交通信号の保守 ⑦国際免許発行 などが考えられる。 さらにサウジ国内の自動車修理業者の能力別クラス分け、および巡回技術指導もできる。サウ ジアラビアの独特の人手不足の状況からは、外国人自動車技術者の斡旋なども考えられる。全国 のハイウェーに沿ったサービスエリアの充実までも含めてもよいと思う。カーベキューのシステ ムを取り扱ってもよい とにかく誰かがこのような提案をするべきで、輸出台数数十万の日本は本命馬であろう。日本 の優秀な自動車工ンジニアを数百名一挙に送り込むなんて、すばらしいことだと思う。車の修理 に必要なことは、アラビア語でも英語でもなくエンジンの音であろう。 ところで、砂漠の汚染と正反対に、都市では数年前からまったくゴミやチリがなくなった。ゴ ミ回収と清掃が世界にも例のないほど徹底的に行なわれているからだ。たとえば、リヤド市はリ ャド市内の清掃計画を某社に一括請負いで発注した。これだけでも何百億円の計画である。まず、 リヤド市内の各家庭に大きな丸いプラスチックのゴミ箱を「無料配布」することから始まり、各 町内に一カ所ずつ鉄製の箱をおき、大量消費者にはさらに巨大なゴミ箱を設置するなどした。毎 朝、各家庭からのゴミを何百台ものゴミ回収トラックで集める ( 私の家には毎日かっきり朝八時 一〇分に来る ) 。 日本とは比べようのない大型の清掃車が、何でもバリバ リ飲み込んでゆく。台所の生ゴミも紙
どうしてこんな巨大な穴ができたのだろうか。真偽のほどはわからないが、友人の話によると 一六〇年前頃にできたものだという。隕石だろうか ? 隕石ならばクレーターができるだろうが、 回りにまったくクレーターはない。 私は陥没ではないかと思う。どうしてこのような深い陥没が起こ 0 たのか、私の無謀かつ大胆 なる推定では、次のようになる。 ある時期にアラビア半島の西側、紅海に近い山地に大雨が降 0 たとしよう。それが高圧の地下 水とな 0 て、西側山地から東部海岸に向か「て走 0 た。距離は約千三百キロ、深さは約六百から 千二百メートルぐらいだろうか。そのときの高圧の地下水が弱い地盤を陥没させた。このあたり の説明は、サウジアラビアのリヤドの農業水利省の本省の玄関にある、アラビア半島の断面水利 のモデルを見ると、よくわかる。 砂漠の謎の大穴は垂直に穴があいているのと、どの端にも人が近寄れないので、だれかがザイ ルを使 0 て降りないかぎり、下は調べることができない。友人の話によれば、何年か前にフラン スの大学生がこの穴に降りようとしたら、下からふきあげてくる強い空気のために降りられなか ったとい , っ 深い穴底に地下の水源があるかもしれない。私はさ 0 そく、その穴に降りてみようと提案した。 工事用の〈ルメトを使い、町でザイルを入手すればいい。数十メートル離れたところに大型ジ ープを止め、その車にロープをくくりつけて降りようと言うと、友人は、 「冗談はよせ。こんな底無しの穴に入ったら死ぬぞ」
ぐ歩いていれば問題ないはずです。顔を隠す習慣はトルコから来たものです。砂漠のなかで暮ら していた私たちの祖先の衣装は、とても色鮮やかだったんですよ」 そう言って、ソアドは彼女のアンティーク衣装のコレクションを見せてくれた。赤、緑、黄、 青、紫 : : : 原色をふんだんに使い、一面に刺繍の入った豪華なドレスである。黒地に原色の糸で こまかく刺繍したものもあれば、大胆なカットの入れかた、意外な色の組み合わせがある。うー んとうなる超モダン感覚である。ビーズ刺繍もあれば、 小さな銀の玉をびっしり縫いつけたドレ スもある。手に持っとどっしり重い。頭の被りものも独特のデザインである。 ソアドの仕事は、忘れられつつあるサウジの伝統的な衣装を現代に取りもどすことである。リ ャドの近代ショッピングセンター「アル・アカリヤ」に、彼女のアンティーク専門の店がある。 サウジアラビアではまだ珍しいビジネス・ウーマンである。 ン サウジのアンティークは急速にその姿を消しつつある。