訳者あとがき いつも、ふしぎに思うのは、花が、人間の目にもきれ いに見えることです。花がきれいなのは、人問のためで はなく、虫をよびよせて、花粉をはこんでもらうためな のに、本当にふしぎですね。また、花のかおりには、わ たしたちの気持をやさしくしたり、元気にしたりするは たらきもあるそうです。 むかしは、人問も、ほかの動物や虫たちとおなじよう に、花とたすけあって生きていたのかもしれません。で も、いまのわたしたちは、花からいろんなものをもらう だけで、花をたすけるのをわすれているような気がしま す。それでは、いったいどうすれば、花をたすけること ができるでしようか。その答えは、きっと、花をよく見 たり、せわをしたりしているうちに、花がおしえてくれ ることでしよう。 花のいとなみ 0 1995 Printed in Japan ISBN 4 ー 900621 ー 03- X ウナ・ヤーコプス (lJna Jacobs) 1934 年ドイツ北部バルト海に面したロストッ クに生まれる。ミュンヒェンの大学で、動物学、 植物学、地理学を学び、 1958 年理学博士の学位 をとる。後、数年間、家族とともにアメリカに 滞在。 1967 年ミュンヒェンに帰ってからは、生 物学の分野の書籍の翻訳、および児童向けの本 の執筆をおこなう。 1975 年からは絵も描きはじ め、 1978 年以降自然をテーマにした絵本の著作 にとりくんでいる。この Elle 「 mann 社発行 の lJh 「 en シリーズでもく太陽〉、く地球〉 ( あむ 1995 年 8 月 25 日初版発行 学部卒業。現在はドイツ語の翻訳に従事。 1959 年東京生まれ。 1982 年早稲田大学第一文 塚原真里子 ( つかはらまりこ ) すく既刊 ) 、く蝶〉などを担当している。 T EL03 ー 3 四 3 ー 8689 振替 00150 ー 6 ー 114525 〒 101 東京都千代田区神田小川町 3 ー 1 ト 2 ー 811 発行所ー ( 有 ) すく 発行者一竹村昌子 訳者一一一塚原真里子 著者 - ーーウナ・ヤーコプス 印刷・製本一株精興社
花のいとな 塚、真里 と絵ウナ・ヤーコプス 花と虫たちの 1 年
花には、どんな秘密があるのでしようか。花と虫、花と動物の友情とは、いったい、どのようなも のなのでしようか。花は、虫や動物たちとたすけあいながら、たねをつくり、子孫をのこしていき ます。そして、自然の中で、大きなやくわりをはたします。この絵本は、わたしたちに、花のふし ぎと、花にふれるよろこびをおしえてくれることでしよう。 ■既刊 地球のいとなみ 植物。動物とともに わたしたちの地球の一年 文と絵ウナ・ヤーコプス 訳塚原真里子 I S B N 4 ー 9 006 2 1 ー 0 ろー X C 8 09 7 P 1 8 0 0 E あむすく / 定価 1835 円 ( 本体 1748 円 )
花のいとなみ 花と虫たちの 1 年 文と絵ウナ・ヤーコプス 訳塚原真里子 あむすく
花と動物たち ちきゅう 地球には、かぞえきれないほどたくさん の花がさいています。みなさんのよく知っ ているタンポポも、そのひとつです。 にんげん 動物や人問とおなじように、タンポポに も、いのちがあります。このように いの せいぶつ ちあるものを、生物といいます。生物はみ な、栄養をとり、大きくなって、なかまを ふやし、いつの日か、死んでいきます。人 しよくぶつ 間も、動物も、タンポポのような植物も、 それはおなじです。 植物は、毎年花をさかせ、たねをつくる どりよく ために、さまざまな努力をしています。そ の多くは、動物たちのしている努力と、よ くにています。たとえば、チューリップは、 きゅうこんようぶん さむい冬にそなえて、土の中の球根に養分 をたくわえますが、これは、ハムスター② こくもつ が、土の中の巣に穀物をためておくのとに ています。また、バラやアザミは、ハリネ ズミ⑧とおなじように、とがったはりやと げで、身をまもっています。 植物は、モリフクロウ⑥のようにみはり をすることもなければ、ネコ③のようにい ねむりすることもありません。けれども、 たいよう かん 太陽がどこにあるかを感じることはできま きせつ すし、ちゃんと、やすむ季節もあるのです。 さて、絵の中に、ふんをしている小鳥 ( ノドジロムシクイ ) ④がいますね。動物は みな、えさを食べたあと、ふんをします。 しようか これは、消化できないものや、いらないも そと のを、からだの外に出すためです。植物は、 いらないものを、ま ふんをするかわりに はなどうぶつ えいよう
