とて五錢六錢貸し過しをして流されては此方が助からぬ、どう蹈み御眼は水晶、此様な無理を云るを直さう爲めに此方〈お預けなさ 直しても七錢よりは付きませんと、跡はいくら口説も取合はねば、 れたはよい御分別、コレ千太郎殿お聞なされ、お前は萬助様が御身 ば、けなしるす、 ふうき 婆は涕汁を吸りながら、我がしめて居た木綿のクタ / 、帶を解いて代を仕出された後に生れ、富貴にお育ちなされたゆゑ、世の世智辛 ゃう 鍋に添〈、漸やく十一一錢借りて歸る。左りとは憐れな有様、實に氣い事を御存じ有るまいが、貧乏人といふものはいづれも憐れ氣の毒 うしと、 こじらや あるじ が弱くて出來ぬものは丑の刻參りと小質屋の主人なり。萬助の悴千ならぬ者はなく、お前のやうに一々それに涙を溢しては海の水を逆 太郞は親の云付に是非なくも仁助の家へ來ての小僧代り、身の苦し さにあけても足りませぬぞ、五十錢といふは三十錢、一分といふを さ辛さははねど、毎日來る質置きたちの餘り氣の毒なのを見て涙二十錢に踏み落し、隨分念を入れて付けてさ〈、流れた跡で調べて たもち兼ね、仁助に向ひて、誠に御面倒ではござりませうが、乳母見ると大きな損のゆくことは度々、情ない話しを聞たびに合力の心 の所までやる手紙を一通お書きなされて下されと言〈ば、仁助は顔を加〈て云ふま乂に貸して御覽なされ、忽まち身上は潰れて此方が おうら もん からだこもまと を打守り、夫は定めて此家に居るが辛いゅゑ御家〈歸りたいとの文身體に菰を纒はねばなりませぬ、お前は十一一の年弱、此方の子の爲 ごん あなた 言でござらうが、爰をよく御合點なされませ、親旦那とて貴君を憎吉は十三なれど、其の了簡は雲と泥、旦那殿もお聞なされ、此方の わたくしかた んで私方、遣されたのではなく、全く修業の爲めなれば、辛いと爲吉の發明さ、昨日も三圓だけ錢買ふて參りませうと云ふゅゑ、有 いた 思ふを堪へ玉ふが御孝行、私方にてもお痛はしくは存ずれど、親旦も餘らぬ店の金を持ち出して何にすると問〈ば、今ま角の湯屋で錢 なみ 那が深きお賴みゆゑ、わざと他人の小僧並に使ひ立てるを惡しくはを兩替にやりたいが手間が掛る、一錢打で買ふ者はないかと、頭を さと いや / ー、こ、 思召さぬものと論せば、千太郞はホロリと溢し、否々此家が辛いと掻いて話して居たを聞ました、直を押したら三圓で四錢は打ちませ しらおき うら の手紙にてはなし、先ほど參た婆さんのような質置逹が餘り不便でう、家〈來る質置にまッた札を欲しいといふものもなければ、四 うは ござりますゅゑ、乳母より金を貰ふて、彼の人たちに欲がるだけづ錢でも上儲けと、直に驅け出して行ッて四錢打歩を取ッて錢に換へ 遣たうござります、としやくり上るぞいぢらしき。 て來たさへぬかりのないと思ふに、間もなく裏の車夫の内儀が來て んじよへん 心につる乂姿とて、此の仁助の女房おたけといふは本所邊に住ひしおむづかしながら此の紙幣を小さいのと換へて下さりませといふ はたもといもと キ - りらん まは 舊幕旗下の妹なりしが、仔細あって屋敷を出で此の仁助と夫婦にな と、直に錢を渡して切賃とて一錢跳ねた手際、大人も及ばぬ繰り廻 り、始めは固き結び帶も崩せば馴るゝ世帶女房、今は親里の者も散し、育ちも育ちがら商人に生れ付いた働き者、慰みに質を取るやう りえ、に行方知れずなりたれば、此の家を大事と思ふ心一層強くなに思ッてござる千太郞殿とは大きな違ひ、お悅びなされ、此方も私 もらまへ るにつれて、始末氣も深くひすこいは女の性分と云ひながら、だんも年寄ッてから樂をする身になりませう、誠に比べて見る物がなく りんしよく かんりやくものて、おや わかま、 ′、吝嗇になるに習ふて、悴爲吉も母まさりの勘略者、父親仁助をては善い惡いは判然と分らぬ、千太郞殿の我儘を聞いて此方の爲吉 りはっ さへ帳合の上ではやりこめるほどなるが、おたけは今ま千太郞が涙の利發が知れた、チト褒てやって下されと、鐵漿のはげた齒を剥出 めたへ・・ よたれ ながらに仁助に賴む事を傍聞して聲高く打笑ひ、此子とした事が飛、し、誕をたらし、眼を細して餘念なげの我子自慢、母親の心は何處 さす しんしよう だ我儘ばツかり、遉が萬助様は一代に彼の身上にならるゝ程あッても斯したものと見たり。 くどく ふびん はツを一り さっ てを、は かね くるまや
だまっ それ びつく 出て匂ふ此家ぞト此内千太門の内〈這入お照顏見合セ恟り思入有てましたから百圓金を遣たのだ夫を知らね〈と云れては默止て聞て居 うそ わっ 俯向三重にて淸元連中を消す ( 千 ) 眞平御免下さりませ ( 照 ) 千太さんられね〈〇モシ旦那私チが僞を言ね〈證據は是でお察し下さりませ こなた おもいれ あつら あひかた ト輝思入有て ( 輝 ) いかにも貴殿の云通東京ならば知らぬ事只一通で か ( 千 ) お照さん久し振りで逢ひましたねト誂への合方に成千太下手 をりたに へ住ふお照思人有て ( 照 ) お前は逹者で居なさんしたか ( 千 ) あの折谷呼だ藝者に百圓遣ふ譯がない〇シテ又旅で此照と云交したと云るゝ きす 〈飛込で助る迄も大我と思ひの外に疵もなく浮雲ね〈命を拾ッたには何ぞ證據が有ての事か ( 千 ) 共證據はお照から指輪を貰ッて置ま あつらへ びつく 故日光山から筑波を掛土地に名代の雷と共に諸方を・ころ付歩行漸した ( 照 ) ヱトお照恟りする千太左の藥指〈はめし誂の指輪を見セ ぎんだいきんめつきてうじくるま めへ こっち ( 千 ) しかも銀臺金鍍金で丁子車に照と云名前を彫てあるのが證據 先月此地へ出たがさうしてお前は白川から何時此地へ出て來たのだ よんどころなくあげ たっ なさ あやふとこ ( 照 ) 私もあの折既の事命を捨る所で有たが危ひ所〈此旦那がお通被 ( 照 ) 夫はお前が其折に逹て欲いと云しゃんす故無據上た指輪夫が いっしょ 成てお助下されまだ共上に前借も奇麗に濟して東京〈旦那と同件に證據に成升物か ( 千 ) 是が證據に成らね〈とは能そんな事が云れた事 ごにち ごしんぞさま あやふ だ言交した其時に後日の證據に取交したダイヤモンドの這人てゐる 歸りました ( 千 ) 夫ちやア危ひ難義をば助られたが縁と成御新造様に きん 成たのか成程女は氏なくて玉の輿の立身出世何にしろ目出て〈事だ金の指輪を持て居ね〈か ( 照 ) 私しやお前に指輪などを貰ッた事は有 お椴かたおれやっ なさけ ( 輝 ) 何れの人か存ぜぬがお照が懇意とあるからは茶でも早く進ぜぬませぬ ( 千 ) 貰はね〈とは情ねへ斯う云旦那が出來たから大方己が だま か ( 淸 ) 畏りました ( 千 ) イヱ其お茶には及びませぬお火を一ッ貸て下た指輪は小間物屋〈でも賣て仕舞今知らね〈と云のだらうヱ、欺さ くちをし なされ さりまし ( 淸 ) サア一ぶくお上り被成ませト千太の前〈莨盆を出す千れたが口惜ひト千太わざと悔しき思人お照も悔敷思入にて ( 照 ) 口惜 キ - せる くん 太思入有て ( 千 ) お照さんお前の烟管を貸て呉ね〈 ( 照 ) イヱ此烟管はいのはお前より私がどんなにくち惜いか身に覺もない事を指輪を遣 いひわけ いひかけ みなり ト烟管を脇〈潰る ( 千 ) 何も身形が惡ひと云て穢ながるには及ばね〈たと云掛られ旦那の前〈言譯がない ( 千 ) 何言譯のね〈事はね〈以前 いひかは づくっ 旦那の前では云憎ひが白川に居た時分には一ッ物を半分宛喰た事も言交した男だと云て仕舞ば濟事だ ( 照 ) まだ / 、そんな事を云てトお とて あきら なるど 有ぢやアね〈かトきざに云お照思人有て ( 照 ) 成程私が白川に藝者を照立掛るを輝留て ( 輝 ) コレお照靜にしゃれ覺がないと云た迚云ば互 みづかけろん くちひろ して居た共時にお前に呼れて十日程座敷〈出た事が有がロ廣ひ事だひに水掛論證據に成てならぬ譯だ ( 千 ) そっちは證據が有め〈が此方 たしか が遂に一度私しゃ曖昧な事をした覺はありませぬ ( 千 ) 夫りやア今更は貰ッた此指輪是が何より確な證據だト此時奧より以前のお市辨山 さう お常出て來り ( 市 ) さっきからがや / 、と騷み、しひから出て來たが 知らねへとしらを切られても證據はなし其晩並べた枕より外に知ッ くは めへおふくろ て居る者がね〈から知らね〈と云れても仕方がね〈がお前の母がお前は銀行の喰せ者 ( 辨 ) 何で此地らのお内〈來たのだ ( 千 ) 白川以來 のつびき しゃうぎ 東京から金の無心に來た時に出來ずば旅の娼妓にすると延引ならね尋ねて居たお照が此地に居る事を知って態ど、尋ねて來たのだ ( 常 ) 〈場合を見兼百圓出して遣たのはよもや忘れはしめ〈ね ( 照 ) ム、〇お前はさっき湯屋の前で御新造様を聞た人だね ( 千 ) フ、内を聞たは こっち おっか トお照ぎつくり思入有て ( 其時お前が母さん〈百圓渡し被成たは忘お前だったか己らア此内の御新造の斯う見えても昔の色だ ( 市 ) 何を おれ やります れはしない覺て居り升 ( 千 ) 通一遍の放藝者に只百圓と云金を遣升者お前は愚圖 NV¯とそんな氣障な事を云て娘に難義を掛るのだ成程己 ちけ しゃうぎ が白川で娼妓にすると威した時百圓出したに違へねへが何もあの時 が有ませうか枕を並べて寐た上で末は夫婦に成らうと云堅ひ約束し きた こっち こち わざ
はしご あなた りいひをる時しも、二階の階子をミシ / 、と登りながら、共似てを双兒とはいへ、斯もよく似てゐるとは、夫につけても貴嬢のやう 四る譯をお咄し申しましよと、いひっゝそこ〈ざにつくは、是別人なに、まじめにさせておきたかったが、段々續く不仕合に、是非なく おとっ らず、小久が養父三兵衞なれば、小久は驚ろき、アレ親父さん、 此様な賤しい稼業をさせるも、今と成ては皆樣の前へ面目ないと、 こなた ごしんぞ ことば ぶしつけな、此方は小梅の旦那の御新造さまと、いふを親父は呑込涙片手に物語る、始終をきいてお八重とお吉、顏見合せて暫し詞も なく んで、進み出、マア御挨拶は後にしませう、今東橋亭の晝席から戻泣ばかり、小久も始めて身の上の委しき事をしるしなる守袋を打返 きく どなた って見ると、女中のお客、誰樣であるかと階子の下で聞ともなしに し、是が父御の手跡かと見やる此方に、お八重も同じ守袋の紐とく のこらす