映画 - みる会図書館


検索対象: ライ麦畑でつかまえて
39件見つかりました。

1. ライ麦畑でつかまえて

きれいなかわいい耳なんだな。でも冬にはかなり長くのばしてる。ときにはおふくろがおさげに編ん でやることもあるし、編んでやらないこともあるが、それがまた実にいいんだよ。まだ十なんだ。僕 に似て痩せてるんだけど、感しのいい痩せ方なんだ。ローラー ・スケート向きの痩せ方だ。一度僕は、 彼女が公園へ行くので五番街を突っ切って行くとこを窓から見てたことがあるんだが、あれがフィー ビーなんだな、ローラー ・スケート向きの痩せ方っていうのはあの感しなんだ。たぶん君の気に入る と思う。つまりね、フィービーの奴になんかの話をするとするね、するとあいつは、こっちが言おう としてる通りにわかってくれるんだな。それに、どこへ連れてっても困ることはないしさ。たとえば、 つまんない映画に連れて行けば、それがつまんない映画だってことがわかるし、なかなかいい映画に 連れて行けば、よ、よ、 、ってことがわかるんだ。いっか、・と僕とで、『パン屋の女房』っ ていうフランス映画を見に、彼女を連れてったことがあるよ、レイミ = の出るね。これには彼女も感 心してた。しかし、彼女の気に入りは、ロ・、 ーナットの出る『三十九夜』なんだ。この映画 は、はしめからしまいまで、彼女、暗記してるよ。僕が十回ばかしも見に連れてったからね。たとえ ーナットが警官やなんかからのがれて、スコットランドの農家へやって来るとこに なると、フィービーは、映画の最中に大きな声で言うんだよ。「あんた、鰊が食えますかな ? 」って ねーーー映画の中のスコットランドの警官といっしょにさ。せりふを全部、そらで覚えてんだな、あい つ。それから、映画の中のあの教授、これが実はドイツのス。 ( イなんだけど、まん中の関節のとこが 少しなくなってる小指を突っ立てて、ロバ ーナットに見せるとこがある。そこへ来るとフィ にしん

2. ライ麦畑でつかまえて

画が台なしになるとかなんとかいうんしゃない。なにしろ、台なしになるものがはしめからないんだ からな。おしまいは、アレックとその家庭的な娘が結婚し、のんだくれの兄貴は神経がもと通りにな幻 ってアレックの母親に手術をする。すると母親の目がまた見えるようになり、それから、そののんだ くれの兄貴とマーシアとが互いに愛し合うようになる。最後は、さっきのグレートデンがぞろぞろ子 犬をつれて入って来るのを見て、長い食卓についてるみんなが腹をかかえて笑いころげるとこで終わ るんだ。みんなが、そのグレートデンを雄かなんかと思いこんでたとでもいうのかな。とにかく、僕 に言えることは、へどで着てるものを台なしにしたくなかったら、あんな映画は見なさんな、という ことだけだ。 僕が閉口させられたのはね、隣に女の人が坐ってて、これが映画の間しゅう、泣き通しなんだよ。 うそ 映画が嘘つばちになればなるほどますます泣くんだな。そんなに泣くのは、その人がすごくやさしい 心の持主だからと思うだろうけど、僕はすぐ隣に坐ってたんだが、違うんだね。この女の人は小さい 子供を連れててね、その子がひどく退屈して、おまけにトイレに行きたくてたまんないのに、連れて 行こうとしないんだ。しっと坐って行儀よくしてろって、そう言うばかしなんだ。あれでやさしい心 の持主なら、狼だってやさしい心の持主だね。映画のインチキな話なんか見て目を泣きはらすような 人は、十中八九、心の中は意地悪な連中なもんさ。決していいかげんなことを言ってんしゃない。 映画が終わったとこで僕は、カ ール・ルースと会うことになってた《ウイカー ー》のほうへ歩 いて行った。そして、歩きながら戦争やなんかのことをなんとなく考えたんだ。戦争映画を見ると、

