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検索対象: 日本現代文學全集・講談社版 18 國木田獨歩集
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1. 日本現代文學全集・講談社版 18 國木田獨歩集

290 「これは可笑い。お前はこれにも返事をしないか」 「え長」と龍一は言ったぎり默って居る。 「だから父上今夜に限った事ではないちやアありませんか、最早後 「今日玉乃の武さんが見えた。さうだ、此雲丹も武さんが呉れたの 生ですから止して下さいな」と國子は最早涙ぐんで來た。 ちゃ」 「止さない。これは乃公に無理のところは一つもない。これにも返 「さうですか」 此時園子は急に父の傍に摩寄って耳に口を着け聞えるか聞えぬほ事の出來ない理由はない」と父は顏色を變へて唇をぶるノ \ さして 居る。 どの聲で、 龍一は徐かに机の下の手箱から紙入を出して懷中し、其處に疊ん 「今夜彼の談話をするのは止して下さいよ」 だま置いてあった羽織を手早く着て、つと室を出た。呆れて居た 「何故や」と父は龍一にも聞えるほどの聲で不平らしく言ふ。 「だって何も今夜に限った事では無いちやアありませんか。折角兄國子は玄關まで追っかけた時、龍一は既に格子を開けて外に出て居 上が歸っていらっしやったのだから : : : 」と國子も仕方がないから 續いて駈けだして門を出て見ると晝間のやうに冴えた月影を踏ん を高めた。 で龍一は七八間も先を大股に歩いて居た。 「歸宅って來たから尚ほ談話が出來る理由ちゃ。お前は默って兄上 國子は門に靠れか又って泣き崩れた。 にお酌をしろ」 龍一の方から盃を出したので國子は酌をした。龍一は一口に飲み 干して又出した。國子は兄の顔を見ながら酌をした。 「龍一、聞いて樊れ斯うだ、今日武さんが來ての談話に、お前が如 何あっても返事をしないとならば此縁談は無期延期ちゃ、先方は急 うっちゃ いでる事ちやから放擲っては置けない、何とでも理由を作へて共事 を通知しなければならんといふのちゃ。如何ちゃ。乃公もこれは文 句がないのちゃ。が共前に龍一に其れを斷って置かうといふことに 談話を決めたのちゃ。お前も異存は無からう」 龍一は默々として下を向いて居たが又盃を出して酌を促した。國 子は父の方に氣を取られて氣が着かないで居ると、 「國ちゃん」 國子は驚いて酌をした。 「それには異存は無からう如何ぢや」 龍一は返事しない。 「如何 ちゃ異存は無からう」 龍一は默って居る。 ( 明治四十年八月 )

