犬が、その杭をとりまこうとしています。 りよ、って 川下のほうからは、人間が、両手をふりまわしながら、声をあげてかけつけてき ます。 だんがい サルどもは、断崖の中腹にとどまって、キャッキャッキャッとさけび声をあげま きけん した。しかし、サルどもには、どうすることもできません。子ザルの危険は目の前 にせまりました。 そのとき、チャリン、という音がひびきました。それは、例のサルが、断崖から とびおりるとき、くさりが岩にあたった音でした。 かりゅうど ようじん サルという動物は、もともと用心ぶかくおくびようであるが、狩人が子ザルなど ゅうかん おいつめたときには、どうかすると、とても勇敢な老いザルがいて、鉄砲をもって かりゅうど いる狩人にでもむかってくるようなことがあるーーーという話を狩人から聞かされ ゅうかん たことがあります。くさりのこのサルも、そうした勇敢なサルの一びきでした。 かれは、くさりをひきずって、まっしぐらに杭の上の子ザルのほうにかけつけま かわしも どうぶつ ちゅうく お てっぽう だんがい 184
ばあい それは、どうにもならぬという場合に、のるかそるか最後の手段として、まっし ぐらにあいてにぶつかっていくというやりかたでありました。 かりゅうど しゅんかん せんはう 狩人が、ちょっとためらった瞬間、かれはその戦法をこころみました。 かりゅうど 黒煙をたてて、みじんになれと、狩人にぶつかっていきました。 ひ 狩人は、ちょうど、心にすきのできているときであったので、引き金をひくよゅ うもありません。 とさけんで、そばの木のかげにころげこみました。 よせい 栗野岳の主は、その余勢で、谷の中にとびこんでしまいました。 かりゅうど そして、あっけにとられている狩人と犬とをあとにして、もうれつないきおい ふかたにそこ で、土けむりをたてて、深い谷底めがけて、ころげおちていくのでした。 けれど、栗野岳の主は、どこまでも強いイノシシでした。 くりのだけぬし こくえん くりのだけぬし しゆだん がね くりのだけぬし 239 栗野岳の主
けれど、そのさきは小石がおおくて、人間の目では、はっきりと見わけることはで きませんでした。 ここまで、あとをつけてくれば、もうたいじようぶです。 くんれん かれらには、よく訓練された五ひきの犬どもがついています。 かりゅうど 狩人たちは、うなずきあって、犬どもをはなしてやりました。 かりゅうど こうした場合、きようまで、犬どもはまちがいなく、狩人の思うとおりに、イノ シシをおいだしてきたのでした。 それに、この五人の狩人は、長いあいだ、この栗野岳の主をつけねらっていただ じしん けあって、うでにもじゅうぶんの自信がありました。 ほ、つ、」う 五人は五つの方向にわかれて、おのおの見とおしのきく場所につきました。 たいようちゅうてん ひる 太陽は中天にの・ほって、昼ちかくなりました。けれど、犬どもも帰ってこなけれ ごえ ば、その鳴き声も聞こえてきませんでした。 にんたい かりゅうど が、狩人たちは、忍耐ということをよく知っていました。そのうえ、じぶんたち くりのだけぬし ( りのだけし 栗野岳の主 225
かりゅうど こには、銃をかまえた狩人たちが、ひかえているのでした。 このことを、かれが知っていたばかりに、かれは、ほかのイノシシどもとちがっ て、栗野岳の主といわれる今日まで長生きをしてきたのでした。 山の上のほうからも、犬のにおいはさかんにしてくるのだけれども、かれは最初 げんしりん の計画どおり、原始林のほうへ原始林のほうへと、進んでいきました。 イノシシの一家のものが、まだ、まき山を出ぬけぬうちに、三方からキャンキャ ごえ ンという犬の鳴き声が聞こえてきました。そして、ぐんぐんとかけてくる赤犬のす がたまで、はっきりと見えだしてきました。 うんめい かれの一家にとって、おそろしい運命が、もう目の前にせまってきたのでした。 それはたしかに天のたすけでした。 いっか イノシシ一家のゆく手に、大きな岩が四つ五つころがっていて、その下が、かな くりのだけぬし じゅう いっか こんにち な力い あ さいしょ 234
