入っ - みる会図書館


検索対象: ライ麦畑でつかまえて
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1. ライ麦畑でつかまえて

ものだ。わかるかね、僕の言うこと ? 」 「ええ、わかります」 それから、また、かなり長い間、先生は黙りこんでいた。君にそういう経験があるかどうか知らな いけど、相手が考えこんでるのを前に見ながら、黙って坐って、ロを開くのを待ってるのは、、 しささ かつらいもんだぜ。本当だよ。僕は出かかるあくびをかみころしてばかしいたね。といっても別に、 退屈だったとかなんとかいうんしゃない そうしゃないんだ ただ、急に、すごくねむくなった んだよ。 「学校教育には、他にもまだ、君の役に立っことがある。相当のところまでこれを続けて行けば、 自分の頭のサイズはいくつかということが、わかりかけてくるんだ。何が自分の頭に合うか、それか ら同時に、何が合わないかということもたぶんね。しばらくするうちに、特定のサイズを持った自分 のこの頭には、どんな種類の思想をかぶったらいいかということもわかってくる。一つには、そのた めに君は、自分に似合わない、自分にふさわしくない思想を、いちいちためしてみるという莫大な時 間の浪費を節約できることにもなる。君は、自分の本当の寸法を知り、それに合わせて自分の頭にか ぶるものをえらぶことができる そのとき、僕は、だしぬけにあくびをしちまったんだな。なんとも無作法な野郎だけど、どうにも しようがなかったんだ ! でも、アントリーニ先生は、ただ笑っただけだったね。そして「さあ、君の寝床をこしらえよう 296

2. ライ麦畑でつかまえて

競技場〈下りて行かなか 0 たもう一つのわけはだな、歴史の先生のスペンサーさんに、僕、お別れ を言いに行く途中だ 0 たんだ。先生は流感やなんかにかか 0 ちゃ 0 たんでさ、クリスマスの休暇が始 、こ、という手紙 まる前に会うことは、この先もうないだろうと思ったんだ。僕がうちへ帰る前に会しオし を先生からもら 0 てたのにさ。先生は、僕がもうべンシー、戻らないことを知 0 てたんだな。 そのことを言うの忘れてたけど、僕は退学にな 0 たんだよ。クリスマスの休暇が終わ 0 ても、学校 とかなん 、は戻らないことにな 0 てたんだ。四課目お 0 ことしちゃ 0 て、しかも勉強する気がない、 とか言いやがんだな。勉強しろという注意はちょいちょい受けてたんだけどね、ーー学期の中頃には特 に、両親がサーマーの奴に呼びつけられたりなんかしてさーーところが僕は勉強しなか 0 た。そこで お 0 ばり出された 0 てわけだ。ペンシーしゃよく生徒のとこをお 0 ばり出すんだよ。とてもいい学校 ってことになってんでね、ペンシーは。本当なんだ。 とにかく、十二月かなんかでさ、魔女の乳首みたいにつめたかったな、特にその丘の野郎のてつべ ーシプルのオー ーを着てただけで、手袋も何もしてなかったんだ。その前の週に、 んがさ。僕はリく ーを、ポケットに毛皮の裏のついた手袋を入れたまんま、僕の部屋においといたのを、 ラクダのオー : 、、つばいいやがんだよ。すごい金持の家の子 誰かに盗まれちゃったんだ。ペンシーにはかつばらし力、 ( ししやがったな。ぜいたくな学校になればなるほ が大勢いたんだけど、とにかくかつばらいは、つ、、 とにかく、僕は、そのイ ど、かつばらいも多くなるんだーーー本当だよ、ふざけて言ってんしゃない。 カレタ大砲のそばにつ 0 立 0 て、ケツももげそうなくらい寒い中で、下の試合を見てたんだ。とい 0

