老い - みる会図書館


検索対象: 月の輪グマ
156件見つかりました。

1. 月の輪グマ

残雪は、大造じいさんのおりの中でひと冬をこしました。春になるとそのむねの きずもなおり、体力ももとのようになりました。 ある晴れた春の朝でした。 じいさんはおりのふたをいつばいにあけてやりました。 残雪はあの長い首をかたむけて、とっぜんに広がった世界におどろいたようであ りました。。ゝ、 はおといちばん こころよい羽音一番。一直線に空へ飛びあがりました。 らんまん 爛漫とさいたスモモの花がそのはねにふれて、雪のように、清らかに、はらはら とちりました。 えいゅう 1 い。ガンの英雄よ。おまえみたいなえらぶつを、おれは、ひきようなやりか ぬまち たでやつつけたかあないそ。なあおい。ことしの冬も、なかまをつれて沼地にやっ たたか てこいよ。そうしておれたちはまたどうどうと戦おうじゃあないか。」 ざんせつ たいりよく くび いっちよくせん だいぞう 135 大造じいさんとガン

2. 月の輪グマ

せいないじながのけんきそ それは、清内路 ( 長野県の木曽の近くにある村 ) のお医者さんの坪庭でのできごとで した。 やがてえだをゆすぶることにもあいて、杭をつたって地面におりてきました。 しず どぺい すると、土塀のくずれの日だまりに、青トカゲが一びき、静かに日なた・ほっこを しているのが、目にとまりました。 サルというやつは、生き物だろうがなんだろうが、目についたものは、いちいち 、とみえます。 調べてみなければ気がすまない カ二メートル 四つばいになって、ちょこちょことそのほうに走りだしました。 : 、 もいかないうちに、ドシン、としりもちをついてしまいました。 くびわ 首輪についているくさりが、ぐい とかれを丸太のほうにひきよせたのでした。 りようて サルは、 ぐしぐいひつばってみまし かっとなりました。くさりを両手につかみ、 た。けれども、丸太はびくともしません。 くさりにかみついてみました。かちかちして、歯がたちません。 もの まるた しゃ じめん つばにわ 172

3. 月の輪グマ

右庭球部愛鳥 と、その立札には書いてありました。 もじ くしん ていきゅうぶあいちょう 「先生、その庭球部愛鳥という文字には苦心しました。」 だいぎろん あいちょう ていきゅうぶしょゅう 「庭球部所有とするか、愛鳥とするかで、大議論があったのです。」 しぜん 「たけど、・ほくたちは、自然のままの鳥をかわいがるのだから、愛鳥とするがいい ということになったのです。」 「先生、もう一週間もすれば、・ほくたちの足音を聞いただけで、ひな鳥はトウシン グサの中から、すういと出てきますよ。」 え 「それから、・ほくたちの手からしかに餌を食べるようになります。 選手たちは、こんなことを口ぐちにいって、大よろこびしているのでした。 たてふだ 翌日は、その立札を池のふちに立てることにしました。 きのうの倍もドジウを用意して、みんなのしははずんでおりました。休み時 せんしゅ よくじっ たてふだ ていきゅうぶあいちょう やす じ か 213 カイッフ・リばんざい

4. 月の輪グマ

だいぞう 大造じいさんは、ぐっと銃をかたにあて残雪をねらいました。が、なんと思った かふたたび銃をおろしてしまいました。 にんげん 残雪の目には、人間もハヤブサもありませんでした。ただ救わねばならぬなかま のすがたがあるだけでした。 いきなり敵にぶつかっていきました。そしてあの大きなはねで力いつばいあいて をなぐりつけました。 ふいをうたれてさすがのハヤブサも空中でふらふらとよろめきました。が、 , ャ ブサもさるものです。さっと体勢をととのえると、残雪のむなもとにとび・こみまし 。よっ 。よっ はねが、白い花弁のように、すんだ空にとびちりました。 ぬまち そのままハヤ・フサと残雪はもつれあって、沼地におちていきました。 じゅう てき かべん じゅう たいせい ざんせつ ざんせつ すく 132

5. 月の輪グマ

でんしんばしら 門口には、電信柱よりも高く、出征軍人の日の丸の旗が、朝風に気持ちよくゆれ て え ていました。 南がわの日あたりのよいのきさきには、きょ年、まじり毛のツバメのつくった巣」嵐 がそのままで残っていました。 まじり毛のツバメは、ゆかいでゆかいでたまりませんでした。 ビチ、ビチビチビチビチ。 力いつばいの声でうたいました。 「ああ、おかあさん、きょ年のツバメが、また帰ってきたよ。」 ここの家の、元気そうな子どもがうれしそうにさけびました。 せんち 「そうかい。戦地のにいさんに、そのことを書いてあげるといいね。」 家の中で、おかあさんはしずかな声でいいました。 きょ 日本の朝日が、清らかな朝日が、のきさきのツバメの背に、ちかちかと美しく光っ ていました。 かどぐち あさひ のこ しゆっせいぐんじん ひ まるはた せ あさかぜ

