地域住民 - みる会図書館


検索対象: (財)日本自然保護協会資料集第35 NACS-J エコツーリズム・ガイドライン
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1. (財)日本自然保護協会資料集第35 NACS-J エコツーリズム・ガイドライン

いては第 1 表を参照のこと ) 。各種の保護 地域間の相違点は、管理目的の違いにある。 すなわち、地域住民に便宜を提供するよう 計画された範囲の違いにある。本書におい て、「国立公園」と「保護地域」という用 語は互換性のある形で使用しており、国際 的に認められたある種の保護状態にあると ともに、ある程度の見学や観光が認められ ている自然地域を意味する。 (iii) 本稿の目的 9 . 環境保護における観光の役割に関 する一般論文は ( 1 9 8 3 年に ) WTO が 作成し、観光と環境に関する共同宣言につ いては、 U N E P とともに署名している。 これら 2 種類の文書の中において、また国 立公園と保護地域におけるより適切な観光 開発を奨励する中で、 WTO と UNEP は 下記の諸点に取り組むガイドラインを作成 するため、 IUCN と契約を交わした。 ー保護地域内やその周辺に住む地域住民が より一層社会的・経済的便益を観光から 取得できるよう、これら住民を包含した 方法や手段 ーそれぞれの国立公園について、どの程度 の観光が適切であるかということに関す る決定 ーそれぞれの地域における自然資産の管理 方法の改善 ー国立公園における適正な観光基盤の設計 ー訪問者に対するよりよい教育・解説サー ビスの提供 ー国立公園の価値について来訪者が今まで 以上に評価できる体制の推進 ー国立公園における観光活動が国立公園に 対する自己資金調達機構としていかに役 立っか、また自然保護の手段としていか に役立つかという点の確認 (iv) 本稿の対象 1 0 . 以下に述べるガイドラインは第 一義的には、発展途上国の国立公園や保護 地域を対象としたものであり、これらの国 々における国立公園・保護地域管理計画の 作成改正の一助となることを願うものであ る。 第 1 表保護地域の分類と管理目標 すべての保護地域では、人間の占拠と資 源の利用をある程度管理している一方で、 管理の程度にかなりの許容差がある。保護 地域において許容されている人間による使 用の度合を上から順に並べると次のように 分類できる。※ を持つ国内的に重要な自然地物を保護 特に重要であったり、ユニークな特徴 Ⅲ . 天然記念物 / 自然ランドマーク 相対的に広い。 目的の搾取的利用が禁じられていて、 大きな変化が加えられておらず、商業 これらの自然地域は人間の活動による レクリエーション用に保護する地域。 自然地区や風致地区を、学術・教育・ 国内的あるいは国際的に重要で優れた Ⅱ . 国立公園 自然のプロセスを維持する地域。 間に荒されない状態で自然を保護し、 っ進化的状況において維持するなど人 例を保持する、また遺伝資源を動的か 育に活用する自然環境の生態学的典型 学術研究、環境モニタリング、環境教 I . 学術自然保護区 / 厳正自然保護区