うはふう お咄しを不殘聞て、扨はと思ひ出したる事があるゆゑ、直にお目に / 中から臍の緒の包みを取出し、表封ひらけば、小久のと年月 かゝってとは思ったが、めったなことはいへねば、もしもと小久の日時も同筆同様、そんなら貴嬢が姉さんか、イ、ヱお前が姉さん 守袋から、臍の緖の包みを出して、表の封じを披いて見ると、此通 と、分っにかたき姉妹が互ひに手と手を取交し、喜ぶ様を見聞す きゃうだい あなた り松坂屋庄吉娘と有からは、其お八重様とは實の姉妹、夫を貴孃が る、お吉の胸の疑ひは、睛ても頓にはれやらぬお八重が上の憂雲 こば そゼ 御存じないのは仔細のあること、此親父にも一人の野郞が有ましたに、雨を翻して一座の袖濕りがちにて、殊更に咄しに身さ〈入相の が、數へてみれば十八年まへ、田舍に居た時、金びら參りに出たま かねての約を違へじと、門に音して人來り、見れば座敷に丁稚の供 しに いぶか 歸ず、迚も生てはをるまいと諦らめはしたもの又、去年死ました 待、見馴ぬ女の穿物さへ二足並んでありつるは、何れの客かと訝り あけくれ あなた 婆々めが、子供のないのを旦暮くやんで、愚痴をこぼすを聞のがつながら人る紀角に、二階から下る小久は慌たゞしく、貴郞〈用事の方 あび らさに、世間に入らぬ子があるなら、男でも女でも貰ひたいと思っ が先きから二階に來てじゃ、早うお逢なさいましと、誰ともいはす無 てゐる所へ、八王子在から玉子賣が十二ばかりの女の子を件て來た理やりに、二階の階子へ押あげるに、紀角は誰かと疑ひっ又、登って あにはか ひか ( のを、婆々が可愛がったのが縁となって、とう / 、貰ふて育てたの見れば、豈圖らん、お八重のみかお吉まで、手持無沙汰に控てゐるは、 うち が此小久で、其時玉子屋の咄しに、此兒は日本橋近所の立派な家で仔細ありとは思〈ども、小久の手前もある事故、一寸見たま又階子の 女の双兒が産れたのを、外聞がわるいとて、藁の上から親しらずに段を下んとするに、お吉が慌てゝ走りより、袂をおさへて、日一那様に 何所へなと消てくれと、取揚婆さんが賴まれたをり、玉子家でも赤は誠にお久しぶり、トハいへいまたお出人のお詫も出來ぬに、のめ すぐ 兒が産れて、直に死だ所ゅゑ、お金を付て下さるといふので、其双 / 、お目にかゝれる仕儀ではあらねど、是非お目にか又らねばなら ぞろ / 、 兒の片割を貰ふて育てるうち、玉子屋では續々と三人まで子供が出ぬことにて、お八重様と御一所に爰でお待受を致しました、是には 來て見れば、今更育てるのに困って居たのであったといふが、此親深い譯のある事、マア一通りお聞なすって下さいと無理に手をとり うち このかを そだて すぐ 父とてもすがない活計の其中で、八年以來ゃう / \ と育たが、いやお八重の向ふへ坐らせる時、小久も來り共々にお八重が過る正月の あさゆふ もう、旦タに優しくしてくれるので、中々他人の子とは思〈ませ廿日の晩に家出をせしとは斯々なり、其時玄逹に救はれて艱難辛苦 ん、夫故此頃は昔のことをがらり忘れてしまひ、今まで是にさへ、 を重ねしのち松井の屋敷でお吉に救はれ、漸よ石町へ歸りし事から さっ 此様な咄しはせなんだが、先きのお咄しで思ひ出しての長物語 既に種まで腹に宿して、帶さへ無事にすんだれば、お目にかゝって かへら 、あ こん ほそ いで とうけうてい こん つれ じつじ こん さっ おり たが はきもの はしご おとゞい おり とみ こなた みき、
全く刃がよい。どうぢやナ、七兩貳分に負ても宜からうナ。と言〈頗ぶる御國色なれば、御兩親は掌中のとで慈いみ、後とに御子 ひさう ば藤新は累を恐れ、「宜しう御坐います。侍「イヤお前の店には供が出來ませず、一粒種ねの事なれば猶更に撫育される中、隙ゆく つきひをきもり 決して迷惑は掛けません。兎に角此事を直ぐに自身番に屆けなけれ烏兎に關守なく、今年は早や嬢樣は十六の春を迎〈られ、お家も愈 なふだ 御繁昌で御座いましたが、盈れば虧る世のならひ、令室には不圖 ばならん。名刺を書くから一寸硯箱を貸して呉れろ。と云はれて おくさま おのれ した事が病根となり、遂に還らぬ旅路に赴かれました處、此令室の も、亭主は己の傍に硯箱のあるのも眼に入らず、慄へ聲にて、「小 ぢよちう つき いづれ 信や硯箱を持て來い。と呼べど、家内の者は先きの騒ぎに何處〈かお島の人に、お國と申す婢女が御座いまして嫖致人並に勝れ、殊に たちゐとりまは ひっそり 擧動周旋しに如才なければ、殿様にも獨寢の閨房淋しき處から早晩 逃げて仕まひ、一人も居りませんから、寂然として應がなければ、 おくさま すま おまへ 此お國にお手がっきお國は終御妾となり濟しましたが、令室のな 侍「御亭主、汝は流石に御渡世抦だけあって此店を一寸も動かず、 うち はぶりずんど 自若として御座るは感心な者だナ。亭「否ナ = 御譽めで恐入りまい家のお妾なればお權勢も至極宜しい。然るにお嬢さまは此國を憎 わき す。先程から早腰が拔けて立てないので。侍「硯箱はお前の側にあく思ひ、互に軋轢になり、國々と呼び附けますると、お國は又お嬢 るちやアないか。