3. ライ麦畑でつかまえて

ビーンズ』っていうレコード、これを僕はフィービーに買ってやりたか 0 たんだよ。ところが、これがなかなか手に入らないレコードなんだな。前歯が二本ぬけたために、 トさな女の子のことを歌ったやつなんだ。ペンシーにいるとき はずかしがって家から出ようとしない / 聞いたんだよ。隣りの階にそのレコードを持ってる子がいてね、これはきっとフィービーをうならせ ると思ったから、そいつに売ってもらおうとしたんだけど、そいつ、売らないんだ。エステル・フレ ッチャー 0 ていう黒人の女が二十年ぐらい前につく 0 た、と 0 ても古い、すごいレコードだ 0 た。彼 女の歌いかたはディキシーランドみたいで、淫売宿の雰囲気があるんだけど、そのくせ、ち 0 とも不 潔しゃないんだ。これがもし、白人の女の子が歌 0 たら、すごくキザ 0 ばく歌 0 ちまうんだけど、エ ステル・フレッチャーは万事を心得て歌ってんだな。こんなすばらしいレコードはこれまでにもそう たくさんは聞いたことがない。僕は、日曜日でも店を開いてる店を見つけてこいつを買って、公園へ 持 0 て 0 てやろうと思 0 たんだ。ちょうど日曜日だし、日曜には、フィービーは、よく公園〈スケー トをしに行くんだから。彼女がどの辺をウロチョロしてるか僕は知ってたんだ。 その日は前の日ほど寒くはなか 0 たけど、太陽はや 0 ばし出てなくて、散歩にはあまりいい日しゃ ことがあった。一見してどこかの教会の帰りだとわかる一家おそ なかったな。でも、ひとつだけいい これが僕 ろいの人たちがーー父親と、母親と、それから六つぐらいの子供の三人連れだったけど の前を歩いてたんだ。あんまり裕福な家庭ではなさそうだ 0 たな。父親は、貧乏な連中がめかした格 ーノ・グレーの帽子をかぶってた。そして、奥さんと二人で 好をしようとするときによくかぶる 丿トレ・ノヤーリー・ 179

4. ライ麦畑でつかまえて

僕はすばやく立ち上がると、駆けて行って、机の明かりを消した。それから煙草を靴に押しつけて 火を消すと、その吸いかけをポケットに入れた。それから煙を追い出そうと思って、その辺をやたら に手であおいだ 本当は煙草なんか吸っちゃいけなかったんだ。それから靴をひつつかむと、押入 れに入ってドアをしめた。いやあ、心臓は気違いみたいに打ってたね。 おふくろが部屋に入って来る音が聞こえた。 「フィービー ? あんなことはもうよしなさいね。明かりが見えましたよ、お嬢さん」 「おかえりなさい ! 」フィービーのそう言う声が聞こえた。「あたし、眠れなかったの。楽しかった、 「すばらしかったわーとおふくろが言った。しかし、それが本心でないことはわかるんだな。おふ くろはよそへ行ってもあんまり楽しめないたちなんだ。「どうしてまだ起きてたりなんかしたの ? 寒かったんしゃない ? 」 「寒くなんかなかったわ。眠れなかっただけ」 「フィービー、あなた、ここで煙草を吸ってたんでしよう。ほんとのことを言ってちょうだい、お 嬢さんー 「なんですって ? 」と、フィービーが言った。 「とばけてもだめ」 「ちょっと一本、火をつけただけ。一口吸っただけよ。そして窓からすてちゃった」 275

5. ライ麦畑でつかまえて

いたんだと思われるかもしれないからね。でも、結局のところ、消すことは消したけどさ。それから、 校長室へ階段をのばって行ったんだ。 校長の姿は見えなかったけど、百歳ばかしの年とった女の人が、タイプライターの前に坐ってたね。 僕は 4 ー 1 にいるフィービー ・コールフィールドの兄だといって、フィービーへ手紙を届けてもら えないだろうかと頼んだんだ。これは非常に大事な手紙で、母が病気になって、フィービーに昼食を 用意してやれなくなったので、僕がフィービーと落ち合って、ドラッグ・ストアへ昼飯を食べに連れ てってやらなければならないんだと言ってね。そのばあさんはとても親切にしてくれた。僕から手紙 を受け取ると、隣の部屋から、もう一人の女の人を呼んで、その人に手紙を届けさしてくれたんだ。 それから、その百歳ばかしのおばあさんと僕は、しばらくの間、とりとめのない世間話をしたんだな。 その人はとても感しがよかったから、僕は、自分もこの学校へ通ったんだとか、兄も弟もそうだった とかと話したんだ。その人は僕に、今はどこの学校かときいたから、僕はペンシーと答えたけど、そ の人は、。 ヘンシーのことをとてもいい学校だと言ったね。その彼女の見当違いを訂正してやることは、 かりに僕にその気があったにしても、おそらくその力がなかったろうと思うな。それに、その人がペ ンシーをとてもいい学校だと思うんなら、そう思わせておくさ。百歳ばかしにもなった人に、新しい ことを知らせるというのは、、、 し感しのもんじゃないからな。相手はそんなものを聞かされるのはい ゃなんだから。それからしばらくして僕はそこを出たんだが、おかしかったよ。その人も、僕に向か って「幸運を祈ってますよ ! 」って言ったんだ。。ヘンシーを出て来たときに、あのスペンサー先生が

