間題も、その発生源は身近な公害と同じく足元の地域にあります。地域の公害対策を 放置したままで、地球環境間題への実効ある対策が進むはすがありません。 ③原因・責任の徹底的追及と汚染者負担の原則 今の環境間題は、ともすると「国民一億総ざんげーで、省エネ、リサイクルなど「ラ イフスタイル見直し論」が花ざかりです。しかし真の環境間題解決のためには、個人 の意識や努力のレベルを問う運動だけではなく、公害・環境破壊の背景にある社会シ ステム ( たとえば車公害の原因でもある鉄道切りすて、道路優先政策 ) を見直すこと が不可欠です。 わが国には、公害発生の原因と責任を徹底的に追及し、国や責任企業に公害対策を とらせてきた経験をもっています。この教訓を生かし、とりわけ公害・環境対策、被 害者救済に必要な費用の「汚染者負担の原則」を導入する必要があります。 ④住民参加・情報公開の原則 発生源情報の全面的公開と環境に影響に及ばす事業の決定過程に住民が参加できる 制度を確立することが、公害の未然防止にとって不可欠です。 ⑤環境アセスメントの法制化 わが国で新規の事業・開発による環境影響を予測・評価する環境アセスメントが導 入されて一〇年以上が経過しました。しかし現行のアセスメントは、計画の追認、開 発の免罪符に堕しており、逆に新たな公害の発生・拡大を招いてきました。本来のア セスメントの内実を伴った条項が明確に盛りこまれる必要があります。 ・経済との調和条項 「生活環境の保全については、経済 の発展との調和が図られるようにす る」とした、一九六七年八月に制定 された「公害対策基本法」の条項。 この条項は、七二年の改正で削除さ れました。 ・汚染者負担の原則 2-« (Polluter Pays Principle) の訳。汚染者が汚染防止に伴う費用 の責任を負うべきだとする考え方。 ( 経済協力開発機構 ) の「環 境政策の国際経済的側面に関するガ イディング・プリンシプルについて の理事会勧告」 ( 一九七一 l) にあるも ので、「希少な環境資源の合理的利用 を促進し、国際貿易および投資にお けるゆがみを回避するための汚染防 止・制御措置に伴う費用の分配のた めに用いられるべき原則」とされ、 環境汚染対策としてもっとも基本的 で重要な原則とされています。 ( 『環四 境科学辞典』東京化学同人より )
例をあげて、比較してみましよう。米国国防省の陸軍は、ユタ州の砂漠のなかにあ五人に一人に割りで喘息性気 管支炎にかかっています。 るダックウェイ実験場に「生物ェアロゾル実験施設」の建設計画をたてました。陸軍 個人の方で測定をやってみ は、環境評価をおこない、 この実験施設を建設しても、「著しい影響はない」と判断し たい方は電話で、左記へ申し ましたが、環境保護団体は、「環境影響評価書」を作成すべきだと主張し、陸軍の作成込んでください。費用は分析 費を含めて、カプセル一個百 し」い - っ . した環境評価の内容に、「代替案の検討をしていない」「影響が著しくない」 円 ( 郵送料別 ) 。 論には説得力がないとして裁判所に訴えました。裁判所は、環境保護団体の主張を認 〒一〇一千代田区神田神 保町一一ー一〇徳住ビル三階 め、「環境影響評価書」を作成すべきだと判決しています。 あとりえ・えーす内大気汚 一方、東京都新宿区・戸山地区の住民は、国立予防衛生研究所 ( 予研 ) の「病原徴 染測定運動東京連絡会 生物や遺伝子組み替え研究実験施設の建設」に反対していますが、予研は「環境影響 電話〇三 ( 五二七五 ) 〇二五 評価を義務づける根拠はない」と主張して環境影響評価の手続きをとっていません。 わが国では、行政が政令・規則で環境アセスメントをする事業の種類と規模を決め てしまうのです。これは官僚的画一主義です。国の要綱では研究施設の建設は環境ア セスメントの対象事業になっておりません。東京都の条例の規則では研究施設を対象 事業にしているものの、四〇ヘクタール以上の面積でなければ実施しないことになっ ています。この予研の建設面積は一ヘクタールにすぎません。 アメリカでは、どんな事業でも環境に影響のおそれがあり、市民が間題にすれば、 「環境影響評イ 襾書」の作成がされます。ダックウェイ実験場は、人口密集地から一三九 キロメートルも離れている砂漠のなかです。予研の施設は、人口密集地で、市民、区当、 議会、区長、早稲田大学の反対にもかかわらず、環境影響評価がなされないのです。 1 3
