ことを通して、当該地域の発展に寄与することを目的としているという。こうした考 2 エコー え方は、一九七一年フランスのヘンリ ー・リビエルによって提唱されたが、 ミュージアムの広さはひとつの文化圏を単位として、住民の生活すべてを包み込んで 設置されるため、従来の博物館では想像もっかない広さをもっことになる。例えばフ ランス東部国境に近いフラッグメンテッド・ミュージアムは約二五四方の広さに及 び、この文化圏には二つの町と一四の村が含まれ、一五万人の人々が生活している。 ー・ミュージアムの管理・活動・展示などについて見る 荒井氏の報告を参考にエコ と、全体として文化と環境のネットワークを柱に運営されている。まず活動の基地と して中央にコアと呼ばれる中央博物館が設置され、そのなかで当該地域の発展史が展 示されている。そして全域にわたってサテライト・センターが要所に配置されている。 このサテライト・センターがエコ ー・ミュージアムの生命である。具体的にいうと、 サテライトはすべて現在生産活動をおこなっている農家であり、牧場であり鉱山なの である。つまり博物館の訪問者は生きている資料に直接触れることができることにな ー・ミュージアムに地域の歴史・産業・ る。のみならず地域住民にとってみれば、エコ
「もの」の形容しがたい美しさと力強さ、大事さはそのままそれをつくる人たち、 使う人たちの心も知れるものだった。それは、「もの」に託する人間の心であり、「も の」を介在としたコミュニケーションのすばらしさであった。そのことが長じて、民 具研究への萌芽になったかどうかは別として、民具がつくられ、家のなかで生き動く ことの感動は、筆者の幼児体験に生きている。 筆者の意図する「青森村」は、資料館に展示されているような民具を、観賞の場か ら、暮らしの場へと再現することにある。民家が人々の暮らしの場である限り、そこ にある民具は、つくられるべくしてつくられた条件と必然性があるからこそ生活のな かで息づいていたのである。筆者は、「青森村」をそういう場としたいのである。民 具と家、環境が相まって、民具本来の輝きが一層人々に感動を与える。そしてその感 動こそ、人間に生きる知恵を与えるのである。長い歴史のなかにあった生活環境をつ くり、その環境における「もの」の再現こそ「青森村」なのである。 そこで地域文化が問われる時、地域に存在する生活文化財である民具に視点を当て 新たなる価値を見出すことが必要であり、それが地域の再確認に通じると思うのであ
このように、両市町とも成田空港関連事業と都市住宅地としての開発がすすむこと胸 が予想される地域である。また、この両市町に隣接する佐倉市、芝山町を含めた四市 町が成田国際観光モデル地区に指定され、国内からの観光客だけでなく、増大する外 国人観光客に対応した施設整備や態勢がすすめられている。 マ「房総のむら」の概要 千葉県は、前節で述べたようにさまざまな開発がおこなわれ、社会環境や生活環境が 急激に変化しようとしている。そのような状況のなかで、江戸時代から明治にかけて建 てられた土蔵づくりに代表される商家の町並みや、農村において集落を形成していた大 規模な茅ぶきの農家、そして、それらの家々で日常的におこなわれてきた生活の様子、 習慣などが急激に変化し、忘れ去られようとしている。しかし、これらの県内各地で残 されている民家、地域的に残されている年中行事や生活習置には、今日の生活に大きく
6 章博物館からのむらづくり した環境づくりを試みているのに似ている。 第二に山村特有の緑の環境は遠くから眺めるばかりでなく、より身近な新鮮なもの にするため博物館を含めた村全体が美しい緑樹と清流に囲まれて溶け込んだような人 為的な雰囲気づくりが必要であろう。少なくとも個々の施設をつないで誘導するため にも途中の歩道の植物環境は楽しく央適なものでなければならないように思われる。 そしてこの時植樹は山の雑木や野草を使い、山草植物園といった特色を出すべきであ る。例えばヤマボウシの小道とかナラの樹林道とかブナ道とかイタヤカエデの休み場 といった群生地を意図的につくるのはどうだろうか。筆者は以前、「白山ろく民俗資 料館」の敷地内の大きな斜面にシャクナゲ ( 石楠花 ) の大群生地をつくり、年に一度 一勢に咲く花見時をつくるべきだと提案したことがあったが、いずれにしろ日本人の 花好きを利用した観光地づくりは是非必要かと思われる。 第三に民俗資料館は単に過去の遺物を見せるだけではなかなか理解されず、面白く もなんともないのであり、そこでは展示品の生活道具が生きていなければならないと 考える。幸いなことに「白山ろく民俗資料館」で収集した民具の数は膨大であるため、四
