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検索対象: 日本現代文學全集・講談社版38 北原白秋 三木露風 日夏耿之介集
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1. 日本現代文學全集・講談社版38 北原白秋 三木露風 日夏耿之介集

で二十一歳、同學の牧水一一十一歳、芳水一一苑」に發表するようになり一途に詩を志 章世界」、「靑き眞晝」他二篇を「文庫」、「五 十歳、夕暮一一十三歳、汪洋一一十五歳であっす。三月、「麗日」他二篇を「藝苑」、「谷月ひるすぎ」他一篇を「新潮」、五月、「暗 た。柴舟、牧水、夕暮、汪洋の車前草瓧がの晝」を「新古文林」、「朽ちたる戀」を「海い扉」を「早稻田文學」に發表。六月、早 結ばれ、その詠草が「新聲」に載せられた國」に發表。四月、「朝空」他七篇を「藝稻田病院に入院。「異國」他一篇を「趣味」、 のは九月からで、翌年新年號から露風、芳苑」、「短篇一一章」を「健全」、「泡」を「新七月、「病院にて作れる二章」を「文庫」、 水が加わっているので、十一月頃參加した聲」に發表。御風、東明、介春、雨情と早八月、「病院の黄昏」他五篇を「文章世界」、 ことになる。十月、「胸なる響」を「新聲」、稻田詩瓧結成。五月、「哀しき愛トを「文九月、「さすらひ數篇」を「中央公論」、「心 十一月、「繪燈籠」を「文庫」、十二月、「戀庫」、「柩」を「早稻田文學」、「夏の日」をの象」「信仰と牢獄」を「趣味」、「八月の の家島」を「新聲」、「はかなき魂」を「新「中央公論」、「川波」他一篇を「文章世界」一日」を「紅炎」に發表。「ハガキ文學」の 潮」に發表。 に發表。七月、「愛のふるさと」を「早稻ロ語詩選者となる。十月、村田犀川と共に * 啄木『あこがれ』出る。日露講和條約調印。 田文學」、「まひるの海」他二篇を「文庫」、 「新聲」の粡集を始める。「落葉の時」を「趣 八月、「磯波」他四篇を「早稻田文學」、九味」、「路」を「早稻田文學」、「夏の港の印 明治三十九年 ( 一九〇六 ) 十八歳 月、早稻田大學文科に入學。 ( 大正九年まで大學象外三篇」を「新天地」、十一月、「十月の おとづれ」「自由なる詩歌 ( 評論 ) 」を「新 一月、「野の晝」を「文庫」に發表。本鄕は九月入學、七月卒業 ) 「日の翼」を「中央公論」、 聲」、十二月、「墓」を「新潮」、「森林にて」 駒込林町の大阪屋へ轉居。二月、「擽林に「火」他四篇を「文庫」 ( 一日刊 ) 、「えにし」 を「新聲」、「靑ざめたる心の嘆き」他一篇 立ちて」を「文庫」、三月、「おもかげ」を「無題」を「文庫」 ( 十五日刊 ) に發表。十月、 「新聲」に發表。四月、駒込木戸侯邸内一一一「灰」他四篇を「文庫」、「その夜」他二篇をを「文章世界」に發表。 * 泡鳴『闇の盃盤』出る。藤村「春」を書く。 島霜川の家に移る。徳田秋聲を知る。十一一「早稻田文學」、十一月、「碇泊 ( 港江と改題 ) 」 獨歩歿。 他二篇を「文章世界」、十二月、「美眸」「ふ 月、「桑摘む家 ( 短歌 ) 」を「新」に發表。 るさとの」を「文庫」、「火涙録」を「趣 雜司ヶ谷目白館に移る。 明治四十二年 ( 一九〇九 ) 二十一歳 * 泣菫『白羊宮』、淸白『孔雀船』、藤村「破戒』味」に發表。この頃雜司ヶ谷の六合舍に住 出る。「文章世界」創刊、「早稻田文學」復刊。む。 一月、「新聲」編集を退き週刊雜誌「成蹊」 * 花袋「蒲團」を書く。觀潮樓歌會始まる。 記者となる。「新詩」を「秀才文壇」、「落 明治四十年 ( 一九〇七 ) 十九歳 葉」他一篇を「新聲」、「喜ばしき五月の 明治四十一年 ( 一九〇八 ) 二十歳 一月、「機關車」を「日ぐるま」、「春の貝 歌」を「文庫」、一一月、「海上」を「新潮」、 ( 短歌 ) 」を「新聲」、二月、「雨ふる日」他一月、「霧」を「詩人」、二月、「毒瘡」他「いと熱き戀の歌」を「音樂」、三月、「風 四篇を「藝苑」、「くもれる空」を「日ぐる一篇を「新潮」、「惑亂」を「文章世界」、 に寄せて歌へる春の歌」を「火の柱」、 ま」、「如月」を「婦人世界」、「旅情」を「鐘鳴る晝」を「趣味」、「海より響く」他「時雨と樂聲と」他三篇を「文章世界」、 「讀賣新聞」に發表。生田長江推薦で「藝二篇を「文庫」、三月、「深夜」他二篇を」文「梟」を「秀才文壇」、「丘邊の午後」を「新

