改訂にあたって 今なぜ、「環境基本法」なのですか ? 地球サミットの成果とは ? サスティナフル・ディベロップメノトとは何です力 ? : : : : : : : ・ : : : : : : : 経済成長と環境保護の関係をどう考えますか ? 制定された「環境基本法」法案の間題点は 去案乍りの過程で、環境庁に圧力カカかったそうです力 ? ・ : : : : : : : : : : : 「環境基本法」はどんな改正が必要ですか ? ・ 憲法の精神と「環境権」のむすびつきは ? ・ 「環境基本条伊」を定めている地方自台体はありますか ? : : : : : : : : : : : : 「環境基本法」は地球環境呆全にどんな力を発揮しますか ? ・ : ・・・・・・・・・・・・・・・ : ・ わが国の公害事件にはどんなものがありますか 「環境基本法」が公害防止の力をもつにはどんな内容が必要ですか ? ・ : ・ : : ・ 地球環境の保全に、農林業はどんな役割をはたしていますか ? ・ 「環境基本法」が自然を保全する力をもつにはどんな内容が必要ですか ? : ・ 企業の取り組みは環境保全に役立っているのでしようか ? ・も ( じ・環境基本法ってなあに 34 32 30 28 26 24 22 20 プ 8 76 74 12 10 8 6 4
な作業の権限を、素人である法廷にゆだねるわけにはいかない。法制化すると公共事 ール悪と考える団体に悪用されかねない」と主張しています。 業イコ 「環境基本法」のあり方を議論している環境庁の審議会の委員に対して、「環境基本法 制の諸間題」と題する怪文書がばらまかれたことがありました。それは、「環境基本法 における環境の範囲があいまいなままにアセスメントに法律的な根拠をえると、原 子力発電所やゴミ焼却場、下水処理場などの立地で、環境保全を名目にした政治的、 私人権利保護的な訴訟の乱発につながる」とい「た、いわば、おどし的な内容の文書 でした。 同年一〇月二〇日に答申された合同審議会の「環境基本法制のあり方について」の なかでは、結局、「アセスメントの必要性やその考え方を法案に盛り込むことが重要で ある」というあいまいな表現となりました。この怪文書の発信元は、経団連・通産省・ 建設省などの開発派連合部隊であった言われています。 開発派省庁の本音は、「環境基本法」の制定によ「て環境庁に権限が集中し、既得権 を侵されることへの警戒です。ある通産省の幹部は、環境庁による「縄張り荒らし」 を牽制し、「環境庁は、環境第一と言いながら、エネルギー政策などの所轄外の事項ま で手を出そうとしている」と発言しています。 こめには、霞が関 ( 中央省庁、行政 ) わが国を環境保全型の社会に変革していくオ 大手町 ( 経団連、産業界 ) 、そして永田町 ( 政府、自民党 ) の改革も重要な課題です。 ・「経済的手段」の導入 環境保全に必要な税金や課徴金な ど「経済的手段」の導入については、 通産省や経団連などの経済団体、電 カ・鉄鍬・石油などの業界団体から 強い警戒感が表明されました。植田 守昭日本鉄鋼連盟副会長は、「因果関 係がはっきりしていた公生ロ間題とは 異なり、地球レベルの環境問題は企 業だけが悪役ではなく、生活してい る者すべてが汚染の発生源であり、 特定の企業だけが環境対策費用を負 担する構想には反対である」 ( 朝日新 聞、一九九一一年一〇月一二日 ) と強行 く主張しました。
「法」は どん靉正が必要ですか ? 今までの公害・環境政策は「自然環境保全法」と「公害対策基本法」を基礎にして 立案・施行されていたのですが、この二法は廃止され、今後は「環境基本法」の定め る理念や方針 ( 幻参照 ) に則して立案・実施されます。 地球サミットの「リオ宣言」に盛りこまれた主要な原則が本来「環境基本法」に取 り入れられるべきでした。「リオ宣言」の主要な原則としては次の四点が挙げられま ①国民が自然と調和したよい環境を享受する権利をもっこと。 ②環境アセスメント法と情報公開法の制定。 ③汚染者負担の原則 ④公害被害者救済の制度化。 私たちは九二年八月三一日に環境庁長官、中央公害対策審議会会長 ( 現、中央環境 審議会 ) 、自然環境保全審議会会長に「環境基本法」に関して、次のような要望書 ( 要 旨 ) を提出しました。 ①国民の環境権を明記し、これをすべての政策の上位に位置づけること。 ②公害防止、快適環境のための環境指標を設定すること。環境指標の実現のため、 す。 8