と云はれて漸よ心付き、硯箱を彼侍の前に差出す様に呼捨にさるるを厭に思ひ、お孃様の事を惡きゃう殿様に彼是と おちっ あひ つけぐち と、侍は硯箱の蓋を推開きて筆を取り、ス一フ / 、と名前を飯島平太讒訴をするので、孃様と國との間だ何んとなく和合かず、然れば飯 郞と書きをはり、自身番に屆け置き、牛込の御邸〈御歸りに成りま島様もこれを面倒な事に思ひまして柳島邊に或を野ひ、嬢様にお れう して、此始末を、御親父飯島平左衞門様に御話を申上げましたれ米と申す女中を屬けて、此莊に別居させて置きましたが、抑飯島樣 わるく ば、平左衞門様は能く切たと仰せありて、夫から直に御頭たる小林の失策にて、是より御家の覆沒なる初めで御座います。さて當年も 暮れ、明れば孃様は十七歳にお成あそばしました。鉉に無て飯島様 權太夫殿へ御屆けに及びましたが、させる御咎めもなく、切り德、 へお出入のお醫者に山本志丈と申す者が御座います。此人一體は古 切られ損となりました。 しゃべり たいこ はうか 方家ではありますれど、實はお幇間醫者のお饒舌で、諸人救助のた さち けいもんにいんぶほしひま、にすかせいを めに匙を手に取らないと云ふ人物で御座いますれば、通常の御醫者 はいっ こぐすり 閨門婬婦擅 = 家政一 第一一囘べっさうにかじんしたふさいしを なれば、一寸紙入の中にもお丸藥か散藥でも這入て居ますが、此志 ひやくまなこなど 別業佳人戀 = 才子一 丈の紙入の中には手品の種や百眼抔が入れてある位なもので御座 しみづだにでんばた ちかづき さて わるもの います。却説此醫者の知己で、根津の淸水谷に田畑や貸長屋を持ち、 籠扨飯島平太郞様は、お年一一十一一の時きに兇漢を斬殺して毫も動ぜぬ くらしたて あがり としをとる その收納で生計を營て居る浪人の、萩原新三郞と申します者が有り 丹剛氣の膽力で御座いましたれば、お加齡に隨がひ、ます / 、智惠が ひとり むまれつき 談進みましたが、その後御親父樣には死去られ、平太郞様には御家督まして、天資美男で、年は二十一歳なれども未だ妻をも娶らず、獨 ごくうちき みくらやもめ を御相續あそばし、御親父様の御名跡を御繼ぎ遊ばし、平左衞門と身で消光す蘇に似ず、極鬱氣で御座いますから、外出も致さず閉居 おくさま おはたもと すゐどうばた り、鬱々と書見のみして居ります處へ、或日志丈が尋ねて參り、志 改名され、水道端の三宅様と申し上げまする御旗下から令室をお迎 ぐわりようばい によし 2 丈「今日は天氣も宜しければ龜井戸の臥龍梅へ出掛け、その歸るさ かへになりまして、程どなく御分娩のお女子をお露様と申し上げ、 きて ごしゆっせう へんじ講 ちっと あやまり みつ きりゃう ひとりねねや あし たいがい めと たすけ
くッつい 新 = 一郞にて、男ぶりと云ひ人躡といひ、花の月の眉、女子にし終女中の背後に計り附着て居る。志丈「存じながら御無沙汰に相成 て見ま欲しき優男だから、ゾッと身に染み如何した風の吹廻しで彼まして、何時も御無事で、此人は僕の知己にて萩原新三郞と申しま 様奇麗な殿御が此處〈來たのかと思ふと、カッと逆上て耳朶が火のす獨身者で御座いますが、御近眤の爲め一寸お盃を頂戴いたさせま 如くカッと潮紅になり、何となく間が悪くなりたれば、礑と障子をせう。オヤ何だかこれでは御婚禮の = 九度の樣で御座います。と 閉切り、裡〈這入たが、障子の内では男の顔が見られないから、又少しも間斷なく幇助きますと、孃様は恥かしいが又嬉しく、萩原新 密と障子を明て庭の梅花を眺める態をしながら、チ , イど、と萩原三郞を横目にヂ 0 / \ 見ない態をしながら視て居りますと、氣があ の顔を見て又恥しくなり、障子の内〈這入るかと思〈ば又出て來れば目も口程に物をいふと云ふ譬の通り、新三郞もお嬢様の艶容に る。出たり引込んだり引込んだり出たり、、ヂ , して居るのを志見惚れ、魂も天外に飛ぶ計りです。さうかうする間にタ景になり、 丈は發見け、志丈「萩原君、君を壤様が先刻から熟と視て居りま燈明がチ一 , / 、點く時刻となりましたけれども、新三郞は一向に歸 まるこちら ふり らうと云はないから、志丈「大層に長座を致しました。サ御暇を致 あなた すョ。梅の花を見る態をして居ても、眼の球は全で此方を見て居る しませう。米「なんですネー志丈さん、貴所は御同件様もあります ョ。今日は頓と君に蹴られたネ。と言ながらお孃様の方を顧て「ア からマアよいぢやアありませんか、お泊なさいナ。新三「僕は宜し レ又引込だ。ア一フ又出た。引込んだり出たり、出たり引込んだり、 宛で鵜の水呑 , , 、。と噪ぎ動搖」て居る處〈下女のお米出來り「孃う御座」ます。泊て參ても宜しう御座」ます。志丈「夫ちやア僕一 様から一献申し上げますが何も御座」ません。眞の田舍料理で御座人憎まれ者になるのだ。併し又賑様な時は憎まれるのが却て深切に いますが、御緩りと召上り相替らず貴所のお諧謔を伺ひ度と被仰い成るかも知れない。今日は先づ是までとしておさらば / 、。新三 さけさかない 「鳥渡便所を拜借致したう御座います。米「サア此方〈入ッしゃい ます。と酒骰を出だせば、志丈「ドウモ恐入ましたナ。 ( イ是はお れいし ませ。と先に立て案内を致し、廊下傳ひに參り「此處が孃様のお室 はいり 吸物誠に有難う御座います。先刻から冷酒は持參致して居りまする とうぞ で御座いますから、マアお這入遊ばして一服召上ッて入ッしゃいま ようばはいり が、お燗酒は又格別、有難う御座います。何卒驤様にも入ッしやる し。新三郞は「難有う御座います。と云ひながら便場〈這入まし ひやかけ あの 様に今日は梅ちやアない。實はお孃様を、イヤナニ。米「ホ、、只 今左様申し上げましたが、御同件の御人は御存じがないものですかた。米「お嬢様〈、彼お方が、出て入ッしゃッたらばお水を灌て ら間が惡いと被仰いますから、夫ならお止遊ばせと申し上げた處ろお上げ遊ばせ。お手拭は此處に御座います。と新しい手拭を孃様に 籠が、夫でも往て見たいと被仰」ますノ。志丈「イヤ、此人は僕の眞渡し置き、お米は此方〈歸りながら、お孃様が彼いふお方に水を濯 0 知己に、竹馬 0 友と申しても宜し」位なも 0 で、御遠慮には及上げたならば嘸お嬉しからう。彼 0 お方は餘程御意にた容子。 たく と獨言をいひながら元の座敷〈歸りましたが、忠義も度を外すと却 みだら 談びませぬ。何卒一寸孃様に御目に掛り度ッて參りました。と言〈 ともな て不忠に陷て、お米は決して主人に猥褻な事をさせる積ではない ふさ ば、お米は頓て孃様を件ひ來る。壤様のお露様は恥かし氣にお米の が、何時も孃様は別にお樂みもなく、鬱いで計り入ッしやるから、 背後に座ッて、ロの中にて「志丈さん入ッしゃいまし。と云たぎり で、お米が此方〈來れば此方〈來り、彼方〈行けば彼方〈行き、始斯いふ串戲でもしたら少しはお氣晴しになるだらうと思ひ、主人の どうぞ うち かへつ
かしら をり ぎ、欝々として居ますと、相川はお頭から歸て、相「婆々や、少し といふ奴を、源次郞が驚いて、此聲人に聞かれてはと、一刀拔くよ り飛込んで、デップリ肥って居る身體を、肩ロより脊びら〈掛けて孝助殿と相談があるから此方〈來てはいかんョ。首などを出すな。 そっら 婆「何か御用で。相「用じゃないのだョ。其處へ引込んで居ろ。コ 切付る。切られてお竹はキャット聲を擧げて其儘息は絶〈ました。 他の女どもゝ驚ろいて下流し〈這込むやら、或は薪箱の中〈潜り込レ , ( 、茶を入れて來い。それから佛様 ( 線香を上げな。偖て孝助 こっち いづく 。誰れにもいはれ むやら騷いで居る中に、源次郎お國の兩人は此處を忍び出て、何國少し話したい事もあるから、マア / 、此方〈 第 4 」お当一 んが、先以て御主人様の御遺書涌りに成るから心配するには及ば ともなく落て往く。跡で源助は奧のさはぎをきゝつけて、いきなり おまへ 自分の房室をとびだし、拳を振って隣家の塀をうち叩き、破れる様ん。御前は親の仇は討たから、是からは御主人は御主人として其仇 を復し、飯島の御家再興だョ。孝「仰せに及ばず、素より仇討の覺 な聲を出して、源助「狼藉ものがはいりました / \ 。と騷ぎ立てる こ、・ろぞへ に、隣家の宮野邊源之進はこれを聞附け思ふ様、飯島の如き手者の悟でございます。此後萬事に付き宜しく御添心の程を願ひます。相 處〈押入る狼藉ものだから、大勢徒黨したに相違ないから、成るだ「此相川は年老ひたれども、其事は命に掛けて飯島様の御家の立様 れつかたきうちしゆったっ に計らひます。そこでお前は何日仇討に出立なさるヘ。孝「最早一 け遲くなって、夜が明けて往く方がいよと思ひ、先づ一同を呼起し、 めうさうてんしゆったっ こてすわあて 刻も猶豫致す時で御座いませんゅゑ、明早天出立致す了簡です。 蔵へ參って着込みを持て參れの、小手脛當の用意のと謂て居るうち よろしい に、夜はほのえ、と明け渡りたれば、最う狼藉者は居る氣はなか相「明日直ぐに、左様か〈、餘り早や過ぎるじゃないか。宜敷、此 らうと、源之進は家來一一一人を召連れ來て視れば此始末。如何した事ばかりは留められない。最う一日々々と引き廣ぐ事は出來ない しゆったつどんわし る事ならんと思ふ所ろ〈、一人の女中が下流しから這上り、源之進が、お前の出立前に私が折入て賴みたい事があるが、どうか叶〈て は下さるまいか。孝「どのやうな事でも宜しうございます。相「御 の前に兩手をつかへ、實は昨晩の狼藉者は、貴家様の御舍弟源郞 しゆったっぜん いで とを 前の出立前に娘お德と婚禮の盃だけをして下さい。外に望みは何も 様とお國さんと、疾から密通して御出に成って、昨夜殿様を殺し、 き、すん 金子衣類を窃取り、何國ともなく逃げました。と聞て源之進は大にない。どうか聞濟で下さい。孝「一旦お約束申た事ゅゑ、婚禮を致 かしら しましても宜しいやうなれど、主人よりの御約束申たは來年のニ 驚き、早速に邸へ立歸り、急ぎ御頭へ向け源欽郞が出奔の趣の屆を 出す。飯島の方〈は御目附が御換死に到來して、段々死骸を搶め見月、殊に目の前にて主人があの通りになられましたのに、只今婚禮 るに、脇腹に鎗の突傷がありましたから、源次郞如き鈍き腕前にてを致しましては、主人の位牌〈對して濟ません。