2. 日本現代文學全集・講談社版38 北原白秋 三木露風 日夏耿之介集

さぎりのみねにたなびきて ありともしれぬうすぐもに 銀に音なき波はこゅ。 なやみて死ぬる蛾のけはひ。 入日靜にめぐらせば 空をはるん、たのめなく 靈染めし柵も西。 くん あしきん ねがひはありや日は遠し、花は幽にうち薫はるん、空を月の旅。 影むらさきに、脚金に ず。 そは幻か寶玉か、あらはれてしる聲の聲。 いつも變らぬ君がゑみ ゆるき光に靈の うれひの中にうちみれば 煙のごとく泣くごとく。 さけべる聲のいわけなく、 あかご 靑ざめがほの美しく わが血の嬰兒目をさます。 わが身のうつゝながむれば 消ゆるを惜め。なほ汲めよ。 こうギ、よく 月さすかたや、をり / 、は 紅玉の靄たなびけり。 櫂には映るわがいのち。 そあめ しめ かすか 幽にくらき細雨のふるとしもなく濕れども。 隱ろひわたり、染みわたり また吹き落す良き心。 入日の中にしづく聲。 はる ゆくへさだめず、くもりせず 野は杏かなり。息絶えて まにろし もや おちばちりかふ幻に 心もかすむ日ぐれどき、 紅き靄着る小舍の屋根。 ほ乂ゑみ落つる月のこゑ。 鳥は嫋びつ花は黄に、 うつけて立てる樹の沈默。 恍惚の中吹き過ぎて 躍やく牡牛。 さぎりのみねに、彼の空に 色と色とは彈きあそぶ。 靑ざめがほのうつくしく。 これらあだかも良き心。 ひとっぴとつに靄のかい、あらはれて去る慕はしや、春うっす 栴檀 永遠のゆめ、影のこゑ。 その上を。 身には搖れどもいそがしく あか・こ せんだんの花のうすむらさき 入日の花のとゞまらず。 わが血の嬰兒よびさませ。 ほのかなるタににほひ、 ゆるを惜め。 おもひ とだ 人 幽なる想の空に 春はわが身にとゞまらず。 道途絶えたるかの空に、 すだま あくがれの影をなびかす。 の遠き精靈か、今すでに入日をあらふ櫂の聲。ありともしれぬうすぐもに なやみこがる乂蛾のけはひ。 しめり香や、染みつゝきけば 現身 5 やはらかに忍ぶ音もあり。 さぎりのみね 8 2 とほっ代のゆめにさゆらぎ 春はいま空のながめにあらはるゝ かい こや もや たましひ かすか