3. ライ麦畑でつかまえて

少し泣いてんだな。そして僕は、急に、あんなことを言って悪かったって、本当にそんな気になった んだ。 「さあ、うちまで送ってくよ。ましめに言ってんだぜ」 「結構よ、うちへぐらい一人で帰れるわ。あんたなんかに送ってもらうと思ってるの ? 思ってる んなら、あんた、よっぱどどうかしてるわ。男の子にあんなことを言われるなんて、あたしは生まれ て始めてなんですからね」 考えてみると、何もかもが、なんとなくおかしかったな、ある意味で。それで僕は、突然、やっち ゃいけないことをやっちゃったんだよ。つまり、笑っちまったんだ。しかも僕の笑い声というのが、 」あ・ほ - っ 阿呆みたいにでつかいんだな。たとえば、映画館なんかで僕の後ろに坐ってたりしたら、僕だって身 体を乗り出して、静かにしてくれませんかって、言うだろうと思うような笑い声なんだ。それでサリ ーの奴は、ますます力ンカンになっちまってさ。 それからも僕はしばらく、あやまったりなんかして、ゆるしてもらおうとしたけど、彼女は承知し ないんだよ。自分のことなんかをほっといて出て行ってくれって、そう言うばかしなんだ。そこで僕 しまいには言われる通りにしたよ。中に入って靴ゃなんかをとってきて、彼女を残し も仕方がない。 て外へ出たんだ。そんなことはすべきしゃなかったけど、そのときは僕も、もうすっかりうんざりし ちまっててね。 実を言うと、どうして彼女を相手にあんなことを言いだしたのか、自分でもよくわかんないんだ。 から

4. ライ麦畑でつかまえて

話をしながら、子供はほったらかしで歩いて行くんだ。その子供がすてきだったんだよ。歩道の上し ゃなくて、車道を歩いてるんだ。縁石のすぐそばのとこだけどね。子供はよくやるけど、その子もま っすぐに直線の上でも歩いて行くような歩き方をしてんだな。そして歩きながら、ところどころにハ ミングを入れて歌を歌ってるんだ。僕は何を歌ってんだろうと思ってそばへ寄って行った。歌ってる のは、あの「ライ麦畑でつかまえて」っていう、あの歌なんだ。声もきれいなかわいい声だったね。 べつにわけがあって歌ってんしゃないんだな。ただ、 歌ってるんだ。車はビュンビュン通る。キュ ッキューツとプレーキのかかる音が響く。親たちは子供に目もくれない。そして子供は「ライ麦畑で つかまえて」って歌いながら、縁石のすぐそばを歩いて行く。見ていて僕は胸が霽れるような気がし たな。沈みこんでた気持が明るくなったね。 プロードウェイは人ごみでごった返してた。日曜日で、まだ十二時頃だというのに、たいへんな人 出なんだ。みんな映画を見に、パラマウントとか、アスターとか、ストランドとか、キャビトルとか、 あんないかれた劇場へ行く連中なんだ。日曜日だというんで、どいつもこいつもめかしこんでるもん だから、なおいけない。 しかし、一番いけないのは、みんなが映画を見に行きたいという気持を丸出 しにしてたことさ。見るに堪えなかったね、僕は。他にすることがないから映画を見に行くというん なら僕にだってわかるよ。しかし、積極的に映画を見たいと思ったり、 早く映画館へ行こうとして足 ゅううつ まで急ぎ足になるなんてことになると、僕はすごく憂鬱になっちまうんだ。ことに、何百万っていう 人たちが、一プロック全体にもわたる長い長い列をつくって、ものすごい忍耐力を発揮しながら、座

5. ライ麦畑でつかまえて

いうことをみんなやる時間がたつぶりあるわ。大学やなんかへ行った後だってよ。あたしたちがかり に結婚なんかするとすれば。すばらしい所へいつばい行けるわよ。あんたはただ 「いや、違うねえ。いろんなとこへなんかぜんぜん行けやしないねえ。全くようすが違っちまうよー そう僕は言った。そして、また、すごく気が滅入ってきた。 「なんて言ったの ? 」と彼女は言った。「聞こえないわよ。あなたったら、ギャアギャアわめくみた いに言うかと思うと、今度はーー」 「いや、大学やなんかへ行ったりした後では、すばらしいとこへなんか行けやしないって言ったの さ。よく耳をあけて聞いてくれよ。すっかりようすが変わっちまうぜ。僕たちは、旅行カバンやなん かを持って、エレベーターで下へおりるってなことになるさ。みんなにいちいち電話をかけてさ、さ よならを言って、行くさきざきのホテルやなんかから絵葉書を出さなきゃなんないだろう。僕はどっ かの会社に勤めて、どっさり金をもうけて、タクシーや . マジソン街のバスで会社に通ったり、新聞を 読んだり、しよっちゅうプリッジをやったり、映画に行ったり、くだんない短編映画や近日上映の予 告篇やニュース映画を見たりするわけだ。ニュース映画ってのがまたオドロキだからな。いつだって びん ばかばかしい競馬だの、名流婦人が進水する船に瓶をぶつけるとこだの、チン。ハンジーが。ハンツをは いて自転車に乗るとこだの、そんなのばっかしなんだから。ぜんぜん変わっちまうよ。僕の言う意味 が君にはてんでわかってないんだな」 「そうかもしれないわね ! 同時にあんたにもわかってないんしゃない ? 」サリーはそう言った。