6. 月の輪グマ

あんぜん いわあな あな 雨がふっても水がましても安全な岩穴を見つけて、そこを宿ときめました。穴に は、かわいた落ち葉をしきつめました。 たいよう 強一も ふかふかした、しかも太陽のにおいのする、気持ちょい寝床ができあがりました。「月 三日ばかりたった朝のことでした。わたしは例のとおり、四時ごろに起きだしま しんざんけいこく く、つき 深山の渓谷の夜明けは、気持ちのよいものです。空気は、ガラスのように、びい んとすみきっています。そのすんだ空気のおわったところに、みずみずしいブドウ のような星をいたいた空がひろがっています。 わたしは、岩の上にはいだして、この美しい空気を、力いつばいすいこみました。 あらき とつ。せん川べりのほうから、荒木の声がしてきました。 「だんなさあ、だんなさあ、えらいものがありますに : : : 」 ちょ、つし たいそうものものしい、声の調子です。「なにごとだろう。」と思って、いそいで 岩の上からとびおりて、いってみました。 ねどこ やど 153

7. 月の輪グマ

「カイツブリばんざい ! 」 「ニオの親子ばんざい ! 」 「イッチョウムグリばんざい ! 」 「 ( ッチョウムグリばんざい ! 」 と力い 0 ばいの声で、選手たちといっしょになって、わたしも静かにくれていく沼 にむかってさけぶのでした。 ( ィッチ ' ウムグリ、 = オ、 ( 〉チ「ウムグリは、どれもカ ィップリの別名です。 ) ふかぬまち うしないました。けれども、この広く深い沼地なら、もうカイツブリの親子は、ど あんらく れからも害をうけることなく、安楽にくらせることでしよう。そう思うと、わたし たちの心には、なんともいえないよろこびが、あたたかくわきあが 0 てくるのでし おやこ べつめい せんしゅ しす 220

8. 月の輪グマ

した。 しまなら、あの子グマは生けどりにできる・せ。」 「どうだい。、 あらき と、わたしは、ならんで木のえたにこしかけている、荒木にいいました。 いのち 「とんでもない。命がけでありまする。」 おや 「だって、親グマは死んたようにねむっているじゃないか。」 あらき 荒木は、だまって首をふりました。 それから荒木は、服のポケットから、クルミの実をつかみだすと、えだの上に立 ちあがって、子グマを目がけて、投げつけました。 くつかは、子グマの近 二つ三つは、流れの中に音をたてておちこみましたが、い くの岩に、カアンとあたりました。 大きな音ではなかったが、聞きなれぬ音に、子グマはけいかいしました。 クンクンクン 子グマは鳴いて、そばの岩にかけあがりました。 くび 160

9. 月の輪グマ

だいぞう 大造じいさんはかけつけました。 ちじよ、つ たたか 二ひきの鳥はなおも地上ではげしく戦っていました。 : 、 カハヤブサは人間のすが と たをみとめると、きゅうに戦いをやめてよろめきながら飛びさっていきました。 ざんせつ くれない 残雪はむねのあたりを紅にそめて、ぐったりとしていました。しかし、第二のお そろしい敵が近づいたのを感じると、のこりの力をふりし・ほって、ぐっと長い首を しようめん もちあげました。そしてじいさんを正面からにらみつけました。 と、つりよ、つ それは、鳥とはいえ、いかにも頭領らしいどうどうたる態度のようでありまし だいぞう 大造じいさんが手をのばしても、残雪はもうじたばたさわぎませんでした。それ と、つりよ、つ どりよく は、最期のときを感じて、せめて頭領としての威厳をきずつけまいと努力している ようでもありました。 大造じいさんは強く心をうたれて、ただの鳥にたいしているような気がしません でした。 てき くび 134

10. 月の輪グマ

目の前で、赤や黄や、いろいろの輪がぐるぐるまわりました。そうして、まじり くは、なにもわからなくなってしまいました。 毛のツノメ 「おや、ツ・ハメがおちてきたそ。」 軍艦の甲板を歩いていた水兵さんが、ツメをてのひらの上にひろいあげて、そ うしいました。 それは、まじり毛のツ・ハメでした。 水兵さんは、わかい、元気な日本の水兵さんでした。 「どれ、どれ。」 水兵さんたちがおお・せい集まってきました。 「タカにでもやられたのだな、かわいそうに : 「まだ、生きているかもしれない。」 ぐんかんかんばん すいへい わ あらし 嵐をこえて