仇討の本懷を遂げ めでたく ねま 立歸り目出度婚禮を致しますれば、どうぞ夫れ迄御待ち下さる様に 籠は迚も飯島を討つ事は叶ふまじ、去れば必ず飯島の寐室に忍び入り、 丹熟睡の油斷に附入りて鎗を以て欺し討ちにした其後に、刀を以て斬願ひます。相「それはお前の事だから、遠からず本懷を遂げて御歸 かたきゅくゑ 談殺したに相違なしといふことで、源次郞は御尋ね者となりましたけ宅になるだらうが、敵の行衞が知れない時は、五年で歸〈るか、十 れども、飯島の家は改易と決り、飯島の死骸は谷中新幡隨院〈送年で御歸りになるか、幾年掛るか知れず、夫に私は最う取年、明日 り、密そりと野邊送りをして仕舞ました。此方は孝助、御主人が私をも知れぬ身の上なれば、此悅びを見ぬ内歸らぬ旅に赴くことがあ わづら の爲めに一命を御捨てなされた事なるかと思〈ば、いとゞ氣もふさっては冥途の障り、殊に娘も煩ふ程お前を思て居たのだから、どう とて あなた いっ てしゃ まづ よみちさわ ば、ア
れくたび 去に成た時、幾度手紙を出しても一通の返事もよこさぬくらいな人し、暇乞ひもそこノ \ に越後屋方を逃出しましたが、宇都宮明神の たった やはたやま でなし。只一人の妹だが死んだと思ってな諦めて居たのだ。それに後ろ道にか乂りますと、書さえ暗き八幡山、況て眞夜中の事でござ なかば ひとむら のめ / 、と尋ねて來やアがって、置てくれろといふから、よもや人いますから、二人は氣味わる / 、路の中場迄參ると、一叢茂る杉林 をのこ を殺し、泥棒をして來たとは思わねへから置て遣れば、今聞けば實の蔭より出て參る者を透して見れば、面部を包みたる二人の男子、 は、さ・ま いきなり たらふさ に呆れて物がいはれねヱ奴だ。お母様誠に有難ふございまするが、 突然源郎の前へ立塞がり、「ハイ、神妙にしろ。身ぐるみ脱で置 ぢゃうろう あなた こいっ かけをちもの 奪母が親父へ義理をたて乂、此奴等を逃してくださいましても天命 て行け。手前逹は大方宇都宮の女郎を連出した欠落者だらう。「ヤ は週れられませんから、迚も助かる氣遣ひはございません。寧そ默イ金を出さないか。と云れ源次郎は忍び姿の事なれば、大小を落し を 0 って御出なすって、孝助様に切られてしまふ方が宜しうございます 差にして居まし 力、さは - のに、ヤイお國、御母様は義理堅い御方ゅゑ、親父の位牌へ對して ハッと第き、拇 路銀までくだすって、其上逃道まで敎へてくださると云はナ、實に 指にて鯉口を切 有難事ではないか。何とも申そう様はございません。コレお國、此 め、さま 、慄へ島を振 罰當りめへ、御母様が此家へ嫁にいらッしゃッた時は、手前がナ、 とっさま か、さまをれ あいなかっ、 立て、源「手前 十一の時だが、いちがわるくて御父樣と御母様と我との相中を突 をれおやじ き、何分家が揉めて困るから、我が御親父さんに勸めて他人の中を 一達は何だ。狼藉 いた 者と云ながら、 見せなければいけませんが、近い所だと驅出して歸って來ますか やしき いっ いだ 透して九日の夜 ら、寧そ江戸へ奉公に出した方がよからうと云て、江戸の屋鋪奉公 いゝこと いろをとこ の月影に見れ に出した所が、善事は覺へねへで、密夫をこしらへて御屋敷を遁げ ば、一人は田中 出すのみならず、御主人様を殺し、金を盜みしといふは呆れ果てゝ ちうげん の仲間喧嘩の龜 物が云われぬ。お母様が並の人ならば、知らぬふりをしてお出でな みまが あたり てめへ 蔵、見紛ふ方な すッたら、今夜孝助様に切殺されるのも心がら、天罰で手前逹は當 たとへ かたきかたわれをれ まへ き面部の古疵、 然だが、坊主が憎けりや袈裟までの譬で、此奴も仇の片割と我まで いぬちくしゃう きゃう 一人は元召使ひ 籠殺される事を仕出來すといふは、不孝不義の狗畜生め、只一人の兄 あたりまへ だい の相助なれば、 丹妺なり、殊にやア女の事だから、此兄の死水も手前が取るのが當然 こんなあくとふ 源去郎は一一度喫 談だのに、何の因果で此様惡婦が出來たらう。御親父様も正直な御 驚、源「コレ、 方、私しも是迄左のみ惡ひ事を仕た覺へはないのに、此様な惡人が 相助ではない 四出來るとは實になさけない事で・こざいます。此畜生め / 、 / 、サッ ふ′、てい か。相「コレハ サと早く出て行け。と云われて、二人とも這々の體にて荷拵へをな しでか は、さま とて いっ すか たっ あひすけ ふる びつ おや ふり
