「チョウの採集法ーー成虫凵 数ある昆虫の中でもチョウほど愛され、親し まれている種類はない。研究家や愛好家の数も 多く、それだけ研究も進んでおり、図鑑や生態 4 一デ 写真集や研究書や解説書の数が他の昆虫のそれ と比べて群を抜いて多いことを見てもこれは明 らかであろう。これは我が国だけの傾向ではな は、頁以下を参照されたい ) 世界的に見ても言えることである。このよ ◆分布地域 うな事情から昆虫採集も当然チョウから始める 人が多いので、本書ではチョウに関する解説を 北海道地方ヒメウスパシロチョウ、エゾヒ メシロチョウ、エゾシロチョウ、リンゴシジミ、 他の昆虫の場合よりも詳しくした。 チョウを計画的に採集するには、図鑑等でそジョウザンシジミ、カラフトヒョウモン、ホソ れぞれの種類の分布地域・発生時期・活動時バヒョウモン、アカマダラ、シロオビヒメヒカ 間・棲息環境・食草・習性等を調べる必要があゲ、カラフトタカネキマダラセセリ等のチョウ は我が国では北海道にしか分布していないので、 る。以下簡単にそれらの要点に触れておく。 ( 卵・幼虫・蛹の段階での採集については頁北海道へ行かなければ採集することはできない。 以下を、また採集禁止のチョウについての詳細本州では非常に珍しい種類であったり、採集 ェゾシロチョウま早
野外ではめったに採集できない珍しい種類も、 ◆飼育の目的 卵を採集して飼育すれば、完全な美しい標本を 飼育の目的の一つは完全な美しい標本を得るたくさん得ることができるわけである。 ことである。野外で採集した標本は、羽が破れ もう一つの重要な目的は、飼育を通して自殊 ていたり鱗粉が剥げていたりして、完全なもののすばらしさを知ることである。飼育はチョウ は極めて少ない。 またチョウは自然状態では、 の生態、生活史、周年経過等を知るための最も 天敵にやられたり、環境の変化で死亡したりす良い方法である。もちろん自然状態でこれを解 るために、卵から成虫が羽化する確率は 1S2 明できればそれに越したことはないが、自然状 ーセント程度、つまり母蝶が卵を百個産んだ態で完全に追跡調査することは不可能に近いの としても、その中からチョウになれるのはわずで、飼育によってこれを知るわけである。もち か一—二頭しかいない。 これを飼育することにろん自然状態での生活と、飼育の場合とでは相 よって九〇パーセントから一〇〇パーセント近当のすれが生じるため、飼育で得られたデータ く羽化率を高めることができる。したがって、 と自然観察の結果とを照合して、そのすれを修 簡単なチョウの飼育法 145
セット ( 段つき先細型がよい ) を差し込んで内 次にピンセットで適量の脱脂綿をつまんでホ 臓を引き出す。この方法がむずかしいものや、 ルマリンに浸し、これを内臓を取り出した所か 不可能なもの ( カマキリなど ) は胸部と腹部のら挿人して腹部に詰める。これで腐敗と変色を 境目からピンセットを差し込んで内臓を除去す防ぐことができる。 る。腹部を切開する方法もあるが、その場合は 昆虫針は胸部中央かやや右よりに刺す。脚の 背部と腹部との接合部を解剖鋏かカッターでな整形は展足板またはペフ板で行う。ポール紙の るべく小さく切る。 標本箱や発泡スチロールの箱を利用するのもよ 脚はあまり横にひろげす、体の線に添わせ るように整形したほうが美しい。ナナフシ類の 中脚は前方へ伸ばしたほうが自然である。 バッタ、カマキリ、トビナナフシなどで内羽 が美しいものは、展翅をする。溝のやや広い目 の展翅板を使って、脚も板の上に出して、展翅 と展脚を同時に行う。これがうまく行かない場 合は、ペフ板や発泡スチロールで目的に適った 展翅板を作る。 バッタの標本。上は、内臟抜き取り法 209