3. 日本現代文學全集・講談社版38 北原白秋 三木露風 日夏耿之介集

4 9 2 落ちたる塀に纒はる蔦は、 悲しけれども力あふるゝ。 われまた延びよ。安らかに 深き心の手をのべて。 煙や、霧や、山岳や あ乂、いかにかのうるはしき。 延びよ。この養ひの中に まった 自らの日の完きまで。 寺 長き光は空にゆけり、 ものみな生きて、ゆらゆる炎となり あはれ今、聲もなしゃ 奪くぞ繞れる地は。 高き木々、その身は霞み 無限なる調べを煙く。 波うてる地の香爐の上に 大いなる心を示し。 いのり われ聽けり。のぼる祈疇は 祭壇にまつはりゆくを。 否、かくて無言の中に みづからの寺を釀すを。 祭なり。 その聲は無限の裡にひろがりて ゆるやかに押すゝみ 然と見えぬ力に波をあぐ。 色と響と前祕の中 こたま 谺もなくて融けあへば あとよりは、またためらひて、つぎ / \ に のぼ 騰る聲。 狂喜して返る魂かと。 祭は、げにや、祕密の花を燒く。 燻ずる香り、吹きすぎて 神の星座を焦すべく 山車にきらめく花たばは、 くもっ きよおごり 聖き驕奢の供物なり。 しもべ 僕となれど、身も足らはず 牛は、おづおづ曳きめぐる。 牛はおづおづ良き心。 ゃあれ、曳け曳け、涙ながらに ゃあれ、狂氣して、曳き廻はせ。 いな こか かも けむり 煙をあげて地を吹きしく。 じやかう 麝香の渦のかのけむり 星座をかけて地を吹きしく。 祭は世にも稀なる花を燒く。 爛々として唱和の聲は 神祕を罩めて海へ往く 荒き粗野なる小供心に。 * 八月十四、十五兩日は深川大祭なり。八十餘の禪輿 と数臺の山車出づ。ふ者一萬餘人、牡牛數匹、手 古舞等を以て数ふ。今年大正二年の祭は就中豪華を 極めたりき。 深き眠は舟夫を襲ふ ものうく、悲しく蕭やかに しゃうき 瘴氣にうたれ、心歪み たゞ狂暴の夢のみひとり 嵐の中を廻ぐりたり。 しめ

4. 日本現代文學全集・講談社版38 北原白秋 三木露風 日夏耿之介集

日ホ袋學公集 座談會 白秋・露風・耿之介 京の 三好達治 文 3 中野重治報い談 ロ都町 伊藤信吉 京羽 司會山本健吉 月講東音 題字・谷崎潤一郎 三好それから「邪宗門」。やつばりいい。 山本いいかも知れませんが、私は「邪宗門祕曲」という詩ね、三 好さんが詳しく評釋されたことがあるけれど , / , ・も、どうも一一一「葉ばかり先きに來て、何をいおう としてるのか、中身が大したことないような氛 がして好きでない。 三好だけど、僕は高等學校の時に讀んで、と にかく驚いたものだな。まぶしきがものだったね。 北原白秋 中野僕の友逹が、「邪宗門」の「目見靑きドミニカびとは」とい 三好僕は白秋では童謠が一番すぐれていると思う。一番永遠性のうのはね、きれいな聲で讀んじゃいかん、濁った聲で讀まなきゃい あるものだと思う。 かんというんだね。それで僕も成程そうだな、これはきれいな聲た 山本童謠がどういう點でいいのか、ちょっと説明してみて下さ と本當の味が出なくて、少し濁っただみ聲で讀 い。 む方がいいと思っていた。つまり、あれは珍し 三好あれはあの人のいいとこばかり出てます。いま歌われている い品物やら事柄やらを通して、エキゾチスムみ 歌はどんなのがありますかね。「赤い鳥、小鳥」、「砂山」・ たいなものが歌われてるんだね。、 ピー。トロ・か」 中野「あわて床屋」。あれなんかは巧いものだ。 一うしたとか けれん 三好ただ歌われるだけでなく、文字で讀んでも、あれはもう世界三好あの、「芥子粒を林檎のごとく見すといふ欺罔の器」。あれ、 中にないくらい、僕は感心するな。 巧いものだね。 山本そのことと關迚するかも知れませんが「私は白秋の詩では山本そういう技巧の點では白秋はもう言うことないような氣がす 「思ひ出」が一番好きなんです。あの世界を發展させると、童謠、 るけれども : : : 。何か、歌でも詩でもそうですが、たくさん讀んで いると飽きが來る。他の詩人、萩原朔太郞や室生犀星などとはまた 一民謠になるような面もありますね。 座談會白秋・露風・耿之介 司 山伊中三 本藤野好 健信重逹 ヨ : : ヨご 口にしロロ 宀

