「ン。フソン家につぐ旧家の「 , キャスリンの直系アイザ ' ク ( アイク ) 少年は、十歳にな 0 て初 めて大狩猟隊に加わることを許され、ビ , グ・ボタム ( ミシシ〉。ヒ河の支流タ ( ラ , チー河沿いの 原始林地帯で、インディアンの酋長イケモ ' べからサトペン〈、サトペンからド・スペイン少佐〈 と渡る ) に行く。それは、旧「貴族」たちを中心とした、ジ = フ , ソンをあげての恒例の行事で、 べンと出会うことを目的としていた。 毎年十一月に行なわれ、神格化した老熊のオールド・ 「熊」の第一章は、アイクが十歳と十一歳のときの狩猟の様子を描く。イケモ ' べの血をひき黒 人との混血でもある誇り高きサム・ファ 1 ザーズに教えられての修業期間である。 噴十一歳の秋には、た 0 た一人で銃をもたず、また磁石と時計を途中ですてて、ようやく大森林の べンの姿を見ることができる。 蛇奥でオールド・ 解 第一一章では、アイクの十二と十三歳における出来事にすこしふれ ( 十一一歳のとき初めて雄鹿を殺 して、サ・ ' ーザーズの手で顔に血をぬる儀式を行な 0 てもらう。「古老たち」は、このこと とサム・フ , 1 ザーズについての物語である ) 、主として十四歳のときの狩猟が語られる。小犬が べンに立ち向か 0 たので、アイクは銃を投げ出し、熊の下にかけこみ小犬を救う。それ オールド・ からライオンという名の獰猛な犬をサムが捕え、かいならしてオールド・べンに向かわせるが、そ の年も、その翌年も失敗する。だが、サムも老熊も自分のきたるべき運命を知 0 ていた。 第三章で、十六歳のアイクがブーンらとウイスキ 1 を買いに行 0 たその翌日、狩猟隊はとうとう べンを倒すことに成功する。しかし、それとともにサム・ファーザ 1 ズも大地に帰る。 オールド・ 老熊と原野と自分自身の運命をともにしようとしたのである。 277
んだとは少しも見えず横たわる雄鹿を見おろして立っていた。激しくふるえながら立っていた。サ ム・ファーザーズはまた少年のそばに来て、ナイフをさし出した。「雄鹿の正面から近づいてはい けねえだ」とサムはいった。「死んでなけりや足で四つ裂きにされちまうだ。後ろから近づき、まず 角をつかむとええ。そうすりや、おめえさんが跳びはねて逃げられるまでは、鹿の頭を下におさえ られるでがす。それから、片手を下にすべらせ、指で鹿の鼻のあなをひっかけるた」 少年はそうしたー・ー鹿の頭をうしろに引っぱり、喉をびんと張るようにしてから、サム・ファー ザーズのナイフでえぐった。サムはかがみ、煙る熱い血を両手にしたたらせてから、少年の顔全体 にこすりつけ拭った。それから、サムの角笛が湿った灰色の森に何回も何回も響きわたった。彼ら のまわりに湧きかえるような犬どもの波が押し寄せてきた。テニーのジムやブーン・ホガンべック かりゅうど むち は、犬どもがみな血を味わうと鞭で追い払った。それから、男たち、ほんとうの狩人たち。・ーーライ ねら ・ユーウエル、ド・スペイン少佐、老コン。フソン将 フルで狙いそこなったことのないウォルター いとこ 軍、少年の従兄マッキャスリン・エドモンズ ( 少年の父の姉の孫で、彼より十六歳上であり、彼も マッキャスリンも一人っ子であって、彼が生まれたとき彼の父は七十歳に近かったので、彼にとっ て従兄というより兄であり、従兄や兄というよりも父親であった ) は、馬上から二人を見おろして ・インディアンの酋長 いた。もう二世代にわたって黒人であったが、その顔と態度はなおチカソ 1 であった父親そのままである七十歳の老人と、顔に血だらけの両手の跡をつけ、たた今は真直ぐ立 つばかりでふるえを見せようとしない十二歳の白人少年の二人を見おろしていた。 「この子はちゃんとやったかな、サム」と従兄のマッキャスリンはいった。 のど