2. 日本現代文學全集・講談社版 18 國木田獨歩集

イ 9 鹿 狩 言った。そこで僕は頻りと彼方の丘や此方の谷を眺めて鹿の來るの ら倒に下ってゐる處を見ると可愛さうでならなかった。 を待って居た。 忽ち小藪を分けてやッて來たのは獵師である。僕を見て、 十五六人の人數と十頭の大で廣い野山谷々を駈け廻はる鹿を打っ 「坊様、今に馬のやうなのが取れますぞ。」 とは頗る難かしい事のやうであるが、元が崎であるから山も谷も海 「未だ取れるだらうか。」 にかぎられてゐて鹿とても左まで自由自在に逃げ廻はることは出來「まだ / \ 今日は十匹は取れますぞ。」 ない、又た人里の方〈は、全、高い壁が石で築いて有って畑の荒 しかし僕は信じなかッた。十匹も取れたら持て歸ることが出來な らされないやうにしてある故、其方へ逃げることも出來ない、更に いと思った。獵師は岩に腰を掛けて煙草を二三ぶく吸ってゐたが谷 又た鹿の通ふ路は凡そ獵師に知れてゐるから、たとひ小人數でも大の方で呼子の笛が鳴ると直ぐ小藪の中に隱れて何處かに行って了っ さ〈能く狩り出して呉れゝば、之れを打つに左まで難しくはないのた、僕も急いで叔父さんの處〈歸って來ると、 である。 「どうだ、取れてゐたか、さうだらう、今に見ろ此處で大きな奴を そこで今井の叔父さんの持場も鹿の逃げ路に當ってゐるので、鹿打って見せるから。」 の來るのを待ってゐるのも決して目的の無いのではない。 彼是するうちに晝時分になったが鹿らしいものも來ない。忽ち谷 叔父さんは今に見ろノ \ と言って頗る得意の笑を其四角な肥えた を一つ越えた直ぐ彼方の山の尾で銃の音がしたと思ふと白い煙が見 淺黒い顔に漲らして鐵砲をかま〈て、きよろ / 、と見廻はして又たえた。叔父さんも僕もキッとなって其方を見ると、 = 一人の人影が現 折々耳を立て物音を聞て御座った。 はれて、共一人が膝を突て續けさまに二發三發四發と打出した。續 折々遠くで吠える大の聲が聞こえた。折々人の影が彼方の山の背て大が烈しく吠えた。 此方の山の尾に現はれては隱れた、日は麗らかに輝き、風はそよそ 「そら / \ 海を海を、最早しめた、海を見ろ、海を」と叔父さん躍 よと吹き、かしこ此處の小藪が怪しげにざわっいた。其度ごとに僕 り上がって叫んだ、成程、一寸と見ると何物とも判然しないが、頻 は眼を丸くした。叔父さんは銃を持直した。 りに海を游ぐ者がある。見てゐるうちに小舟が一艘、磯を離れたと 「オイ徳さん」叔父さんは暫時して言った。「今しがた銃の音がし 思ふと、舟から一發打ち出す銃音に、游いでゐた者が見えなくなっ たやうであッたが、彼の松のある處〈行って見なさい、多分一ッ位た。暫時して小舟が磯に還った。 ひとりごと 最早獲てゐるかも知れない。」 「今のは太さうな奴だな、フン、甘い / 、。」叔父さん獨言を言っ 僕は叔父さんの言った處〈行って見た。共處は僕等が今ゐた處か て上機嫌である。 ら三四丁離れた山の尾の一段高くなって頂が少し平な處であった。 「德さん、腹が減たか。」 果して一頭の鹿が松の枝の、僕の手が屆き兼ねる處に釣下げてあっ 「減った。」 こど、も・こ、ろ た、そして共處には誰も居なかった。僕は少年心に少し薄氣味惡く 「辨當をやらかさうか。」 思ったが、松の下に近づいて見ると角のない奴の左まで大きくない そこで叔父さんは辨當を出して二人、草の上に足を投げだして喰 鹿で、股に銃丸を受けてゐた。僕は氣の毒に思った、共柔和な顔つ ひはじめた。僕は此時ほど甘く辨當を食ったことは今までに無い。 きの未だ生々した處を見て、無殘にも四足を縛られたま。・松の枝か叔父さんは瓢簟を取出して獨酌をはじめた。さも甘さうに舌打して

3. 日本現代文學全集・講談社版 18 國木田獨歩集

みわけ 様があります。この方は御料地の係の方で先逹から山林を見分してを知った。 4 彼は其生れ故郷に於て相當の財産を持って居た處が、彼の弟二人 お廻はりになったのですが、ソラ野宿の方が多がしゃう、だから到 こは 頭身體を傷して今手前共で保養して居らっしやるのです。篠原さは彼の相續したる財産を羨むこと甚だしく、遂には骨肉の爭まで起 せうてい んといふ方ですがね。何でも宅へ見える前の日は空知川の方に居ら る程に及んだ。然るに彼の父なる七十の老翁も亦た少弟二人を愛し っしやったといふことを聞きましたから、若しやと思って唯今伺っ て、やもすれば兄に迫って共財産を分配せしめやうとする。若し て見ました處が、解りました。ウン道廳の出張員なら山を越すと直三等分すれば、三人とも一家を立つることが出來ないのである。 ぐ下の小屋に居たと仰しやるのです、御安心なさい此處から一里位「だから私は考へたのです、これつばかしの物を兄弟して爭ふなん なもので譯は有りません、朝行けばお晝前には歸って來られますて餘り量見が小さい。宜しいお前逹に與って了ふ。たゞ五分の一だ こ、のつ け呉れろ、乃公は其を以て北海道に飛ぶからって。共處で小信が九 「どうも色々難有う、それで安心しました。然し今も共小屋に居て の時でした、親子一二人でポイと此方へやって來たのです。イヤ人間 呉れゝば可いが始終居所が變るので其れで道廳でも知れなかったの といふものは何處にでも住まれるものですよハッハッハツ。」と笑 だから。」 って、 わけ 「大丈夫居ますよ、若し變って居たら先に居た小屋の者に聞けば可 「處が妙でしゃう、弟の奴等、今では私が分配てやった物を大概無 うがす、遠くに移るわけは有りません。」 くしてしまって、それで居て矢張り小にけな村を此上もない土地の 「兎も角も明朝早く出掛けますから案内を一人頼んで呉れませんやうに思って私が何度も北海道へ來て見ろと手紙ですすめても出て 來得ないんでサ。」 えだ 「さうですな、山道で岐路が多いから矢張り案内が入るでしゃう、 余は此男の爲す處を見、共語る處を聞いて、大に得る處があった 宅の倅を連れて行っしゃい。十四の小信ですが、空知太までなら存のである。よしゃ此一小旅店の主人は、余が思ふ所の人物と同一で じて居ます。案内位出來ましゃうよ。」と鮑くまで親切に言って呉ないにぜよ、よしゃ余が思ふ所の人物は、此主人より推して更らに れるので、余は實に謝する處を知らなかった。成程縁は奇態なもの余自身の空想を加へて以て化成したる者にせよ、彼はよく自由によ である、余にして若し他の宿屋に泊ったなら決してこれ程の便宜と く獨立に、社會に住んで社會に壓ぜられず、無窮の天地に介立して 親切とは得ることが出來なかったらう。 安んずる處あり、海をも山をも原野をも將た市街をも、我物顏に横 主人は何處までも快活な男で、放で、而も眼中人なきの様子が行濶歩して少しも屈托せず、天涯地角到る處に花の電いきを嗅ぎ人 ある。彼の親切、見ず知らずの余にまで惜氣もなく投げ出す親切は、 情の温かきに住む、げに男はすべからく此の如くして男といふべき 彼の人物の自然であるらしい。世界を家となし到る處に共故鄕をではあるまいか。 見出す程の人は、到る處の山川、接する處の人が則ち朋友である。 斯く感ずると共に余の胸は大に開けて、札幌を出で又より歌志内 なんびと であるから人の困厄を見れば、共人が何人であらうと、憎悪するの に着くまで、雲と共に結ぼれ、雨と共にしほれて居た心は端なくも いはれ しんべき きはま 因縁さへ無くば、則ち同情を表する十年の交友と一般なのである。 天の一方深碧にして窮りなきを望んだやうな氣がして來た。 ながれ 余は主人のロより共略傅を聞くに及んで彼の人物の余の推測に近き 夜の十時頃散歩に出て見ると、雲の流急にして絶間々々には星が せん せんだって