2. (財)日本自然保護協会資料集第35 NACS-J エコツーリズム・ガイドライン

容力の上限値の設定が必要である。この 上限値は、当該地域の脆弱さや予想され る観光客の活動によって変動することに なる。 受益者、依存度、規模の三者間にバラ ンスを求める場合、大量観光の推進によ ってもたらされる地域社会構造に対する 影響に常に充分なウェートを与えるべき である。このような影響としては、観光 客の考え方やライフスタイルを知ったた めに地域住民の消費パターンや行動パタ ーンに変化をもたらすような影響も含ま れる。開発業者は投機によって急速な発 展や地価の高騰から短期間に利益を得よ うとし、また観光が一時的なものである という可能性についてもそれほど心配し ないが、地域住民について、このような 開発業者が行う意志決定などの悪影響に さらされないよう保護対策を講ずるべき である ー源泉どのような観光源に優先権を与 えるべきであろうか。考えられる候補と しては : ①主として地域住民 ( 経済的規模はやや小 さいが、供給源としては安定していると いう考え方が成り立っ ) ②主として外国人 ( 経済的利益は、特に外 国為替の点で大きいが、供給源としては 不確実性が伴う ) のふたつが挙げられる。 主として外国市場に目を向けようとする のであれば、外国市場の特定の分野を選 定する必要があり、開発行為もその分野 の関心に目を向けるよう設計する必要か ある。 ( この市場の候補としては、日本 の定年退職者からオーストラリアのバッ クパッカーまでさまざまである ) ように、多様な文化を持った人びとを引き 国際観光はその定義から分かる 5 2 . つけるものである。地域の観光資源の内容 や観光開発に対する評価はレクリエーショ ンに対する多様な選好性を考慮に入れるよ う努めるべきである。したがって、観光客 用施設のレイアウトやデザインについては、 いろいろな文化 ( あるいは各文化の中のい ろいろなグループ ) を背負った観光客の旅 行の選好性も考慮に入れるべきである。観 光客用ゾーンが大きければ、いろいろな種 類の宿泊施設などによって広範囲の興味を 満足させることができる。長期間にわたる 安定性を確保するためには、最小限地域住 民のサポートを引き出すことが必要であり、 そのためにはあらゆる観光プロジェクトに ついて隣接地域に対する便益を最大限確保 すべきである。 5 3 . ステップ 4 : 観光を地域の方針 に合わせる 開発の対象となる島や海岸地帯で進めら れている他の土地利用活動との相互作用の ために、観光の計画立案や推進は最高位の 政府レベルで実行すべきであり、健全な生 態系の原則を踏まえた総合資源管理計画の 一部をなすものと考えるべきである。 5 4 . 国立公園はすべて当該地域の全 体的な土地利用計画に組み込むべきである。 同様に、ある特定の国立公園内部における 特定の観光開発行為も、その地域やもっと 広くその地域全体の土地利用計画と調和の とれたものであるべきである。地域総合土 地利用計画では、観光客用ゾーンにおける 観光開発行為が地域にもたらす経済的利益 を考慮に入れるべきである。これら経済的 利益は観光客ゾーンの魅力に有害な影響を 及ばすおそれのあるゾーン外の開発行為と バランスがとれたものであるべきである。 観光部門の拡張計画がある場合には、公共 サービスを同等に拡充することが絶対条件

3. (財)日本自然保護協会資料集第35 NACS-J エコツーリズム・ガイドライン

4 . ェコツーリズムから、保護地域の管理に必要な資金を還元させるしくみをつ くる。 工コツーリズムによってもたらされる利益は、保護地域の管理のために還元さ れて有効に使われなければならない。利益還元の行き先は、保護地域の管理主 体と地元住民の二者である ( 現状では、旅行会社、交通機関、宿泊施設などに 利益が配分され、自然と文化を守ってきた管理主体と地域住民にはゴミ処理等 の負の利益ばかりが配分されている ) 保護地域の管理主体は多くの場合政府機関であるが、 NGO が保護管理に大き く関与していることもある。利益の還元先は必ずしも政府機関である必要はな く、実質的に保護地域を保護・管理している主体に資金として提供されること が大切である。管理当局がエコツーリズムから管理資金を得る方法として諸外 国では①保護地域への入園料の徴収、②施設使用料の徴収、③特許料の徴収、 ④土地使用料の徴収などさまざまな方法をとっているが、利益還元の経験の浅 いわが国でこれを導入する際には、利用者の理解を深めつつ進める必要がある。 5 . 環境教育施設の整備と活用を適切に行う。 保護地域内には環境教育のさまざまな施設が設けられるべきである。ただし、 施設そのものが環境破壊を引き起こさないような配慮を十分に払うことが必要 である。環境教育施設とは、保護地域を訪れるビジターと自然とをうまく接触 させるための装置である。施設にはビジターセンター ( ネイチャーセンター ) ネイチャートレイルなどがある。工コツアーによる来訪者はこうした施設を利 用することによって、自然への影響を最小限に抑えながら自然を理解すること ができる。 日本の国立公園などでは、ビジターセンターが設けられていても、自然解説を 担当するレンジャーが常駐していなかったり、ビジターのためのプログラムが 用意されていない所がある。環境教育施設はソフトを伴ってはじめて機能する ものであり、その管理・運営にはハードウェアの建設以上に力点がおかれるべ きである。 6 . 保護地域の自然や環境教育に関する情報提供を積極的に行う。 保護地域の管理当局は、現地に常駐するレンジャーなどによってその地域の自 然についての最新情報を収集できる立場にある。集められた情報は保護地域の 管理に役立てられるとともに、利用者に対しても提供されるべきである。とく にエコツアー企画者やツアーコンダクターはこうした情報によって、より的確 な企画を立てたり、最新の情報に基づく自然解説を行うことが可能になる。ま た、地域内の危険箇所や危険な野生生物、気象など利用者の安全に役立つ情報 も合わせて提供されるべきである。 こうした情報は、利用者に分かり易いやすい形で提供されなければならない。 掲示板などによる掲示、コンパクトな冊子や自然情報地図などの刊行物、ある いはパソコン通信などの手段を通して提供されることが望ましい。