1 新はどんなもので、 どん臠容が必要なのですか ? 「環境基本法」の第一五条で、「政府は、環境の保全に関する施策の総合的かつ計画的 な推進を図るため、環境の保全に関する基本的な計画 ( 環境基本計画 ) を定めなけれ ばならない。」としています。環境基本計画は、総理大臣が中央環境審議会の意見を聴 いて案を作成し、閣議決定されます。また、第七条、三六条では地方自治体レベルで の「環境基本条例」「基本計画」の制定を求めています。 国が環境保全を政策として行うためには、個別の課題ごとにきちんと計画を立てて それを忠実に実行する必要があることはいうまでもありませんが、そうした個別の環 境計画を立てる際に、国が全体としてどういう基本方針で環境保全を推進していくか また現状回復や被害者への補償をどう行っていくかなどの基本政策が定められている ことが必要です。環境基本計画は、理念にとどまらず、現実に機能する計画でなけれ ばならず、少なくとも以下のような点が盛り込まれる必要があります。 まず、環境基本計画が他の分野の国家計画と独立して存在していたのでは意味があ りません。例えば大気汚染防止を計画の中に盛り込んだとしても、それとは無関係に 糸 : かいた餅にすぎません。 道路整備計画が実行されたのでは、環境基本計画は、会こ 現在、国の施策は、全国総合開発計画などの開発計画、産業・エネルギー計画など 「】ワ】年 ・「絶滅の恐れのある野生生 物の保護に関する法律」成 立 ・「環境と開発に関する国連 会議 ( 地球サミット ) 」 「 1 9 、つ 0 年 ・厚生省、水道水の水質基準 改定 ・環境庁、水質環境基準大幅 改定 環境基本法制定 〈参考文献〉 本谷勲【『地球環境問題読 本』、東洋書店、一九九一一年 日本科学者会議 " 『地球サミ ットへの提言』、 ( 日本 科学者会議 ) レポート、青木 書店、一九九二年 本間慎編【『データガイド、 地球環境』、青木書店、一九九 6 4
環境管理計画を住民参加で策定すること。 ③国連環境開発会議で合意、締結された国際的取り決め及び条約を誠実に実行する ために必要な国内法を制定すること。 ④公害患者の救済を明記すること。公害健康被害補償法の地域指定の拡充・再指定 」一打 - フこ」 ⑤環境政策に関わる地方自治体の自主性、特性を尊重し、上乗せ政策を認めること。 ⑥環境・公害に関わるすべての情報を公開すること。 ・中央環境審議会 公害対策の基本間題を解明し、そ ⑦計画段階から科学的で、住民参加を保証する環境アセスメント法を制定すること。 の施策を適時、適切に行政に反映さ ⑧各種審議会に住民代表及びこれらの推薦する専門家を参加せること。 せるため、「環境基本法」第四一条に ⑨公害被害者救済、公害防止、地域環境・生活環境の保全及び再生の費用は原因者基づいて設置されている環境庁の付 属機関。審議会は内閣総理大臣、環 ( 汚染者 ) に負担させ、大衆課税は行わないこと。 境庁長官または関係大臣からの諮間 に応じて、公害対策に関する基本的 ⑩公害・環境保全に関わる国及び地方自治体の責務、企業の責務を明記すこと。 事項や重要事項について審議し、意 しかしながら、成立した「環境基本法」では、環境権について曖昧な記述しかみら 見を述べます。学識経験者八〇人以 内で構成されています。 れません ( 第三条 ) 。公害患者の救済についても、旧「公害対策基本法」の内容をほば ・自然環境保全審議会 そのまま踏襲したにすぎません ( 第三一条一一項 ) 。環境アセスメント法の制定にも、「国「自然公園法」「鳥類保護及び狩猟に 関する法律」などに基づいて、自然 は事業者が事業の実施にあたり環境影響評価をし、環境の保全について適正に配慮す 環境の保全に関する重要事項を調査 審議するほか、環境庁長官や関係大 るための必要な措置を講するものとする , ( 第二〇条 ) と記述しているだけです。また 臣からの諮問事項について審議し、 情報公開 ( 第二七条 ) 、住民参加についても曖昧な記述しかみられません。 意見を述べる審議会。委員は四五人 9 以下で構成されています。 このように将来にわたって地球環境を守っていく上で不十分な点を持っています。
