半ノラとその子どもたち一一あとがきにかえて 本多信男 今 , 私の家には半ノラとでもいうか , 抱くことはもちろん , 手も触れさせないメス猫が いる。住みついてから 2 年半も経っというのに , なれるどころか , うつかりそばを通ると ひっかかれてしまう。餌を持ってゆくと , 早く出せといわんばかりにその手をたたくので ある。目と目があえば耳をそらして怒るし , なんともかわいげのない猫であるが , 顔つき だけはかわいいのである。 この猫のお腹が大きくなると生む場所を作っておくのだが , ときには縁の下などで生ん でから連れてくることもある。子猫をなれさせようと , 親猫が用足しに出かけた後でそっ とさわるのだが , 親のまねか本能なのか生意気にハーハー怒るのである。子猫の泣き声が 親の耳に入ろうものならすっとんで帰ってきて , その怒り方はすさまじいものである。 子猫が巣から出るようになると , 親は心配でしかたがない。 1 匹すっくわえて巣へ戻す のだが , 次から次へと出てしまうので , 親はおろおろしている。そんな親猫を見ていると ついかわいそうになり手伝ってあげたくなるのだが , うつかり手を出そうものならまた怒 られる。 ひと月もすると子猫は生まれた部屋を歩きまわり , 廊下に出たり , 階段を降りようとす る。降りるというより , 落ちてゆく感じである。 4 , 5 匹がいち度に階段をころがってゆく さまはおかしいが , それにしてもよく怪我をしないものだと心配にもなる。 家の中の探険が終わるころにはすっかりなれて , 腰をふりながら走りまわり , どこでも 寝てしまう。けれども親がか細い声で呼ぶとみんな親のもとに集まるのだから , 親の偉カ はたいしたものである。 生まれてから貰われてゆくまでの 2 , 3 カ月は , 私の休日はすべて返上されて子猫の撮影 とあいなる。このころになると親もあまり子どもに気をつかわないようであるが , それで も撮影をしていると , 子どもになにか悪いことでもされはしないかと見張っていることも ある。知らぬ間にうしろから近づき , もういいかげんに止めないかといわんばかりに私の 尻をひっかいたまではよかったが , 爪がズボンに引っかかってしまい , 双方でびつくりし たこともある。 ともあれ , こうして撮影されたのがこの写真集である。改めて眺めていると , 今は新し い家で幸せに暮らしている子猫たち 1 匹 1 匹の個性がなっかしく思い出されてくる。
特訓は続けられ , とうとう家のだれでもが , 「おい」と呼びかけ , カーテン・レールを指さすだけで , かけあがってミルク坊主をしゃ ぶるようになりました。何というかしこい子ねこだったことでしょ う。娘もわたしたちも大満足でした。しもの始末は押入れの砂場で させるようにしつけました。昼間には何度か , カーテンのばりをし なくてはならないので運動もたりるし , 夜はだれかのふとんに入っ てのびのび休めるし一一 - で , 、、おい " は外へ出ることなど考えもし ないようでした。、、おい " は , このかくれんばがお気に入りのよう で , 次にはわたしたちのだれかが帰ってきたと分かっていても , 面 白半分にカーテンにかけあがりました。 そんな、、おい " のことが自慢でしたが , だれにも言えません。と ぶようにカーテンをかけあがる、、おい " のかわいさに娘はシンデレ ラもどきにトンデレラと呼びたがりましたが , もしものときを案じ て , それもできませんでした。けれど , ねこを飼ったことで , わた したちはとにかくごきげんでした ' 。キげんのあまり , 子ねこがい つか子ねこでなくなることを忘れていました。 それは春のある宵に , 突然やってきました。窓の外からの優しい 呼び声に , 、、おい " は雷に打たれたように立ちすくみ , カーテンに かけあがりかけおり , またかけあがりかけおりたとき , ガラスのす ぐむこうにべつのねこを見つけたのでした。 わたしが「おい」と呼びかけたとたん , 。おい " はカーテンをか けのばり , いつのまに見つけておいたのか , 煙突穴のすきまにもぐ りこみ , 身をよじらせて通り抜け , 外へとびだしました。ほんとに とんでいました。 それきり , 、、おい " は帰ってこず , それきりわたしたちも , ねこを 飼っていません。
