うえ でも、まっても、まっても、おかあさんはでてこないので、かわらの上へ さき しろ はしら の。ほっていくと、つぶれた柱のあいだに、白い手の先がす一、しみえたと。 「はようでて、おかあちゃん : : 、 : 」 のぶ子がよぶうち、むこうから火がボウボウもえてきて、もうすぐ、のぶ 子の家にもえうつりそうになった。 きんじよ すると、近所のお。はさんがびつこをひきながらきて、おかあさんのほうを のそいて、なにかいうて、のぶ子にはきこえんかったけど、きっと、おかあ さんが、 「わたしにはかまわんと、のぶ子を、どうかたのみます。」 と、いわれなさったのじやろう。 「いやじゃ /. うち、おかあちゃんと : : : 」 のぶ子が泣いてもどろうとするのを、おばさんはむりやりひつばり、もえ こ
こっ をほりだしてきなさった。そのお骨をみせられたとき、小さいのぶ子には、 おかあさんたということがわからなくて、 「ちがう、ちがう、おかあちゃん、かわらの下におったんよ。手え、みえた というて、どうでもきかなかったと。 ところ、がし 、く日かしたら、げんきだったおとうさんが、きゅうに起きれ やま んようになってしまわれた。そして、山のお寺の庭のテントをはったなかで、 「のぶ子、おまえは、死んだらいけんそ。」 といいなさると、くるしそうに血をはいて死なれた。 のぶ子は、おとうさんのくちびるに、血がこぼれているのを、じっとみて、 きんじよ 泣くのをわすれておった。おとうさんのなきがらが焼かれるとき、近所のあ のおばさんが、のぶ子をつよくだきしめて泣いたので、はじめてかなしくなっ にち した てら
そんなのぶ子に、お、はあさんは、また、しぶんのへそくりをとりだすと、 「かなしいことだの、つらいことだのは、いつまでもお・ほえとって、くよく よしよっちゃあいけん。。ヒカドンのことなど、はよう、さつばりわすれる んじゃ。」 というて、おこづかいをくれた。 それでも、のぶ子は、わすれる一、となんかできん。三年になり、四年にな ・けん洋なく り、大きくなっていくにつれ、のぶ子とおなじような原爆の子が、たくさん ・け・ん・はくしよ、つ おることがわかってきた。あのときのほうしゃのうがもとで、原爆症という ひと びようきになって死んでいく人が、まだ、おおぜいあることもわかった。そ して、おとうさんが死なれるとき、「おまえは死んだらいけんそ」と、いっしょ おも うけんめ、 しいいなさったのを思いだした。 やま ある日、のぶ子が、うさぎの草とりに山へいったら、おなじ組の男の子が、 おお くさ ねん くみおとこ ねん
というて、いやがるのだったと。 せいねん あるとき、のぶ子は、とてもまじめで仕事ねっしんな青年としたしくなっ けっこん せいねん せんし て、結婚をもうしこまれた。その青年は、おとうさんに戦死され、くろうし てそだったというので、のぶ子も、あの。ヒカドンのときの一、とをおぼえてい るままに話した。すると、 「いままでの不幸をとりもどすために、きっと、 しい家庭をつくりましよう。 。ほくもがんばりますよ。」 と、手をとっていうてくれたから、のぶ子は、なみだがこ。ほれるほどうれし うちもいいおくさんになります。」 と、一、たえたのじゃっこ。 せいねん それなのに、それつきり、青年はすがたをみせなくなってしもうて、し。は ふこ、つ し ) 」と かてい
べんきようへ、 しつもとおなじにでかけていった。ちょうど、けいかいけい ほうがでておったけど、じきにおかあさんが「もう、かいじょになったんよ」 といわれたので、あそびにでようとしたら、 。ヒカーツ とひかって、まわりの木や草がかれたみたいにきいろくなった。 それから、ドーンときて、のぶ子はふきと。はされ、起きてみると、家もな にもべしゃんこにつぶれておった。なにがおこったのか、小 さいのぶ子には ちょっともわからん。たた、こわくてこわくて、家のと一、ろへ走って、 「おかあちゃん、どこ、どこにおるん ? 」 した とよぶと、かわらの下からくるしそうに、 「の、のぶ子、ここよ。」 ときこえた。 くさ
