ウェッサン島・エコミュージアム ( フランス ) Ecomusee de l'ile d ・ Ouessant サテライト - ニュー (Niou) の家 ・新井 おっしやるとおりだと思います。リヴィエール本人もエコミュー ゼオロジー ( 生活・環境博物館学 ) は従来型の博物館学 ( ミューゼ オロジー ) とは基盤において異なるものだと言っております。 の新しい博物館学の理論構成をやっていたとき , 彼はれつきとし た従来型博物館の総帥の位置にある国際博物館会議会長の立場に いたのですから , 伝統的博物館の全面否定ではなく , 改革とか進 化という発想からエコミュージアムの理論を考えていたのではな いでしようか。このことは 1974 年にコペンハーゲンで開かれた I COM 総会で採択された博物館の定義の中に明白に表現されてい ます。すなわち , 日本の博物館法 ( 195D では博物館の目的を 「国民の教育・学術および文化の発展に寄与する」となっている のに対して , 国際博物館会議では「博物館は社会とその発展に奉 仕するため」と定めている。そしてこの目的はエコミュージアム の目的と完全に一致しますね。進化の理論に突然変異説がありま すが , ェコミュージアムは博物館界に起きた突然変異的現象とみ ることができると思います。したがってこの突然変異が固定して はじめて新しい種として公認されることになると思います。 第 2 部座談会 55
る。「地域社会の人々の生活と , そこの自然環境 , 社会環境の発達過程 を史的に探究し , 自然遺産および文化遺産を現地において保存し , 育成 し , 展示することを通して当該地域社会の発展に寄与することを目的と する博物館である」。 1972 年 , ICOM 主催の「博物館と環境」と題する シンポジウムでエコミュージアムを「特別環境博物館」と表現したこと もあったが , 筆者 ( 新井重三 ) はこれでは住民の生活が欠落しており不 正確であるので日本語に翻訳する場合には「生活・環境博物館」 ( 1987 ) とするのが適切であると提唱した。 次にエコミュージアムの理念について述べる。「エコミュージアムは 行政と住民が一体となって発想し , 形成し , 運営していく砦である。行 政側は資金 , 資材 , 施設 , 技術等を用意し , 地域住民からはアイディ ア , 智能 , ビジョン等を提供する形で両者が参加することが望ましい」 とリヴィエールは彼の論文 ( 1973 ) の中で , その抱負を述べている。 なお , 機能としては , ①住民の心を映す鏡であると述べ , 工コミュージアムの展示や活動 の中に住民の心を反映しなければならないと述べている。 ②地域の自然と人間とのかかわり合いを表現する場であると述べ , 地域持性と住民生活との関係を表現すべきであると言っている。 ③時間と空間の中に生きている現在の住民の姿を表現する人間の博 物館にすべきであると述べている。 さらにエコミュージアムの任務と題して , 次のような機関になること を要望している。 ①工コミュージアムは研究所である。研究テーマとしては生活環境 の研究 , 住民生活の研究を主題として , その向上をはかり , 未来を 予測し , 発展への道を求めるものである。 ②工コミュージアムは保護センターである。自然遺産 , 文化遺産 , 産業遺産等を護り , 育て , 創造していくものである。 ③この博物館は学校である。住民の仕事の効率や生産の成果をあげ るための学校であると同時に地域の発展に寄与する人材の養成機関 でもある。 第 1 部概論 1 1
