ストラス - みる会図書館


検索対象: ステンドグラス なだれる虹 燃えるいばら
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1. ステンドグラス なだれる虹 燃えるいばら

描くとい、つ亠思識はなかったらしいよ。 最初から花は花だったろう。 花は窓の形だろう。つまり、石で花模様の透かし彫りをこしら えた。ガラスはその空き間を埋めていたってことだろう。窓が主で がラスは従だってことだ。 そんなことは当り一則じゃあないか いや、君があんまりガラスが花弁だというからさ。 機能上、石が主でガラスが従だってことは、当り前しゃあないか。 僕がいうのはね、窓の空き間に物語を描こうとした。絵物語がス テンドグラスの役割さ。別に大きな薔薇を描き出そうとしたわけし ゃあない。ガラスの断片が寄り集まって、丹念な絵になっているだ ろう。北正面の窓でいえば、真中にマリアがキリストを抱いて坐っ ている区画があって、その周囲のたくさんの区画にも、同じように 物語の一場面が描きこんである。それを眺めて、例えば文字の読め ない人も、聖書の内容を知るようにつてことだ。 それにしても、作った人間は薔薇を意識していただろうな。 しかしね。薔薇窓が、〈最後の審判〉を物語ったりしているんだぜ。 最初から薔薇を手本にしたのかどうかは、解らないとしてだね、 4 5

2. ステンドグラス なだれる虹 燃えるいばら

ガラスは半透明なカンヴァスになりかかっているのだ。それでは、 岩場を花畑と見なしているようなこととなる。ガラスは制約となっ てしま、つ その意味で、ステンドグラスの伝統は矛盾を含んでいたといえる。 それは単に色彩と光の世界ではなくて、絵の世界でもあったのだ。 それも、いわゆる嵌め絵ではなくて、絶妙な筆使いの世界でもあっ たし、そこには、微妙な色の濃淡もあった。絵そのものがあったの だ。絵を含んでステンドグラスは比類ない輝きに高まった。その同 居を奇妙だというなら、優れた伝統芸術の多くは奇妙だといわなけ ればならないだろう。それらは、合理的な考え方を超えたところに 成り立ったのだ。しかし、やがて徐々に、絵は絵でありガラスはガ ラスであることを意識し始める時代がやってくる。 たとえばダルムシュタットのヘッセン美術館にある〈神殿で議論す * カラー る十二歳のキリスト〉では、筆使いは練達をきわめている。童画ふ うではなく、事実に迫るデッサンにもとづいている。十五世紀初頭、 ルネッサンスの曙光が射しはじめているのだ。ガラスの断片の置き 方も考え抜かれた形跡がある。しかし、鉛の縁は流れる描線の間にの さばり、蛇のよ、つに、人物たちをがんじがらめにしている。絵は自 囲ページ参照 134

3. ステンドグラス なだれる虹 燃えるいばら

以上書いてきたような、教えの内容自体が、新しい材質にあこが れ、触手を働かせて、がラスの破片を擱んだのは、いつのことだっ たろうか。今に残るステンドグラスから推測すると十世紀のよ、つに も思えるが、もっと古いことなのかもしれない。ガラスは、キリス ト教の内容を象徴するために、かけがえのない素材であったし、そ れによって発想された趣向は、表現の革命であった。 ステンドグラスに関してよくいわれるのは、読み書きのできない 素朴な人々に、彼らが信していることの、あるいは信すべきことの 内容をわかりやすく示したものだということだが、これは、そこに 描かれている絵物語についてだけいえるのではなく、もたらされる 光の深度についてこそいえることだ。 ステンドグラスは啓蒙のためだっただけではない。 もっと重要だ ったことは、それが感覚を開拓したことだ。この意味でいうなら、 単に文盲の人だけではない、知識ある人も、考え深い人も、ガラス という物によって、キリスト教の未知の側面に思い当ったに違いない ステンドグラスは、ヨーロッパの教会建築が頂上にたどりつくた めの、いわば最後の切り札であった。 0 2

4. ステンドグラス なだれる虹 燃えるいばら

十四世紀になると、ズテンドグラスの職人たちはそこまで考える ようになっている。例えばマリアの下半身の大きな断片と、キリス あるいは、 トの顔、驢馬、牛などの小断片の差を較べてみるがいい 背景に物を描きこんで、それぞれの色がラスを当てているのを見る 力いい。以前には、背景ははとんど青一色であった。つまり、〈降誕〉 の職人はすぐれた直観力の持主で、楽々とこの画面を作っているよ うに見えるが、実は新しい計算法にもとづいているのだ。 〈降誕〉ではがラスの断片がデッサンと少しも争っていない し、その最も手つとり早いやり方は、勿論、断片を組み合わせるこ とをやめて、一枚のがラスに絵つけをしてしまうことだ。その試み のなかで、私が優品と思うのは〈楽士と踊る熊〉で、十四世紀半ば ンユミエ ジュの聖堂にとりつけられたといわれる。流暢な筆使い だ。たとえば、絃楽 と的確なデッサンは、さすがにがラス絵の画家 器を奏でる楽士の指まで、わずかな筆数で見事に描きだしている。 写生の妙だ。それががラス絵である特徴を強めようとして、人と熊 を染め抜きにし、背景には星を浮きだしたりしている。 しかし、画工はもはや余りに画家になりすぎてしまっている。彼の 筆が歌いすぎてしまい、がラスは沈黙し始めてしまった。つまり、 132