法案作りグ過程で、 っ宅寡 ? 「環境基本法」は、当初、「リオ宣言」にある「環境間題の時間的・空間的な広がりや 環境の有限性をふまえた生産・消費パターンの変革、生態系の保全」などの考え方を ふまえて、環境保全型の社会に日本を変革していくための骨格となる法律の策定が期 待されていました。この点は、自民党の橋本元蔵相が座長をする「環境基本間題懇談 会」でも議論されていました。ところが実際の法律策定の作業を進める過程で、通産 省や建設省など多くの開発派省庁や産業界からのヨコャリがあり、実効のない法律 ( ホ ネヌキ法 ) にされつつあります。 一九九一一年七月から開始された環境庁の合同審議会 ( 中央公害対策審議会、自然環 境保全審議会の合同会議 ) がおこなったヒアリングで、経済団体連合会 ( 経団連 ) は 「環境基本法」策定に不快の念を示すとともに、さらに原子力の取り込みや、「経済的 手段」の導入への懸念、「環境影響評価法」の法制化に強く反対する姿勢を明かにしま 開発派省庁のひとつである建設省も「環境影響評イ、冫 面去」の法制化に強く反対し、道 路や港湾、河川整備など多くの公共事業を抱える省庁として、「アセスメント事業施工 者が実施する現行の制度で充分であり、環境アセスメントという専門的な分析が必要 6
が先行し、その後に環境保全のための諸計画が決まるという順位になっているため、 環境政策はいつでも、後追い行政、公害の後始末の役割を振り当てられています。 この関係を逆転させ、環境基本計画をまず立て、そこで示された範囲で開発計画、 しくことか原則になるべきです。 産業・エネルギー計画などを決定して、 国と自治体との関係では、地方自治体が地域の実情にあったきめ細かな環境保全施 策を行うために、国は自治体独自の施策を奨励することが重要です。例えば、全国一 律の基準を押しつけるのではなく、国の基準は最低限度と位置づけ、自治体の裁量に よる上乗せ・横出しを積極的に認めることが望まれます。 開発計画の検討への住民の参加や、情報公開について、個別の計画検討に住民の参 加がきちんと保証されるように住民参加の原則を打ち立てること、国や自治体が持っ ている情報について、公開の原則を可能な限り具体的に盛り込むことが必要です。 また、無秩序な開発から環境を保全するために最も有効な手段である環境アセスメ ントの法制化など、環境政策の中で特に重要なものについては、環境基本計画の中で 方針を示し、内容についても詳しく触れる必要があります。 公害・地球懇では、①環境基本計画を他の開発関連計画の上位に位置づけること、 ②環境アセスメント制度を早急に法制化すること、③公害被害者救済や乱開発防止な 足元の公害間題の解決に資するものとすること、④農林業を環境保全型産業とし て位置づけること、⑤住民参加の保証と、情報公開の徹底を明記すること、の五点を 環境基本計画に盛り込むように提言しています。 ・環境基本計画の具体化 長期計画策定の具体化については、 例えば大気汚染の主因である一一酸化 窒素対策の場合、環境庁は環境基準 の達成を目標に掲げ、これを具体化 するために単体規制や排ガスの総量 規制など環境庁が主体となる対策の ほか、大量公共輸送機関への転換、 / イバス道路整備な 道路の地下化、・、 ど、環境保全以外の目的を併せ持っ 他省庁の事業を位置づけることが考 ( ↓ま亠 9 。 , 」のしょ - フ えられているとい な基本計画ができれば、個々の経済 政策や開発計画の立案の際に環境保 全への配慮が当然のこととして求め ・ら、れるま - フにわなり」ま亠 9 ・ zoo 助成金 対象事業は、国内の Z 0 による にたいする森林再生など地球 途上国一 環境保全活動への助成、海外 による途上国への環境保全活動への 助成、そして日本のが国の内 外にわたって環境保護のために国内 でおこなうリサイクルや大気保全な どの活動への助成で、これら Z 0 活動の振興に必要な情報提供や人材 確保に関する支援も含まれています。 7 4