4. 日本現代文學全集・講談社版 18 國木田獨歩集

と承諾してやった。それから彼是二月ばかり經っと、今度は生垣をねえ。」 8 ちょっ 四三尺ばかり開放さして呉れろ、さうすれば一々御門へ迂廻らんでも 「まア如何して。」とお源は水を汲む手を一寸と休めて振り向いた。 にしもの 濟むからと賴みに來た。これには大庭家でも大分苦情があった、殊「井戸端に出て居たのを、女中が屋後に干物に往ったにつちりの間 こしら どろにう やつばり にお徳は盜棒の人口を造へるやうなものだと主張した。が、しかし に盜られたのだとサ。矢張木戸が少しばかし開いて居たのだとサ。」 かねて 主人眞藏の平常の優しい心から遂に之を許すことになった。共方で 「まア、眞實に油斷がならないね。大丈夫私は氣を附けるが、お德 あけたて うっちゃ ちょっと 木戸を丈夫に造り、開閉を厳重にするといふ條件であったが、植木さんも盜られさうなものは少時でも戸外に放棄って置かんやうにな 屋は共處らの藪から靑竹を切って來て、これに杉の葉など交ぜ加へさいよ。」 っ そんな て無細工の木戸を造くって了った、出來上ったのを見てお徳は、 「私はまア共様ことは仕ない積りだが、それでも、ツィ忘れること 「これが木戸だらうか、掛金は何處に在るの。こんな木戸なんか有が有るからね、お前さんも屑屋なんかに氣を附けてお呉れよ。木戸 るも無いも同じことだ」と大聲で言った。植木屋の女房のお源は、 から入るにや是非お前さん宅の前を通るのだからね。」 これを聞きつけ 「えゝ氣を附けるともね。盜られる日にや薪一本だって炭一片たっ 「それで澤山だ、どうせ私共のカで大工さんの作るやうな立派な木て馬鹿々々しいからね。」 戸が出來るものか」 「さうだとも。炭一片とお言ひだけれど、どうだらう此頃の炭の高 ばた あれ と井戸邊で釜の底を洗ひながら言った。 値いことは。一俵八十五錢の佐倉が彼だよ。」とお德は井戸から臺 ひとっ 「それちやア大工さんを賴めば可い。」とお德はお源の言葉が癪に 所ロへ續く軒下に並べてある炭俵の一を指して、「幾干入ってるも しちりんもや っ のかね。ほんとに一片何錢に當くだらう。寸るでお錢を涼爐で燃し 觸り、植木屋の貧乏なことを知りながら言った。 どかま みん 「賴まれる位なら賴むサ。」とお源は輕く言った。 て居るやうなものサ。土竈だって堅炭だって悉な去年の倍と言って ためいき 「賴むと來るよ」とお德は猶一つ皮肉を言った。 も可い位だからね。」とお德は嘆息まじりに、「眞實にやりきれや仕 お源は負けぬ氣性だから、これにはむっとしたが、大庭家に於けない。」 いる 「それに御宅は御人數も多いんだから入用ことも入用サね。私のと るお徳の勢力を知って居るから、逆らっては損と蟲を壓へて いくらいりや はか 「まアそれで勘辨してお呉れよ。出入りするものは重に私ばかりだ こなんか二人限だから幾干も入用ア仕ない。それでも三錢五錢と計 りずみ あけたて どろう から私さへ開閉に氣を附けりやア大丈夫だよ。どうせ本式の盜賊な量炭を毎日のやうに買うんだからね。全くやりきれや仕ない。」 「全く骨だね。」とお德は優しく言った。 ら垣根だって御門だって越すから木戸なんか何にもなりやア仕ない からね。」と半分折れて出たのでお德は 以上炭のまで來ると二人は最初の木戸の事は最早口に出さない で何時しか元のお德お源に立還りペちゃくちゃと仲善く喋舌り合っ 「さう言へばさうさ。だからお前さんさへ開閉を嚴重に仕てお呉れ なら先ア安心だが、お前さんも知ってるだらう此里はコソ / 、泥棒て居たところ埓も無い。 すき や屑屋の惡い奴が彷徨するから油斷も間隙もなりや仕ない。そら近 十一月の末だから日は短い盛で、主人眞藏が會瓧から歸ったのは あそこ 頃出來た。ハン屋の隣に河井様て軍人さんがあるだらう。彼家ぢやア 最早暮れがかりであった。木戸が出來たと聞いて洋服のまゝ下駄を や あか しばらく 二三日前に買立の銅の大きな金盥をちょろりと盜られたさうだから突掛け勝手元の庭へ廻り、暫時は木戸を見てたゞ微笑して居たが、 さん そっち や どう さかり ひときれ