5. ステンドグラス なだれる虹 燃えるいばら

、ンヤルトルの仕事 〈美しき絵がラスの聖母〉はシャルトレ ノ大聖堂の厖大な数のステ ンドグラスの中でも特に古くて、十二世紀の半ばに作られたことは 確実だといわれている。その後大聖堂は火事に遭っているが、信徒 によって運び出され、何一つ欠けるところなく、今日に到っている。 聖母の両肩の青いガラスは、いわゆる〈シャルトルの青〉の精髄だとい われている。この構図は、キリスト教の絵画としてめすらしいもので はなく、〈勝利の聖母〉と称びならわされているが、この型の発祥は、 馬小屋で生まれたキリストを東方の三人の博士が拝みに来た時、彼 らに、わが子を示す聖母の姿であったのだそうだ。 起こりはいつの ことか、それが定型となった。やがて〈勝利の聖母〉と見なされる のは、東ローマ皇帝ュスティニアヌスが、この姿の聖母を夢見て、 異教徒との戦いに勝ったという伝説によっているという かってパルテノンにアテナ神が勝利の女神として聳えていたこと が思い合わされる 。。ハルテノン創建のころ、ギリシャは。ヘルシャ戦 、ゆうぜん 役に当面していて、女神に翕然として信仰が集っていたように 二世紀の西欧が十字軍遠征に大わらわだったことが、この聖母像に * カラー ページ参照 110

6. ステンドグラス なだれる虹 燃えるいばら

がラスまで炎のようにえてくるのが妙だった。すると、赤いガラ スは、燠火が籠って、眼を刺すように強く耀く様を思わせた。 第き

7. ステンドグラス なだれる虹 燃えるいばら

午後の陽ーー 14 ~ 15 世紀 「騎士の像」 ( 部分 ) テュークスペリー修道院教会 ( イギリス ) 一四世紀 ラーノを 0 ~ 当 さらに技術は進歩し、黄金調や 2 枚のガラスのは り合せによる中間色が登場する。デッサンも複雑 で、繊細なものが多くなる。この時代のステンド グラスは明るく優美で絵画的な要素ガふえていく 95

8. ステンドグラス なだれる虹 燃えるいばら

天上の皹き 神と悪魔、聖者、華、善き者と悪しき者。ステン ドグラスは色ガラスの組合せが物語る聖書。信仰 の熱狂ガつくり上げた光の壁。さし込あ陽光は刻 一刻影を変え聖堂の闇に荘厳な空間をつくりだす 聖母マリアと聖ヨハネの間に立っ十字架のキリスト トイツダルムシュタットヘッセン州立美術館一三世紀

9. ステンドグラス なだれる虹 燃えるいばら

からこのイメージは拾いあげられたのに違いない。中世のヨーロッ / ーは奇跡譚ばかりだった。現代なら、子供でなければ信しられな い話ばかりだった。 シャがールが語りかける夜と夢の物語も、勿論遠い昔に源を持っ ている。したがって、三十六歳になってパリへ住んだ彼は、ステン ドグラスに吸い寄せられ、見とれたのではなかろうか。彼はスラブ の生まれでユダヤ教徒だが、キリスト教徒の聖堂にもお伽話はあっ たのだ。きっと、彼は自分の胸の奥に宿っていた昔語りに思い当た り、それにどんな形を与えるべきか、どんな色で塗るべきか、ステ ンドグラスから教えられたのではなかろうか 私はシャガールとステンドグラスを引き寄せ過ぎているかもしれ ない。しかし、思うままに書けば、シャがールの青い夜はガラスの亠月に ゞ、こ以ている。一番似ているのは、 似ているし、燃えている赤もた力しーイ 人間の眼をした動物たちだ。勿論私は、シャガールがガラスから模 写したからだというのではない。 共感があったのだ。聖堂にもシャ がールの絵にも、似たようなお伽話が流れこんでいたから : カンタベリー大聖堂の〈ロト〉も、シャガールを思い出させる。 終末論は人間の不安と恐怖の源なのだ。また、実はそれがヨーロッ 140

10. ステンドグラス なだれる虹 燃えるいばら

たろうし、と友達は皮肉に、しかし愉央そうに笑った。 たとえ見分けられなくても、在るものは在る、確かに聖堂はこの 真実を示している。そのことを思うと、眼を持つ者は見よ、といっ て超然としている作者を感じ、私は見ることに精力を注ぎたくなっ た。何が描かれているか、できるだけ見きわめたいという気持で、 この度は、私はシャルトル大聖堂を眺めることにした。 北の薔薇窓についていうなら、私が見たのは、その中心の区画の 中のマリア像は、確かに丁寧に描き込まれてはいるが、顔が褐色で 塗りつぶされているように見える。私は、黒い聖母というのはこれ なのか、と思った。また、この薔薇窓の下に、鍬形の柱の形に五つ の窓が並んでいて、おのおのに一人すっ、五人のがラスの聖人が嵌 めこまれている。各人の足の下の文字を読んで行くと、アーロン モーゼから使命を言い渡され、イスラエルの司祭の太祖となった聖 亠頃。ソロモン イスラエル最盛期の大王。わが子マリアを抱くア ンナ。ダビデ。ーー。偉大な将軍でありかっ詩人であった王。メルキセ デクーーーキリストの先駆といわれる正義の司祭であり王。 この五人のうち、アーロンとメルキセデクは、明かに異邦人とし 7 5