法案作りグ過程で、 っ宅寡 ? 「環境基本法」は、当初、「リオ宣言」にある「環境間題の時間的・空間的な広がりや 環境の有限性をふまえた生産・消費パターンの変革、生態系の保全」などの考え方を ふまえて、環境保全型の社会に日本を変革していくための骨格となる法律の策定が期 待されていました。この点は、自民党の橋本元蔵相が座長をする「環境基本間題懇談 会」でも議論されていました。ところが実際の法律策定の作業を進める過程で、通産 省や建設省など多くの開発派省庁や産業界からのヨコャリがあり、実効のない法律 ( ホ ネヌキ法 ) にされつつあります。 一九九一一年七月から開始された環境庁の合同審議会 ( 中央公害対策審議会、自然環 境保全審議会の合同会議 ) がおこなったヒアリングで、経済団体連合会 ( 経団連 ) は 「環境基本法」策定に不快の念を示すとともに、さらに原子力の取り込みや、「経済的 手段」の導入への懸念、「環境影響評価法」の法制化に強く反対する姿勢を明かにしま 開発派省庁のひとつである建設省も「環境影響評イ、冫 面去」の法制化に強く反対し、道 路や港湾、河川整備など多くの公共事業を抱える省庁として、「アセスメント事業施工 者が実施する現行の制度で充分であり、環境アセスメントという専門的な分析が必要 6
な作業の権限を、素人である法廷にゆだねるわけにはいかない。法制化すると公共事 ール悪と考える団体に悪用されかねない」と主張しています。 業イコ 「環境基本法」のあり方を議論している環境庁の審議会の委員に対して、「環境基本法 制の諸間題」と題する怪文書がばらまかれたことがありました。それは、「環境基本法 における環境の範囲があいまいなままにアセスメントに法律的な根拠をえると、原 子力発電所やゴミ焼却場、下水処理場などの立地で、環境保全を名目にした政治的、 私人権利保護的な訴訟の乱発につながる」とい「た、いわば、おどし的な内容の文書 でした。 同年一〇月二〇日に答申された合同審議会の「環境基本法制のあり方について」の なかでは、結局、「アセスメントの必要性やその考え方を法案に盛り込むことが重要で ある」というあいまいな表現となりました。この怪文書の発信元は、経団連・通産省・ 建設省などの開発派連合部隊であった言われています。 開発派省庁の本音は、「環境基本法」の制定によ「て環境庁に権限が集中し、既得権 を侵されることへの警戒です。ある通産省の幹部は、環境庁による「縄張り荒らし」 を牽制し、「環境庁は、環境第一と言いながら、エネルギー政策などの所轄外の事項ま で手を出そうとしている」と発言しています。 こめには、霞が関 ( 中央省庁、行政 ) わが国を環境保全型の社会に変革していくオ 大手町 ( 経団連、産業界 ) 、そして永田町 ( 政府、自民党 ) の改革も重要な課題です。 ・「経済的手段」の導入 環境保全に必要な税金や課徴金な ど「経済的手段」の導入については、 通産省や経団連などの経済団体、電 カ・鉄鍬・石油などの業界団体から 強い警戒感が表明されました。植田 守昭日本鉄鋼連盟副会長は、「因果関 係がはっきりしていた公生ロ間題とは 異なり、地球レベルの環境問題は企 業だけが悪役ではなく、生活してい る者すべてが汚染の発生源であり、 特定の企業だけが環境対策費用を負 担する構想には反対である」 ( 朝日新 聞、一九九一一年一〇月一二日 ) と強行 く主張しました。
世界の環境法の動向 1 世界各国の主な環境基本法 アメリカ カナダ オランダ ポーランド タイ フィリピン インドネシア 韓国 中国 国家環境政策法 (NEPA) 環境保護法 一般環境法 総合環境法 環境保護及び保全法 国家環境質改善保全法 大統領令 環境管理基本法 環境保護法 環境政策基本法 環境保護法 1969 年 1990 年 1990 年 1979 年 1980 年 1978 年 1978 年 1987 年 1979 年 1990 年 1989 年 2 環境アセスメントに関する世界各国の主な法規 アメリカ カナダ 欧州共同体 イギリス ドイツ フランス オランダ スペイン タイ フィリピン インドネシア 韓国 中国 国家環境政策法 (NEPA) 環境アセスメント法 理事会指令 都市農村計画法 環境アセスメント法 環境影響調査基本法 総合環境法 環境影響評価に関する政令 国家環境質改善保全法 大統領令 環境管理基本法 環境保護法 環境政策基本法 環境保護法 1969 年 1992 年 1985 年 1988 年 1990 年 1976 年 1987 年改正 1986 年 1978 年 1978 年 1987 年 1979 年 1990 年 1989 年 62
