まるた 子ギッネをつないだ丸太だけがのこっていました。 まるた まるた ああ、その丸太。その丸太は、キツネの親たちのくるしい努力によって、もうす まるた しようたろう こしでかみきれるばかりに、ほそくされていたのです。正太郎は、その丸太にさわっ てみました。と、かれの心に一つの考えがうかびました。 やすだ 「そうだ。子ギッネは、あの親ギッネの手にかえしてやらなければならない。安田 さんにおねがいして、にがしてやろう。」 げんき 正太郎は元気づいて立ちあがりました。 とう・け かれは、峠をこしてむこうの、安田牧場を目がけてかけだしました。日がしすみ かけていたが、いそいでいけば、暗くならぬうちにいきつけると思いました。しか とう・け し、峠のいただきにきたときには、もうすっかり暗くなっていました。 かれは、さきをいそぎました。よく考えもせず、崖ぶちの雪をふみつけました。 と、雪は、大きくくずれて、ど、どうとなりながら、谷のそこにおちていきました。 正太郎も、雪といっしょに、まっさかさまにおちてしまったのです。 おや おや どりよく
親ギッネは、こんどは巣箱の中のくさりをむすびつけてある丸太をかみきろうとし はじめたのでした。親ギッネたちは、おりさえあれば、床下からはいだしてきて、 まるた するどい歯でガリガリと丸太をかじりました。正太郎は、じぶんでくさりをとくよ りも、親ギッネたちにあの丸太をかみきらして、かれらの手で子ギッネをすくいだ させてやったほうがいいと考えたのでした。 た そのかわり、かれは、はらをへらしている親ギッネに、そっと食べ物をはこんで いってやることにしました。肉のフライや、あぶらあげがでると、正太郎は一口も ぎゅうにゆう ゆかした 食べずにのこしておいて、床下に投げこんでやりました。牛乳をとってくれと母に まいにち ゆかした ′」うぎゅうにゆう せがんで、一合の牛乳をじぶんでは飲まず、床下のどんぶりのこわれたのに、毎日 あけてやります。 こんなことが、一か月もつづくと、ふしぎに親ギッネは正太郎になれてきました。 す 正太郎がえさを持っていくと、親ギッネどもは、床下の巣から、ごそごそはいだし しようたろう てくるほどになりました。子ギッネも、はじめは、正太郎が手をだすと、かみつ一、 まるた おや しようたろう ゆかした ゆかした まるた もの
うとしたり、巣箱の中ににげこんだものでしたが、親ギッネがなれてきたこのごろ A 」 では、正太郎が手をだすと、あの、ざら 0 。ほいもも色の舌で、べらべらかれの手を なめるのでした。しかし、正太郎になれたといっても、親ギッネたちは、子ギッネ をすくいだすことはわすれませんでした。毎日、丸太をかじって、いまではだいぶ ほそくなりました。 丸太は、あとわずかでかみきれるでしよう。これをかみきって、じぶんたちのカ で、子ギッネをかん・せんにすくいだしたときの、親ギッネのよろこびはどんなであ りましょ一つ。 正太郎は、それを考えると、なみだがにじんでくるのでした。 りようしん しようたろう 正太郎はひとりでねむっていました。 そうだん 両親はなにか相談ごとがあって、しんるいの家に出かけていったのです。 家にだれもいなくなり、正太郎がねてしまうと、コトと、かすかな音がして、ひ まいにちまるた おや した おや
こんどはそのくさりを手にとって、くさりの輪の一つ一つにさわってみました。 る このくさりにつながれてから、もう何百回となく、サルは、このくさりの輪の一帰 山 つ一つを調べてみたのでしたが、きようは、そのくさりをつないである柱のところ まで調べていったとき、へんなものを見つけました。 まるた それは、丸太にゆるく一まわりしているくさりの輪に、さしこんである十センチ メートルほどの、細い鉄の棒でした。 サルは、めずらしげにその棒をひねくりはじめました。ひねくっているうちに、 棒が、くさりの輪から、するりとぬけてしまいました。、、 : カ例によって、すぐに、 まるたくい そのくさりのこともわすれて、丸太杭の上にのぼっていきました。 そしてまた、サクラのえたにとびつきました。 ふしぎなことに、 いつものえだより上のえたにとびついたのに、こんどは、いっ ものようにくさりが、かれの首を、ぐいとひつばりませんでした。 もう一だん上にのぼってみました。 ほそてつばう 173
せいないじながのけんきそ それは、清内路 ( 長野県の木曽の近くにある村 ) のお医者さんの坪庭でのできごとで した。 やがてえだをゆすぶることにもあいて、杭をつたって地面におりてきました。 しず どぺい すると、土塀のくずれの日だまりに、青トカゲが一びき、静かに日なた・ほっこを しているのが、目にとまりました。 サルというやつは、生き物だろうがなんだろうが、目についたものは、いちいち 、とみえます。 調べてみなければ気がすまない カ二メートル 四つばいになって、ちょこちょことそのほうに走りだしました。 : 、 もいかないうちに、ドシン、としりもちをついてしまいました。 くびわ 首輪についているくさりが、ぐい とかれを丸太のほうにひきよせたのでした。 りようて サルは、 ぐしぐいひつばってみまし かっとなりました。くさりを両手につかみ、 た。けれども、丸太はびくともしません。 くさりにかみついてみました。かちかちして、歯がたちません。 もの まるた しゃ じめん つばにわ 172
にはん 日本ザルにしては、めずらしい大ザルでした。 よこ」 サルは丸太の杭の上にうちつけてある横木から、頭の上にたれさが 0 ているサク ラのえだにとびつきました。 短いくさりにつながれているので、いちばん下のえだにつかまるのがや 0 とでし ぐんぐんとサクラのえだをゆすぶりました。 らんまんとさいたサクラの花が、におうけむりのように、みごとにち 0 てきます。 サルは、花のえだをゆすぶりつづけました。 山へ帰る あたま 山へ帰る 171
。たいぞ、つ 大造じいさんとガン し かりゅうど 知りあいの狩人にさそわれて、わたしはイノシシ狩りに出かけました。イノシシ か ) 」しまけん だいぞう 狩りの人びとはみな栗野岳 ( 鹿児島県にある山 ) のふもとの大造じいさんの家に集ま げんき りました。じいさんは、七十二歳だというのに、 こしひとつまがっていない、元気 ろうかりゅうど な老狩人でした。そして狩人のだれもがそうであるように、なかなか話じようずの けつかん 人でした。血管のふくれたがんじような手を、いろりのたき火にかざしながら、それ カ からそれとゆかいな狩りの話をしてくれました。その話の中に、いまから三十五ー六 くりのだけ 年もまえ、まだ栗野岳のふもとの沼地にガンがさかんにきたころの、ガン狩りの話も どだい ものがたり ありました。わたしはそのおりの話を土台としてこの物語を書いてみました。 まるた も じざい さあ、大きな丸太が、ばちばちと燃えあがり、しようじには自在かぎとなべのか やまが けがうつり、すがすがしい木のにおいのするけむりのたちこめている、山家のろば そうぞう たを想像しながら、この物語をお読みください くりのだけ ぬまち いえあっ 120