4. (財)日本自然保護協会資料集第35 NACS-J エコツーリズム・ガイドライン

10. 工コツーリズムを保護地域の利用計画の中心に位置づける。 従来、保護地域ではその自然の中でなくてはできないような特別な利用のしか たではなく、物見遊山的な観光旅行や保護地域内で行われる必然性のないゴル フやゲレンデ・スキーなどレジャー・スポーツ的な利用が盛んに行われてきた。 とくに日本の自然公園ではこの傾向が顕著である。これは保護地域の制度面で の弱さや管理当局の方針にも原因があったが、レジャー的な利用に疑問を抱か ない利用者にも責任の半分はあるだろう。近年では、従来のこうした利用のあ り方に対する反省もなされ、レジャー施設の抑制も行われているが、リゾート 法に基づく画一的な開発など相変わらず問題があることも否めない ( 注 3 ) 今後は、エコツアーのように、その場所に特有の自然や文化を楽しむ形での利 用が盛んになり、そうでない形の利用は抑制されることが求められる。そのた めにはまず管理当局自らが、エコツーリズム型の利用を利用計画の中心に位置 づけ、施設の整備やソフトの充実をそれに合わせて行うべきである。さまざま な利用の混在を許容することは、結局レジャー性の強い利用によってエコツー リズムが阻害されることにもなる。「特別な場所では特別な楽しみ方」という 意識の徹底を図るとともに、その楽しみ方の開発には努力を惜しまない姿勢が 必要である。 11. 工コツーリズムによる地域振興を推進する。 地元住民は、エコツーリズムが地域に利益をもたらすことを実感することによ って、自然保護が自分達に直接的にプラスであることを知ることができる。ェ コツーリズムの受け入れによって生じる交通サービス、宿泊サービスなどのサ ービス業は外部資本ではなく、地元の産業となるべきである。管理当局が地元 資本によるサービス業に特別な許可を与えるのも、地元への利益還元システム の一つの方法である。また、地元住民を保護地域関連の公共部門で優先的に雇 用することも地元への利益還元につながる。自然保護からエコツーリズムによ る地域振興という図式ができあがれば、他の地域の保護地域設立にもよい影響 が期待できる。 12. 工コツーリズムのモデル事業を実施し、自然への影響、地域への経済効果な どをモニタリングし、将来的なエコツーリズム推進にフィードバックする。 以上述べてきたことは、その一部が実現している保護地域もあるが、大部分は まだ実現していない。理屈の上ではわかっていても現実に見える形にならない と世の中に広がってゆくのは難しいものである。そこで、モデル事業の実施は 工コツーリズムの普及を図る上で大切なステップになると思われる。管理当局、 地元自治体、 N G O 、民間企業などが協力してエコツーリズムのモデル地域を 選定し、ここで示されたガイドラインにできるだけ沿って事業を実施してみる ことが望まれる。事業の過程は詳しく記録、分析した上で、より好ましいエコ ツーリズムの実現のためにフィードバックされるべきである 。こうしたエコツ ーリズムの実験は日本国内と海外の両方で考えられるが、国内については、保