っ グランドーランド・エコミュージアム の Ecomusée de la Grande Lande 生ロ 一九世紀末農村集落の中に領主の館役 があった。この村落はガスコニュの 森 ( 松林 ) の中にある て ・新井 ェコミュージアムにとって , 研究は大切な大きな使命ですね。 もう 1 つ , 工コミュージアムは学校であるというんです。研究と いうと , 非常にアカデミックな研究をわれわれは頭に浮かべる し , 学校というとまた , あれもしてはいけない , これもしてはい けない , 行儀よくしなさい , という日本の教育をイメージします けれども , フランスで言っている学校というものは , 日本人が考 える学校とはひと味違うんです。では何かというと , 自分たちが 住んでいるこの町 , この村をどういうふうに発展させていくか は , いつにかかってそこに住んでいる人にあるんだ。人がいなけ れば発展できませんということを盛んに言うんです。学校とは人 材をつくるところなんだ。地域を発展させていく後継者 , これは 人材ということですから , 人材をつくる。その人材がその地域に 残ってがんばって , その地域をよくしていく。そういう人間をつ くるのが学校なんだ。 だから当然 , 研究と深く結びついてくるんです。いまやってい るこの研究はこういう方向で進めていったほうが , むしろ経済効 果も上がるとなれば , 文化遺産を保存するとか , 風俗 , 習慣を保 第 2 部座談会 91
グランドーランド・エコミュージアム ( フランス ) Ecomusee de la Grande Lande エコミュージアムに入る自動車道は よい。古ぼけたこの電車があるだけ 右が館長カステェイニュ氏 (Direc teur Marc Casteignae) 、左が筆者 ( 新井重三 ) という言葉を使う。自然遺産 , 文化遺産というと , いずれも自分 たちの祖先が大事に自分たちに贈ってくれた宝物なんだ , 遺産な んだ。その遺産を大事にしようというのがつねに大前提につきま とうものですから , 前進する。前に向いて走っていく力がややも すると忘れがちと言いますか , 落ちがちなのです。 私もその点を非常に心配して , フランスへ行ったり , フランス 以外にヨーロッパの博物館等に行ってみますと , さきほど言った 目的のほうは地域を活性化するんだ。要するに地域の発展に寄与 するんだとなります。ところが後ろ向きで , 古いものさえ残して おけば , 地域の発展に本当に寄与するんですとなると , 矛盾が起 きるわけです。必ずしも素直に受け取れない。 そこでエコミュージアムではこういう言葉を使う。 キーワードはたくさんあるんですが , 工コミュージアムは空間 と時間の博物館だという言葉をよく使うんです。時間はたしかに 過去もあるけれども , 将来もあるんです。だから時間の博物館は 過去ばかり見たのではいけない。現在を見て , 現在から未来に向 かって進んでいく , その時間の先端を見ていくべきだ。そうでな いと地域社会を発展させる方向を過ってしまう。 だから博物館は立派な研究所でもある。それは過去の研究をす る研究所だけではなくて , 将来 , 未来に向かって住民の生活を豊 第 2 部座談会 89
4 伝統的博物館との相違点 前述したことによってエコミュージアムのおよその概念とその特性は 述べたので従来型の伝統的博物館との相違は理解されたと思うが , では両者の関係を比較しながら明確にしておきたい。 ( 1 ) 伝統的博物館の目的は , 日本の博物館法 ( 昭和 26 年 ) に明記され ている第 1 条 ( 目的 ) でもわかるとおり「国民の教育 , 学術及び文化の 発展に寄与する」ことを目的としているのに対して , 工コミュージアム は「当該地域社会の発展に寄与する」ことを目的としていることに基本 的な相違を見出すことができる。 ( 2 ) 伝統的博物館は資料の収集と展示は不可分の関係 ( 博物館法第 2 条 定義 ) にあるのに対して , 工コミュージアムは資料を遺産として位置付 け , 現地において保存し展示することを原則としている。したがって物 の収集は原則的に否定する現地保存型の総合野外博物館である。 ( 3 ) 伝統的博物館は国公私立を問わず , 設置者主体の管理・運営型で あるのに対して , 工コミュージアムは住民の運営参加を原則とし , 行政 と住民の二重入力システムを採用した管理・運営組織体になっているこ と。 以上の 3 項目はエコミュージアムの骨格になる 3 原則である。この理 念に基づいて , この博物館の機能や任務さらには構造までも必然的に規 制されることになる。端的に言えば住民を核にして住民の生活や地域社 会の環境を護り育て , より豊かな社会を創る博物館として活動する博物 館である。リヴィエールはエコミュージアムの存在する意義として次の この博物館の行動基準があるだろう。「そ ように述べているところに の地域社会における文化および経済発展の手段としての意義を持ち , 地 域住民はエコミュージアムの利用者であると同時に , この博物館を訪れ