とめて葉にためておきます。そして、秋に いらないものを、 なって、葉がちるときに 葉といっしょにすてるのです。 じっとしているように見えるタンポポも、 葉⑩を太陽の方に向けたり、花⑩をひらい たりとじたりして、うごいています。たね @も、とおくまでとんでいきます。けれど じゅう も植物は、動物のように自由にうごきまわ ることはできません。そこで、たねをつくる ときは、虫たち⑨にてつだってもらいます。 たねは、植物の赤ちゃんです。タンポポ のわたばうし@をよく見ると、中に、タン ポポのたねがたくさんあるのが、わかりま す。たねは、おかあさんタンポポから養分 をたっぷりもらい、それをつかって、そだ っていきます。ツバメのひな⑤が、親鳥か らえさをもらうのと、おなじです。 ところで、植物にできて、動物にできな ひかり いことが、ひとつあります。それは、光と、 くうき 空気と、土の中の水をつかって、養分をつ くることです。養分をつくっているのは、 ぶぶん 緑色の葉の部分です。ノウサギ⑦が、タン ポポの葉を食べると、葉の養分も、からだ の中にはいります。わたしたち人間も、野 菜や穀物やくだものを食べて、生きていま すね。植物は、動物や人問のいのちをささ える、大切なたべものなのです。 さいこハッカネズミ①を見てみまし よう。せっせとからだをなめて、きれいに しています。タンポポはそんなことをしな くてもいいのです。雨が、ほこりやよごれ をあらいながしてくれるのですから。かん たんで、いいですね。 みどりいろ さい
春のめざめ 花の一年がはじまりました。おもては、まだつめたい風 のはら がふいて、まるで冬のようです。でも、野原ではもう、白 やピンクのクリスマスローズ②がさきはじめました。さむ い冬のあいだも、植物はずっと生きていたのです。 雪の中から、スノードロップの花⑨が見えはじめました。 やがて、クロッカスの花④がさくと、いよいよ春です。 ときおり、黄色いクロッカスの花びらがむしられて、ち っているのをみかけます。これは、ツグミのオス③のしわ ざです。黄色いクロッカスと、ツグミのオスのくちばしは、 色がそっくりです。ですから、ツグミは、春、巣づくりを しているときに、黄色いクロッカスを見ると、ほかのオス がじゃまをしにきたとおもって、こうげきします。それで、 クロッカスの花はめちやめちゃにされてしまうのです。 春の花には、球根から芽を出すものがたくさんあります。 チューリップ①も、そのひとつです。チューリップは、秋 のうちに、球根に養分をたくわえ、小さな花と葉のもとを つくっておきます。そして、さむい冬のあいだは、土の中 の深いところでぎゅっとちぢこまって、春をまちます。 春になり、日が長くなってくると、あたたかい空気が、 土の中の深いところまで、はいってきます。そして、光の かわりに、球根に春をしらせます。土にじゅうぶんなしめ おんど りけがあり、温度が田度くらいまで上がると、チューリッ プの球根から芽が出てきます。芽は、球根から養分をたっ ぶりもらって、ぐんぐんのびていきます。 スノードロップやクロッカスの球根は、温度がすこし上 がっただけで、春がきたことに気づきます。そして、春い ちばんに芽を出して、花をさかせます。 もっとあたたかくなってくると、いろいろな花が、つぎ つぎとさきはじめます。チューリップのつばみが、葉のあ ふか