5. (財)日本自然保護協会資料集第35 NACS-J エコツーリズム・ガイドライン

観光は、環境を汚すことなくその回復を可 能にするものである。 1 7 . 特に発展途上国において、エコ ツーリズムが政府計画の中で高い優先順位 を与えられている場合には、観光活動に地 域住民を効果的に参入させるべく、相当の 努力を払わなければならない。保護地域に 隣接して居住している人びとは、有効な経 済的選択権をほとんどもたない低所得層で あるのが普通である。このような人びとの 福祉は、その環境がどの程度自然度を維持 していけるか否かに依存している。工コツ ーリズムはこのような人びとに有効な経済 的代替策を提供することができるとともに、 彼らをこの自然地域のもっともすぐれた管 トール・セバリョス・ラスクライン ( 写真 b ) 撮影 : ジェフリー・ A ・マクニーリ ( 写真 a ) 、工ク ャー・ガイドに育成することも可能である。 保護区のガウチョ ( 写真 b ) のような、有能なネイチ ウルグアイのケプラーダ・デ・ロス・クエルポス自然 シェルバ ( 写真 a ) や る程度の教育訓練で ) ネパールのチトワン国立公園の 伝統的知識を顕著に保有していることが多いので ( あ 地元住民はその地域の自然的特徴に関する実践的、 理人兼保護者にすることができるという利 点まで得られるのである。 地元住民は、その地域の ( 風景、植物相、 動物相などの ) 注目に値する自然的特徴に 関する実践的、伝統的知識を保有している ことが多いので、 ( ある程度の教育訓練で ) 有能なネイチャーガイドに育成することも 可能である。また、ホテル、レストラン、 その他観光施設の運営に伴う経済活動に直 接従事することも可能である。経営管理に 関する訓練を適正に受ければ、多くの場合、 地域社会組織は、観光施設の特許権保有者 となることも可能である ( セバリョス・ラ スクライン、 1 9 9 0 年 ) 。 I . 3 特許制度 1 8 . 特に発展途上国における保護地 域管理当局では、その保護地域における観 光活動の効果的な管理開発に必要な技術的 ・経済的・組織的資源に欠けているのが普 通である。この場合、公園当局が特定の観 光活動について、個人、企業、地域社会な どに特許を与える方が適切な場合がほとん どである。そのような観光活動には、たと

