って、その中に文字を埋めていく仕事というのは、カツオプシを削っていくのと、とても似てい 6 るような気がするのだよ。 お父さんは、カツオプシを削りながら、色々なことを考えたものだった。 「どうして、こんなことしなければならないのか」 とい、つことを田い、つ日もあれば、 「あ、今日は、うまく削れたぞ。今日は最高なんだ ! 」 と思った日もあり、また、 「今日はどうして、こう、うまくいかないんだろうか」 と、絶望的になった日もあったものだ。 お父さんは、べッ トの中で、寝返りをうちながら、幼い日のカツオプシケズリについて思った ものだ。毎日が違ったように思う。それを思い出しているうちに、お父さんは、心が安らかにな り、そして自然に微笑していたものだった。 「これが人生だ。これが、過去なんだ。これがいいのだ」 と。そして、お父さんは、ようやく眠りに就き、四時間ほど寝て、今、この原稿をシャワーを
* バランスのある女の愛 今日は、処女ということを話してみようか。娘たちょ、これは耳を傾けるべしだぞ。 処女性ーーヴァージ = ティというのは、一体、どういう価値があるんだろうか。 お父さんは、昨日から今日にかけて、吉行淳之介さんの『タ暮まで』という小説を読んだ。上 越線の列車の中で半分、そして新潟空港の待合室で半分、そして、新潟から羽田までの五十分間 8 女の魅力とヴァージニティ * 処女性を精神の価値にしてはし 。そして処女が処女でなくなる 時は、損とか得とかいう低次元の 間題ではない。信じる信じないと いう高次元の問題なのだから : ・
浴びた直後に書いているのだ。 お父さんのいいたいことは、人間は生きてきた『過去』に、なにかの教訓を得ようとすること なんだよ。『過去』に得たことは、みんな自分の食糧になるってことを忘れないでほしいんだ。 それが、どんな小さなこと、どんないやなことであっても、すべては、自分に課せられた尊い出 来事だと思って、生き抜いてほしいんだよ。 時々、自分が如何に不幸だったかを語る人に会う。その人は、両親が自分を不幸にしたとか、 恋人が自分を不幸にしたとか、友人が自分をないがしろにしたとかいいながら生きている人たち お父さんは、お前たちにいいたいのだ。お前たちが、誰かを恨み、誰かを憎み、過去の出来事 め が自分の現在の不幸を約東していると思 0 て生きてほしくないのだ。そんな愚かな、そんなイ のナスな人生などをもってほしくないんだよ。 、の今日からの出発なんだ。 分 自そして、今日から出発のために、過去の出来事は、大きなバネにして生きて欲しいと思うんだ 137
だが、大人になっても、情緒面の欠けている人がいるものだ。そういう人は、絵画、音楽、文 学というものは、自分の生きていくことと、別のことだといつの間にか判断を下してしまってい る人のようだ。そして、なにごとも、自分本位に考えてしまうのだ。 お父さんは、しばしば、そういう人に会って、気が重くなる。妻のある男性と付き合っている 三十後半のタレント が、なにかというと、愚痴っているのをみたりする。 「男は、みんな、ずるいのよ。嘘ばっかりいうんだもの、今日も、 x x に仕事があるから逢えな いっていうから、 >< x に電話をしてみたの。そしたら、どう。彼は x x に今日は仕事がないって いうじゃないの。きっと、あたしに嘘をついて、他の女性と逢っているのよ、きっと。もう、男 って、ほんとに身勝手だから、許されないッ ざっと、こんな調子なんだ。これなんか、精神的に未発達な部分を引きずって歩いているよう なものだ。自分を中心にして、すべてが進行していると、信じて疑わない不幸を背負っていると みていいだろう。 何故、そんな風になったんだろうか。ま、一言でいうなら、寛容の気持がないからだと思う。 きまま しやくど 私生活での尺度が、あまりにも勝手気儘だといえる。 236
* それは青春の錯覚 娘たちょ。 今まで、人生についてしばしば話してきたが、今日は、も 0 と、身近な生活について話してみ よ、つ。 有子。 盟孤独と上手につき合う方法 * 娘たちょー飢餓感を頭の中に 感じてこそ人間。活発に動く・脳を もった生活者になってほしい。そ して自分の目的に向って生活して ワ 1
* 人生の公式と解答 娘たちょ。 今日もまた、人生について、少し考えてみようじゃないか。 男よりも女の方が、人生の変化は大きいと思う。小説や戯曲に『女の一生』というのは多いけ れど『男の一生』というのは、ほとんど見当らないのをみてもわかるだろう。『女の一生』は、 5 性格を探す旒が人生 * 人生に公式はない 森鷁外 * 人生に公式はない。されど人生 に解答がある。 藤本義一
* その痛みを見つめよう 娘たちょ。 現在、最も関心の深いのは、恋愛であり、恋とはなんだろうか、愛とはなんだろうかというこ とだろう。 今日も、お父さんがタ食の席に坐るやいなや、名子、お前がいっただろう。 イ恋をしたらこれは忘れられない * 娘たちょーー人生は「愛」を求 めて歩いていくこと。相手のバー ソナリティを重んじてこそ、恋は ・次第に「愛」に向って歩き出して いくのだよ。 ・ 4
* 心とからだの凸と凹 娘たちょ。 今日はひとつ、精神と肉体について語ってみよう。 というと、なんだか、かたぐるしいことをいうなあ : : : と思うだろうが、それでは、心と体と いうふうに考えて、聞いてほしい。 9 凸と凹の愛しかた * 肉体と同じように精神の場合に も男女の間では凸と凹がある。家 庭間題においては凸と凹で精神安 定のバランスを測り、外に向って はお互いが凸の意識ですすもう。
* サヨウナラの裏の意味 娘たちょ。 今まで、人と人との″出会い〃については、しばしば語ってきた。 だから、今日はひとっ″別離みについて、考えてみよう。 別れというのは、いずれにしても哀しい、淋しいものなのだが、その余韻を抱いての新しい″出 幻娘よ、自分の言葉で生きなさい * 寛容を忘れないでほしい。来る 人には安らぎをもって迎え入れる が、拒むべきものはきつばりと拒 もう。そして去る人には、幸福を 祈るようにむがけてほしいのだ。 232
づきしないし、不満を生む芽になってくるものなんだからね。 もっと攻撃し合って、傷ついても、仲直り出来るぐらいの余裕があってこそ、お互いの性格が 発掘出来るんだと思うんだよ。 そう、性格の発掘は、決して焦ってはいけない。そして、自分一人だけでは不可能なのだ。 生きているかぎり、性格を掘りつづけていくのが、人生だと思う。掘り過ぎて、性格がわから なくなるということは、減多にないのだから。 朝起きた時に、今日もまた自分の感じなかった性格を掘りすすんでいこうと思うのが、人生な んだということを忘れないでほしいんだ。