古い町はどこも近代化されて、アンテ マ ウ ィーク商品の発掘の余地はもう残っていない。サウジ女性の愛用した銀の装飾品。ペドウイン・ ア ジュエリーと呼ばれるそうした古い品は、オマーンやイエメンまで行かないと、もう手に入らな ャ キ る 銀製品のはかに、ソアドは古いサウジのドレスに魅せられた。古いものはこれ以上手に入らな す しかし、これを現代によみがえらせることはできる。古いデザインを模したドレスを作って、躍 現代の人が着られるようにしよう。 彼女の店では、伝統工芸の技術を持つ人を雇って、コピーとはもはや呼べない芸術品を作って
ろは、貿易商であるご主人がぜんぶや「てくれた。あとはカリマン自身の才覚に任されている。 彼女が儲けようが、損しようが、もはやご主人の関知するところではない。税金だの贈与税だの うるさいことはい 0 さいないのだ。ある意味では、女性がビジネスを始めるのに、こんないい環 境はな、。 サウジ女性は十代の終わりから二十代のはじめにかけて結婚する。最近は、二十代のうちに子 供を生みあげてしまう人が多くなった。五人、六人と子供を生むかわりに、三人ぐらいで終わり にする人も多い。加えて女性の高学歴である。三十代に入ると、家庭だけでは飽きたらない人が 増え、カリマンのようにビジネスの才覚を生かして独立する女性も出てくるのである。 仕事をするにあた 0 て、少しでも家計の助けに、などというみみ 0 ちいことを考える必要はこ れつばっちもいらない。余暇を利用して事業をやりたいから資金をください、 と夫にねだれるの ン である。妻に対してケチな夫は、イスラムではつまはじきにされる。ビジネスを始めようかと思 マ うぐらいの女性の夫は、おおらかな人が多い。すこし多めのおこづかい、 という感覚で出費してウ くれる。事業がうまくいっても、もちろん妻の収入をあてにすることなどしない。 ア 「甘やかされてるって思いますけれど : ャ : 」。カリマンは自分でもあっさり認めた。 キ る 日本にかぎらず世界中どこでも、やむなく共稼ぎをしている夫婦がいる。女性がかっこうよく 働くといえば聞こえま、、、ゝ、 。ししがその実、神経を擦り減らし、子供の預け先を気にしつつ、家事雑躍 用に追いまくられて生きているのだ。また、子供の手が離れて、働きに出たいと思いながら、特 別な技術がなければ思うような仕事にありつけないでいる専業主婦がいる。それに比べれば、サ
農水省の許可も、問題なくとれた。 次の冬、いよいよ日本から桜の木が送られることになった。比較的暑さに強い三種類の桜の苗 木が計六〇本である。当社の関係の会社から専門家が一人、苗木の輸送と植林のアドバイザーと して出張してくれることになった。日本航空の東京ージェッダの直行便で早朝到着した。 桜の本は < 市の農業試験場に渡し、一部は市長宅の外と内側に植えた。夏の期間市はリヤド よりは遙かに凉しいが、それでもやはり乾燥していて、日差しも強い。桜の木は冬が寒くなけれ ばダメだという。はたして根付いて育つだろうか。余った桜の苗木の三本をリヤドに持ち帰り、 私の家の庭に植えて様子を見た。 リヤドでは四月からもう夏で、六月には外気温が五〇度を超す。私の家の桜の木には毎日水を やっていたが、八月に至って、とうとう枯れてしまった。やはりリヤドの強烈な高温乾燥には耐 えられなかったのだった。 < 市のことが気になって、しかたがなかったが、連絡をとる機会がないうちに、支店長が交代 することになった。帰国されるときに桜の安否を調べて知らせてはしいと、とくに指示があった。 その次の年の夏、私の家族は友人の家族といっしょにリヤドからジェッダまで車で旅行した。 途中はテントに泊まり、紅海で泳ぎ、帰途についた。途中に < 市がある。 < 市に入る前から、桜 の木のことが気になりだした。 私はうろ覚えの方向感覚で市長の家に向かって車を運転していった。角を曲がると市長の家だ というとき、私は車を運転しながらも、一瞬目を閉じた。市長の自宅の外側に、塀に沿って私自 272