6. (財)日本自然保護協会資料集第35 NACS-J エコツーリズム・ガイドライン

0 しかしながら、エコツーリズム先進国のケの四つのグループに分かれて議論を行った。 0 ゅ地球サミットにむけて カラカスからのメッセージその② まず、エコツーリズムという語があまりに ニヤのガカフ氏は、マサイマラ国立公園の例 をあげ、旅行者が野生動物や植生に与える影もファショナプルになりすぎて、単なる自然 エコツースムは 響を少なくするために宿舎は公園の外にある旅行・冒険旅行というものまでエコッ 1 リズ が影響は避けられず、長期間のモニタリングムと呼ばれ始めており、ことばの定義をもっ 開発途上国の保護 と厳密にすべきだという主張が出た。 が必要であると強調した。 地域を救えるか ? 一方で、エコツーリズムを厳密に考えるの また、コスタリカの—・ワレス氏は、住民 はよいが、一般的な観光のありかたを変える への文化的影響を避けるため、宿泊施設を村 吉田正人 の外に置いているミクロネシアの例と、住民ことを考えなければ、保護地域を守れないの 開発途上国の保護地域を救うため、エコがロッジの経営や宿泊人数の制限に参加してではないかという懸念も表明された。 ツーリズムが注目されている。先月号で報告いるタラマンカ国立公園の例を比較して、住またベネズエラの参加者からは、エコツー リズムから利益を得るのはだれか、実際には したとおり、ベネズエラのカラカスで一一月に民参加地元に利益をもたらす点を強調した。 開催された第四回世界国立公園保護地域会議私はまず、自然観察指導員の養成、自然解多国籍企業ではないのか、住民が利益を得る では、エコツーリズムについてのワーク説員の派遣、ネイチャーイン、ゼニガタアザのははたして良いことなのか、伝統的な文化 ラシウォッチングッアーなど、が壊され、観光依存型の経済になってしまう ショップが行われた。 の活動を紹介。エコツーリズムの定義として、のではないかなどの疑問が出された。観光依 世界中で行われているエコツーリズム まず、国際自然保護連合 (— z) のラ①すぐれた指導者が案内する旅行であること存型経済になれば、住民が利用者を制限でき スクライン氏は基調講演でエコツーリズム②自然とともに生きる人々の生活から学ぶ旅なくなるのではないかという意見もあった。 その結果、先進国の参加者がエコツーリズ ( 佇であること を、「自然への影響を最小限にした旅行。地 域住民に利益をもたらす旅行。自然を敬い自 3 地域住民が上からの開発ではなく内発的発ムを保護地域を守るための方法 ( エコロジー ) と定義し、いかに観光開発や旅行者を管理制 展を実現できること 然を観察し、自然から学ぶ旅行」と定義した。 限するかが問題であると考えているのに対し の三つを加えることを提案。 つづいて米国・エコツーリズム協会のウッ さらにエコツーリズム推進のために、国際て、開発途上国の参加者は、保護地域を持続 ド女史は、エコツーリズムを実現するために は、エコツーリズムが何たるかの規定、実施の的な行動計画の策定、指導者養成プログラム的に利用するための方法 ( エコノミー ) と考 えていることが浮き彫りになった。 ためのガイドライン、指導や管理にあたる人の開発、指導者とネイチャーインの国際ネッ あるベネズエラのジャーナリストが、 材の養成、計画の評価とモニタリング、地域住トワーク作りを提一言した。 「エコツーリズムはわが国に利益をもたらす エコツーリズムへの疑問 民の参加が不可欠であると問題提起した。 このあとエコツーリズムの具体例、計画と 一一月一八、一九日は、エコツーリズム協会のものと単純に考えていたが、今日の話を聞い て逆に問題を背負い込むことになるかもしれ 管理、住民参加と利益還元、教育と解説など主催でトレーニングセッションが開かれた。 ここには実際にエコツーリズムにたずさわないと思った」 のテーマで発表が行われた。 護 る人々が参加し、エコツーリズムの定義、具と話していたのが印象的であった。 土地がらラテンアメリカ地域の例が多く、 ( よしだまさひと・総務部長 ) 保護地域への利益還元の期待が感じられた。体的な試み、住民参加と利益、私企業の役割