張りと同じであ 0 たが、ただどうでもよい点で、彼が二週間毎朝立 0 たのと違 0 ていただけである。 そこは彼にとって初めての領域であったが、二週間後にちょっとわかったと信じるようにな「たあ 弱々しくおくびような人間がそれを変えることな の領域よりも親しみが少ないことはなかった く何の印も傷も残さずただ通りすぎた、同じ孤独・同じ寂しさがあるばかりだった。サム・ファー いしおの こんぼう ザーズの祖先であるチカソー族最初の者が、棍棒か石斧か骨の矢をかまえ用心して、ここにしのび こみ見まわしたときとまったく同じに見えたにちがいなかった。違ったのは、彼が台所の縁にうず くま 0 て、その下に寄りそいかたまる犬どもの臭いをかぎ、またサムがい 0 たように犬という呼び名 をもち続けるため一度は勇敢にならねばならなか 0 た雌犬の引き裂かれた耳と横腹を見たし、昨日 腐「た丸太のそばの土に生きものの足の跡を見たからであ 0 た。犬の声はま「たく聞こえなか 0 た。 はっきり聞いたのではなか「た。ただ彼はきつつきの音が突然やむのを聞いただけであり、熊が彼を 見ているのを知 0 たのである。それが籐ゃぶのなかから彼と向き合 0 ているか、彼の背後から見て ねら いるのか、わからなか 0 た。彼は身動きをやめて、今もこれからもそれを狙 0 て撃っことはしない だえき とわか 0 た無用の銃をにぎり、唾液のなかに、彼が台所の下をのぞいたとき、うずくまる犬にかい しんちゅう だ真鍮の味を味わっていた。 それから、それは去った。ゃんだときと同じように突然、きつつきの単調な音がまた始まり、し ただの咳で、音でさえないようなものであ ばらくして、彼は犬どもの声を聞いたと確信した り、たぶんほんのしばらく、一分か二分、気がっかぬうちに聞いたのだろう。漂ってきて、また聞 こえなくなり消えてい「た。犬どもは彼の近くにはこなか「た。聞こえたのが犬の声であ「たとし
材おじさんでもいいが。そういう人を君は知ってたかい。いなかっただろうよ」 すき そのとおりだった。少年が覚えている初めての彼の姿は、農園の鍛冶屋の戸口にすわって、鋤の 刃をといだり農具を直したり、森のなかにいないときには荒つ。ほい大工仕事をしている姿であっ た。で、森に惹きつけられないときでさえ、また農場が待ち望んでいる仕事で鍛冶屋がごったがえ しているままにして、サムはそこにすわり、半日も、あるいは丸一日も、まったく何もしないこと ふたど さえあった。そういう場合は、誰だって、元気な頃の少年の父も双生児のおじも、実際には農園主 だったが、まだ名義上はそうでない従兄のマッキャスリンも、「日暮れまでにこれをやってくれ」 きの ) とか、「どうして昨日これをやらなかったか」などと、彼にいったことはなかったのである。そ ほ , っ して、年に一ペんだけ、晩秋の十一月に少年はワゴンを見守ったものだった。布の幌をふくらま くんせい せ荷を積みーー・・食糧を、燻製小屋から ( ムとソーセージを、物質配給所からコーヒーと小麦粉と塘 蜜を、キャン。フで肉がとれるまで大のために前夜に殺した牛一頭の肉を、犬どもを人れた木の枠 ちょうちんおの を、それから寝具、鉄砲、角笛、提灯、斧などを積みこみ、狩猟服を着た従兄のマッキャスリンと サム・ファ 1 ザーズが御者席にすわり、テ = ーのジムが犬の木枠の上にすわり、ジ = フアソンまで 行き、ド・スペイン少佐、コンプソン将軍、ブーン・ホガンべック、ウォルター ューウエルらに 加わり、鹿や熊がいるタラ ( ッチ = の大低地に進み、二週間は留守にしたものであった。しかし、 ワゴンに荷が積まれる前に、少年はもうそれを見守ることができないことがわか「ていた。そこを かたすみ 走るようにして離れ、ワゴンも見えないし、誰にも見られない片隅に隠れて立ち、泣きもせす、ふ ささや るえるとき以外は体をこわばらせ、一人囁いたものたーー「もうすぐた、もうすぐた、あと三年た とこ