に栗野岳の主をみとめると、歯を食いし。はって、じりじりじりと、引き金にかけた ゅび 指に力をいれていきました。 げんしりん くりのだけぬし 栗野岳の主は、むちゃくちゃに気がたちました。そして、むりやりに原始林のほ うににけだそうと、大のかたまりの中にとびこみました。 犬どもは、ひとかたまりになって、かれにむしゃぶりついていきました。 栗野岳の主は、まるで、犬どもの中にうすまってしまいました。 が、やがて、かれは、犬どもをふりとばして起きあがりました。けれど、一びき あかいぬ の赤犬はかれに馬乗りになって、首ねっこに、かみついたまま、はなれようともし ませんでした。 なにが、さいわいになるかわからぬものです。 うまの このイノシシに馬乗りになった赤犬がしやまになって、引き金をひこうとした かりゅうど 狩人は、ちょっと、ためらいました。 ゅうかんせんばう イノシシには、まことに勇敢な戦法があります。 くりのだけぬし くりのだけぬし う の くび がね ひがね 238
かりゅうど そうして、子力ワウソは、とうとう狩人につかまってしまいました。 ほんのう が、子力ワウソはもって生まれた本能で、あおむけにひっくりかえって、死んだ 2 まねをしておりました。 「この、ちびすけめ。わしらをだまそうとしとるそ。」 かりゅうど おおごえ こういって、狩人たちは大声でわらいました。そうして、ひとりが足のさきで、 ころころと二つ三つ、子力ワウソをころがしてみました。 う ) 」 きんにく しかし、子力ワウソは筋肉ひとっ動かしませんでした。知らぬ人が見れば、まっ し たく、死んだものと思いこむほど、真にせまったまねでした。 「ふふむ。なかなか、うまくやりおる。」 かお こういって、顔を見あわせてわらったときです。 かりゅうど ふたりの狩人はどうじにさけびました。 しん し
ちちいろあさぎり マツやクスの木のあいだを、乳色の朝霧が流れていきました。 かりゅうど その霧のかたまりが通りすぎていってしまうと、五人の狩人と五ひきの犬とが、 水たまりのそばにあらわれました。 かりゅうど ふみあらされた泥土のあとを、五人の狩人はたんねんに調べておりました。 はつけん やがて小牛の足あとのような、大きなひづめのあとを発見しました。 かりゅうど 狩人のひとりは、だまって、その足あとをさししめしました。 「あいつだ。」 「そうた。あいつなんだ。」 これだけの会話で、五人の狩人たちには、その足あとが、何者のつけたものか、 ちゃんとわかったのでした。 ばくりんよこ その足あとは、かん木林を横ぎって、一キロメートルほどもつづいておりました。 きり なにもの 224
かりゅうど と、その狩人はいいました。 「えい、おしいことをしたわい。ワッ、 と、もうひとりの狩人は人のよさそうな大きな声でわらうのでした。 朝日が雲のあいだから顔を出しました。 ふち や 光の矢が、まっすぐに淵の上にさしこんできました。その淵は、カワウソ親子の ちゅうしん とびこんだあとを中心にして、静かに静かに、金の水の輪をえがいていました。 はんしゃ ぜっぺきたにま 雪におおわれた絶壁も谷間も、朝の日を反射して、お話の中の金の谷のように、 目もくらむほど、きらきらとかがやきわたるのでした。 かりゅうど ふたりの狩人は、この光りかがやく世界の中を、小さく、小さく、歩きさってい きました。 せかい わ おやこ 206
るので、食べ物にはどこへいったってこまることはありません。 ′」くらく ここはかれらにとっては極楽でした。 ほんを一に、 ゅめ ) 」くらくじま ところが、ある朝、この極楽島のたのしい夢が、にわかにやぶられてしまいまし ドドウン という、あの身ぶるいするほど、いやな鉄砲のひびきが、つづけざまに五つも六つ も、島のまわりから聞こえてきました。 しゆりよう まいにち 、よいよ狩猟の季節に しかもそれが、毎日きこえるようになりました。それは、し かりゅうど む なり、この島の付近にはカモがたくさんに群れているので、狩人たちがほうぼうか らやってくるようになったからでした。 で、老いたカワウソは、またこの島も見すてることにしました。 しま もの ふきん てつばう きせつ 198
「晩にならぬうちに家に。」 じゅう みねほそかりゅうどみち と考えて、銃をかたにかつぐと、峰の細い狩人道を、とことことくたりはじめましル ところが、犬がにわかにこうふんしてしつ。ほをさかんにふりだしました。そして、 けいしゃち 傾斜地の草むらの中に、たたたたと、とびこんでいきました。 「お、なにかいるそ。」 きようたろう かりゅうど じゅう 狩人のかんで、京太郎さんは、すぐそう思いました。銃をかまえると、じぶんも むちゅうになって、とっとっとつ、と犬のあとをおいました。 ものの二十メートルもいかぬうちでした。 キチキチキチキチ はおと すばらしく大きな羽音。 まるまるとふとったキジです。 が 犬にかくれ家をおそわれて、キジのめすがあわてて飛びだしてきました。 143