7. (財)日本自然保護協会資料集第35 NACS-J エコツーリズム・ガイドライン

深刻な変化が見込まれる場合には、便益 と費用の評価を入念に行うべきである。 美的価値が非常に高い地物は、既存のあ るいはこれから発展が見込まれる観光産 業にとって重要なものであることが多い ので、近隣に国立公園を設置したり管理 改善のための正当な理由となるであろう。 海岸のハビタートにおいてもっとも重要 なサンゴ礁の生態系には、マリンパーク のような特別の地位を与え、監視と法的 な保護を実施すべきである。 5 0 . ステップ 3 : 目的の決定 国立公園当局は、直接的な利害関係者と の話し合いと交渉を通じて、各観光ゾーン における詳細で適切な目標を決定すべきで ある。 目的の決定は、観光客用ゾーン にはどのような種類の観光施設が適切であ るかを判定する上でもっとも重要なもので ある。すなわち、その他の事柄はこの目的 の決定次第で決まることになるからである。 目的が明示されていない場合、その意味す るところが完全に把握されないことがある ため、当事者によって受け止め方が異なる ことがある。したがって、目的を明確に示 し、また意志決定に際しては、広範囲の関 係当事者の間で充分討議を重ねた上でしか るべきレベルにおいて最終決定すべきであ る。そして、少なくとも次の各タイプ別の 目的について考察すべきである。 ー受益者だれが一次受益者であるべき か ? その候補者としては : ①地域住民 ( 彼らにこそ最優先権を与える べきである ) ②外国投資家 ( すなわち、金額はともかく 外部から資金を導入した人びと ) ③観光客担当機関 ④国内の他の地域 ( たとえば、首都など ) からの投資家などが挙げられる。推進す べき開発の種類は受益者がだれかという ことによって大きく変わる。しかし一次 受益者が観光資源にもっとも依存するよ うになることもありえる。 ー依存度国立公園当局には制御できな い要素がたくさんあり、観光客の供給は 不確定なものであるということを認識し た上で、当該地域はどの程度まで観光に 依存すべきだろうか。それに対する回答 の選択肢としては : ①観光がその地方の経済の中心となり、地 域住民を最大限に関与させるべきである ②観光は地域住民にとって有用な補助手段 となるべきでだが、地域住民は主に ( た とえば、農業や漁業などの ) 伝統的な生 活様式に依存すべきである ③地域住民は観光開発への関与を最小限に とどめるべきであり、その代わりに、遠 隔地にある都市部から仕事を調達すべき である ( この回答は、例えばアマゾンの 保護地に見られるように、観光客との接 触によって地域の文化が大幅に破壊され るおそれがあると政府が判断する場合な どに考慮の対象となる ) 。これら 3 種類 の回答の社会的・経済的・環境的な影響 はそれぞれ大きく異なる ー規模受益者と依存度の問題をある程 度踏まえた上で、どの程度の規模の観光 を推進すべきか ? また、どのようなレベ ルに達したときに観光の発展を制限すべ きか、またそれはどのように行うかとい う点について明確な説明をするべきであ り、これは観光客用ゾーンにおける計画 にとって不可欠な特徴として含めるべき である。小さな島や海岸の居住地におけ る生活の質を維持するためには、環境収

8. (財)日本自然保護協会資料集第35 NACS-J エコツーリズム・ガイドライン

注 1 ) N A C S ー J のエコツーリズム定義は、 N A C S ー J の名称および出典を 明記することを条件に、著者に断わりなく自由に引用することができます。 注 2 ) 第 1 回東アジア国立公園保護地域会議でのエコツーリズムの定義 : " 環境に配慮した旅行の推進または旅行者が生態系や地方文化に対する著しい 悪影響を及ばすことなく自然および文化地域を訪れ、理解し、鑑賞し、楽しむこ とができるよう施設および環境教育を提供すること " "The promotion Of environmentally sensitive D I F I N I T I ON OF E COTOUR I SM : tourism and the provision Of facilities and environmental that tourist will visit, understand and appreciate and enjOY natural and cultural areas without causing unacceptable impacts or damage tO their ecosystems or tO local culture 生態旅遊的定義 : ・・提供美好的旅遊環境 , 適当的設備和環境教育 ; 因而使旅客暦 到 , 了解 , 感受和欣賞此自然環境与文化区域 , 並且在此生態環境与当地的文化中 不受到不当的影向或者破壊 " ( 第 1 回東アジア国立公園保護地域会議 / 1 9 9 3 年 9 月、中国・北京 ) 注 3 ) 工コツーリズムにおける各分野の役割 マスツーリズム 気晴しを目的とした団体旅行 自然破壊、地域文化への悪影響 自然や文化に配慮を欠くガイド 自然を破壊する大規模な施設 自然や地域からの利益収奪 工コツーリム 保護地域や住民への利益還元 自然への悪影響をさけた施設 環境倫理を身につけたガイド 自然保護、地域文化への敬意 自然や文化を訪ねる小人数の旅 工コツーリストとしての自覚を持つ 自然と地域文化への敬意 生態系の一員としてふるまう 地域の伝統、経済に悪影響を与えない 環境愉理を身につけたガイドになる 自然と地域文化の理解と解説 自然へのローインパクトの指導 地域文化との摩擦を防く方法の指導 工コツーリズムのデザイナーとしての責任 自然と地域文化に配慮した旅行デザイン 旅行者、ガイド、地域のコーディネート 保護地域あるいは地域への利益の還元 自然と地域文化への誇りを持つ 自然の収容力、環境への影響に配慮した施設 旅行者および住民に対する環境教育の提供 保護地域や住民に対する利益速元のシステム 旅行者の役割 ( 1 コツーリスト ) ガイドの役割 ( ツアーオへ・トタ - ) 送り手の役割 ( 旅行会社 ) 受け手の役割 ( 自然公園、 宿泊施設 etc ) 6