環境管理計画を住民参加で策定すること。 ③国連環境開発会議で合意、締結された国際的取り決め及び条約を誠実に実行する ために必要な国内法を制定すること。 ④公害患者の救済を明記すること。公害健康被害補償法の地域指定の拡充・再指定 」一打 - フこ」 ⑤環境政策に関わる地方自治体の自主性、特性を尊重し、上乗せ政策を認めること。 ⑥環境・公害に関わるすべての情報を公開すること。 ・中央環境審議会 公害対策の基本間題を解明し、そ ⑦計画段階から科学的で、住民参加を保証する環境アセスメント法を制定すること。 の施策を適時、適切に行政に反映さ ⑧各種審議会に住民代表及びこれらの推薦する専門家を参加せること。 せるため、「環境基本法」第四一条に ⑨公害被害者救済、公害防止、地域環境・生活環境の保全及び再生の費用は原因者基づいて設置されている環境庁の付 属機関。審議会は内閣総理大臣、環 ( 汚染者 ) に負担させ、大衆課税は行わないこと。 境庁長官または関係大臣からの諮間 に応じて、公害対策に関する基本的 ⑩公害・環境保全に関わる国及び地方自治体の責務、企業の責務を明記すこと。 事項や重要事項について審議し、意 しかしながら、成立した「環境基本法」では、環境権について曖昧な記述しかみら 見を述べます。学識経験者八〇人以 内で構成されています。 れません ( 第三条 ) 。公害患者の救済についても、旧「公害対策基本法」の内容をほば ・自然環境保全審議会 そのまま踏襲したにすぎません ( 第三一条一一項 ) 。環境アセスメント法の制定にも、「国「自然公園法」「鳥類保護及び狩猟に 関する法律」などに基づいて、自然 は事業者が事業の実施にあたり環境影響評価をし、環境の保全について適正に配慮す 環境の保全に関する重要事項を調査 審議するほか、環境庁長官や関係大 るための必要な措置を講するものとする , ( 第二〇条 ) と記述しているだけです。また 臣からの諮問事項について審議し、 情報公開 ( 第二七条 ) 、住民参加についても曖昧な記述しかみられません。 意見を述べる審議会。委員は四五人 9 以下で構成されています。 このように将来にわたって地球環境を守っていく上で不十分な点を持っています。
・大気汚染測定運動の紹介 6 あなたが吸っている空気の 3 第環境アセスメしトとは 汚れを簡単な方法で調べるこ 1 どんな制度ですか ? とができます。大人の親指く らいのプラスチック製のカプ 、二酸化窒素 ( z 0 2 ) 環境アセスメントとは、アメリカで始まった考え方で、一九六九年から制度として を捕集する薬をしみ込ませた 実行されています。日本語訳は「環境影響評価制度」と、 ( います。環境に影響をえ ろ紙を入れて、たとえば、玄 べラン る事業をおこなうにあたっては、事前に環境の現況とそれに事業が与える影響を評価関の柱、郵便ポスト、 し、代替案を検討し、住民の意見もとりいれながら、慎重に意思決定をおこない、事ダ、道路わきの電柱などへテ ープでつけておきます。測定 後的にもその予測の適切性についての再評価をおこなうという制度です。日本では、 二四時間後に回収し、フタを いまだに国の法律としては成立していないし、地方自治体の条例などで実施されたケ 固く締めて、カプセルを事務 所へ郵送してください。分析 ースでも、その名に値しない骨抜きのものが大半です。 結果をお知らせします。 たとえば、日本とアメリカの環境アセスメントを比較してみましよう。 Z 0 2 は水に容けにくいた まず第一に、適用対象が、米国法では、環境に大きく影響する行政活動と立法行為め、気道の奥まで侵入して、 末梢気管支や肺胞を傷つけま のすべてに環境アセスメントが適用されますが、日本では、民間の事業と公共事業の す。その結果、喘息性気管支 一部に限定しており、行政活動自体に環境影響評価の義務づけをしていません。 炎や慢性気管支炎などの公害 第二に、米国法では、各種の代替案を比較検討しなければならないことになってい 病や肺がんを引き起こす恐ろ しい物質です。東京では、子 ますが、日本では、代替案の検討を義務づけていません。 供の公害病患者が、毎年三〇 第三に、米国法では、環境評価、スコーピング ( 間題の絞り込み ) 、ティアリング ( 積 〇〇人以上も増加しています。 み重ね ) が制度化されています。日本にはこれらの制度のかけらさえ見えません。 幹線道路の沿道では、学童が