5. 日本現代文學全集・講談社版 18 國木田獨歩集

さんは大よろこびで承知することも知っては居ましたけれども、ぐいけないと思ひましたから、何と言って可いか分らなくなったから 0 づ / \ ーで二月ばかり經ちました。 默って居ました、さうすると母上さんが默って了ひましたから、私 めなし ところが四月の末のことです、其日は日曜で私は同僚の一人から尚ほ悲くなって泣いて居ましたのよ。けれどもね、何とか言はない 是非遊びに來いと招かれまして宿に歸ったのは夜の八時ごろでし と悪いと思ひましたから、それじやア母上さん何卒貴女から澤村さ た、部屋に入るとおしんが其處に坐って居ましたが私の顔を見るやんに聞いて見て下さいと賴みましたの。けれども其前に私から一寸 そのあと 直ぐ突伏して了ったので、流石の私も胸がドキリとしました、急い澤村さんに言うて見ますから其後にして下さいと言ひましたのよ。 で偐に坐わり、 それじやアまアお前の可いやうになさいと母上さんは何だか機嫌が さっき 「如何したの、え、如何したの。」 悪いのよ。だから私も直ぐお部屋へ來て先刻から待て居ましたの。」 見ればおしんは泣いて居るのです。「え、如何したといふに、し 斯う言はれて私はすっかり當惑して了ったのです。これが當前の んちゃんやコ一フしんちゃん ? 」 方なら「ウンよろしい、それなら私から直ぐ母上さんに相談しょ おっかさんあんま 「だってね、母上が餘りなことを言ふのですもの、」といひながら う」と決心するところですけれど、私には其決心が出ないのです。 颶げた顔を見ますと、なるほど涙は出て居るけれど泣いて居るの私の性質として、かういふ場合に直ぐ熱することが出來ないので か、笑って居るのか判らないのです。これで私も少しは胸が落着きす。 ましたから 「それは困った、」と口を衝いて出るかといふに、さうでもないの 「何て言ったの母上さんが。」 です。 はっきり 「何とって別に判然したことは言ひませんけれど、何だか二人のこ 「それでは母上さんが今に何とか相談に來るでせう。其時よく相談 とを母上は感付て居るらしいことよ。」 すれば可い、」と靜かに言って火鉢にもたれて涙の痕をハンケチで 「それで何とか言って。」 拭いて居るおしんの背を撫でました。すると例の慾情が燃えあがり すりよ 「お前どうする氣かとだしぬけに聞きますから、どうするツて何ましたから我知らずおしんに摩寄りました、何と淺間しい人間では はっきり を、と言ひましたら、母上にだけは明亮言っておくれお前は澤村さありませんか。 しゃうし んと約朿でも仕たのではないかと言ひますから、私はたゞ默って居 其トタンにすッと障子を開けて人って來たのが母上さんです ( 共 おっか たのよ。さうすると母上さんが、女といふものは操が大事だとか何頃私はおかみさんと呼ばず母上さんと言って居寸した。他の下宿人 とか色々なことを言ふんですよ、私悲しくなって泣きだしたの。さの一人二人もさう呼で居たのです ) うするとね、母上さんが、若しお前が澤村さんの妻になる氣なら私 おしんの來て居る時、母上さんの來ることは此二三ヶ月殆ど無い いなや ないっ′、り とびの は決して否は言はない、澤村さんなら私も氣に入って居るのだから ことですから私は喫驚しておしんの傍を飛退きました。おしんは起 お前の決心さへちゃんと打明けて呉れば私から今夜にでも澤村さって外に出てゆきました。其あとに母上さんは坐りましたから、私 んと相談するが如何かと申しますのよ。私もそんならさうして頂戴も其向に坐わり、二人の仲には小さな長火鉢があるのです。 あなた と言はうかと思ったけれど、若しね、だしぬけに母上さんが貴様に 「私少し御相談があるのですが、」と先方は直ぐ切りだしました、 そんなことを言ひだしたら、貴様に考へがあって、其とぶつかると そしてカめて話を眞面目にしゃうとする様子ですが、やはり言ひ惡 さすが そば げしゆくに