棒の先に取り付けたものである。昔の昆虫採集の指導書には捕虫網の作り方を かんれいしゃ ・ : 」と書かれてい 述べたくだりがあって、それには「古蚊帳か寒冷紗を用い る。明治十一年、高知県生まれの寺田寅彦が、少年時代に昆虫採集をしたとき も、母親に頼んで古蚊帳で捕虫網を縫ってもらっている。 とはいえ、いまや蚊帳を吊って寝た経験のない人のほうが多くなってきてい る時代であるから、家の中のどこを探しても、古くなった蚊帳などというもの はあるまいし、一方、捕虫網など、自作しなくてもいくらでも手に入るから、 製作法について述べる必要はないだろう。 しかし目の粗い寒冷紗の網は、蝶の鱗粉を剥がしてしまうことがあるけれど、 ことである。飛び方の速 これにも利点があって、それは風切りがはなはだいい いトンポなどの場合、網も相当速く振らねばならないが、そのときに目の細か い網だと空気をはらんでふくらみ、網を振るスピ 1 ドが落ちてしまう。 私の子供の時代は、夏になると朝から晩まで、家の前の田圃にいるギンヤン マを捕ることばかり考えていた。夏だけではない、冬の間も座敷でトンポ採り の練習をして、電灯の笠を割って母親に叱られた。 そのころわたしたち田舎の子供が使っていたのは三角網といって、もともと はエビ掬いの網であったのをトンポ用に小さくしたのであろう、目の粗い手製 のものであった。いまのように塾もなくテレビもなく、雑誌は月に一度しか来 ふるがや
昆虫は驚くべき繁殖力と復元力とをもっている。かって台湾で商売を目的と してチョウを毎年三千万頭以上採集し続けたが、採集した翌年のチョウの個体 数は減らなかった。減ったのはむしろ商売不振で採集しなくなった時期である という。哺乳類や鳥類の場合とは違って、昆虫には人間が採集したことによっ て絶滅した種類は一種類もいない。だから採集してもよいというつもりはない が、昆虫採集は昆虫を知り、昆虫に興味をもっための最も重要な手段であり、 方法である。観察をすればよいではないか、という人がいるかもしれないが、 観察眼とか研究の情熱というものは採集を通して培われ、研ぎ澄まされてくる のである。採集経験が豊富な人と経験がない人とでは、その観察眼には雲泥の 差がある。かって昆虫採集は、自然に親しみ、自然を理解するための最良の方 法として少年少女たちに推奨されていた。ところがいつの頃からか、昆虫採集 はただ収集欲のためにチョウやトンポを採って、殺して、標本にする残酷な殺 生行為であり、罪悪であると見なされるようになり、採集家は自然破壊者か変 質者のように思われるようになってしまった。こうして昆虫採集は自然保護教 育に反するものとして否定された。その結果、異常なほど虫を嫌う子供や、自 然にまったく関心のもてない子供たちがふえてしまった。 ある学校の生徒が、夏休みに山野を駆け巡って感激しながらチョウを採集し、 台湾のチョウ工場
翅前縁が一直線になるようにして、前翅は後翅 とつりあうようにすればよい。テープも何でも よいが、羽が反り返らないように先のほうも覆 っておくほうがよい 幼虫の標本はアルコール漬け標本 ( 跚頁参 照 ) がよい。羽化殻の標本は、水に浸けて柔ら かくして、成虫の抜け出した穴を閉じ、脚の整 形をして乾かすと美しい標本ができる。 展 ◆半翅目 片 の ミンミンゼミやヒグラシなど緑色のセミは、 セ 酢酸エチルの毒ビンに長時間入れておくと、黄する場合は、ペフ板や発泡スチロールでセミ専 色に変色してしまうので注意すること。 用の溝幅の広い展翅板を作るとよい。セミは前 セミ類の脚の整形は前脚が頭部から少し見え後の羽が連動する性質があるので、羽を引き上 る程度、中脚と後脚は体の線に沿って僅かに見げるときにこれを利用する。図のように片側の える程度でよい。セミの脚は乾燥すると非常に羽だけ展翅するのもおもしろい 折れやすいので、無理に整形する必要はない。 ッノゼミ類、ヨコバイ類は台紙貼り標本にす 昆虫針は胸部中央よりやや右よりに刺す。展翅る。 セミの標本 2 。 7
◆検査・作画に必要な器具と薬品 「交尾器の検査と作画法」 昆虫は種によっては、外部形態が非常によく①双眼実体顕微鏡 似ていても交尾器の形態が違うことがあるので、 交尾器の検鏡に用いる顕微鏡は、双眼実体顕 交尾器の研究が分類の決め手となることが多い。微鏡を使用すると、左右が逆にならす、便利で このため、最近の昆虫の分類に関する論文にはある。また、視界深度が深く、ピント合わせが ほとんど交尾器が図示されている。新種・新亜楽である。双眼実体顕微鏡にはドラム回転式と、 種の記載をする場合には、どうしても交尾器のズーム式で倍率を可変できるものがある。ドラ 検査や作画をする必要がある。多少、専門的にム回転式は決められた固定倍率であるのに対し なるが、簡単に交尾器の検査法、作画法、およて、ズーム式は任意に倍率を決めることができ び標本製作 ( 保存方法 ) について述べておく。 るので便利である。 ②透過検鏡台 チョウなどの小さい交尾器を検鏡する際には 下方から光を当て、透過して見るために用いる。 ③落射装置 甲虫などの大きな交尾器を検鏡する際に、上 方から光を当てるのに用いる。交尾器以外の昆 虫の各部分の検鏡の際にもこれがあると便利で 双眼実体顕微鏡 2 1 1
