応用しています。二つの絃を持った楽器というんですか、が多いですね、一つの音を、チャン、 が生じ亠よ とやる。そうすると物理的には微妙にずれているんです。そうすると緩衝してビート すね。それがすごく心地いいんですね。だけどそれは二つの音とは言いませんね、ほとんど。 いまの物理学では、たとえばシンセサイザーで、その民族楽器と同じような効果の音をつくろ うとすると、二つの音源を適当にずらすでしようね。ビッチをずらして、その感じを出します ね。だから民族音楽なんかでも、たとえば一方の絃が緩んできちゃうとまたビッとロードして、 ちょ、フどいい緩衝・ なるほど。それはおもしろい事例だなあ。いま連想で浮かんだんですが、名前忘れちゃったんで すけど、十年くらい前の外国のテレビマンガです。なんだか人間みたいなサルみたいな、しよっ ちゅう一緒になったり離れたりするやつがあったんですがね。なんかおもしろい音楽つきで。こ れが同じか違うか。あるいは最近話題のグローン人間が同じか同じでないか、ということですね。 ジャッグ・モノーも例出しています。先生のご本にもあります、ロポットは人間かロポットか 生物学的に人間じゃないと言えないロポットをつくった場合に、あるいは火星に観測しにいっ て、生物学的に言うと生物だと言えちゃうものが見つかった時にそれを生物と言えるか。同じ ような問題ですね。 & く今 > とはどういう時間か
はい、そうです。光の場合には光の光源の性質ですね。たとえば色とか、光の強さ、そういう ものをもちろん条件として : ええ、あるんですが、それはあんまり決定的には響かない。 そうですか。決定的というその度合いがばくは数値的にはわかりませんが、音の場合では、ど 力なり重要な気がしますね。だけども、 、つい、っ立日かとい、つこと、つまりエンヴェロープとかは、、 経験的に言いますと、時間の幅ですね、二つの音が出る、これはかなり決定的だと思います。 その時、一つ一つの音を別々に聴くと非常に鋭い断続音が聴こえるとします、点状の。その二つ の音は、たとえば高さが違い、そして音源の距離が違うと仮定しましよう。たとえばポンツ、と ートに聴 , えるとい、つこ やってポンツとやりますね。それが時間間隔が狭いと、なだらかなレガ とにはなりませんか。 なりません。ビッチの違いですね。フリグエンシーの違いは、たとえば同じ時間間隔で同じよ うなアタックを持ったものが、同じ周波数を持って鳴ると、つながって聴こえる。ところがオ クタープ上の音だとそれは別々の音として聴こえる。つまり運動としては聴こえないというこ 43 く今〉とはどういう時間か
つまりばくの経験ですと、その違いは、むしろ音色の違いとして感じられます。ずれとしては 聴こえてこない。ずれとして聴こえてくるのは、もっと粗い、たとえば千分の四十ぐらいでし ようね。それとどういう音が鳴るかによってずいぶん違う。 でしようね。そこで坂本さんに伺いたいんですが、その時、音色が、いまおっしやったように違 って聴こえます。ですがそれが一つの音であったか、二つの音であったかを、その人に訊いてみ ると、両方の場合とも一つの音だと言うんじゃないですか。 そうです。ばくはそういうふうに仕掛けるはうですから、意図を持ってそういうことができる 機械を操作して二つの音を出すことを欲している。だからいわゆる科学的な描写で言えば二つ のずれた音が鳴った。けれども、音のずれを必要としているわけではありません。ばくも知覚 の上ではずれとは聴こえてないわけです。 でしようね。おそらくそれは百分の一秒以下じゃないでしようか。音の二つに先と後があるとい うことが識別可能なのは百分の一秒あたりじゃないですか。 リ見ることと聴くこと
しかに違うとも言えるわけですね。しかし数学の中では、イコールでつないでいい。計算の中で それを置き代えてよろしいという意味では同一なんですね。ですから数学者は非常に神経質に、 イコールということを定義しているわけですね。物理学者になると、たとえば陽電子と電子がぶ つかってガンマ線になる。そうすると陽子と電子のペアとでき上がったガンマ線は同じか、と言 ったら物理学者は、その二つから出てきたガンマ線だから同じだと言う人もいましようし、片っ 方は電磁波たし、片っ方は素粒子だから違うとも言いますね。しかしそこでなにもゴタゴタは起 きないわけです、物理学者には。はっきりしているわけです。どういう意味で同じだと言ってい るのかわかっていますから。人間の場合もそうで、私が酔っ払ってる時と素面の時と人が違うと 言われますね。これはだれも疑間を持ちません。と同時に、同じ大森であるということにも疑問 持たないわけです。そのように同一性ということの使い分けをわれわれは自由に、日常生活の中 でやってます。ですからその日常生活の中での使い分けがおたがいに諒解されてれば危険はない んです。ところが哲学屋がそこへ人ってきて理屈を言い出す。同一性とは一体どういう条件を充 たした場合をいうのか、といい出したら混乱が起きてくるわけです。たとえばヒュームは、人間 は刻々違うんだから人格の同一性は妄だと言う。これは私はヒュームの大間違いだと思います。 というのは、ヒュームには同一性の意味はたった一つしかないものという先人観がある。だから 間違えるわけです。そうすると、では同一性という概念は、どれだけフレキシプルなのかという ことですね。それは一つの文化の中で大体おのすと合意されていくと言う以外ないと思いますね。 万く今〉とはどういう時間か