6. 日本現代文學全集・講談社版 18 國木田獨歩集

紙を出したらしい。共手紙には先夜の夢物語が書いてあった。然し に何處にも先生の影が見えない、定めし散歩にでも出たのたらうと 僕は暫時、母と語 0 て居た、と 0 ろが母堂 0 言葉 0 中に今朝お鶴少しも其夢を實行しゃうなど 0 意味はほ 0 めかしてな」。又た江間 さんから手紙が來たらしかった、差出人の名は書いてないが確にお君を誘ひ出すやうな文句もない。 前後の事情を以て推測するに、江間君の飛び出したのも心中の覺 鶴さんの手であったとの事に僕も頗る驚いた、「それは間違でしょ う、お鶴が手紙をよこす筈がありせん、」と言 0 て見たが、」や悟ではなく、お鶴が散歩に出たのも江間君に出逢ふ積りではなか 0 たらしい。これ以上は到底僕等如き第三者には判斷も推測も出來な どうしてもお鶴さんの手であると言はれる。爭ったところで仕方が ないから僕は唯「〈え、不思議なこともあるものだ、」位の挨拶をいのである。 大井君足下、僕は此哀れなる男女が、あの斷崖の上に立ち月色茫 して歸宅した。 翌朝僕は再び江間君を訪ふ積りで家を出かけると、逗子 0 妻から茫たる相模灘を望んで、其薄命なる肉體を冷酷なる自然に還し、共 電報。直ぐ歸 0 て來」と」ふ意味。別に何とも書」てはな」が、僕刹那に燃え上 0 た愛情を永久に保たん 0 とを願ひ、相抱」て泣」た ナさと 光景をありど、と想像することが出來る。 はお鶴の身の上といふことを直ぐ覺った。逗子に歸って見ると果し 東京の新聞紙には痴情云々を例の筆法で書いて居た。痴情か、痴 て。 江間君とお鶴 0 死體が奥 0 八疊 0 間に最早運びこんであ 0 た。様情か、痴情とは何ぞや。若し自殺する人が、生きて此世に呼吸す・〈 子を聞」て見るとお鶴は前夜八時頃、月が佳」から一寸海濱を散歩く何 0 意味だと問は、何人か克く 0 れに對して彼を滿足さす程 0 すると言 0 て出たきり歸 0 て來ず僕 0 妻は夜通し心配して待「て居答辯を爲し得る者ぞ、第三者 0 説明と答辯とは當局者にどれほど 0 ると、次の朝になって小坪と鎌倉材木座との間の崖の下で心中があ力があらう。 僕から言はすると、江間君もお鶴も今は相携〈て、お鶴が夢に見 ったとの取沙汰、女の風俗を聞いて見るとどうも怪しいので早速飛 たやうな野邊を散歩して居るだらう、お鶴は心ゆくばかりに共好き で行って見ると、二人の死體が既に磯に引上げてあったさうな。 な唱歌を謳ふて居るだらう。 僕は白从するが此珍事に就いて何等の豫測も出來なかった、餘り ( 明治三十六年十月 ) に小説じみて、餘りに事が突飛なので、到底僕のやうな者の頭では 共前兆を捉〈ることが出來なかったのである。 しかしお鶴も江間君も書置らしい者は遺して置なかった。たゞ江 間君の馴にお鶴からやった手紙があって共手紙に依ると江間君か ら僕によこした最後の手紙をお鶴が讀んだものらしい、僕は机の抽 斗に入れて置いたのである。今までお鶴は僕が許して見せぬ手紙は 決して見たことのない女であるのが、故意か偶然か、兎も角僕の納 って置いた手紙を見つけ出して、之を讀んだのは唯事ではないので ある。 それから其手紙を讀んで非常に泣いたらしい。泣いて江間君に手