5. 日本現代文學全集・講談社版38 北原白秋 三木露風 日夏耿之介集

なほ鮮かに美しくなさんとす。 よる 五月の夜は今か來ん : ・ こみち 小逕は草に隱れたり。 眠れる田舍のものすべて靜まりて、 戀の心は柔かき涙の絹につゝまれん。 哀しき心と樂しさに、 思へば百合のむすめ、むすめ 彼女は泣きてまどろまん。 あ鐘の音はゆるく鳴りひゞけり。 その聲は谷間に落ち その音は森に搖らぐ 0 000 」 000 」一 眠より避けて飛び、 優しき銀の陰影に消えんとす。 ゅふ・ヘいこ タは憩へり。タは憩へり。 じゅもくけふ 樹木は煙りぬ。樹木は煙りぬ。 重き涙と、ほゝゑみと : あ戀は、 繁みの中にかゞやかん。 指 汝が髪の優しき中にわが指の 9 わけ入りゆくはうらがなし いと柔かにゆふぐれのあたりさまよふこゝ ちして、 / 百合のなげきをきくごとく。 2 れむり 百合のなげきをきくごとく 心はひとりなみだする。 みち 寶石の逕。戀の逕。 とりあつめたる小曲の 指はさしぐみ涙する。 延びゆく夢 過ぎゅく鳥の影黒く うれひ 憂の雨に羽ばたきす。 池のほとりに灰色の溺るゝ聲、 いと重く、また低く取り蜷く聲、 はびこ 老いたる草は蔓りて、 なび 岸の彼方にきたり、 見知らぬ果に旅をする靈は、 草の中にて死したらん。 月傾けば靑白く おそる又眼もて打ちまもる。 いまわが池は、眠りながらに、 ものうく暑く肥りゆく あちは 憂の雨を味ひて、 あ又わが「生」は屍の上、 綠の花を着けんとす。 ひそかに、ひそかに延びてゆく 池のほとりの我が夢よ。 溺るゝ聲の うれひ はて ふと かばね おぼ たましひ つぶや 『いざ滅べ。いざ滅べ』とぞ呟く時。 たましひ 靑白き月の眺めに靈の果つる時。 古き月 あるは何。地上に這へる煙こそ、言葉なく 語りたれ。 かす 心の上を掠め去る物の影。 「夢なりし。夢なりし。』とぞ影は呟く。 わが「過去」は 涙に脹れていと重し。 ふる かよわっぱさ 纎弱き翼の、顫へつ垂れ下る。 町のはづれに佇みて、 醜き灰色の夜は泣かんとす、 荒れたる古き月いで又、 あたりは暗く 求むれば、 みにく ほろ よる

