インチキ - みる会図書館


検索対象: ライ麦畑でつかまえて
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1. ライ麦畑でつかまえて

名前を並べやがんのさ。一番いけなかったのはね、その青二才の野郎、あのアイヴィ・リ ーグの連中 のインチキきわまる声をしてやがんだよ。例のくたびれたみたいな、いやにきどった言いかたさ。ま るで女の子みたいだったな。それで、その野郎、遠慮会釈もなしに、ひとのデートに割り込んで来や がんだよ。芝居が終わったとき僕は、こいつ、僕たちの車にいっしょに乗りこんでくるつもりかなと、 ちょっと思ったくらいだった。だって、二プロックほども僕たちについて歩いてきやがんだもの。で も奴は仲間と会ってカクテルをやる約束があると言った。チ = ックのヴ = ストを着こんだインチキ野 郎・と、もが、どっかのハ ーに集まって、あのくたびれたみたいな、いやにきどった声で、芝居だの本だ しんらっ の女だののことを、辛辣にやつつけてるようすが目に見えるようだった。参るねえ、ああいう連中に 僕たちがタクシーに乗り込んだのは、そのアンドーヴァのインチキ野郎の話を、かれこれ十時間も 聞かされたあげくだったからね、僕はサリーの奴にもいささか腹を立ててたんだ。それで、そのまま 真直ぐに彼女を家へ送り届けてやろうと心の中ではきめていた ほんとなんだ ところがだね、 彼女が「すてきなことを思いついた」って言うんだな。サリーは、いつも、すてきなことを思いつく んだ。「あのね」と、言うんだよ。「あんた、おうちには何時に帰らなきゃならないの、お夕食に ? つまり、ひどく急ぐのかどうか、それが知りたいのよ。別に何時に帰らなきゃいけないってことはな いのかしら ? 」 「僕 ? ああ。ないよ」と僕は答えた。いやあ、こんなに正直なことを言ったのは、たえて久しく 198

2. ライ麦畑でつかまえて

エルクトン・ヒルズをやめた最大の理由の一つは、あそこの学校がインチキ野郎だらけだったからな ース先生って んだ。それだけのことなのさ。全くウジャウジャいやがるんだから。たとえばだよ、 いう校長がいやがんだけどね、これは僕が臍の緒きってからこの方お目にかかった最大のインチキ野 ースの奴、車で学校に乗 郎だったね。サーマーよりも十倍もひでえや。たとえば、日曜日にだな、ハ ぐらいにしちゃってさ。ただ、 りつけて来る親たちに、いちいち握手して回るんだ。すごくカッコいい それがイカサナイ親だと、違うんだな。僕と同室の子の両親と握手したとこなんか、見せてやりたい いなか くらいだった。つまりだね、生徒のおふくろがでぶだったり田舎くさかったりなんかするだろう、あ るいはおやしがさ、肩のでつかい服なんか着ちゃって、やばな黒白コンビの靴なんかはいてるような ースの野郎、ちょっと手を握って、作り笑いなんかしやがっ 野郎だとするだろ、そうするてえと、 て、そのまますっと行っちまうんだな。そして、誰か他の子の親たちのとこへ行って、そうだな、半 時間もしゃべってやがんだ。こういうのはたまんないね。頭に来ちゃう。こんなのにぶつかると、僕 はすっかり気が滅入っちゃって、どうにかなっちまうんだな。あのエルクトン・ヒルズって学校は、 僕は大きらいだ。 そのとき、スペンサー先生が何か言ったんだが、僕は聞きもらしちまった。ハースのことを考えて たもんでね。「何ですか、先生 ? ーと、僕は言った。 かしやく 「ペンシーを去るについて、君は別に、これといった心の呵責は感しないのかね ? 「ああ、そりやいくらか呵責はありますよ。そりゃあります : : : しかし、そうたいしてありません へそお かた