9. (財)日本自然保護協会資料集第35 NACS-J エコツーリズム・ガイドライン

第 5 章 国立公園における観光施設開発に関する ガイドライン V. 1 立地計画 8 3 . 包括的管理計画の立案に加えて、 経済基盤開発のための立地計画も存在する。 観光施設、公園施設の開発に関するガイド ラインについて以下に詳しく述べる。 一人工の建造物は自然の生態系との干渉を 可能な限り少なくすべきである。悪い立 地の一例を挙げると、河川の流れをさえ ぎる形で建設したため、丘の斜面の侵食 を引き起こした道路、野生生物に警戒心 を与え、水源地から追い出すきっかけを っくった建造物、自然水系の汚染を引き 起こした生活排水路などがある。 ー建造物は可能な限り地味にすべきである。 周囲の自然環境から浮いたり、地域に備 わっている自然の価値を損なうものであ ってはならない。しかも、地元で産出す る石、木材、竹材、焼きレンガなどの資 材を活用すべきである。アスベストの内 壁材やコンクリートプロックのような外 部から取り寄せた資材や、けばけばしい 配色などは避ける。建造物は地域独自の スタイルで、周囲の環境にとけ込むもの であるべきである。可能であれば、建造 物は天然の岩陰や樹木の陰に隠れるよう 配慮する。観光客用ロッジを見晴らしの よい尾根に立地するとすれば、逆にそれ 自体がいろいろな場所から見えることに なる。これに対し、地平線から浮き出さ ない平屋建てで、色調も落ちついたロッ ジであれば、はるかに目立たなくなる。 ( ケニアのマサイマラ保護区のセレーナ ロッジはその好例である。 ) べリーズの シャンシックロッジも地元の資材と建築 様式を取り人れ、周囲の景観と調和のと れたよい例である。 ー建造物の適正立地は機能面の配慮がある か否かによるものであり、戦略面だけを 考慮しても充分ではない。たとえば道路 もなければ、飲料水も手に入らないとす れば、監視員はその場所に住み込むこと ができないだろう。このような配慮は一 見明白なことのように見える。しかし現 実には、人間の住んでいない、あるいは 住むこともできないような監視ポイント や、周辺に監視すべきものもない監視塔 などに資金を浪費している例はたくさん ある。 ー建造物の立地の決定に先立ち、利用者の 到達可能性や流れについて少々考えるべ きである。国立公園本部の行政部門や作 業部門が観光施設と直接関係がない場合 には、観光施設は独立させるべきである。 すなわち、施設内の活動の中心点を分断 するような形で両方向に通行できる通路 をつくるよりも、一方通行の環状道路で 施設を取り囲み、道路を隔てた反対側に 駐車場を設けた方がよい。同様に、イン フォメーションセンターでは、展示物や パネル類は連続して配列し、ビジターの 流れが室内を一周して出口方向に向かっ ていくようにすべきである。