6. ライ麦畑でつかまえて

こもって、ニキビをいびったりなんかしてるだけだったからなんだ。マルは、かまいはしないけど、 丿ーがそんなに好きじゃないんだな。とにかく、僕たち あんまり気乗りもしないと言った。奴はアクー シューズやなんかをはきながら、アクリー 二人は、支度やなんかしに部屋へ帰った。僕は、オー の奴に声をかけて、映画を見に行かないかときいてみた。僕の声は、シャワー・カーテン越しに、ち ゃんと聞こえたはずなんだが、 アクリーの奴、すぐには返事をしないんだよ。すぐには返事をしたが らない奴なんだ、あいつは。でも、しまいに、カーテンを抜けてやって来やがってさ、シャワー・ル しつだって、誰が行くか ームの敷居に突っ立って、僕のほかには誰が行くんだときくんだな。奴は、、 たしかめなきや承知しないんだ。あいつは、きっと、どっかで難破した場合でも、ポートで救助して やろうとすれば、そのポートに乗り込む前に、漕いでるのは誰だって、きくにきまってるぜ。僕はマ : よかろう。ちょって待て」そう奴は言 ル・プロッサードが行くっておしえてやった。「あいっか : ったね。まるでこっちが恩恵を施されてるみたいな感しなんだ。 奴は、支度するのに、五時間ばかしかかったな。その間に、僕は窓のとこへ行って、窓をあけて、 素手で雪球を握ったんだ。握るのにもってこいの雪だったな。しかし、僕は、そいつを何にもぶつつ けなかった。ぶつつけかけはしたんだよ。道路の向こう側に停まってた車にね。ところが気が変わっ せん たんだ。その車があんまり白くてきれいでね。次には消火栓にぶつつけようとした。ところが、これ がまた、実に白くてきれいなんだな。それでとうとう、何にもぶつつけなかったのさ。どうしたかっ ていうと、そのまま窓をしめて、その雪球を、もっと堅く握りしめながら、部屋の中をぐるぐる歩い

7. ライ麦畑でつかまえて

ステキ、か。どんな言葉がきらいといって、僕はステキっていう言葉ぐらいきらいなのはないんだ な。インチキなにおいがするよ。一瞬僕は、マネチーのことは忘れてくれと、彼女に言いたい誘惑を 感したくらいだ。しかし実際は、電話で長いこと話しこんしまったんだ。といっても、しゃべったの は彼女のほうだけどさ。こっちから言葉をはさむことなんか、できやしないんだな。はじめに、彼女 を追っかけまわしてるというハ ドの学生の話が出たーーー・おそらく一年生なんだろうが、むろん 彼女は、そんなことにはふれなかった。夜でも昼でも電話をかけてくるんだとさ。夜でも昼でもだぜ これには僕も参ったね。次には、別の男の話で、こいつは陸軍士官学校の生徒なんだそうだが、 のどぶえ これも彼女のことで咽喉笛を切りかねないんだそうだ。たいしたもんだよ。僕は、二時に《ビルトモ ア》のあの時計の下で会わないかと言ってやった。ショーは二時半にはしまるはずだから、おくれな いようにと念を入れてね。だって、彼女はいつだっておくれるんだから。そして電話を切ったんだが、 いらいらさせられたな。でも彼女はとっても美人なんだ。 サリーの奴とデートの約束をしてから、僕はべッドを抜けだすと、服を着て、旅行カバンに荷物を のそ つめた。しかし、部屋を出る前に、昨夜の変態どもがどうしてるか見てやれと思って窓から覗いてみ たが、みんな日よけがおりてたな。あいつらも朝には、つつましさの極致みたいになると見えるよ。 丿スの姿はどこに それから僕は、エレベーターで下まで降りて、勘定をすまして外へ出たのさ。モー もなかったな。僕がわざわざあの野郎を骨を折って捜したりなんかしなかったのはいうまでもないや 「喜んで行くわ。ステキ」