3. ライ麦畑でつかまえて

リーとかストラドレーターとかモ ーリスとかいった連中としよっちゅういっしょで、行軍やなんかし なきゃならないんだったら、きっと気がへんになるにきまってるということははっきりわかってる。幻 前に僕は、一週間ばかしだけど、ポーイ・スカウトに入ってたことがあるんだが、すぐ前を歩いてる 奴の首筋を見てるだけでもがまんできなかったね。あそこしや、前の奴の首筋を見て歩けって、しょ いっそ、射撃部隊の っちゅうそう言われるんだよ。今度また戦争があって僕が引っぱり出されたら、 月に立たしてもらったほうがいいね。僕は反対しないよ。・のことで僕の気にくわないのは、あ れほど戦争をきらっていながら、去年の夏僕にあの『武器よさらば』っていう本を読ませたことだ。 兄貴はすばらしい作品だって言うんだけど、それが僕には理解できないんだ。ヘンリー中尉っていう 男が出てきて、これがいい奴だとかなんとかいうことになってんだな。しかし、どうして・は、 軍隊とか戦争とかいうものをあれほどきらっていながら、あんなインチキな本が好きになれるんだろ ング・ラードナーのあ う。つまりだね、あんなインチキな本が好きであって、同時に、たとえば、リ スコット・フィッジ の本だとか、あるいは、彼が夢中になってるもう一つのあの『偉大なギャッビー』 ( エラルドの代表作 か、ああいうものがどうして好きになれるのか、僕にはわかんない。それを言うと、・はおこっ ちゃってね、僕のことをまだ若いかなんかするもんだからあの作品のよさがわかんないんだと言った けど、僕はそうは思わない。僕は、リング・ラードナーや『偉大なギャッビー』やなんかなら、僕だ って好きだって、・にそう言ってやった。実際またそうなんだ。『偉大なギャッビー』なんか大 好きなんだ。ギャッビーの奴、友達に呼びかけるときに「親友」とかなんとか言っちゃってさ。あれ

4. ライ麦畑でつかまえて

気分がよくなったんだ。ほんとなんだよ。倒れたんだから、腕は少し痛かったけど、でも目まいがす るようなことはもうあまりなくなったな。 そのときは、十二時十分かそこらになってたんで、僕は入口のドアのとこに戻って、そこに立って フィービーが来るのを待ったんだ。フィービーに会うのもこれが最後になるかもしれないと思ったね。 つまり、血縁の者に会うのがさ。いっかはまた会うだろうけど、それは何年も先のことだな。三十五 ばかしになったら帰るかもしれない。誰かが病気になって、死ぬ前に僕に会いたいなんて言った場合 屋を離れて戻って来たりしないつもりだったんだ。 の話さ。でも、そんなことでもないかぎり僕は、、 僕は自分が戻って行ったときのようすまで頭の中に描いてみた。おふくろは、すっかり興奮しちまっ て、きっと泣きだすにきまってる。もう小屋へもどったりなんかしないで、うちにいてくれと頼むだ ろうけど、やつばし僕は戻るんだ。しごくあたりまえのような態度でね。興奮するおふくろをなだめ て落ちつかせて、それから居間の奥のほうへ歩いて行って、シガレット・ケースなんか取り出して、 煙草に火をつける。いとも冷静にね。そしてみんなに向かって、気が向いたらそのうち訪ねて来てな んて言うけど、決してぜひにとかなんとか言ったりはしないんだな。どんなことを言うかというと、 フィービーに、夏休みやクリスマスの休暇や復活祭の休暇のとき遊びに来いと言ってやるんだ。それ から・にも、執筆するのに気持のよい静かな家が欲しかったら、しばらく出かけて来たらどうだ と言ってやる。ただし、僕の小屋で書くのは短編や本だけで、映画の台本は書かせない。それから、 僕を訪ねて来たら、インチキなことをすることまかりならんという規則をつくる。誰でも、インチキ 318

5. ライ麦畑でつかまえて

でも見えるようにしてやがったな。でも、演奏してる指は見えないんだーーーでつかい年とった顔だけ なんだ。たいしたもんさ。僕が入って行ったとき弾いてたのが、なんていう名前の歌か、よくは知ら ないけど、しかし、なんという歌にしろ、彼がそれをすっかりいやったらしいものにしてたことには さざなみ 。高音を弾くときに、自慢たらしく漣みたいな馬鹿な音を入れたり、その他にも、聞い てていらいらして来るような曲芸めいた弾き方をいろいろとやってみせるんだ。でも、弾き終わった ときの聴衆のさわぎは聞かせたかったよ。君ならきっとへどを吐いたろう。まるで気違いなんだ。映 画を見ながらおかしくもないとこでハイエナみたいに笑う低能がいるけど、あれと全く同しだったね。 神に誓って言うけど、かりに僕がビアノ弾きか俳優かなんかであったとして、あんな間抜けどもから すばらしいなんて思われるんだったら、むしろいやでたまんないだろうと思うね。拍手されるのだっ ていやだろうよ。拍手つてものは、いつだって、的外れなものに送られるんだ。僕がビアノ弾きなら、 いっそ押入れの中で弾くな。ま、それはとにかく、アーニーの演奏が終わって、みんなが頭がすっと かっさい ぶほどの勢いで喝采すると、アーニーの奴、回転椅子に坐ったまんま、くるりとこっちを向いて、 かにもつつましやかにインチキきわまるおしぎをしやがった。まるで彼が、すばらしいビアノ弾きで あるばかりでなく、非常につつましい人間ででもあるみたいにね。あんなのすごいインチキなんだ あいつは、本当は、たいへんなキドリ屋なんだから。でも、おかしな話だけど、僕は、演奏が終 わったとき、アーニーが少し気の毒になったんだな。あいつは、自分の演奏がそれでいいのかどうか も、もうわかんなくなってんしゃないかと思うんだ。それは彼だけの罪しゃないんだな。一部分は、 132