7. 日本現代文學全集・講談社版 18 國木田獨歩集

はなし 「知らんよ、母は母、は僕だから。」 彼は眞面目で下を見て居たが其儘談話を轉じて了ったので自分も少 8 幻「然し知って居なさるだらう。」 し意外では有たが に何も言はなかった。さうすると戸の消印で 「どうたか。母は僕に何とも言はないから。」 次のやうな手紙をこしたのである。 「坂本は母上の氣に人って居るか知ら。」 「僕は千代子を愛し、千代子も亦た僕を愛した。然し決して二人は 「母は決して人の嚀を爲ん人で、おまけに無ロだから解らない。然 口に出して將來を約東することは爲なかった。僕は今度上海に行く し坂本が來ると何時でも御馳走するよ。」 に就て、君に相談して公然約東を申込んで置ふかとも思った。 自分は話を轉じた。暫くすると坂本が一人ひょろりと吾妻屋にや けれども僕は非常に考へて見合すことにしたといふ理は、僕が って來て、 今の若さに妻を持ことは到底出來ないし、又こ長四五年の後の約東 「ビールが一杯飮みたい ! 」 を爲ることは千代子孃のために甚た不利であると考へたからであ 「贅澤を言ってる ! 」と思はず自分が言ふと、 る。十八といへば既に婚期、若し強ひて公然の約東をするならば徒 「飮さうか。」と言って若代は家の方へ走って行った。 らに彼女を東縛することになると考へたからである。」 ましめ 「何を謐んで居たのだ。」と目分は故意と眞面目で聞いた。坂本は 自分はこの手紙を見て坂本の處置に至極感心し、同時に彼が内心 くるしみ 澄したものて、 の苦惱を思ひやって少なからず同情を表したのである。坂本の出立 「日二」へ間 た後で自分は時々若代を尋ねたが千代子は見た處別に變った處もな 「馬鹿を言へ ! 」 いやうに思はれた。若代も亦た平氣な風で坂本とは絶えず手紙を当 「じやア見給へ ! 」とポッケットから取出したのは成程敎科書であ りかはして居たらしい。 った。「君は見て居たね。」 翌年若代も學校を卒業して、直に大阪の或會社に招かれたから、 「若代が見つけたのだよ。」 大森の家は他人に貸して、母と妹を連れて赴任して了った。 「何とか言ってたか。」 五年の歳月は忽ちゅき、共間坂本熊男は一度も歸國せず、自分も 「笑って居た。」 亦た大阪なる若代には一度も會はず、三人の間はたゞ手紙の往復に といふ中若代は自身でビールの壜を提げ女中にコップなどを持た 渦 . ぎなかった。 はなし しゃ・ヘる して京たので、二人は此談話を止めて飮はじめた。饒舌のは若代と 六年目に坂本は東京の本店詰となり、東京に歸るや彼は鄕里の父 自分ばかり、坂本は默って遠く郊外の樹林を眺め、自分逹の笑ふ時母及び妹を迎へ取って本鄕に家を持ち、自分は小石川に居たので二 ゆくすゑ 彼も笑ったが、恐らく將來の樂しい事ばかり考へて居たのであら人の往來は又もや書生時代と變らなくなった。自分は其頃すでに妻 う、それとも現今の樂みに醉ふて無念無想の境に其心を溶して居た 帶して居たが或日のこと、坂本がやって來て、 のだらう。 「妻を迎へやうと思ふが如何だらう。」と突然言ひだしたから自分 試驗は無事に濟み坂本は優等で卒業した。某銀行に招かれ直に上は、 海の支店詰を命ぜられたので、一寸歸郷するや間もなく上京して、 「其事なら僕も言はうと思って居たのだ、候補者があるかね。」 愈々渡航といふ前の晩、自分はそれとなく千代子のことを聞くと、 「千代子壞サ」 はい しゃん

