっている意義や価値の大きさを知ることは勿論 大切であるが、それ以外に、前にもいったように、定石に含 まれる手筋と形、さらに一般碁理というものが、いつの間に か理されると信するからである。この意味において、基本 型が悉く頭に人っているほどの碁人は、諳記などということ は考えすに、筋や形の把握を主として各型の第 1 号以下、そ して参考図にまで入っていってほしいと思う。 本書に示された諸型とその変化の各号をすべて理解し自得 されたほどの人ならば、本書にはぶいた特殊の変化にのぞん でも恐らく措置を誤らないであろう。そのとき、その人は定 ④② : 1 ③ 5 ・ ( c ) 石に関する限り、専門家の領域に達したものといわれるであ ろう。
小目〃第 1 型 四通リのカカリ 目の定石に人る。 目に対するカカリは、 ″いの小ゲイマをもっとも普通とし、他に、 " クの一間高ガカリ、 " は。の二間高ガカリ、そして、 があること、周知の通 " にの大ゲイマガカリ、 りである。 この四種のカカリは、およそ右の順序の頻度をも って打たれるので、そのように順を逐ってしらべる こととするつ ( 参考図・ ) 小ゲイマガカリの定石は、本来この一間・ハサミ から出発すべきである。そして一路右の一一間・ハサミ、 二路右の三間・ハサミと進み、さらに最近はそれらのハ サミをそれぞれ一路上に移した高・ハサミも新しい型と して大いに行われているので、その慎重な検討にも入 って行かなくてはならないのは勿論であるが、部分的 な型として、ハサマずに打つのが独立して古くからあ って、今日もなお行使されている。それらは多くは、 小小 型 0 亠亠ー一亠。半ー一ー十十キ , 十十半 キーエ亠、十・下亠ー一 布石に関連することが多く、定石というには余りに緊朴なものともい えるが、しかし順序としてはぶくことはできないので、一応まずそれ に触れるであろう。 トにに 0 ( 参考図 )
からのツケ、もしくはコスミッケを防ぎ、或いはそれらのきびしさ " 二間′サミ〃第燔型 を緩和しようとするところから田発したものであるといえる。手ぬ 手ぬを定石の き定石に人るに先たって、一応この点を強調しておきたい。 ニつの手法 二間バサミに、白が手をぬいたとき、黒から打っ には、 1 の一路ドのツケと、 1 の一路右のコスミッ型 ケと両様ある。 前者は、白を封鎖して外勢を張り、隅で活かして 実利を与えても、みづからは厚みを誇らうとする。 後者は、白に根拠をゆるさす、とれを中央へ駆り出 して攻め立てることにより側辺に形勢を張りつつ局 ②十十十十ーエ亠亠ーエ亠ーエ亠 面を展開して行かうとする。前者には殊に、白から 星の点にハネコミ得るか否かについて、シチョウ関 係が加わるのであ「たが、このように打ち方が二通・ー丁亠ー一、 りあるということは、参考図 ( ) 十十十十十十」亠ー十 の三間バサミにおいて 1 の一路左 のコスミッケ、また (n) の一 バサミでは 1 とッケる。いづれも その一つにほとんど限られている のと、大きな差である。 二間バサ ~ 第 1 型以来これまで 説いてきた定石は、すべてこの黒 第 0 ■■ 0000 ■ 0 ② ( a ) 137
2 4 6 ① " 高目″第 4 型 シチョウを無視 した新しい定石 黒 2 のカケに、白 3 とトビッケる。次にのべるシ チョウ関係が白に有利な場合に成立し、比較的新し い定石である。 シチョウが白に有利、従って黒に不利ならば、黒 は 4 、 6 、とヒイて受けるほかないはすである。 黒までの結果、第 3 型 ( << ) および同第 3 号に比 し、白が働いているといえる。 ののち、黒から 6 の一路右をオサえるか、また 白から 5 の二路下にトプ ( トプに先たって白は 2 の 一路上にフクれ、その一路左の黒のオサえと交換す る ) こととなるか、ともに好点である。 参考図 ( ) シチョウ関係を示す。この 7 と抱えるシチ ョウが成立しない限り、黒 1 は無謀とせざるを得ない のだが、実は第 1 号と ( 9 4 いう更に新しい定石が 3 あらわれている。 物②② 0 ー 6 を無視して、すなわちシチコウが黒に不利で ( ) 、の 7 と抱えるこ とがでむない場合にも、かく 4 とオサえて打てようという新しい主 張である。 黒 8 とッグとこらから、参考図 ( ) とわかれる。そして白 9 、黒 丁工 , ・①十③⑤亠ー 4 「⑨ , エー②④ 0 一 9 ・エ , ⑤ 203 ( ー 7 9 ) 第 1 号シチョウ関係 7 工亠亠亠亠 、い⑩の 2 。 7