6. ライ麦畑でつかまえて

てただけさ。しばらくたって、僕とプロッサードとアクリーと三人、バスに乗ったときも、まだ僕は そいつを持ってたんだ。運転手がドアをあけて、僕にそいつをすてさせやがった。僕はひとにぶつけ るんしゃないって、そう教えてやったんだが、信用しないんだな。大人ってのは絶対ひとを信用しな いものなんだ。 プロッサードとアク リーは、そのときやってた映画を二人とも前に見てたもんだから、僕たちはど うしたかっていうと 、ハンバーガーを二つばかし食って、しばらくピンポールをやって、それからバ スでペンシーへ戻って来ただけだ。とにかく、僕は、その映画を見なくたって平気だった。ケアリ グラントが出る喜劇とかなんとか、そういうものだったけどさ。それに僕は、前にもフロッサードや アクリーといっしょに映画を見に行ったことがあるんだが、二人とも、おかしくもなんともないとこ で、ハイエナみたいに笑うんだな。あいつらと並んで映画を見るのは感心しないんだ。 寮に戻ったのは、まだ、九時十五分前頃なんだ。プロッサードの奴は、プー 丿ッジ気違いなもんだか ら、寮中をまわって相手を捜しにかかったね。アクリーの野郎は、気分転換のつもりで、僕の部屋に 尻を落ちつけてしまいやがった。ただ、今度は、ストラドレーターの椅子のアームに腰かける代りに、 僕のべ ッドに寝っころがったね。僕の枕ゃなんかにべったり顔をくつつけてさ。そうして、単調きわ まる声でしゃべりだすんだな、ニキビをあちこちほじくりながら。僕はそれとなしに千回ぐらいも注 意したんだけど、奴をどかすことはできなかった。奴はどうしたかっていうと、その単調きわまる声 で、前の年の夏、性的交渉を持ったと称する女の子のことをしゃべるんだよ。その話は、僕は、百回 しり おとな

7. ライ麦畑でつかまえて

はしないかってきくんだもの。映画の最中によ。なんか大事なとこへ来ると、いつも、あたしにのし かかるように身体をのばして、寒けはしょ オいかってアリスにきくの。あたし、いらいらしちゃった」 それから僕はレコードのことを話したんだ。「あのね、君にレコードを一枚買ってあげたんだよ」 そう僕は言った。「ただね、うちへ来る途中で、そいつをこわしちゃったんだ」そう言って、僕は、 例のかけらをオー ーのポケットから取り出して彼女に見せたんだ。「酔っ払ってたんでね」 「そのかけらをちょうだい」と、彼女は言った。「あたし、しまっておくわーそう言って彼女は僕の 手からそのかけらを受け取ると、それをナイト・テープルの引き出しの中にしまったんだ。彼女には 僕も参るんだな。 「・はクリスマスに帰るのかい ? 」僕はそう言った。 「帰るかもしれないし、帰らないかもしれないって、ママは言ってたわ。そのとき次第ですって。 アナポリス ハリウッドに残って、海軍兵学校の映画を書かなきゃならないかもしれないの」 「アナポリスの映画だって ! 」 「恋愛物語やなんかなの。誰が出るかあててごらんなさい。なんていうスターか ? あててみて 「興味ないね。アナポリスだなんて。いったい、アナポリスのことなんか、・は何を知ってる っていうんだい ? アナポリスが・の書くような短編とどんな関係がある ? 」僕はそう言った。 いやあ、こういうことを聞かされると僕は頭に来ちゃうんだな。ハリウッドのチキショウメ。「君、 からだ 254

