ん興奮したんだよ。ほんとなんだ。 「おれにわかるはずないだろ。どいてくれ。おまえ、おれのタオルに坐ってるしゃねえか」と、ス トラドレーターは言った。僕は奴の間抜けなタオルの上に坐ってたんだ。 「ジェーン・ギャラ、 ノーかー僕はそう言った。どうしても平気になれないんだよ。「オドロキだな ストラドレーターの奴は、頭にヴァイタリスをつけてやがった。僕のヴァイタリスをだぜ。 「あの子はダンスがうまいんだ」と、僕は言った。「バレーとかなんとかね。どんなに暑いさかりや あし なんかでも、毎日二時間ぐらい練習してたな。そのために脚がいかれちまいやしないかって、心配し てたーーー太ったりなんかしやしないかってね。おれは、、 しつも、彼女とチェッカーをやったんだ」 「いつも彼女と何をやったって ? 」 「チェッカーだよー 「チェッカーをねえ ! 」 「そうさ。あいつ、自分のキングを絶対動かさないんだ。どうするかというとだね、キングになる だろう、そいつを動かさないんだな。ただ、向こうはしの列に置いとくだけなんだ。キングはみんな、 向こうはしの列に並べとくんだな。並べておいて、絶対使わない。向こうはしの列にずらっと並んだ 格好が好きなんだな」 ストラドレーターはなんとも言わなかった。こういうことは、たいていの人間に、興味のないもの あー
「いいよと、ストラドレーターは言った。しかし、おそらく言わんだろうということは、僕には わかってた。ストラドレーターのような奴は、ひとのことづてなんか決して伝えないものなんだ。 奴は部屋に戻って行ったけど、僕はしばらく洗面所に残って、ジェーンのことを考えていた。それ から、僕も部屋に戻ったよ。 戻ってみると、ストラドレーターは、鏡の前でネクタイをむすんでるんだ。まあ、一生の半分ぐら いは鏡の前で過ごす男なんだよ、奴は。僕は自分の椅子に坐って、しばらく奴のようすを眺めてた。 「おいーと、僕は言った。「おれがおん出されたこと、彼女に言うなよ、 これがストラドレーターのいいとこなんだな。奴にはつまんないことをいちいち説明する必要がな いんだ、アクリーの場合のように。たぶん、奴が、ものにあんまり関心を持たないからだろう。ほん 丿ーってのは、なんにでも鼻を突 とは、そこに原因があるんだ。アクリーの場合は違うんだな。アクー っ込んで来る男なんだ。 ストラドレーターは僕のツィードのジャケットを着やがった。 二回ぐらいしか着てないジャケットなんだ。 ししか、そいつをやたらとのばさんようにしてくれよと、僕は言った。なにしろ、まだ、 「大丈夫だよ。おれの煙草はどこへいった ? 「机の上だ」ストラドレーターときたら、なんでも置いたとこがわかんなくなるんだ。「おまえのマ
い癖があるんだな、僕には。ストラドレーターは、ひげを剃りながら、ロ笛で『インドの歌』を吹し ていた。奴はとても鋭い口笛を吹くんだが、それがおよそ調子はずれなんだな。それなのに、奴とき たら、『インドの歌』とか『十番街の虐殺』とか、うまい奴でもなかなか吹けないような歌ばかしを、 いつも吹きたがるんだ。全く歌もメチャメチャさ。 さっき、僕は、アクリーのことを、だらしのない野郎だって言ったのを覚えてるだろ ? ところが ストラドレーターもそうなんだな、種類は違うけどさ。ストラドレーターのだらしなさは、もっとひ と目につきにくいんだよ。一見したところでは、なんでもないんだ、ストラドレーターってのは。し そかみそり いつもすごく錆びててだね、石鹸 かし、たとえばだよ、あいつがひげを剃る剃刀を見てみるがいし 、つばいくつついてんだ。そいつを掃除したりなんかすることがな の泡だとか毛だとかなんとかが、し いんだな。ちゃんと身なりを整えたあいつを見ると、いつだってきれいに見えはするよ。しかし、僕 みたいにあいつを知ってる人間にいわせれば、人目につかないながら、やつばしだらしのない野郎に 変わりはないね。