10. (財)日本自然保護協会資料集第35 NACS-J エコツーリズム・ガイドライン

らの動物が死ぬより生きているほうが ずっと価値があることは明白である。保護地域での さらに、公園が集約農業に使われたとエコツーリズムの計画づくり すると同じく〇・八ドルにしかならな 世界中のどの国の政府も、自国の保 いが、公園が観光目的に使用されれば 年間一ヘクタールあたり四〇ドルの収護地域のために適切な管理計画をたて 入を得る計算になる。 なければならない。この管理計画には、 保護地域のあらゆる観光活動を調整す エコツーリズムが国の政策の中で高る明確なガイドラインと規制を盛り込 い優先権をもち、それが発展途上国なむべきである。また、保護地域での観 ら、観光事業を行う保護地域の付近及光やエコツーリズムという事象を包括 びそこに住む住民を含んでかなりの労した計画づくりの必要性もある。 力がつぎ込まれることになるだろう。 この計画づくりには、さまざまな部 普通こういう地域の住民は、能率の低門 ーーー政府、個人企業、地方住民と組 い経済手段しかもたず、非常に生活水織、自然保護 zoo 、国際機関など 準が低いのが特徴であるが、こういう を効果的、積極的に取り人れなけ 人々にとって、新しいしつかりとした ればいけない。国の観光会議の中で旅 経済手段となりうる。また、住民たち行・ホテル・レストランの業者、また、 が、その自然地域の最適な管理人となエコツーリズム活動にたずさわるその り保全者となり得る利点も含んでい 他のサービス投資家たちを奨励するの る。だから、彼らの暮らしは、そこのである。入場料、売店、寄付を奨励す 環境がどれくらい自然のままに保護さるなどエコツーリズムの財源確保のた れているかに大きく依存するといえめの適切な方法も取り人れなければな る。時に土地の住民は、生まれ育ったらない。エコツーリズムの計画づくり 土地 ( 景色、植物、動物 ) の自然に関の方法論には、道路、トレイル、輸送 して、祖先から受け継いだ重要で実用機関、ホテル、公園の維持と監視、マー 的な知識を持ち合わせている。だから、ケティングなどの要素も考慮されなけ これまでのリゾートホ 彼らはある程度のトレーニングを積んればならない。 で容易に正式な自然ガイドになりうるテルに対して、エコツーリズムセン のだ。多くの場合、地方の社会組織は、 ターの概念が推進されるべきである。 適切な管理トレーニングをうけた上このセンターには、旅行者に対してオ で、公園の観光サービスについての特リエンテーションをする自然解説セン 許事業者となり得るのである。 ターが含まれるべきである。 NACS-J の企画による 海外へのエコ・ツアー始まる ! NACS-J では、 1990 年度から PRO NATURA ( プロ ナトウーラ ) から受けた基金をもとに、全国の自然保護 ' ミミ、 = 豊、 活動および研究グループに助成する TPRO NATURA FUNDJ (). N. ファンド ) を設け、自然保護の科学的基 礎を明らかにし、国際的理解に沿った具体的な保全計画 : 、 を進めています。そしてこのたび、 PRONATURA と 共に世界の自然環境に関する研修の機会を専門家と関係 者に提供する「 PRO NATURA 工コ・ツアー」を企画 しました。工コ・ツアーは、 1991 年度から原則として毎 年 1 囘世界の自然環境保全のためのすくれた組織・制度一、 を視察し、日本の自然保護にフィードバックするための 研究・研修ツアーです。このツアーを行ってゆく中で、 工コツーリズム本来の姿を具体化し、公募や一般応募の 形式もとり人れた日本におけるエコツーリズムのスタン ダード作りもめざしたいと考えています。 第 1 回目の研修グループ作りにあたっては、ツアーの 主旨とテーマにあわせて、ふさわしいと思われる方々に 対してご案内状をお送りし、参加可能な方々によって研 修グループを構成する予定です。また、少人数のために コスト高になることから、今回は企画主催者より参加費 の半額を助成します。 今年度は、第 1 囘目としてヨーロッパアルプス高山帯 の自然保護区と国立公園体系・利用施設などの現状を視 察・研究し、スイスでは IUCN や WWF 本部への訪問も 予定しています。 期間 : 1991 年 9 月 11 日 ( 水 ) ~ 22 日 ( 日 ) 11 泊 12 日 参加人員 : 20 名 対象者 : 自然保護団体、動植物専門家・研究者、自然 公園施設管理者、山小屋経営者、報道関係者 自然保護 3 写真提供スイス政府観光局 1991.8. No. 351