6. 日本現代文學全集・講談社版38 北原白秋 三木露風 日夏耿之介集

ゃいと 眼に觸りてしろく匂ふは夏薔薇の搖りやは 背は向けて灸こらふる若葉どき妻が手觸の 夏山 らかき空氣なるらし 繁に來るかも 、も、さ 朝鳥の聲亂れ來る夏山は戀ひきあけてたた ラデオ朝暮 若葉照りいぶる艾は押しすゑて熱き三里が ちすずしさ よくを」くよくを、く はね ねむ 夏の鳥朝の一フヂオに啼き亂りその山と思ふ 山蠅の翅かがやかす聲聽けば合歡の若葉か瀧津瀬鳴りぬ 五月靄 最もをさなき タ待たず我が眼くらきに聽きほくる早慶戦 谷地の靄こむるかぎりは日の射して色おぎ えごの花険く もラデオに止みぬ ろなし若葉かも蒸す 陽にまがふ何かしらけし眺めには若葉もわ大の聲一フデオの中に群れ起り外に吠え繼ぎ 靄ごめと香に蒸す綠くるしくて蛙は鳴くか かずえごの鈴花 て月の夜ふけぬ 聲盛りあがる てうな 花しろきえごの木のまを日ごもりと手斧は 多磨三週年歌會にて おぼほしく若葉黝ずむこの眺め梅雨のま待音に樂しむごとし たず我が眼盲ひむか 睡蓮の花泛けりとふ池の面は日の照りつけ 人杖 てる色も無し 若葉靄けふただならず爆彈機關銃彈漢ロの めわらは 空に火を噴くとふはや 女童は父が人づゑ蔓薔薇の白きは見つつ寄な悲しみ霧りてをぐらき我が眼にももろも りて言ふかも ろの頭は光りて見ゆるに 激しく火を噴き墜つるたまゆらの機上幾干 めわらはにほ 弟の撮し來し水郷柳河と北支大同の映畫を観る。 を眼見すゑし 天然色のそれらもありき 女童や香ふ人づゑ肩觸りてはずむ温みの艷 くみづくらなははし ひ母めく 眼のうらに光る汲水場を蛇の弃る影さ〈 浴湯一首 すばやかりしか めわらはかな 女童は愛し人づゑ行かしめて行きつつ父の まひ しゅゅ 朝早やもたぎる風呂釜の湯を浴ぶとひたか 笑あかるを 石佛は正面向きおはし須臾に見る空現しけ ぶる時し我きにけり く涯なかりにし くろ いろ ゅふ

7. 日本現代文學全集・講談社版38 北原白秋 三木露風 日夏耿之介集

19 イ 出て朝は居りける あとッ 霜下りて近くなりたる冬山を駑の聲は繁く もぞ來る すが 眼を開き歩む林の小綬鷄は霜踏み越えて淸 しかるべし 愚かなる虎 讚岐金刀比羅宮の襖繪を思ひ出でて かくら 虎の貌啖ひ飽きたるさましてぞ愚かなりし かその眼とろめつ たけだけ 猛々し群虎の月に嘯くを呆けたるがひとり たにみづ 澗水なめぬ 讀書 きぞも 書讀みて樂しかりにし昨思へば燠掻きほぜ り冬よるべなし 樂しみと書は讀みしか味氣なしゆとりとて あらず讀むを聽きつつ 書讀みてひたり味ふしづけさを聲ありやと も聽きぬ霜夜は 讀みさしてゆとりあるまのうら和ぎや自が ふみ ふみ ひら ふみ うそふに お ! しげ おもほでろ 面火照り爐に寄る子らが影見ればあかあか 樂しみと書は讀みける とけぶり煮立つものあり 聽きてゐっ心に讀むと沁む文字の聲ことご あしたおんじき かたち ありゃうは春の朝の飲食も色に見ずてはっ とく象ありにし ひに寒けき 繪馬 いたりける妻なるならしねもごろとかたへ かす しとみど 山にして幽けかりしか蔀戸に冬はここだく 寄りつつこの夜讀みつぐ の小さきめの繪馬 こと 我が二人いたりつくらし何くれと言には出 めの繪馬は掌を合せゐる幼兒に一刷毛の空 でね依り合ふ思へば を育く流しき ふみ 聽くとして書讀ませゆく氣づまりも妻には 思はず心隔かずも 短日視野 家妻は心おきなし讀む書の聲ねむたげに落眺めとて何の色なき冬山の雜木端山も見す ちゅく聽けば ばさぶしき ひ 冬山は雜木のかげりタ早し灯を點けよとぞ 短日起居 もろっ 諸に點けしむ くじゃ たんじっかけす ロ授しつつうしろ寒けき短日を懸集は飛び てするどかりしか 鼠と貂 きばと その母の父とこもるにいっか來て子らはあ明き燈に人ははばかる我が影を鼠牙研ぎ囓 るなり居るともなしに む音立てぬ みんてきらくし 明笛の竹紙すらだに舌ねぶる鼠なりきや啖 歓食 びやぶりける ふたり ふみ ムみ あかひ て っ