250 一御先祖へ對しれ、ウーンと云て倒れると、件「旦那へ / \ 大層うなされて居ます びつくり て相済ません。 ね。恐ろしい聲をして喫驚しました。風を引くといけませんョ。と ためいき 不孝不義の不屆云はれて新三郞は漸と目を覺し、 ハーと溜息をついて居るから、件 をれ ものめが、手打「どうなさいましたか。新「件藏や、己の首が落ちては居ないか。 さう ふなべりきせる にするから左様と問はれて、件「左樣ですネ 1 。船舷で烟管を叩くと能く雁首が川 おッこ をれ 心得ろ。新「暫の中へ落ちて困るもんですネー。新「左様ちやアない。己の首が落 キら くお待下さい。 ちはしないかといふ事ョ。何處にも疵が付てはいないか。件「何を ・こじゃうだん あり 其御腹立は重々御串戲を仰やる。疵も何も有は致しません。と云。新三郎は於露に ごもッとも どう たい 御尤で御座い升如何にもして逢ひ度と思ひ續けて居るものだから、共事を夢に見て が、御孃様が私 ビッショリ汗をかき、辻占が惡いから早く歸らうと思ひ「件藏早く を引摺り込み不歸らう。と船をいそがして歸りまして、船が着たから揚らうとする こんな 義を遊ばしたのと、件「旦那、此處に此様物が落て居り升。と差出すを新三郞が手 ではなく、手前に取揚げて見ますれば、飯島の娘と夢の裡にて取替した、秋野に虫 きたいおもひ 」が此二月始めて の摸様の付た香箱の蓋ばかりだから、ハッとばかりに奇異の想を致 まかりい・て 罷出まして、おし、どうして此蓋が我手にある事かと喫驚致しました。 " 0 孃様を誘かした こへてかきをかんぶはかるきゃうぼうを ので、全く手前 踰垣姦夫謀 = 兇暴一 第 ) 九一、だっ、こをちうぼくいかるざんにんを の罪でお孃様に 隔レ戸忠僕怒 = 殘忍一 は少しも御咎は 御座いません。 説話替て、飯島平左衞門は嚴格智者にて諸藝に逹し、取分け劒術は ど 5 ぞ おとっさま 何卒孃様はお助けなすって私を。露「イ、へ、奪父様妾が惡いので眞影流の極意を極めました名人にて、お年四十位、人並に勝れたお となり 御座い升。どうぞ妾をお斬り遊ばして、新三郞様をばお助け下さい方なれども、妾の國といふが心得違ひの奴にて、内々隣家の次男源 まし。と互に死を爭ひながら平左衞門の側にすりよりますと、平左次郞を引込み樂んで居ました。お國は人目を憚り庭ロの開き戸を明 衞門は剛刀をスラリと引拔き、「誰彼と容赦はない。不義は同罪、 け置き、此處より源次郞を忍ばせる趣向で、殿様のお泊番の時には くだ 娘から先へ斬る。觀念しろ。と云ひさま片手なぐりにヤッと降した此處から忍んで來るのだが、奧向きの切盛は萬事妾の國がする事ゅ 腕のさえ、嶋田の首がコロリと前へ落ました時、萩原新三郞はアッゑ、誰も此様子を知るものは絶えてありません。今日しも七月一一十 とばかりに驚いて前へのめる處を、頬より腮へ掛けてヅンと切ら 一日、殿様は御泊番の事ゅゑ、源次郞を忍ばせやうとの下心で、庭 そ、の とが はなしかはツ めかけ をり り、しハちましゃ びッくり うち とりかは
29 イ さって 島を手に掛け、 ア荷積んで幸手まで急いで往くだから、寄ている譯にはいきましね こないだ 金銀衣類を奪取へが、此間は小遣を下さって有がたうごぜへます。みね「マアいゝ うち 、江戸を立退じやアないか。お前は宅の親類じゃないか。一寸お寄りョ。一盃上 き、越後の村上げたいから。久「そふですかへ。それぢやア御免なせい。と馬を見 いは をらこつら へ逃出しました世の片端に結ひ付け、裏口から奧へ通り、久「己ア此家の旦那の身 しんしよう が、親元絶家し寄だといふので、皆なに大きに可愛がられらア、此の家の身上は去 てよるべなきま年から金持になったから、おらも鼻が高い。と話しの中におみねは いくら あん 、段々と奥州 幾許か紙に包み、峯「何ぞ上げたいが、餘まり少しばかりだが小遣 しも めへど 路を經囘って下にでもして置ておくれよ。久「是アどうも毎度戴いてばかり居て濟 やつけへ かいどう 海道へ出て參ねへョ。いつでも厄介になりつゞけだが、折角の思召しだから頂戴 いたして置ますべい。オヤ探って搶た所ぢやアゑらく金があるやう 、此栗橋にて ひとへもの 秀煩ひ付き、宿屋だから單物でも買うべいか。大きい有りがたふござります。峯「何 なさけ 生の亭主の慈悲をだョ、そんなに御禮を云はれては却って迷惑するよ。一寸とお前に うち 受けて今の始聞きたいのだが、宅の旦那は、四月頃から笹屋へ能く御泊りなすっ あくせう 、、末、素より惡性て、お前も一所に往て遊ぶそうだが、お前は何故私に咄しをおしで ない のお國ゅゑ、忽ない。久「おれしんねへョ。峯「おとぼけで無ョ。ちゃんと種が上 ち思ふ様、此人って居ョ。久「種が上るか下るか、おらアしんねへものを。峯「ア いちだいしん亡うにはかぶ は一代身上俄分レサ笹屋の女のことサ、タベ宅の旦那が殘らず白妝してしまったヨ。 やきもち げん 限に相違なし。 私はお婆さんになって嫉妬をやく譯ではないが、旦那の爲を思ふか いき すっかり 此人の云ふ事をら云ふので、那の通りな粹な人だから、悉皆と打明けて、私に咄し あん しらばっくれ て、タベは笑ってしまったのだが、お前が餘まり不知面て、素通り 聞たなら惡い事もあるまいと得心したるゆゑ、件藏は四十を越して もた うてうてんぐわい 此ゃうな若い奇麗な別品に挑つかれた事なれば、有頂天涯に飛上をするから呼んだのサ、云ったツていゝぢやアないかへ。久「旦那 きづけ かよひき どんが云たけへ、アレマアわれさへ云はなければ知れる氣遣へはね り、これより毎日爰にばかり通來て寢泊りをいたして居りますと、 しん・ヘい こみあがりんき 件藏の女房おみねは込上る悋氣の角も奉公人の手前にめんじ我慢はヘ。われが心配だといふもんだから、お前さまの前へ隱していたん をり じゃうあい めへあんま ひいみせさき して居ましたが、或日のこと馬を牽て店前を通る馬士を見付け、峯だ。夫婦の情合だから、云たらお前も餘り心持も能くあんめへと思 「オヤ久藏さん、素通りかへ、あんまりひどいネ。久「ヤアお内儀っただが、そうけへ、旦那どんがいったけへ、おれ困ったなア。峯 さま、大きに無沙汰を致しやした。ちょっくり來るのだアけど、今「旦那は私に云て仕舞たヨ。お前と時々一所に往んだらう。久「あ - かに富んで .2 をに現をれ、 1 斗 へめぐ にい さは うち かへ うち むま