8. ライ麦畑でつかまえて

つばっちも気にかけやしないということを彼女に納得させるのに、えらい時間がかかったよ。たとえ 居間の中でや 0 た 0 て、僕はかまわない 0 てね。とにかく、そのことがあ 0 た後で、彼女と僕は友だ肥 ちゃなんかになったんだ。その同し日の午後には、彼女とゴルフをやったけどね、彼女がポールを八 つなくしたのを今でも覚えてる。八つだぜ。彼女に、ポールを打っときに、せめて目だけはあけてる ようにさせるのに、えらく時間がかかったな。でも、僕のおかげで彼女はとてもうまくなった。僕は ゴルフの腕は優秀なんだ。何ショットで一周するか言ったら、おそらく信してもらえないだろう。一 いよいよというときになって気が変わっ 度もう少しで短編映画に出そうになったことがあったけど、 てね。僕ぐらい映画のきらいな人間でありながら、平気で短編映画に出るなんてインチキだと、そう 思ったんだ。 彼女はおかしな子だったよ、ジェーンって奴は。厳密な意味では美人といえないと思うけどね、で もイカしたな。彼女のロは、いわば多角的な口っていうかな、つまり話をしてるときに、なんかで興 奮すると、ロが、唇から何から、五十くらいもの方向に動くんだよ。これには僕も参ったね。そして それをびったり閉してることはないんだな。それをつて、ロをだぜ。いつも、ちょっとばかし開いて んだ。特にゴルフでスタンスをとったときとか、本を読んでるときとかはなおさらね。本ていえば、 彼女はいつも何かを読んでたな。しかも、とても良い本を読んでるんだ。詩とかなんかをどっさりね。 僕が、アリーの野球のミットを、そこに書いてある詩から何からそっくり見せてやったのは、うちの 者たちを除けば、彼女だけだった。彼女はアリーに会ったりなんかしたことはないんだけどね。彼女

9. ライ麦畑でつかまえて

ところかまわず , ーー目や、鼻や、額や、眉毛ゃーーー顔一面、耳にまでも、接吻し 彼女にいつばい 彼女には、なんかこう、僕を口に近づけないとこ てたんだ。ただ、ロやなんかにだけはしなかった。 , があったんだよ。とにかく、僕たちが抱擁に一番近いとこまで行ったのは、こんなだったのさ。しば らくすると、彼女は立ち上がって家の中へ入って行くと、赤と白のセーターを着て来た。それがまた イカシたけど、それから二人で映画に行ったんだ。途中で僕は、カダヒさんがーー・カダヒってのがあ なんか彼女にへんなまねでもしたのかって、きいたんだ。彼女は の飲んだくれの名前なんだけど からだ まだ若いけど、すごく、 、い身体をしてたから、あのカダヒの野郎だったらあやしいもんだと思ったの さ。でも彼女は違うと言った。僕には何がどうしたのかわからずしまいだったな。女の子の中には、 どうしたのかこっちでたしかめようのないのがいるもんだよ。 僕たちが一度もいちゃっいたり、きわどいことをしたりしなかったからといって、彼女のことを氷 の女とかなんとか、そんなふうには考えてもらいたくないね。事実、違うんだから。たとえば僕は、 彼女とはいつだって手をつないでたんだ。手をつなぐぐらい、なんでもないように聞こえるだろうさ。 ところが彼女は、手をつなぐのにすばらしい相手なんだ。たいていの女の子は、手を握り合うと、そ の手が死んでしまう。さもなきや、まるでこっちを退屈さしちゃいけないとでも思ってるみたいに、 しよっちゅうその手を動かしてなきゃいけないように考える。ジェーンは違うんだ。映画館やなんか に入ると、さっそく僕たちは手を握り合う。そして映画が終わるまで放さないんだけど、それでいて、る 姿勢を変えたりとかなんとか、大騒ぎするわけしゃないんだ。相手がジェーンだと、こっちの手が汗 まゆげ

10. ライ麦畑でつかまえて

「どうしてそんなことをしたのかしら ? 」 「眠れなかったからよ 「そんなこと、ママはいやですよ、フィービ ー。ほんとにいやよーとおふくろが言った。「もう一枚 毛布をあげましようか ? 」 「これでいいわ。おやすみなさい ! 」フィービーの奴、早くおふくろを追っ払いたがってるんだよ。 「映画はどうだったの ? 」とおふくろが言った。 からだ 「とてもよかった。ただ、アリスのママがね。映画の間しゅう、身体をのり出して、寒けはしな、 かってきくんだもの。あたしたち、タクシーでうちへ帰ったのよ」 「ちょっと額にさわらせてね」 「あたし、病気なんかうつって来ないわ。アリスだって風邪もなにもひいてなかったんですもの。 アリスのママだけなのよ 「そう。しや、もうおやすみなさい。お食事はどうだったの ? 」 「最低」 「またそんな言葉 ! お父さまがなんて言ってらしたか、おばえてるでしよう ? 何が《最低》だ ったのよ ? おいしいラム・チャップだったでしよう。ママがわざわざレキシントン街をずっと捜し て 「ラム・チャップはいいんだけど、チャー丿 ーンが、何かを置くたんびに、あたしに息をかけるんだ 276