8. 日本現代文學全集・講談社版 18 國木田獨歩集

ないから、 禮子と母に迫られビールは後廻しとなった。 「矢張り駄目」 『ね君、さうちやアないか。然でも否でも何方か言へんことはない 「駄目って ? 」と禮子は眼を据ゑて聞く。 だらう。若しそれが言へんなら考へてることがあるから當分延ばす 「今村君は何にも言はないのだ」 と言ったって可いちやアないか』 むた と言ひました。それでも默って居るのです。最早とても無益だか 「お前から切り出して訊いて見れば可いのに」と母は焦燥しさうに ら中止うかと思ったが、それでも、 言った。 『強ひて君の祕密に立ち入る譯ちやアないが國ちゃんから聽かされ 「それは訊きましたとも、自宅を出ると直ぐ國ちゃんが來て之れ た以上、僕も心配だからね。それに母でも妹でも君のことだといふ 之れの話があったと言ったのです。さうすると國ちゃんが來たこと と他人ごととは思はんで騒ぐ方だから、今日だって君の來ん前に色 は僕も知って居ると言ったぎり何にも言はないんです」 「まア」と禮子は低い聲で哀しさうに言った。母はたゞ眉を顰め色なことを言って氣を揉んで居た位だ』 と言って見ました。かう言へば何とか言はなければ濟むまいと思 「國ちゃんの來たことを今村君が知って居ることは僕も知って居るったのですが矢張默ってるのです。そして急に肩を斯う振ったのを ちやアないか、成程少し變だと思って僕も默って了って無言で坂の見て僕は、グッと癪に觸っちゃったのです。何故なら今村君は他人 から色々なことを言はれて最早辛抱が出來なくなると口に出さない 上まで行ったのです。十日の月が能く冴えてるんでせう。お濠が霞 いつも はなし で此身振をするのが癖で、それがさも、「うるさい ! 」と言ったや んで佳い景色なんです。平時なら二人が面白い談話をするか氣焔で も吐き合って散歩するのが今夜は無言でせう、僕も妙な氣持になつうに見えるのです。だから僕は思ず、 『どうせ僕なんぞ君の相談相手にならないだらうけれど : : : 』 て來たから坂で別れて歸らうかと思ったのです。けれどもさうすれ ば國ちゃんに賴まれたことが何にもならないでせう。どうせ言ひ出 と言ひ寸すと、ぢろり僕を見ましたが、やがて言ひ悪くさうに、 したのだからと思って坂を下りながら、 『君は本氣でそんなことを言ふのか』と訊きました。それが如何に 『承知とか不承知とか何方でも可いから明白に言った方が僕は可い も辛さうな聲でせう、僕は急に氣の毒になって默ったまゝ歩いて居 ましたが、 と思ふがね。如何だらう』 と宥めるやうに言って見ました。矢張今村君は默ってるのです。 『僕たってさういふ外仕方がないちやアないか』 と言って今村君の顏を見ると眼に涙を一ばい含ませて唇がぶるぶ そして顏を見ると、あの威嚴のある顔が全然眞面目になって居るの る戦慄ってるのが月で能く分るのです」 風と月が正面に照して居るのとで妻いやうでしたよ。それで眞正面に 向いてのっそ / 、歩く風は全然で僕の言ふことなど聴いて居さうも 「涙を」と禮子は思はず叫んだ。そしてその美しい眼が濕んで來 V 0 暴ないやうに見えるのでせう。僕も少し癪に觸ったけれど、今村君が あつよ 斯う言ふ傲慢な態度をすることは昔からの癖で、ひどく眞面目のと 「えゝ涙を。彼の強い男ですもの容易なことで涙など人に見せはし きか、ひどく氣に觸ったことのあったとき能く此癖を出すのを知っないのが兩方の眼に一。ハイ含ませて拭はうともしないのです。それ はてし 2 て居るから、僕は我慢して一緒に歩いて居ました。けれども終局が を見ると僕は最早何も言へなくなって丁度見附の所まで行った處 やつばり たりいき 富彌は嘆息をして、

9. 日本現代文學全集・講談社版 18 國木田獨歩集

れば泣くのみといふ。 六日午後、豐壽夫人を上野に迎へたり 豐壽夫人の歸京はわれ等親話の自由を奪ひぬ。 嬢よ。此の普通をはなれたる靑年に全心の愛を捧げたるは不幸な る哉。壤よ、吾を許せ、あよ吾を許せ。 隝呼よ。此の足らざる吾をも全心を以て愛する可憐の少女を常 に守り給へ。 更らに祈る、吾等二人の望、喜、光、は互ひの愛なり。益よ淸く 且つ高く、且っ堅固ならしめ給へ。 十日。 靜に此の一身を顧みれば實に責任の重きを知るなり。 人生は眞面目なり。 は吾に豫言者の火を求む。 わが愛は自由を求む。 われに全身の愛を捧げたる少女あり われ北海風雪のうちに沒せんと欲す。 われ後に父母一族あり。 われの傍にわれを賴む靑年あり。 一身の生死失落存亡は恐るよ處に非ず。あよ祁よ。われをして世 人のために、此の國の爲めに、此の世の爲めに、此の五十年を費 さしめよ。土地を得て何かせん。 富を得て何かせん。此の地球上の生命は唯よ靈の修練のみ。 の ざ咋タ徳富氏に晩食の饗應あり。夜半まで語り、氏わが性質を説き て大に戒むる所ありたり。氏は余に、フランクリン的敎訓を與〈 たるなり。處世成功を敎へたるなり。 3 5 3 今日午前段淸吉氏を訪ひ北海拓殖の事をたゞす。德富君及び收 二、三人にて丸木にて寫眞を撮る。晝飯の饗應を佐々城にて受 昨日約したるなり。夜、段淸吉氏を件うて、上村昌義氏を訪ふ。 氏は北海道に於ける事業家の一人なり。 昨日内村鑑三氏より親切なる書妝ありたり。 昨日件諒輔氏より武雄君の片身として浴衣地一反送り來る。 ①件諒輔。武雄の兄。 十二日。 午後五時半筆を採る。 われ今鹽原温泉、古町の一旅館の樓上にあり。 咋日午後五時信壤を送りて上野停車場にあり。停車場にて、遠藤 よき孃と合ひ、二孃が鹽原に行くを送りぬ。 午前今井忠治君來宅。尾間明氏來宅。收二と四人牛を煮て食ふ。 午後收一一をして菅原佐々城兩氏を訪問して紹介从を受取らしむ。 佐々城夫人不在。 田村三治氏來宅、宮崎八百吉氏來宅、萱場氏來宅。 十三日。 昨日執筆の續き。 夜、 ( 十一日 ) 佐々城夫人を訪間して紹介从を受け取る可き筈の 處、以上の來客の爲め果さず。 昨日 ( 十二日 ) 午前、收二及び尾間氏に送られて上野停車場に到 り、六時半發の汽車にて發す。那須停車場より車にて鹽原に向ひ ぬ。鹽原は古町會津屋なり。 未た古町に逹せざる半里計りの處にて、信嬢に遇ふ。 車を下り、信嬢と共に歩みぬ。吾等の位置の容易ならざる事を語 り、大に覺悟して決して惑はず。 瓮よ高潔深切を期し、一には湖處子君等をして吾等のあとを追は