4 章生活環境博物館をめざして 影響を与えたり、そのかたちをかえながら伝承されてきた数々の知恵がある。 またその一方では、一時中断していた祭礼や、団地内で実施されるようになった新 しい形態の祭りや催し物、さらに、田畑を使った農作業体験、昔話や伝説などを採集 し語る会を開き、それを後世に伝えようとするなど、伝統的な文化や生活技術を呼び おこそうとする活動が各地域におこってきている。しかも、それがとりわけ、開発の すすんだ地域を中心に多く認められるのである。そうしたなかで「房総のむら」では、 県内各地で伝承されてきた伝統的生活技術、習慣、儀礼などを、来館者が直接「体験」 しつっそれらを学び、伝承し、継承する場として設定された。 昭和五十六年度に作成された基本構想によれば、第一には伝統文化再認識の場、次 いで実体験による伝統的生活技術の理解と伝承、そして伝統技術の保存と伝承保持の 推進の三点があげられている。そのため上総・下総・安房という房総の地域性、武家・ 農家・商家などの職業の異なる代表的な民家を、自然環境、生活用具を含めて再現す る。そして、それぞれ再現された建物や空間を利用し、その生産・加工の様子、流通 の過程、消費のありさまなど実演を通して展開する他、伝統芸能や生活儀礼なども再
4 章生活環境博物館をめざして ・郷土芸能の実演をはじめ、むらまつりなどの催事をする ・来館者、地域住民のレクリエーションの場とする また、この施設の設置目的に適合させるための全体的な留意点は次の通りである。 ・来館者の実体験 ( 作業参加 ) と実演に重点をおき、体験内容、方法等を選定する ・史実を重視するが、理解普及のため来館者に「むら」で生活する実体験を持た せるような演出をする ・幅広い年代層に対応できる解説を行、つ ・実演者による解説を主体とする ・地域の特色ある植生を復元し、諸施設と調和した環境を再現する ・施設と調和した池、溝を設け、防災に利用する ・県立房総風土記の丘との整合性を配慮して、配置や導線を計画する ・食品衛生を配慮した製造、販売を行、つ
8 章「ふるさと村」の創設による地域の活性化 と村」構想同様、点 ( あるいはせいぜい線 ) 的施設の整備に終わり、しかも地域の人々 の生活をさしおいて、観光におもねるといった点に問題があると考えられる。ここで 注目されるのは、遠野市の推進している「民俗博物公園構想」である。この構想は市 民センターの基本構想に基づいて、合併前の旧七カ村 ( 農村生活圏 ) に、それぞれの 特色をだした施設公園を整備しようというものである。これの中心となる施設は、地 区センター、地区公民館、体育館、運動場、老人・児童センター、それに民俗資料館 などで、中央における市民センターの機能を各地区に配置して、地域づくりの拠点に していこうというものである。この構想はもちろん市民のための施設であるが、同時 に観光資源として開発していくことにねらいがある。 ー・ミュージアム この遠野市の「民俗博物公園構想」は、近年注目されているエコ ー・ミュージアムとは、どのようなものなのか。新井 の考え方に類似している。エコ 重三氏によれば、これは住民主導型の「生活環境博物館」とでも表現できるもので、 ある一定の文化圏を構成する地域社会の人々の生活と、そこの自然及び社会環境の発 5 展過程を史的に探求し、自然及び文化遺産を現地において保存し、育成し、展示する
4 章生活環境博物館をめざして 5 千葉県立房総のむら 5 山田常雄
4 章生活環境博物館をめざして 一、伝統的な技術、風俗、習慣を直接見学し、触れることができるとともに、自ら 体験したり、飲食 ( 食体験 ) もできるなど、柔軟な運営形態をとっていること 一、来館者のニーズに対応するため、専門職員や指導者を配置するとともに、それ に即応した、演目のための施設を備えていること 一、現在の交通アクセスは、そのほとんどが自動車、とりわけマイカーを使った利 用方法が多く、それに対応した交通網 ( 平成三年度バイバス完成予定 ) と駐車 場スペースを有していること 以上のように、「房総のむら」は、既存の博物館の展示内容とはかなり異なった「知 的なレクリエーション施設」として、ユニークな演目展開をしている。今後、さらに 演目内容を充実し、現在整備中の施設が完成すれば、従来の資料館的な展示方法から 脱却し、生活環境をも含めて再現した、新しい野外博物館になると思われる。 「房総のむら」の運営形態は、新しい形のまちおこしの手法として、十分検討され る可能性を有した博物館のひとつであると考える。 737
4 章生活環境博物館をめざして な流れとしては、以上の通りである。 また、農家や武家屋敷などにおける演目展開も、基本的にはほほ同様である。 このように、「房総のむら」は、従来の博物館の展示形態と大きく異なり、屋敷構え、 町並みといった生活空間の再現をおこなうとともに、建物やその内部に生活用具を展 示しているのが特徴である。さらに、製作体験 ( 体験学習 ) といった利用形態で、来 館者の興味や関心を高めながら、伝統的な技術や生活習慣に触れ、より一層の理解を 得るところに大きな特色がある。 一般的に、体験学習については、近年各地域に、さまざまな博物館が設置され、そ れらの館では体験学習室や体験コーナーなどが設けられているが、来館者が直接手足 を使い、操作し、製作したりすることを通じて、肌で感じたり、考えたりする学習形 態は、博物館教育の本質であると考えられる。 733