あいつがどうしてきちんと見えるように身なりを整えるかというとだな、それはあ いつがすっかり自分に惚れこんでるからなんだ。自分で西半球第一の美男子と思ってやがんだよ。そ りゃなかなかの美男子ではあったーー・そいつは僕もみとめるさ。しかし、奴はだな、生徒の親たちが、 学校の年鑑の写真を見て、「この子は誰 ? ーとすぐそう言ったりなんかする、そういう種類の美男子 なんだな、だいたいにおいて。つまり、年鑑向きの美男子なんだよ、だいたいにおいて。ペンシーに ・、、つま、、こナと、そ は、僕の考えしや、ストラドレーターよりもずっと美男子だと思われるのカ、
「子供つばいまねはよせよ」 僕は、盲のように「目の前をあちこち手探りしたが、椅子から立ち上がったりなんかはしなかった。 そして「ママ、どうして手をかしてくれないの ? ーを繰り返してた。もちろん、ふざけてただけなん だが、ときどき、こんなまねがすごくおもしろくなることがあるんだな。それに、アクリーの奴がす ごくいらいらするのがわかってたしね。アクリーを見ると、きまって、僕の中にサディスト的なもの が生まれて来るんだな。奴に対してサディスト的になることが僕にはよくあるんだよ。でも、しまい にやめたけどさ。帽子のひさしをまた後ろに回して、ぐったり椅子にもたれたんだ。 「こいつは誰んだい ? 」とアクリーが言った。見ると、同室のストラドレーターの膝あてを手にも ってるんだ。このアクー 丿ーって奴はなんだって手にとるんだから。ひとのサルマタやなんかだって手 にとるんだ。僕はそれはストラドレーターのだと言ってやった。すると、奴さん、そいつをストラド たんす レーターのヘ ' ッドの上に放りやがった。」 前にはストラドレーターの簟笥の上にあったんだ。それを今 の上に放りやがったってわけさ。 度はべッド 奴は、ストラドレーターの椅子のとこへやって来ると、そのアームの上に坐りやがった。椅子のシ ートに坐ったことはないんだな。いつだってアームなんだ。「おめえ、どこでその帽子手に入れた ? 奴はそう言った。 「ニューヨークだよ 「いくらで ? 」 やっこ
で拳闘のまねをしながら、ふざけ半分に、僕の肩を撲りだしたんだよ。「よせよ」と僕は言った。「ニ ューヨークへ行かなかったんなら、彼女をどこへ連れていったんだ ? 」 「どこへも。ただ車の中に坐ってただけさ」そう言って奴は、もう一発、そのふざけ半分の。ハンチ を僕の肩にくらわした。 「よせっていうんだ」と僕は言った。「誰の車だ ? ハンキーのさ ンキーってのは、。 ヘンシーのバスケットボールのコーチなんだ。ストラドレーターの野郎 は、センターをやってたもんだからね、奴の気に入りの一人なんだ。それで、ストラドレーターが借 りたいって言えば、エド ハンキーの奴、いつでも自分の車を貸してやってたんだ、生徒が教職員の 車を借りることは許されてなかったんだけどね、運動部の連中ってのはみんなが団結するんだな。僕 の行ったどこの学校でも、運動部の野郎は団結したね。 ストラドレーターは、僕の肩をめがけて、いつまでも、そのシャドウ・ボクシングを続けやがんだ な。手に歯プラシを持っていたのを、今度はロにくわえてね。「何してたんだ ? 」と、僕は言った。 ハンキーの車の中で彼女とやったのか ? 」僕の声はすごく震えたな。 「なんてことを言うんだ ? 石鹸でそのロを洗ってもらいてえのか ? 「やったのかよ ? 」 「それは職業上の秘密という奴でしてね、オニイチャン」 なぐ