それで、のぶ子は、おばさんにぬれたてぬぐいをまいてもらい、よその人 から、おむすびを一つだけもろうてたべて、おかあさんたちをまった。 そらあか 夜になっても、ひろしまの町は、空を赤くそめてもえておった。そして、 それから、かなしいことがつぎつぎとお一、った。おとうさんが、あちこちさ ある がし歩かれたのじやろう。おそくなって、 「のぶ子、のぶ子はおるか。」 とよびながら、おにいちゃんをだいてきなさった。 おにいちゃんは、まるでちがう子のように、やけどでふくれて、もう目も みず みえず、ロもきけず、おとうさんに水をふくませてもらううち、死んでしも がっこうひと うた。おねえちゃんも、あの。ヒカーツとひかったとき、学校の人たちといっ しょに死んで、だれがだれだか、わからんようになっておったと。 こっ つぎの日おとうさんが、つぶれて焼けた家のあとから、おかあさんのお骨 よる くち まち ひと
てがみ らくしたら、手紙で、 げんばく 「しんるいが、原爆をうけた人ではと、どうしてもさんせいしてくれません。 けっこん この結婚はあきらめてくたさい。」 と、。ほっりというてよこしたと。 おなじようなことが、つぎにもおこった。また、つぎにもおこった。その たにそこ たびに、のぶ子は、目のまえがくらくなって、ふかい谷底へおちこみそうに なるのを、いっしようけんめいこらえながら、 「ひとりではないんよ。うちのほかにも、もっとおおぜいおるんよ。ここで くじけたらいけん。一 と、じぶんにむかっていうた。 一、ののぶ子も、いまでは、ようやっとしあわせな家庭をもって、りつばな ひと かてい
「。ヒカドンきずの、ピカ子やい。」 というて、はやしたと。 がっこ、つ それで、のぶ子が、おばあちゃんにほうたいをまいてもろうて学校へい と、こんどは、村の子は、ねもはもないことだのに、 どく 「あの、。ヒカ子のよぶよぶはなあ、さわるとうつるんたそな。うつれば、毒 がまわって、みな死によるんじゃあ。」 「ほんまじやけえ、かくしておるんや。」 というて、小石をなげたりしたと。 のぶ子は、そのたんびに、かなしくてふるえて、なみだをいつばいためて あたま かお かえ 帰ると、おばあさんのたもとに顔をうすめた。すると、おばあさんは頭をな がっこ、つ 「たれそ、また、わるさしようたんじやろ。おばあちゃん、学校へいって、 むら
A 」い一つた A 」。 すると、男の子は、だま 0 て下をむいてしもうた。のぶ子は、てぬぐいを おとこ ひきさいて、そ。はヘよって、男の子のけがした足をきりつとしばると、 かた 「うち、肩かしたげる。さ、立って。」 かた というて、肩につかまらせた。 やま そろそろ山をくたりながら、のぶ子が、 「あの。ヒカドンで、やけどしたとき、くすりもなんにもなくて、近所のおば さんが、てぬぐいでほうたいしてくれたんよ。」 おとこ というたら、男の子は、 「わし、わるかったけえ、かんにん。」 こえ と、小さな声でいうたと。 こんな一、とがあ 0 てから、村の子もたんたんいじわるをせんようになるし、 おとこ むら した こ
ちゅうがく のぶ子は、中学をおえると、町へでてはたらいて、いつのまにか、およめ さんの年ごろになった。びようきらしいびようきもせんで、左うでのきずあ けっこん いよいよ結婚 とも、すこしずつめだたんようにきえていった。それなのに、 の話がもちあがると、だれもかれも、 「いいむすめさんじゃとおもうけど、原爆をうけた人では、よう気がすすま ん。いつ、一、わいびようきがおこるかしれんし、かたわの子が生まれても こまるけんのう。」 のぶ子も、はじめとちがったあかるいむすめにそだっていった。けれど、の ぶ子のまえには、まだまだ、かなしいことやつらいことが、つぎつぎにおこっ てきたと。 はなし まち ・けん・はく ひと ひだり