6. ライ麦畑でつかまえて

分は英語、半分はフランス語っていう、アホみたいな歌をうたうんだ。そうすると、その場にいるイ ンチキ野郎どもはみんな夢中にな 0 て喜ぶんだな。もしもそこに腰を落ちつけて、インチキ野郎ども の喝采ゃなんかをそっくり聞いてみたまえ、世の中の人間がみんないやになっちまうから。間違いな 0 ヾ、 ーテンダーがまたいやらしい奴なんだ。たいへんなキドリ屋でね。大物か有名人かなんかで ところが、大物か有名人かなんかであればあったで、いっそう鼻もちな なければロもききやしない らないまねをしやがんだよ。つかっかとそばへ寄って行って、なじみの客から見たらすてきな男に見 コネティカットよ、 えるようなチャーミングな微笑を盛大に浮かべながら「これはこれは ! ございました ? 」とか「フロリダはいかがでございました ? ーとかって言うんだな。すげえとこさ。 ほんとだよ。だから僕は、徐々に、すっかり縁を切るようになったんだ。 かなりこんでたけどね 着いたときは、まだかなり早かったんで、僕はバーのとこに坐った そして、ルースの奴が姿も見せないうちから、スコッチ・アンド・ソーダを二杯ばかし飲んだんだ。 注文するときには、僕の背の高さがわかるように、そして未成年者だなんて思わせないように、わざ わざ立ち上がって注文してやった。それから、しばらくの間、まわりにいるインチキ野郎どものよう すを眺めてやった。僕の隣にいた奴は、連れの女の子にしきりとおせしをふりまいてやがってね、そ ーの向こう端のとこ の女が貴族的な手をしてるって、何度も言うんだな。これには僕も参ったね。ヾ つばいいやがった。見たとこは、あんまりホモつばくなかったなーーーっまり、 には、ホモの奴らがい 頭の毛をうんと長くのばしたりなんかしてなかったんだーーーでも、とにかくそうなことははっきりわ かっさい

7. ライ麦畑でつかまえて

寒さのために鼻が痛くてね。それからストラドレーターの野郎に一発くらわされた上唇の裏のとこが。 なぐ あいつ、唇が歯にかぶさってるとこを撲りやがったんだ。そこが相当痛かったな。でも耳はけっこう あったかかった。僕の買った帽子には耳かくしがついてたんで、僕はそいつを利用したんだ 好なんかへいちゃらさ。第一その辺に人はいないんだから。みんなべッドに入ってたんだ。 駅へ行ってみると、僕は全くついててね、たったの十分ばかし待てば汽車が来ることになっていた。 僕は、待ってる間に雪を掴んでね、そいつで顔を洗ったんだ。まだ相当血がついてたんでね。 いつもなら僕は汽車に乗るのが好きなんだ。ことに夜の汽車が。電燈がついて、窓が暗くって、売 り子が通路を通りながらコーヒーやサンドイッチや雑誌を売りに来るだろう。僕は、いつも、ハム・ サンドと雑誌を四冊ばかし買うんだ。夜の汽車に乗ってるときなら、そういう雑誌にのってるイカレ タ小説を読んでも、たいてい、へどを吐かずにすむよ。わかるだろ。デーヴィッドという名前の顎の ほっそりしたインチキ野郎や、リンダとかマーシアとかいう名前のインチキ娘がいてさ、その娘がま た、デーヴィッドって野郎のパイプに、しよっちゅう、火をつけてやろうとしたりして、そんなのば かし出て来る小説さ。僕は、そんないやらしい小説でも、夜の汽車でなら読めるんだな、いつもなら せんぜん読む気がしないんだな。僕は、まあ坐ってるだけで、なん ね。ところが、このときは別だ。。 にもしなかった。したことといえば、ただ、ハンチングをぬいで、ポケットにしまっただけだった。 それから突然トレントンで、女のひとが乗って来たんだな。そして、僕の隣に坐ったんだ。車室は ほとんどがら空きなんだよ。ずいぶんおそい時間なんだからな。ところがそのひとは、あいてる席へ あご