こうえん にわ いだに見えてくるころには、庭や公園は、ヒヤシンス⑦、 ラッパズイセン⑧、、クチベニズイセン⑥、サクラソウ⑤な どでいつばいです。 球根に、芽を出す時期をおしえてくれるのは、さむさと あたたかさ、雨と風です、、、けれども冬でもあたたかい日 があたり、春でもさむし当があ。たりしますね。それな のに、球根はなぜ、芽を出す時期をまちがえないのでしょ てんき うか。それは、天気のほかにもうひとつ、日の長さという、 あいず たしかな合図があるからです。冬 ? あとで、昼がだんだん 長くなり、あたたかくなっていけば、もうじき春だという 合図、夏のあっさがすぎて、日がみじ、くなり、すずしく ひる なっていけば、秋がきたという合図です。 へんか 一日一日の小さな変化を、植物はしつかり感じています。 そして、その変化から、季節をよみとています。芽を出 し、花をさかせる季節、たねをみの、せる季節、しずかに じっとしている季節、といったよ、に、それぞれの季節に あわせて、じようずに一年をすこ・します。 けんか 植物のうち、花をさかせるのを、顕花植物、または、 種子植物といいます。近くに花があったら、ちょっとなが めてみましよう。ペランタのはちうえの花でも、庭の花で も、道ばたの花でも、カまいません。どんな花でも、自然 ほうそく こはたらいています。 の法則は、おなじよ、 しゅし
( 1 人問にはこう見える キジムシロの花 ミッパチが見ると・・ はいしゅ 胚珠をまもり、虫をさそう ばしよ 草花を見たときに なかには、蜜の場所がわかるように、めじるしをつけて ばっと目につくのは、葉や茎よりも、 みつひょう 色あざやかな花の部分です。花は、色がきれいなだけでな いる花もあります。このめじるしを、蜜標といいます。ワ スレナグサの花⑥を見ると、まんなかが黄色くなっている く、ビロードのようにやわらかく、 いいかおりがしたり、 かたち のがわかりますね。これが蜜標です。また、キジムシロの いやなにおいをだしたりします。花の形もいろいろです。 ほそなが 空を見上げている花、うつむいている花、細長い花。スズ 花のように、人間の目には見えない蜜標もあります。 すず ランの花は、鈴の形をしていますし、バンジーは、なんと 花は、胚珠をまもりながら、虫をよびよせます。そのし くみには、おどろくばかりです。それにしても、花はなぜ、 なく人の顔のように見えます。 どの花も、色や形はさまざまですが、しくみはおなじで こんなにけんめいに、虫をさそっているのでしようか。 す。たとえていうなら、花は、とおくからよく見える、丘 きれいな花の色や、あまいかおりにさそわれて、ミッパ ねったいちほう の上のおしろのようなものです。 チやチョウが、花にとんできました。熱帯地方では、虫の おしろのへいにあたるのが、ふつうは緑色の、かたいが 小鳥やコウモリもやってきます。花のおくには、 ほかに みつ くへんです。おしろのかべは、花びらです。花びらは、や 虫たちの好きなあまい蜜があります。虫は、あまいかおり ねのようになっていることもあります。 をたどって、おしべをかきわけ、蜜をさがします。そのと ふとはしら かふん おしろのまんなかにある太い柱は、めしべです。めしべ き、おしべのてっぺんにある葯から花粉がこばれて、虫の ちゅうとう のてっぺんの、しわがよっている部分を、柱頭といいま からだにくつつきます。 しぼう ね へや す。めしべの根もとには、子房とよばれる小さな部屋があ ります。あついかべにまもられた、この部屋の中には、あ ①クチベニズイセン ⑩マッムシソウ ②リンゴ ( ② / ヾン、ン一 - とでたねになる胚珠がはいっています。植物は、たねによ ③スノードロップ ⑩チューリップ しそん ④フランスギク ()マンテマ って子孫をのこし、なかまをふやしていきますから、胚珠 ⑤ハナウド ⑩ヒナゲシ ⑥ワスレナグサ ⑩ノウゼンハレン は、花にとって、なによりも大切なものです。そこで、花 ⑦アヤメ ⑩マリーゴールド は、だいじな胚珠をまもるため、雨やさむさが、中にはい ⑧キキョウのなかま ⑩タンポポ ⑨チコリ ⑩セイヨウサクラソウ ってこないようにしています。 ⑩キランソウ ⑩ハゴロモグサ いろ ④ュリ 2 ) スズラン @ ミッパチ @カミキリムシのなかま ④ハナアプ ④テントウムシ @マルハナバチ @オオモンシロチョウ 10
花びら , こに花粉が はいっている 花糸 おしべ 6 、 めしべ 子房 このなかに胚珠がある がくへん