これがむずかしいですね。遠目に見ると後先がある。近くに寄ってみると後先がな を探したい。 くなっちゃう。このイメージが私はほしいのです。 もう一つは現在という厚みですか。それを先ほど実現がありましたね。未来に対して現在、実 現という現在、実現するにはやはり、ふつうの言葉で言うと、ある時間の拡がりといいますか。 厚みがないといけませんね。 それはかなり厚いやつだろうと思いますね。 そうですね。それからたとえばここまで手を伸ばそうというここまでという、どんなに短くて も、ふつうに言うところのある幅がないと、一瞬ではいけないわけですね。 ええ、それはそのとおりです。 だからいつもつねにある物質的な状態でいる、人間というか。ということ考えるとつねに実現 する、その実現するという、さまざまな幅を持った、つまりュニットじゃなくていいんじゃな いでしよ、フか、ての一 0 田とい、フのは。 未来が立ち現われる 180
この問題はじつは時間の、まさに時間の間題です。そして〈現在只今〉ということが、昔から心理 学者が困 0 ているんです。そこで機会があれば議論していただきたい。こんど第一一講の時にその 試案を持 0 てきます。結論から言いますと、空間的な分解能のことと、時間的な分解能のことを つまり両方持ってます、同時に。それ矛盾してませんね。 ーティ効果なんかもそうですね。 あれはわざと粗くしてるわけですね。機械はそれはできにくいでしようね。コンビ = ーターは ね。そうするとそれは意味を受け取るという人間独特の社会の組み方、音声による意味の交換 とい、フことになってくるんでしよ、つね。 だと思いますね。同じことが、たとえば触覚ではどうだということ、私知りませんけどね。触覚 はずいぶんラフですからね。触覚の目的はそういう微細なる識別ではありませんから。昔から識 別閾というのはよく言われてたわけですね。背中にコンパスの二つの脚先をあてて、だんだんせ ばめていくと、一つに感じた。ところで、さ 0 きからのオオカミの話、それから光の場合、仮現 運動の話、触覚の話は、分解能の問題としてまとめられると思うんです。 同時性と〈現在只今〉 ウ見ることと聴くこと
なりますね。それでもう一つ、ぼ くがこ、ついうことをトライしてみたりする時に、ほとんどシ ンセサイザー、電気的に音響を合成する機械でやる場合が多いわけですね。そうするとよく使 うのは、純粋サイン・ウ , ーヴです。純粋と言われてますけどね。で、サイン・ウーヴ的な 音というのは自然界には非常にまれで、むしろホワイト・ノイズをフィルターでカ , トしたり、 ど 0 かを持ちあげたりしたというものが、耳のほうが現実の音を再現します。機械を使 0 て、 非常に抽象的な音を作 0 てもそもそも人間にと 0 ての音と違うのかな 0 て。そういうふうには 聴こえないようになってるんじゃないか。 なるほどね。坂本さんの手にはうんとたくさんの、これまでにはなか 0 た手法があるんでしよう。 それを自在に重ねて駆使して、それで空間的な形とか向きとかを表現できたらおもしろいですね。 それから音を聞く時に上下ですね。高さ。ここにスビーカーがありまして、こちら側から聴い ているとしますね。上下 0 ていうのは、これがオクタープ上のド、下のドとしますね。だけど も音色、つまりどういう楽器を鳴らすか、どういう周波数、波形を示してるかで、この上下の 関係が逆転したりしますね。 ある心理学者に聞いたんですが、 = , シ ~ ーのいつまでもきりなく昇る階段の絵のように永久に 見ることと聴くこと 28