興味が高いことが特徴である。地球にやさしい町づくりの手法として , 各地方自治体に受け入れられることを期待している。 ( 3 ) 日本における問題点 工コミュージアムはフランス産の成果物である。それを日本に輸入す るのであるから , 日本の方に受け人れる態勢が熟しているかどうかが成 否の鍵を握っているとも言える。アメリカ製のテーマパーク , ディズ ーランドは見事に日本に上陸し盛況をきわめているが , フランスへの 上陸は失敗していると聞いている。工コミュージアムが日本に安着陸す るための条件について考えてみる。 ①地域住民はエコミュージアムを受け入れるか ェコミュージアムは地域住民の参加と協力がなければ成立しない博物 館で , その目的は地域住民の生活と環境の保護 , 育成にある。我が国で は政府は「経済大国から生活大国へ」 , 自治体は「生活重視 , 環境優 先」をうたいあげている。これは表の顔で本音は経済優先であり , 住民 の本音もそこにあるとすれば問題である。工コミュージアムが真に地域 の振興 , 経済の発展にもつながることを理解することが決め手になるの ではないだろうか。 ②地方分権とエコミュージアム 地方分権とエコミュージアムは深い関係にあることをフランスのエコ ミュージアムの発展史が教えている。地域のことは地域の自治体と住民 が自由に考え , 資金が投じられる制度になっていることがエコミュージ アムの設置と発展を助ける。地方分権には市町村単位のものと都道府県 単位のものとがあるが , 工コミュージアムの場合 , 地域社会の概念から 考えると市町村レベルのものの方がっくりやすいように思われる。 フランスの場合は生活圏や文化圏が基準になっているので市町村の境 界を越えて , いくっかの市町村にまたがるエコミュージアムが多いが , 日本で自治体工ゴの境界が越えられるかどうか疑問である。筆者の経験 では同一市町村の中でも首都圏近郊では , 土地やサテライト候補を所有 している旧住民と新住民との意識や感覚にずれがあり , 住民の中にも協 第 1 部概論 35
まず発展していくだろう。自分は新しいエコミュージアムを次代のエコ ミュージアムづくりに励む人達に委ねる」。 工コミュージアムは恒常的 , 画一的なものではなく , 常に変化し , 発 展していく存在であると述べている。事実 , リヴィエールは 1970 年に 「定義」を発表しているが , 10 年後の 1980 年には彼自身の手で書き変え 「発展的定義」を発表している。リヴィエールがこの世を去った 1985 年 にはカナダ独自のエコミュージアム憲章が発表され , コミュニティー ミュージアム ( 地域社会博物館 ) という新語が発表され , さらに「新し い博物館学 (new museology) 」なる用語の中にエコミュージアムもコ ミューアイ 、ユージアムも包含することを提案している。このよう な動きはエコミュージアムをどの方向に導こうとしているのであろう 筆者の考えでは , 伝統的博物館が , 他の多くの学問と同様に分化の一 路をたどっているのに対して , 工コミュージアムは統合する方向に向 かって進むと思われる。ものを切り離しばらばらにして展示するので はなく , ものを作り育てた環境の中で統合的に扱う博物館として成長 していくのだろうと思う。そのような博物館を統合博物館 (integral museum) とよんでいる。 38