しれう あらばか 新三郎と申ます。白翁堂の書面の通り、何の因果か死靈に惱まされ 幡隨院を通ほり拔けやうとすると、御堂の後に新墓が有りまして、 とうろ たんじう ぼたんのはな % 夫に大きな角塔婆が有て、其前に牡丹花の綺麗な燈籠が雨ざらしに難澁を致しますが、貴信の御法を以て死靈の退散するやうに御願ひ 成てありまして、此燈籠は毎晩お米が点けて來た燈籠に違ひないか申ます。良「此方へ來なさい。お前に死相が出たといふ書面だが、 しぬ いよ /. 、をか ら、新三郞は彌よ訝しくなり、お寺の臺所へ廻り、新「少々伺ひた見て遣るから此方へ來なさい。成ほど死なア近々に死ぬ。新「どう たむけ あすこ う存じます。那所の御堂の後に新らしい牡丹の花の燈籠を手向てあかして死なゝい様に願ひます。良「お前さんの因縁は深しい譯のあ どちら んとう るのは、あれは何所の御墓でありますか。信「あれは牛込の籏下飯る因縁じゃが、夫れを云ふても眞成にはすまいが、なにしろ口惜く さきだツなくな 島平左衞門様の娘めで、先達て死去りまして、全體法住寺へ葬むるて祟る幽靈ではなく、只戀しい \ と思ふ幽靈で、三世も四世も前 こちら かたらいろ′、、 筈の所ろ、當院は末寺じやから此方へ葬むッたので。新「あの側にから、ある女がお前を思ふて生きかはり死にかはり、容は種々に變 つきまと おっき 並べてある墓は。信「あれは其娘の御附の女中で是も引續き看病疲て付纒ふて居るゆゑ、遁がれ難い惡因縁があり、どうしても遁がれ しれうよけ かいおもによらい れで死去いたしたから、一所に葬られたので。新「そうですか。夫られないが、死靈除の爲めに海音如來と云ふ大事の守りを貸して遣 をがを、 きんむく では全く幽靈で。「なにを。新「なんでも宜しう御座います。左る。其内に折角施餓鬼をして潰らうが、其御守は金無垢じゃに依て うち たけ びッくり おもむき 様なら。といひながら喫鼈して家に馳け戻り、此趣を白翁堂に咄人に見せると盜まれるヨ。丈は四寸二分で目方も餘程あるから、欲 ねうち すと、勇「それはマア妙な譯けで、驚いた事だ。なんたる因果な事の深い奴は潰しにしても餘程の値だから盜むかも知れない。厨子ご おく と貸すにより胴卷に入れて置か、身體に脊負ふてをきな。夫れから か。惚れられるものに事を替て幽靈に惚れられるとは。新「どうも まゐ ううだらにきゃう なさけない譯で御坐います。今晩も亦來りませうか。勇「それは分又爰にある雨寶陀羅尼經といふお經を遣るから讀誦しなさい。此經 らねへな。約束でもしたかへ。新「へ 1 、あしたの晩屹度來る、とは賓を雨ふらすと云御經で、是を讀誦すれば寶が雨のやうに降るの 約束をしましたから、今晩どうか先生泊って下さい。勇「眞平御免で、欲張たやうだが決してそうじゃない。是を信心すれば海の音と めうげつちゃうじゃ いふ如來さまが降て來るといふのじゃ。此經は妙月長者といふ人 だ。新「占なひでどうか來ないやうになりますまいか。勇「占ひで やまひはや ゑら すくッ しょち が、貧乏人に金を施して悪い疫の流行る時に救助て遣りたいと思っ は幽靈の所置は出來ないが、あの新幡隨院の和尚は中々に秀い人で、 念佛修行の行者で私も懇意だから手紙を付けるゆえ、和尚の所へ往たが、寶がないから、佛の力を以て金を貸して呉れろと云た所が、 こ、ろがけ しやか て賴んで御らん。と手紙を書て萩原に渡す。萩原は其手紙を持て遣釋迦が夫れは誠に心懸の奪い事じゃと云て貸たのが印ち此お經じ おふだ て來ゐり、「どうぞ此書面を良石和尚樣へ上げて下さへまし。と差ゃ。又御札をやるから方々へ貼て置て、幽靈の入り所のないやうに すぐ 出すと、良石和尚は白翁堂では別ならぬ間柄ゅゑ、手紙を見て直にして、而して此お經を讀みなさい。と深切の言葉に萩原は有がたく 萩原を居間に通せば、和尚は木綿の座蒲團に白衣を着て、其上に茶禮を述べて立歸り、白翁堂に其事を咄し、夫れから白翁堂も手傳て ころも じゃくま ~ 、 ちゃんと 色の法衣を着て、當年五十一歳の名信、寂寞として端坐り、中々其御札を家の四方八方へ貼り、萩原は蚊帳を釣て其中へ入り、彼の おうぼばぎやばていばざらだら ひと だらにきゃう に道德彌や高く、念佛三昧といふ有様で、新三郞は獨りでに頭が下陀羅尼經を讀まふとしたが中々讀めなひ。曩謨婆帝囀駄囃。 さぎやらにりぐしややたたぎやたやたにやたおんそろ・ヘいばんだらばち そこっ る。良「ハイ、お前が萩原新三郞さんか。新「へ 1 粗忽の浪士萩原娑餓捏具灑耶。怛佗彧多野。怛偶也佗素噌閉。版捺囃囀底。臍 ・それ まつじ つぶ こらら はっ どくじゅ ばう