今おっしやったことは直接はもちろん書かれてありませんから、とても知りたかったことなん ですね、大森先生が何をしているのかということを。 たとえばゲーテが言っている、緑の野に、あえて枯れ草を食らうわけです。これは異常嗜好とし か言えない。おそらく人間のほんの一 % か二 % はそういう病気にかかる。と同時にそのことは、 どんな人をとってもその人のどこかにそれが一 % か二 % はあるんじゃないかと思いますね、また 時代もあります。たとえば戦後すぐ、西田先生の本に若い連中が殺到したというのは、なにかあ これもまたこ の戦後の若い世代の一つの特徴付けにはなりますね。この頃哲学の本が売れない、 の時代の一つの特徴たろうと思うんですね。 時代の要請 ばくはちょうど六〇年代後半、六七年に高校人学しまして、ちょうど七〇年安保という年に大 学に入学しまして、ばくがこういうことに興味持ってるとか、それから自分の興味持ってる音 楽をやってられるというのも、もちろんそれだけではありませんが、その頃の、たとえば意識 についての興味などから、どうも続いてはきているようなんですね。それで今思い起こすと、 あの頃、たとえばいろんな要素がごった煮になっていたわけですけども、たとえば自立という 2 巧く私〉はいない
ええ、またちょっと危険が生ずる。何言っても危険なんです、これは。おそらくびったりした比 喩はないだろうと思いますね。前に言ったビンポケの比喩は不十分です。しかも少しも神秘的な ふしぎなことじゃなしに、誰もが生まれてから今まで一刻もそれから離れることはない、そうい うものですからね。 このことを表わす言葉を、とりあえず今までばくらが持ってないということは、今新しく出て きた聴こえ方、見方なんでしようかね。 こうだと思います。私の動きを非常な速い映画に撮って、たとえば指がどうなった時は何時何分 かを決めていく。物理的にはいくらでも細かく決められるわけです。つまり私の肉体を一つの測 り得べきものだとすれば、物理学でいくらでも細かく測れます。だけど、私がこれ飲んで、こう いう味がした。あるいはこのライターの光がいま見えた、坂本さんの声が今聴こえた、という時 の〈今〉はそういう測定方法で測定することはできないと思います。つまり何億分の一秒まで測 定するということの意味がない。たかだか一秒ぐらいの範囲で、二時五分過ぎから二時五分一秒 の間にあって、ということ。つまり二つの物理的な時刻で挾むことはできる。そして挾む間の間 隔、それは大体、二分の一から十分の一秒ぐらいじゃないかと思うんです。ふつうのケースで。 風景を透し視る驎。
年代における論理実証主義の・ハイプルとなった。後著では、会話体ないし対話体で日常言語の用法が一見ランダムにとりあ げられ、一九四五年以降の日常言語学派 ( オクスフォード学派 ) の活動の端緒となった。 〔ジェームズ〕 William James 1842 ー 1910 プラグマティズムを代表するアメリカの哲学者・心理学者。『心理学原理』 「宗教経験の諸相』「プラグマティズム』「根本的経験論』などの著作がある。心理学者としてのジェームズは、要素的験経 が他の経験を呼び起こすという連合主義を排して、機能的心理学を提唱した。哲学者としては、同じくプラグマティストで あったバースが、科学的・論理学的な行動の記号学的パターンを強調したのに対し、形而上学的・宗教的であったジェーム ズは、純粋経験は生命の流動であるとした点、むしろベルグソンと内的近親性を持つ。 〔ベルグソン〕 Henri Bergson 1859 ー 1941 生の哲学を代表するフランスの哲学者。著作に、「意識の直接与件について の論文』 ( のちに『時間と自由』と改題 ) 、「物質と記憶』『創造的進化』「道徳と宗教の二源泉』などがある。ベルグソンの哲 学は、方法的には直観主義、立場上は体験主義をとり、内容的には創造的進化つまり ^ 生の躍進élan vital 〉の宇宙進化の 体系であるといえる。 〔純粋持続〕 durée pure 自然科学的な一次元連続体としての時間概念に対置される、ベルグソンの体験的時間概念。そ の定義は、ベルグソン自身の言葉で言えば、「純粋持続とは質的な変化の継続でのみありえよう、その変化は互いに浸透し、 互いに貫入し、明確な輪郭をもたず、相互に外的な関係に立とうとする傾向はなく、数とはわずかの類似も示さない、それ は純粋異質性であると言ってもいいだろう」となる。 〔ランポー〕本文で言う〈色と音とのつながり〉を、ランボーは「母音」という詩に表現している。「は黒、は白、は 赤、は緑、 0 は赤、母音たち、おまえたちの隠密な誕生をいつの日か私は語ろう ( 中原中也訳 ) ではじまり、たとえば、 「、眩ゆいような蠅たちの毛むくじゃらの黒い胸衣は、むごたらしい悪臭の周囲を飛びまわる、暗い入江」と続く。 〔ホワイトノイズ〕白色雑音。連続スペグトルをもち、周波数帯域一ヘルツに含まれる成分の強さが一定である音を言う。 現代音楽に多用されている。なお、本文中、〈ホワイトノイズをフィルターでカット〉で言う〈フィルター〉とは、ある振 動数範囲の音は通過させるが、それ以外の振動数の音には大きな減衰を与える音響フィルター装置のこと。 〔スティーヴ・ライヒ〕 Steve Reich 1936 ーアメリカ現代音楽の作曲家。バルス的なビートを持っ短いフレーズを反 用語解説 2