8. ライ麦畑でつかまえて

のすぐ隣に坐ったひとが、そのバスケットを床に落としたんだよ。それで僕は手をのばして、それを 拾ってやった。そして、慈善事業やなんかのお金を集めて歩いてるのかって、彼女にきいたんだ。彼 女は違うと言った。旅行カバンに荷物をつめたとき、どうしても入らなかったので、持って歩いてい るんだというんだな。この尼さんは、ひとの顔を見て微笑するその笑いが実にいいんだよ。鼻は大き それにあまりチャーミングとはいえない鉄縁みたいな眼鏡をかけてんだけど、その顔が実にやさ しいんだな。「もしも寄付金を集めていらっしやるのなら、僕も少し寄付させていただこうと思った んですー僕はそう言った。「なんでしたら、募金なさるときのためにこの金をとっといてくだすって も結構なんですが」 「それはほんとにご親切に」と、彼女は言った。もう一人の、彼女の友達の尼さんも僕の方に顔を 向けた。このひとはコーヒーを飲みながら、小さな黒い本を読んでたんだ。聖書らしく見えたけど、 聖書にしては薄かったな。でも聖書系統の本に違いないよ。二人の朝食はトーストとコーヒーだった。 それを見て僕は気が滅入っちゃってね。自分がべーコン・エッグかなんか食ってるのに、他の人がト ーストにコーヒーしか食ってなかったりすると、僕はいやになるんだ。 尼さんたちは、献金として差し出した僕の十ドルを受け取ってくれた。そんなにして大丈夫だろう かと、繰り返し僕にきくんだよ。僕は金はたくさんあるからと、そう言ったけど、どうも信しられな しといったようすだった。、、 : 力しまいには受け取ってくれたんだ。二人して何度もていねいにお礼を 言うもんだから、僕は具合が悪くなっちゃった。で、話題を一般的な問題に切り変えて、これからど めがね 171

9. ライ麦畑でつかまえて

げんか バスルームですごい夫婦喧嘩をやったのを聞かされた後だったり、道路の水たまりにガソリンの虹が 浮かんでるとこを通ってきたばかりであったり。要するにどこかが違ってるんだ うまく説明でき ないけどさ。いや、かりにできるにしても、説明する気になるかどうかわかんないな。 僕は、歩きながら、ポケットから例のハンチングを出してかぶった。僕を知ってる人に会うはずが ないことはわかってたし、天気がいやにしめつばかったんだ。僕はどんどん歩きつづけ、歩きながら、 昔の僕と同しように今はフィービーが土曜日にあの博物館へ行っているということを考えていた。昔 僕が見たのと同し物を、今フィービーはどんなふうに見てるだろう。そしてまた、それを見に行くた びごとに、フィービー自身はどんな変わり方をしてるだろう。そんなことを考えてると、必ずしも気 が滅入ってきたというんしゃないけど、またすごく明るい気持にもならなかったな。ものによっては、 いつまでも今のまんまにしておきたいものがあるよ。そういうものは、あの大きなガラスのケースに でも入れて、そっとしておけるというふうであってしかるべきしゃないか。それが不可能なことぐら いわかってるけど、でもそれではやつばし残念だよ。とにかく、そういうことをいろいろ考えながら、 僕は歩いて行ったんだ。 途中で遊園地のそばを通りかかったとき、僕は足をとめて、まだほんとに小さな子供が二人、シー ソーに乗って遊んでるのを眺めた。一人のほうはいくらか太ってたんで、僕は、重さの釣り合いをと ってやろうと思って、痩せつばちの子が乗っかってるほうの端へ手をかけたんだ。ところがその子た明 ちは、僕がそばにいるのが気に入らないんだな。それがわかったんで、僕もその場を離れたさ。 なが

10. ライ麦畑でつかまえて

辺でバスを待っことにしたけど、それというのも、もうあんまり金が残ってなくなったんでね、タク シー代やなんかは倹約しなきゃならなくなったんだ。ところが僕は、バスに乗るのも気がすすまなか った。その上、どこへ行ったものか、それさえはっきりきまってない。そこでどうしたかというと、 あひる 《公園》に向かって歩きだしたんだ。あの小さな湖のそばを通って、家鵯たちが何をしてるか、だい たいあそこにまだいるかどうか、見てやろうと思ったんだ。そのときになってもまだ、僕には、家鵯 がはたしているものやらどうやらわかんなかったんだよ。《公園》までは遠くなかったし、どことい どこで寝ることになるのか、それさえまだわかってなかったんだか って他に行くとこもなかった らねーーーそこで歩きだしたというわけだ。疲れたりなんかはしてなかった。ただ、無性にわびしかっ ただけさ。 それから、ちょうど《公園》の中へ足をふみ入れたときだ、恐ろしいことが起こったんだ。フィー 五十ばかしのかけらに割れちまってさ。 ビーにやるレコードを落っことしちまったんだよ。レコードは 大きな紙の袋に入ってたんだけど、それでも割れちまったんだ。僕はたまんない気持になって、もう 少しで泣きだすとこだった。でも、他にどうしようもないし、とにかく割れたかけらを紙の袋から取 り出して、オー ーのポケットに入れた。そんなもの、何の役にも立ちゃしないんだけど、でも僕は、 捨てちまう気になれなかったんだ。それから公園の中に入って行った。いやあ、暗かったなあ。 セントラル・・ハ 僕は生まれてからずっとニューヨークに住んでるんで、《中央公園》は自分の手の甲のようによく ・スケートをやったもんだし、子供の頃は自転車に乗 知っている。だって、始終ここに来てローラー