がある場合は、方眼紙の上にトレーシングペー ◆保管方法 1 を重ね、ロットリングでトレースするのが チョウなどの小型の交尾器は、アルコール漬 けにして保管するのが一般的である。アルコー ⑤交尾器の画には交尾器各部がわかるように、 名称を人れるか、符号を付ける。さらに、大きル漬けにする際、交尾器はアルコールを満たし た小型のガラス管に一つすっ入れ、脱脂綿で蓋 さがわかるようにスケールの線を入れる。 ⑥作画に使用する線は、左記によるのが一般的をする。このときにガラス管の中にラベルを入 れておくことを忘れないこと。ラベルは鉛筆で である。 外形・輪郭等を描く書いておくと、アルコールによる脱色・消失を 実線 防ぐことができる。このようなガラス管を広ロ 隠れた部分を描く 破線 切断したことを示すビンなどにグループごとにまとめて保管してお 一点鎖線 くのがよい ハッチングり内面の部分を示す なお、アルコール漬けで長期間保管すると、 膜部を示す 点描 以上のほかに、立体感を出すための陰影に使用交尾器は脱色されて見にくくなるので、なるべ く早い時期に作画しておくほうがよい する実線は、外形に使用する実線より細いもの 甲虫などの大型の交尾器は、台紙に糊付けし、 カよい 成虫標本と一緒に標本箱に保管しておけばよい。 21 ラ
最近われわれの希望がかなって、愛好家の有志からなる「日本昆虫協会」と いう団体が組織された。 この会のおもな目的は、将来世界に誇れる昆虫博物館をつくること、昆虫の 原記載論文のデータバンクをつくること等の夢もあるが、とりあえすは、真の 自然保護とは何かということを追究しながら、環境庁や各種の自然保護団体や 愛好家団体と折衝、あるいは協力・交流して、自然保護・環境保全の運動に積 極的に参加すること、マスコミ等で昆虫の採集や趣味に関して間違った報道や 誤解に基づく報道がなされた場合、正しい知識と情報を提供すること、昆虫採 集の素晴らしさを世の人びとに伝え理解してもらうこと、子供たちが思う存分 昆虫採集を楽しめるような環境づくりを関係省庁や地方自治体や教育機関に提 言すること、愛好家が守らねばならないモラルを愛好家自身でつくっていくこ と、などである。 ( 日本昆虫協会事務局〒東京都杉並区下高井戸 3 ー 小岩屋敏方・〇三ー三三〇四ー八六八〇 ) 本書の出版もこの目的に沿うものである。本書が、これから昆虫採集を始め ようとする人びとに少しでもお役立つならば、幸いである。 なお本書では、飼育や生態観察についてはごく簡単にしか触れることができ す、海外での採集や、生態写真・標本写真撮影等についてはまったく触れるこ とができなかった。これらについてはまた別に計画したいと思っている。
製円円円 革 段製円円円円 属 0- 0- -0- -0- ッ 0 0- -0- -0- ルス一 -0 0 0- -0- AJ 本亠 8 一 0 11 十旧〕 11 11 類 4 ・ 00 11 を各の ン ス 種 の ン 大型型型ッ 大型型虫 角 特大中小毒 特大並殺 とよい 毒 たが、夜間採集などとくにたくさんの収穫が見 ◆殺虫管 ( 毒ビン ) と毒ッポ 込めるときには十本以上必要になる場合もある。 毒ッポも必要である。毒ッポはヤママュなど毒 チョウや昼飛性のガは胸部を指で圧迫して三 つばい ビンに入らない大型のガを人れたり、 角紙に入れればよいし、トンポやカゲロウなど になった毒ビンの虫を入れ換えたりするのに使 はそのまま三角紙に人れるので問題がないが、 う。一本の毒ビンにあまりたくさん人れないほ そのほかのガや甲虫類やハチやセミや直翅類は、 うがよい。虫どうしが傷付けあったり、擦れ合 標本にするものは殺虫管 ( 毒ビン ) か毒ッポに ったりして傷物になってしまうからである。毒 入れて殺す。 ーを細く裂いて人れ 毒ビンは通常の採集には二—三本あれば十分ビンの中にティシュペー 、こさ 三角ケース ( 革製と金属製 ) をい 1150 円 750 円 600 円 500 円 3000 円 225