なぶつこわしてやったんだから。他にわけがあったわけしゃよ オい、ただぶつこわしたかったからぶつ こわしたのさ。その夏にうちで買ったステーション・ワゴンの窓もぶつこわしてやろうとしたんだけ ど、そのときはもう、手がぐちゃぐちゃになっててね、できなかった。そんなことをするなんて、実 に馬鹿げたことだとは僕もみとめるけどさ、でもほとんど無意識のうちにやっちまったんだ。それに 君はアリーを知らんからな。今でもときどき手が痛むことがある。雨が降ったりなんかするとね。そ れからほんとの拳固ももうつくれなくなったーーーぎゅっと堅く握 0 たやつはやーー・しかし、その他は べつにどうってこともないな。つまり、いずれにしても僕は、外科医とかヴァイオリニストとかなん かに、なるつもりはないんだから。 とにかく、僕がストラドレーターの作文に書いたのはそういうことなのさ。アリーの奴の野球のミ ちょうどそのとき僕は、そのミッ トをスーツケースの中に持ってたもんだからね、そいつを取 り出して、そこに書いてある詩を書き写したんだな。ただ、アリーの名前を変えて、その詩が僕の弟 の詩で、ストラドレーターの弟のしゃないってことが誰。 こもわからないようにすれば、それでよかっ たのさ。そんなことをするのはあまり好きしゃなか 0 たけど、ほかには描写向きの材料 0 て、なんに も思いっかなか 0 たんでね。それに、そのミットのことを書くのは僕の気に入 0 たんだな。一時間ば かしかか 0 たね。だ 0 て、ストラドレーターのばろタイプを使わなきゃならなくてさ、こいつがひ 0 かか 0 てばかりいやがんだよ。どうして自分のタイプを使わなかったか 0 ていうとだな、僕のは廊下 のずっと向こうの部屋にいる奴に貸してあったのさ。
「おまえ、どこでその帽子を手に入れた ? 」と、ストラドレーターは言いやがった。例の ( ンチン グのことを言ってんだよ。奴は初めて見たんだからな。 でなくても僕は、急が切れたからね、ふざけ回るのはやめにした。そして、帽子をぬいで、これで 九十回ぐらいになるだろうけど、また眺めたね。「けさ、ニ = ーヨークで買 0 たんだ。一 ドルで。気 に入ったかい ? 」 ストラドレーターはうなずいた。「イカスな」そう彼は言ったが、しかし、それはおせしに過ぎな か 0 たのさ、だ 0 て、すぐそれにお 0 かぶせて、こう言 0 たんだもの。「おい、さ 0 きの作文の話だ けどさ、書いてくれるのか ? はっきりさしてくれ」 「時間があれば書いてやるよ。なければだめだ」僕はそう言うと、奴の隣の洗面台のとこ〈歩いて 行 0 て、また腰を下ろした。「おまえのガール・フレンドは誰だ ? フィッジ = ラレド ノか ? 」僕はそ 、つ - 只、こ 0 「とんでもねえ ! 前に言ったしゃねえか、あの豚とはもう手を切ったって」 「そうかい ? しや、僕に譲れよ、坊や。本気だぜ。あいつはおれ向きのタイプだ」 「あいつはおまえ : : : おまえしゃ向こうが年上すぎるぜ、 突拍子もなく僕は , ーーほんとに、ふざけてやりたい気分だ 0 たという以外には理由らしい理由はな か 0 たんだがーーー洗面台からとび下りて、ストラドレーターの野郎を《 ( ーフ・ネルソン》でしめ上 げてやりたくな 0 た。《 ( ーフ・ネルソン》て知 0 てるかな、相手の首をおさえつけて、やろうと思 なが
すぐ隣の部屋の男なんだ。僕たちの棟には、二つの部屋の間にみんなシャワー・ルームがあるんだが、 アクリーの野郎は日に八十五回くらいも僕のとこへとびこんで来るんだな。寮全体で、この日、競技 場へ行かなかったのは、僕をのぞけば、おそらくアクリー だけだったろう。アクリ って奴はどこへ だってほとんど行ったためしがない。 ヘンシーにま とにかく変わってやがんだよ。四年生なんだが、。 るまる四年もいるっていうのに、誰も奴を《アクリー》としか呼ばないんだからな。同室のハ ト ) とは呼ばないし、《アック》とさえも言わないんだから。もしもあい ゲールでさえ、《ボブ》愛称 よ。苗皆で、おっそろ つが結婚したら、自分の女房からまで《アクリー》って呼ばれるんじゃないかオーゴ しく背の高い奴でねーーー六フィート四インチぐらいあつなーーそれで歯がきたねえんだ。部屋が隣合 こナ わせであった間に、一度だって僕は、奴が歯を磨くのを見たことがなかったな。