10. 日本現代文學全集・講談社版 18 國木田獨歩集

銀之助は斯う考へて來ると解らなくなった。節操といふものが解「それまでは。」 あなた らなくなった。 「貴郎と不可なくなってから唯だ内に居ました。」 みさを′′、、 成程元子は見たところ節操々々して居る。けれど講習會を名に何「たゞ。」 いくら をして居るか知れたものでない。想像して見ると不審の點は幾多も 「さうよ。」と言って「お、薄ら寒い。」と靜は銀之助に寄り添た。 ある。今夜だって何を働いて居るか自分は見て居ない。自分の見る銀之助は思はず左の手を靜の肩に掛けかけたが止した。 事も出來ないこと、それが自分に猛烈な苦惱を與へることを元子は 「僕も醉が醒めかゝって寒くなって來た。靜ちゃんさへ差つかへ無 實行して居るではないか。 けれア彼の角の西洋料理へ上がってゆっくり話しませう。」 考へれば考へるほど銀之助には解らなくなった。忌々しさうに頭 靜は一寸考へて居たが いそぎあし やっ を振て、急に急足で愛宕町の闇い狹い路地をぐる / \ 廻って漸と格「最早遲いでせう。」 子戸の小さな二階屋に「ト / 川」と薄暗い瓦斯燈の點けてあるのを發 「ナアに末だ。」 ためら 見けた。「小川方」とあった、よろしいこれだと、躊躇ふことなく 靜は又一寸考へて、 かな 格子を開けて、 「貴郞私のお願を叶へて下すって。」と言はれて氣が着き、銀之助 たちど 「お宅にお靜さんといふ人が同居して居られますか。」 は停止まった。 と訊くや、直ぐ現はれたのが靜であった。 「實は僕今夜は五圓札一枚しか持て居ないのだ。これは僕の小使錢 まとま 「能く來て下さいました。待て居たんですよ。サアどうか上って下の餘りだから可いやうなものの若しか二十圓と鄲ると、鍵の番人を よそ さいましな。」と低い艶のある聲は昔のまゝである。 して居る細君の手からは兎ても取れつこない。どうかして僕が他か あなた くめん ら工面しなければならないのは貴女にも解るでせう。だから今夜は 「イヤ上るまい。貴方は一寸出られませんか。」 あと 「さうね、一寸待って下さい。」と急いで二階へ上ったが間もなく これだけお持なさい。餘は二三日中に如何にか爲ますから。」と紙 降て來て 入から札を出して靜に渡した。 「ほんとに私は、こんなことが貴郎に言はれた義理じやアないんで 「それでは共所いらまで御一所に歩きませう。」 すけれど、手紙で申し上げたやうな譯で : : : 」 二人は並んで默って路地を出た。出るや直ぐ銀之助は、 「最早可いよ、供には解ってるから。」 「よくこれが出しましたね。」と親指を靜の目の前へ突き出した。 あん 「だって全く貴様にお願ひして見る外方法が盡ちゃったのですよ 「アフ彼な事を。相變らず口が惡いのね。」 「別れてから、たった五年じやアありませんか。」 「ほんとに五年になりますね。昨日のやうだけれど。」 「最早解ってますよ。それで餘の分は何れ二三日中に持て來ます。」 とぎ 二人の言葉は一寸途斷れた。そして何所へともなく目的なく歩て 節 居るのである。 くるま 銀之助は靜に分れて最早歩くのが厭になり、俥を飛ばして自宅に 「今のこれとは何時からです。」と銀之助は又た親指を出した。 歸った。遲くなるとか、閉めても可いとか房に言ったのを忘れて了 「これはお止しなさいよ、變ですから。一昨年の冬からです。」 あてど いづ