8. 日本現代文學全集・講談社版38 北原白秋 三木露風 日夏耿之介集

白き手の獵人 太陽は、かゞやく絹につ又まれ をはり 終のほゑみは白く熱したり。 そは我らの上、 さう - も′、 草木と戀との上に。 身は深き憂の中につ曳まれて すり泣く風景の、 光の陰をさまよひたり。 かりうど あゝ君が白き手の獵人よ、 君が手は何か探りし。 くさむら 優しき胸のみだれたる草叢に、 こがね 黄金なす草叢に。 君が手はかくも告げなん、 ゆり ねぐら 『百合がつくりし塒の中 賞石の胸やぶれて きすっ 傷きし小鳥はそこに死したり』と。 かくて今、太陽は終りに呼吸す。 こみら われらが野よりの小逕に、 うる 日は美はしき靈魂の如くにまた。 死したる戀 われらが深く眠りしは、 見えがたき日の何時なりし。 うれひ 心は目を閉ぢ、記憶は去れり。 まことなりしか我が戀よ。 鐘の音は燃ゆるに似たり ゑひ 苦しき醉の涙もて、あゝ我涙もて、 鐘の音は鳴り響かん。 見えがたき日の彼の聲は はだ わが膚の上に鳴りひゞかん : すたれし聲 わが見る秋は傾きて、 きん 黄金のあゆみをつゞけたり。 音なく葉は落ち、葉は落ちて、 君が心に眠り人る。 樺色なせる樹の間には、 美しき眼のうかゞへり。 明らかに澄み、また夢み、 おもひゼ 靑絹の優しきむかしの追憶は、 風に搖られてかゞやきたり。 地平を過ぐる小鳥らは、 今ははや海へ去らん。 優しき死をば胸にだき、 地平を過ぐる小鳥らは あゝ、君が周りに響く度れし聲、 はだ われらが肉と膚との上、 かすかふる ものうく幽に顫ふ聲。 かば めぐ すた わが 來てさ乂やけよ。『戀は終りぬ、 樂しき旅は果てたり』と。 苦しき眠 日はわれより遠ざかりぬ。 うついうひたひ 鬱憂は額に殘り、 吹き蜷く風は衰へし 塵の中なる胸を搖する。 ねむり 苦しき眠は來りたり。 戸を閉めよ。 空は苦痛に蒼ざめて 心の上にくだり來る。 あきや 熱病む鳥は、古き空家に羽ばたきせり。 おもひ・て す・ヘての悲、追憶の夢をもて、 いまし 縛めらる乂胸のうち あ又今早く、苦しき眠は襲ひくる。 祈願 鐘の音はゆるく鳴りひゞけり。 眺むる彼方には、 たゞよ 薔薇色の光漂ひたり。 かな 木の間には夕暮ひそみ : : : 哀しき色こそ浮 空は靑ざめ磨かれて彼女の上に覆ひかゝり、 いのり かくも靜けき祈願をば、