「法」は どん靉正が必要ですか ? 今までの公害・環境政策は「自然環境保全法」と「公害対策基本法」を基礎にして 立案・施行されていたのですが、この二法は廃止され、今後は「環境基本法」の定め る理念や方針 ( 幻参照 ) に則して立案・実施されます。 地球サミットの「リオ宣言」に盛りこまれた主要な原則が本来「環境基本法」に取 り入れられるべきでした。「リオ宣言」の主要な原則としては次の四点が挙げられま ①国民が自然と調和したよい環境を享受する権利をもっこと。 ②環境アセスメント法と情報公開法の制定。 ③汚染者負担の原則 ④公害被害者救済の制度化。 私たちは九二年八月三一日に環境庁長官、中央公害対策審議会会長 ( 現、中央環境 審議会 ) 、自然環境保全審議会会長に「環境基本法」に関して、次のような要望書 ( 要 旨 ) を提出しました。 ①国民の環境権を明記し、これをすべての政策の上位に位置づけること。 ②公害防止、快適環境のための環境指標を設定すること。環境指標の実現のため、 す。 8
いますが、拘束力のある国の「環境影響評価法」がないため、規制力に乏しいのです。の社会の底辺の人々であると いうことご。そのしわ寄せカ 「環境影響評価法」の制定を明文化するとともに、すべての開発行為について、代替 大企業や資本家止まりとなり、 案を含む計画段階での「環境アセスメント」をおこなうこと、第三者による審議機関 「持続可能な開発」をめざす 社会が実現するよう、みんな を設けること、事後監視体制を確立すること。これらの内容を盛りこんだ実効性のあ で知恵をしぼろうではないか。 る「環境影響評価法」の制定が必要です。 第二七条 ( 情報の提供 ) の規定も具体性がありません。情報公開については、多く の地方自治体で要綱などを制定していますが、国の「情報公開法」がないため、非公 開事項が多すぎるという指摘もあります。法制化を明言すべきです。 第一条の ( 目的 ) で「環境の保全についての国民の責務ーをいうならば、参加を保 証すべきです。環境アセスメントへの住民参加においても、現在のように地元関係者 の資格を制限するのでは、影響を受ける多くの住民の声が無視されてしまいます。 第二一条で ( 環境の保全上の支障を防止するための規制 ) を規定していますが、「リ ゾート法ーの制定以来、乱開発を抑制する規定が、通達や行政指導により緩和されて います。 場あたり的な通達行政を止めるとともに、「自然環境保全法」などの保護法はもとよ 「農地法」「森林法」などの土地利用規制法にもとづく規制措置を強化すべきです。 さらに、「ラムサール条約ーなどの国際的な条約のための国内法の整備をおこなうこと も必要です。 とくに、リゾート事業目的の乱開発を促進している「リゾート法」廃止が急務です。 3 3
用を請求できます。 最近の判例によれば、有害廃棄物の排出企業が、処理業者に処理を委託していた場 合でも、最後に行き着いた埋立地で環境汚染をひきおこした際にも、その排出企業が 埋立地の環境汚染の浄化責任を追わなければならないとされています。 第二に、浄化責任を負うべき当事者の範囲が広いことにあります。責任当事者にあ たる者としては、「現在の所有者・管理運営者」 ( 買主・抵当権実行による所有者・営 業譲渡や合併による会社継続人・企業の幹部・親会社・株主 ) 、「以前の所有者・管理 運営者」 ( 売主 ) 、「有害物質の排出者」「汚染地に有害物質を運搬したものーなどが規 定されています。 第三に、責任当事者の連帯責任を規定しているので、政府は、責任当事者が一一〇社 あるいは五〇社であれ、支払い能力のある一企業から全額の浄化費用を取り立てるこ ともできます。 日本では、汚染地の浄化責任が曖昧なままにされ、汚染地が放置されているのが現 状です。アメリカの「スー ーファンド法」のような環境浄化の法律があれば、汚染 者の責任が明確になり、汚染除去と汚染防止に効力をもちます。また、水俣病や大気 汚染公害など環境汚染がひきおこしている公害は、浄化責任を負うべき企業なり国に よって早期に浄化する事ができたでしよう。 ーファンド 「環境基本法」には、汚染された環境が早期に浄化できるように、「スー 法」のような浄化責任を明確にできる条項を入れることが必要です。 ・「環境アセスメント法案」国 会上程 1 、 8 CO 年 ・「環境アセスメント法案」審 議未了で廃案 1q08 ~ 年 - ・チェルノブイリ原発事故 ・「公害健康被害補償法」改定 ・国連「私たちの共有の未来」 公表 88 年・ ・公害地域指定 ( 第一種地域 ) 解除 ・輸入農産物からポスト・ ーベスト農薬検出される ・グリーンウェープ ( 食糧の 波 ) 運動第一波 ・バルディーズ号、座礁事故 ・「バーゼル条約」採択 1q0q00 年一 ・「公害・地球懇」発足 ・「リサイクル法」施行 5 4