改訂にあたって これまでのような対処療法的な、個別の汚染防止を目的とする法律だけでなく、地 球環境をも視野にいれ、環境保全優先の視点に立った「環境基本法。が必要だという 認識は、さまざまな公害体験を持っ私たちに共通のものでした。 一九九一一年の「地球サミット」では、「持続可能な開発」が人類共通な課題であり、 まさに経済先進国の日本が、自国の公害・環境間題を解決し、そして地球規模の環境 題への国際的な貢献をしなければならないことが、明らかになりました。 「環境基本法」は、その法案づくりの過程で公害患者会などを始め、多くのが 要望をあげたにも関わらず、通産省や建設省、国土庁などからのヨコャリがあったり、 経済界からは「経済的手法」の導入や「環境アセスメント」の法制化への反対があり カ ました。そのため、一九九三年一〇月一二日、国会で成立した「環境基本法」は、 ならずしも十分な法律とはいえません。しかしこれにより国は「環境基本計画」を策 定し、地方自治体もそれぞれ「環境基本条例、を制定することになります。 公害・地球懇では、「環境基本法」の成立に先立って「ブックレット環境基本法って なあに」 ( 九三年三月 ) を発行し、幸い版を重ねてまいりました。「環境基本法 . 成立 一周年を迎え、必要な訂正・補記を行って改訂版といたしました。 このブックレットが、地球環境保全の世論形成に多少ともお役に立てば幸いです。 公害・地球環境問題懇談会 一九九四年一〇月 3
世界の環境法の動向 1 世界各国の主な環境基本法 アメリカ カナダ オランダ ポーランド タイ フィリピン インドネシア 韓国 中国 国家環境政策法 (NEPA) 環境保護法 一般環境法 総合環境法 環境保護及び保全法 国家環境質改善保全法 大統領令 環境管理基本法 環境保護法 環境政策基本法 環境保護法 1969 年 1990 年 1990 年 1979 年 1980 年 1978 年 1978 年 1987 年 1979 年 1990 年 1989 年 2 環境アセスメントに関する世界各国の主な法規 アメリカ カナダ 欧州共同体 イギリス ドイツ フランス オランダ スペイン タイ フィリピン インドネシア 韓国 中国 国家環境政策法 (NEPA) 環境アセスメント法 理事会指令 都市農村計画法 環境アセスメント法 環境影響調査基本法 総合環境法 環境影響評価に関する政令 国家環境質改善保全法 大統領令 環境管理基本法 環境保護法 環境政策基本法 環境保護法 1969 年 1992 年 1985 年 1988 年 1990 年 1976 年 1987 年改正 1986 年 1978 年 1978 年 1987 年 1979 年 1990 年 1989 年 62
制定された 「環境基本法」グ問題点は ? 一九九三年一一月に制定された「環境基本法」は、環境の保全についての基本的な 理念を定めるものだとされています。その際、国、地方自治体、事業者そして国民の 責務を明らかにして、環境保全の政策を総合的、計画的に推進して、健康で、文化的 な国民の生活を確保し、人類社会の発展に寄することを目的にしています。 第一の間題点は、地球サミットの主題となった「持続可能な開発、 という言葉を大 企業に都合よく解釈して、「経済の発展と環境の調和 , という考え方が基本法の基調に なっていることです。この考えは「公害対策基本法」 ( 六七年制定 ) から削除された亡 霊です。また、法案には「リオ宣言」の第一原則、「人類は、自然と調和しつつ健康で 生産的な生活をおくる権利がある。とする基本原則、すなわち国民の「環境権」が明 示されていません。 国民が有する「環境権」という考え方は、憲法一一五条を論拠として、人が健康で安 全かっ快適な環境で生活するためには、大気、水、音、土壌、食および自然などの環 境が良好に保たれなければならず、人には良好な環境のもとで生活する権利があると いう主張です ( 参照 ) 。 一九七五年、日本弁護士会のシンポジウムで提唱されて以来、各種の公害裁判で原 4