8. ライ麦畑でつかまえて

「あいつは元気ですよ。あんたによろしくと言っていた」 「そう、そりやどうも。あたしからもあの人によろしくって言っといてよ」と彼女は言った。「あの 人はりつばな人だわ。い まあの人なにしてんの ? 」彼女は、急に、すごくしたしげになってきた。 「そりや、あんた知ってるでしよう。相変わらずですよ」僕はそう言った。彼が何をしてるか、ど うしてこの僕が知ってるもんかね ? ろくすつほ知らない人間なんだもの。まだプリンストンに入っ てるかどうかも知らなかったんだ。「あのねーと僕は言った。「どっかで会って、カクテルでも飲みま せんかね ? 」 「いま何時かあんた、知ってるの ? 」と、彼女は言った。「それはそうと、あんた、お名前はなんて いうの ? 」急に、彼女は、イギリス人みたいなお上品な口調になりやがったね。「少しお若い方のよ 僕は笑って「それはどうもありがとうーと、言った。すごくものやわらかにね。 「ホールデン・コールフィールドっていうんです」インチキな名前を言えばよかったんだが、その ときは思いっかなかったんだ。 「しゃあね、コーフルさん。あたしはね、夜の夜中にお約束なんかする習慣はないんですよ。勤め を持ってる身ですからね」 「明日は日曜ですよ」僕はそう言った。 なんて、全くへンチクリンだよ。あきれたね」 103

9. ライ麦畑でつかまえて

つばいなんだよ。 「ああ。あのな、もしもおまえに、特にどこって行く予定がなかったらだな、あのおまえのツィー ドのジャケットを貸してくれないか ? 」 「試合はどっちが勝った ? 僕はそう言った。 「まだ半分だ。おれたちは抜け出すんだよ」とストラドレーターは言った。「ましめなはなし、おま え、あのツィードのジャケット、今夜使うのか使わんのか ? おれのあのグレーのフラノの奴は、き たねえものをこばしちゃったんだよ」 「使わんけど、おまえの肩ゃなんかつつこまれると、のびちまうからいやだな」僕はそう言った。 僕たちは、背はほば同じなんだが、 目方は奴のほうが二倍もあるんだな。肩幅がすごく広いんだよ。 「のばしやしないよ」彼は大急ぎで押し入れのとこへ行った。「こんちは、アクリー奴はアクリー に向かってそう言った。愛想だけよよ、よ、 ( オカオカいいんだよ、ストラドレーターってのは。インチキみた いな愛想のとこもあるんだけど、でもアクリーだろうが誰だろうが、きま 0 て挨はするんだ。 アクリーも「こんちは」と言うには言ったが、ロの中でごまかすみたいな言い方なのさ。ほんとは 返事なんかしたくなかったんだけど、ロの中でごまかすにしても、ぜんぜんしないだけの度胸はなか ったんだな。それからアクリーの奴、僕に向かって言ったんだ。「おれ、そろそろ帰るぜ。後でまた 「ああ」と、僕は言った。べつに部屋へ帰られたからって、こっちががっかりするような相手しゃ

10. ライ麦畑でつかまえて

ペンシルヴェニア・ステーションに降りて、まっ先に僕が何をしたかというとだな、まず電話ポッ クスに入ったんだ。誰かに電話したいと思ったんだ。カバンは見えるように電話ポックスのすぐ外に 置いたけど、中に入ってみて、さて誰に電話をかけたらいいか、すぐには思い浮かばないんだな。兄 貴の・はハリウッドだった。ト / さい妹のフィービーは九時頃には寝床に入るーーだから、彼女に 電話するわナこよ、 。。 ( 、かなかった。彼女は僕に起こされても文句を言いはしなかったろうが、困るのは、 最初に電話に出るのは彼女しゃないだろう、ということなんだ。おやしかおふくろが出るにきまって んのさ。だからこれも問題にならない。次には、ジェーン・ギャラハーのおふくろさんに電話して、 ジェーンの休暇がいっからか、それをきき出すことを考えたけど、どうもこれもいやだった。それに、 電話をかけるには少しおそすぎたしな。次には、前によくいっしょにつき合ってた、サリ ー・ヘイス って子、この子に電話しようかと思ったんだ。だって、彼女の学校がもうクリスマス休暇に入ってる ことを僕は知ってたんだものーーー彼女から長いインチキな手紙が来て、クリスマス・イヴゃなんかに、 クリスマス・ツリーの飾りつけを手伝いに来ないかと誘ってきてたからさーーーでも、電話には彼女の 母親が出そうな気がしてね。彼女の母親は、うちのおふくろの知り合いなんだよ。彼女の母親があわ -4