まるででも生えて るみたいな、すげえ歯をしてるんだ。こいつが食堂で、マッシュ・ポテトに豆とかなんとか、そんな のを口いつばいにむしやむしややってるのを見ると、胸が悪くなって吐きそうになったもんだ。おま あご けに奴は、ニキビだらけなんだ。たいていの子みたいに、額や顎だけしゃないんだ、顔しゅうべた一 面だからな。それはかししゃない、性格だってひでえもんよ。ちょっとイヤラシイとこもある奴でね、 どうも僕は好きになれなかったな、本当を言うと。 す このアクリ ーが、僕の椅子のまうしろにあたるシャワー・ルームの敷居に立って、部屋にストラド レーターがいるかどうか偵察してるのが、僕には気配でわかったんだ。奴はストラドレーターの腹の すわったとこが苦手でね、ストラドレーターがいると、絶対に入って来ないんだよ。ストラドレータ
それから二、三分もしたら、もう奴は、気違いみたいにいびきをかいてやがったよ。しかし、僕は、 くらやみ ハンキーの車の中にいたジェーンとストラド そのままその暗闇の中に寝転がっていた。そしてエド レーターのことは、つとめて考えまいと努力した。でも、それは、ほとんど不可能だった。困ったこ とに僕は、あのストラドレーターって奴のテクニックを知ってんだよ。だからいっそういけないんだ。 ハンキーの車の中で、ダブル・デートしたことがあるんだ。そのときストラド 一度僕たちは、エド レーターは、あいつのガール・フレンドといっしょに後ろの席にいて、僕は僕の相手と前の席にいた んだけど、あいつのテクニックって、すごいんだな。どうやるかっていうと、始めはとてもおだやか な、誠意のある声でやさしく相手を誘いこんで行くんだなーー奴が、すごい美男子なだけしゃなくて、 いかにもおとなしい誠意のある人間でもあるみたいにね。僕は、聞いてて、へどが出そうになったよ。 相手の子は「だめよーーおねがい。おねがいだから、よして。おねがい」って言ってるんだ。ところ ンカーンみたいな誠意のこもった声でくどくのをやめないんだよ。 か、ストラドレーターの奴は、リ そして、しまいに、後ろの席はしーんと静まり返っちまうんだ。ほんとにやきもきしちゃったな。あ の夜はあの子とやらなかったと思うけどさー・ーでも、そのすぐ近くまでは行ったな。ほんのすぐ近く まで。 僕が、そうして考えまいと努力しながら、そこに転がってると、ストラドレーターが洗面所から帰 って来て、僕たちの部屋へ入って行く音が聞こえた。あのきたならしい洗面用具やなんかをかたづけ たり、窓を開けたりするのが、音でちゃんとわかるんだ。あいつは新鮮な空気の気違いなんだよ。そ
僕よ、、、 へつにこれといってすることもなかったから、洗面所へ下りて行って、ひげを剃ってるスト ラドレーターを相手に少々ダべったんだ。洗面所には僕たちしかいなかった。みんなはまだグラウン ドのほうだからね。すごく暑くて、窓はみんな蒸気でくもってたな。洗面台は十ばかしあってね、み んな壁につくりつけになってんだ。ストラドレーターは、まんなかのを使ってたが、僕はそのすぐ隣 せん の奴に腰をかけてね、栓をひねって水を出したり止めたりやり出したんだ こういう落ちつきのな ないからな、奴さん。 ストラドレーターの野郎、自分の上着もネクタイも何もかも、すっかりぬぎだしちゃってさ。「早 いとこひげを剃らなきゃいかん」なんて言いやがんの。ひげは相当に濃いんだよ。ほんとだぜ。 「おまえのガール・フレンド、どこにいるんだ ? 」と、僕は言った。 「《別館》で待ってんだよー奴は洗面用具とタオルを小脇にかいこんで、部屋を出て行った。シャッ もなんにも着てやがんないのさ。いつも奴は、上半身はだかのままで歩き回りやがんだ。自分でもす からだ しい身体をしてると思ってるからなんだよ。そしてまた、その通りなんだな。そいつは僕も認め .. ない、わけ二にい、か十 / し やっこ 4 4