サ フ る現 ル フ 製て ト を製 ロ 入の ン 一九 す製 世 る 工 紀 の コ ガ と実ー も演フ で カヾ き れ ム 産 的とエコミュージアムの目的は同じ博物館とは言ってもその目的 は基本的に違う。従来型の東京国立博物館とか , 国立科学博物館 とか , 千葉県立中央博物館とか , 日本でもすばらしい伝統的博物 館はたくさんありますけれども , 従来型の博物館は文化とか教育 に奉仕する , それに寄与するというのが従来型伝統的博物館の大 きな目的だったんです。 ところがリヴィエールはそれを目的にしていないんです。目的 は人々の生活を豊かにするのがエコミュージアムの目的の 1 つで ある。もう 1 つはその人々が生きている社会をよくしよう。だか らその地域に生きている人間の生活をよくすることと , 人間の生 活環境 , 社会。生活環境は広い意味では経済的なものも入る , 社 会的なものもある , 自然的なものもありますけれども , その生活 環境をよくすることがエコミュージアムの使命である。彼の言っ ていることを直訳すると , こういうふうになります。地域社会の 人々の生活とそれからもう 1 っ , そこの自然および社会環境の発 達過程を史的に探究し , 自然および文化遺産を現地において保存 し , 育成し , 展示することを通して , 当該地域社会の発展に寄与 する。人々の生活にも大いに寄与しなければいけない。同時に地 域社会全体の発展にも寄与することを目的とする新しいタイプの 野外博物館だ。こういうふうに言っているわけです。 第 2 部座談会 53
している。個人的な動きとしては , 名古屋大学の糸魚川淳二教授 , 秋田 県立農業短期大学の青木辰司助教授 , 松下政経塾の桑畑健也研究員など が単独で現地調査に赴いている。 ( 2 ) 工コミュージアムの普及と発展 筆者および丹青研究所が発表した研究論文は予想外な発展とひろがり をみせている。少なくともエコミュージアムの概念は日本に上陸したと みてよいであろう。山形県朝日町のみならず , 岩手県三陸町 , 千葉県富 浦町 , 埼玉県日高市を始め , 全国的な規模でエコミュージアム研究会が 組織されていることからもその一端を知ることができる。上記市町村の うち , 朝日町 , 三陸町 , 富浦町ではエコミュージアム設置に向けての始 動が着々と進んでいる。従来型の伝統的博物館界は表面的には積極的に 動こうとしない事情があるのに反して , 新しい町づくりを模索している 地方自治体と , それに指導 , 協力する立場にある学会 , 協会およびコン サルタント会社等の興味 , 関心は高く , 今日までに数多くのフォーラ ム , シンポジウムが開かれている。以下はその事例である。 ①全国生涯学習まちづくり研究大会厚木大会 [ 1991 年 9 月 21 日 ~ 22 日 ] 神奈川県厚木市 ②全国工コミュージアム・フォーラム [ 1992 年 3 月 10 日 ] 東京都千代田区都道府県会館 ③国際ェコミュージアム・シンポジウム [ 1992 年 6 月 5 日 ~ 6 日 ] 山形県朝日町 ④第 6 回環境システム・シンポジウム [ 1993 年 1 月 12 日 ] 土木学会主催 ⑤全日本博物館学会主催 : 工コミュージアム・シンポジウム [ 1993 年度 3 回開催 ] 丹青研究所 , たばこと塩の博物館 ⑥あさんライプミュージアム ' 94 国際シンポジウム [ 1994 年 8 月 15 日 ~ 17 日 ] 徳島県主催 以上の行事は筆者が直接 , 基調講演およびパネリストとして参加した ものであるが , 参加者の幅や層が厚く , 各会場とも盛況であり , 関心 , 34
かにするために , それから地域が発展するためにはどういう産 業 , どういう職業 , どういうものがこの地域特性にとってふさわ しいのか。工コミュージアムはそういう歴史を創る研究をする立 派な研究所なんだ。その研究所の成果を行政は当然取り入れて , その方向でエコミュージアムを行政が利用しなければいけないと いうことを , いま盛んに言っているんです。 ・新井 メージを私はイメージしたんですが , そうではなくて。 そこでいま先生が言われた研究が , ふつうの学問的な研究のイ ・池田 活性化するかというのも , 工コミュージアムとしての研究が持っ て , いまは農業主体 , あるいは林業主体だが , 今後その村をどう たとえば地域の産業構造をどうしていくのか。この村にとっ ・池田 改善や生産技術等に直接かかわる研究を目指しています。 ミュージアムで行なう研究は , 実学なんです。地域住民の生活の アカデミックな研究をイメージされると困るんです。工コ