にまっ白でふかふかのやつ。家までそっと運びこむのは簡単でした。 しかし , そいつを人目から隠すのは大事です。その方法が , かみさ んの提案なのです。 ねこをしこむのよ , とかみさんは言うのです。カーテンをかけの ばらせるの。はら , いつか『独裁者』って映画で , ヒトラーみたい なちよびひげ男に扮したチャップリンが , カーテンにつかまりよじ のばったでしよ。それで思いついたの。人間でもあれだけ軽々とで きるんだもの , 子ねこなら軽い軽い。 子ねこには、、おい ' ' という名をつけました。人がきたら , おい と呼んでカーテンにかけのばらせる。白いレースのカーテンにまっ 白い子ねこ。ちょっとやそっとでは見つからない というのが , かみさんの意見でした。それに , おいーーでは , わたしがかみさん を呼んだみたいだから安心です。 特訓が始まりました。子ねこは動くものに目がありませんから , リポンで始めました。チョウのように見えるのでしようか。たちま ち目を輝かせ , ひげをびんと張り尻をもちあげ , しつばをまわし , お尻をひこひこ動かしてとびつきます。リポンはとびあがり , カー テンにとまります。逃がすものか。、、おい " もとびつきます。レー スのカーテンはつめがかけやすい。 " おい " は , 逃げるリポンのチ ョウを追ってどんどんかけあがります。すぐにカーテン・レールの終 点につきます。こんどはそこにとまらせておかねばなりません。そ こでかみさんは , カーテン・レールにしばりつけた柔らかなガーゼ をてるてる坊主みたいな形につくり , その頭にたつぶりとミルクを しみこませました。 、、おい " は鼻がききましたから , すぐにミルク坊主を見つけました。 すいっき , かかえこんでしゃぶり始めました。大成功です。 おおごと
ぽをト学を - ' 物を物・
~ , 新 0 ・いト第いい、 0 、、、、 こ = ーきい一 80
ほんだのぶお昭和 11 年東京生まれ。乃村工芸社 , 本多信男 日本工房を経て , デサイン・企画・ 写真関係の仕事を幅広くこなす。ねこの写真もそ のひとつで , 本書のはかにも「猫』「ねこ』『日本 猫』「きままな日本ねこ』「カラー猫の本』 ( 山と溪 谷社刊 ) と 5 冊の写真集を出している。 事務所 = 東京都港区南青山 4 ー 1 ー 11 リライアン スビル 305 号 いまえよしとも昭和 7 年大阪生まれ。昭和 28 年同志 今江祥智 社大学卒業。童話作家。聖母女学院 短期大学教授。代表作に『ばんばん』『優しさこ っこ』そのほかがある。 住所 = 京都市左京区北白川大堂町 11 ー 3 ・本書の撮影取材で下記の方々のお世話になりま した。厚く御礼申し上げます。 林ミチ , 杉山千枝子 , 高垣礼子 , 田中稲子 , 秋山和子 , 森春子 , 岡本一夫 , 林俊恵 , 糟谷 編集 / 木村和也 レイアウト / 著者 装幀 / 多川精一 祐子 ( 敬称略・順不同 ) 写真集子ねこ 定価 1000 円 昭和 54 年 4 月 25 日 1 刷発行 昭和 55 年 4 月 10 日 5 刷発行 ( 03 ) 436 ー 4021 ( 代 ) 住所ーー東京都港区芝大門 1 ー 1 ー 33 105 発行所ーー株式会社山と溪谷社 発行者一一川崎告光 文ーー今江祥智 著者一一本多信男 製本所ーー株式会社明光社 印刷所ーー凸版印刷株式会社 振替ーー東京 8 ー 60249 ()072 ー 000084-8521 ◎禁無断転載