9. 日本現代文學全集・講談社版38 北原白秋 三木露風 日夏耿之介集

ノ 74 短か日の光っめたき笹の葉に雨さゐさゐと 降りいでにけり しら玉の雀の卵寂しければ人に知られで春 過ぎむとす 時雨と霜 竹と山水 寒水臻る おのづから水のながれの寒竹の下ゆくとき は聲立つるなり 時雨の後 そぼ濡れて竹に雀がとまりたり二羽になり たりまた一羽來て ぬれば いそがしく濡羽つくろふ雀ゐてタかげり早 し四五本の竹 雀の宿 篠竹の竹の撓みに置く霜の今宵は白しふけ にけらしも 篠竹の笹の小笹のさやさやにさやぐ霜夜の 聲の寒けさ 霜さむき孟宗原に燃ゆる火のほのぼのと赤 し夜や明けぬらむ 山内の時雨 寒鴉 鴉一羽山の枯木にとまりたり向きを變へた り吹く風の中 嘘布十番 さびさびと時雨ふり來る笹の葉にえゆく 遠き日あしなりけり さむかぜ 雨しぶく今朝の笹葉の寒風に頭すぼめて飛 ぶ雀かな 蛇窪村 たわ 霜の夜ごゑ この夜ことに星きららかに廬布の臺霜下り 來らし聲霧らふなり をどこ この夜ひと夜眼の冴え冴えて小床ふかく霜 あか 滿つるけはひ聽き明すなり きぎす 澄みとほる小夜の雉子のこゑきけば霜こご るらし笹の葉むらに 霜こほる眞夜の夜ぶかにかっかっと人こそ とほれ巡邏なるらし となりあは かんな なに削る冬の夜寒ぞ鉋の音隣合せにまだか すかなり 厨邊の霜 くりゃべ 今朝見れば置く霜濃くて厨邊のごみための 影も紫に見ゅ 雪の翅ばたき 白牛 瓦斯の燈に吹雪かがやくひとところ夜目に まちはろ は見えて街遙かなる よめ

10. 日本現代文學全集・講談社版38 北原白秋 三木露風 日夏耿之介集

2 イ 6 時雨と樂聲と 高臺の一夜 家々黒く眠り 木立は灰色に 大空を鳥わたれり。 かるときピアノの立日、ふとも聞ゅ・ 冬の地のひゞ割る乂を見よ 迷ひゆく路上の風をながめよ さらにまた霧の流れを これらのもの歎けるなり。 時雨きたれり、 ころよく、明るく白く かれら、齊しく空を駛り 鮮麗と嘆美との聲を發す。 さらに、 耳かたむけよ、高臺の一夜に わがわ われはなほ我愛づるもの、一つを聞く、 そは歌へる憂愁のピアノ 時雨にまじる優しき樂聲なり : 四十二年三月 鵞鳥 鵞鳥よ、 みのも 池の水面にうかび 汝は眠る、夢の白さ : あた、かに日は照れり、 小李の花、音なく うれひ 散りゆけば愁もなし。 濃く若き葉かげをこめて けぶいのち うち煙る生命を見よ、 ひあし ゆたかなる春の日足の 照り淀み、ぬるむ水面。 鵞鳥よ せうし 笑止なれ、 やもめ いまし 汝こそはげにも一つ、寡婦のたぐひ。 四十二年三月 雲 午後の日にうかぶ白雲、そを見つゝ心動き ぬ 靜かなる夢見ご、ち。 われかる前にありては をさなご 幼兒の如く思ひ樂しく また、わけもなく泣かる又なり。 「愛ーと「孤獨」と 日に夜に君を愛すれども 我眼は歡樂の光を見ず、 悲しゃ絶えてかゞやきを見す、 こ、ろ寂しく思ひ暗く はた、憂鬱ぞまさりはゆく。 相逢ふ夜の君を見れば あはれにもまた戀しく 浮く月のごとく涙なっかし。 さるを、眠るとなく醒むるとなく よは かくばかりうれしき夜半に なじかは胸を痛ましむる かひな 接吻と涙との腕のうち きびしみ わが知るぞ堪へがたき、孤獨の寂寥なる。 四十二年三月 暗き方へ われら、海を超えて行く。 海を超えてゆく。 不思議なる力により、 ある時は、 四十二年三月