四郎 - みる会図書館


検索対象: おかあさんの木
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1. おかあさんの木

かえ だけでいいに、どうそかえしてくだされや」といのって、帰りをまった。 あき やがて、秋がきて、うらのあきちのキリの葉が、 ( タリホタリとちりはじ めた。すると、おかあさんは、ちりおちた葉を、一まい一まい じろ、つ 「この大きいのは、二郎の葉 : このあっ・ほったいのは、三郎の葉 : しろ、つ さきがとがって、ほそながいのが、四郎の葉 : これは五郎、すばしこくて、まけんきで、たまになどあたる子でなかった ろくろう これは六郎、きようだいのなかで、いちばんやさしい子じゃったが : そして、この小さいのが七郎の葉。」 と、つぶやきつぶやき、ひろいなさった。それから、ふかいいきをして、こ ずえのほうをみあげながら、 おお ′」ろう さぶろう しちろう

2. おかあさんの木

A 」 いいなさったそうな。 そのおぶつだんには、きいろやむらさきの盆花がそなえてあったし、よこ ちゃ しやしん のかべには、七人のむすこたちの写真が、もう、茶いろくなってはってあっ ・ : 日本軍がぜんめっした南の島で死んでしもうた。 ふね : 船といっしょに、ふかい海のそ一、ヘしすんでしもうた。 三郎は : せんし ビルマのジャングルでゆくえし ガダルカナルで戦死し、五郎は、、 四郎は、、 れすになったという。 し ろくろ、つ 六郎は、おきなわへいって死に、七郎は、とくべつ「うげき隊のひこうき てきふね で、はくたんをたいたまま、敵の船へぶつかっていったという。 ぶじでいるようなむす一、は、だれひとりおらんかった。 まいにち それでもなんでも、おかあさんは毎日まいにち、「ひとりでいいに、ひとり さぶろう じろ、つ しろ、つ につばんぐん みなみしま しちろう ごろう うみ ばんばな し たい

3. おかあさんの木

きんじよひと でも、おそうしきがすんで、しんるいや近所の人がもどってしもうと、こ らえきれんように、うらのあきちへとんでいった。〈一郎〉の木にとりすが り、かたいみきにほおすりしながら、 いちろう 「一郎、一郎、さそっらかったろうね。たまにあたって、どんなにかいたか たろうね、死にたくなかったろうね。」 というて、泣きなさったそうな。 いちろうせんし まいあさ そればかりではない。 一郎が戦死してからというもの、毎朝、キリの木に はなしかけるおかあさんの一、とばは、すっかりかわっていった。 まえには、ひきようなまねはせんと、おくにのためにてがらをたてておく れや : : : そう いいなさっておったのが、 しちろう 「二郎も、三郎も、四郎もな、一良冫し にこ、さんみたいに死んだらいけん。てが じろ、つ いちろう さぶろう しろ、つ いちろう

4. おかあさんの木

それでもなんでも、また秋がきて、キリの葉がハタリホタリとおちはじめ ると、 じろ、つ 「一、の大きいのは、二郎の葉 : このあっ・ほったいのは、三郎の葉 : しろう さきのとがって、ほそながいのが、四郎の葉 : これは五郎、すばし一、くて、まけんきで、たまになどあたる子でなかった と、つぶやきつぶやき、ひろいなさったのだそうな。 そんなある日、はがき一まいこなんだが、やぶけたふくをき、右足をひき ある きしゃ ある すったへいたいが、汽車からおりた。歩いてはやすみ、やすんでは歩きして、 おかあさんの家のほうへやってきた。 とぐち やっとこ、戸口へたどりつくと、へいたいは、なっかしそうに顔をあげ、 おお ) 」ろう あき さぶろう かお

5. おかあさんの木

なにひとっしりなさらん。しまいには日本がまける、せんそうだということ もしりなさらん。 せんし たた戦死した一郎が、かわいそうでならなくて、ほかのむすこたちが、あ んじられてならなくて、そうねがっただけじゃっこ。 ひと それから、おかあさんは、ちかくの人がへいたし冫 、ことられれ。は、行ってぶ こっかえ っしょに位きなさるしした。 じをいのるし、だれかの遺骨が帰ってくれ。は、 じろう しろ、つ かえ さぶろう また、二郎や、三郎や、四郎が、げんきで帰ってくるときのことをおもうて、 せっせこ畑をたがやし、イモやら、キビやら、マメやらを、たくさんにつく りなさった。 けれど、せんそうはやむど一、ろか、ますますひどくなった。 うらのあきちには、いつやら七ほんのキリの木がならんで、すっくら、すっ くらとのびたが、あべこべに、おかあさんのこしは、す一、しすつまがっていっ しちろ、つ につばん

6. おかあさんの木

おお すこしむかしのことだけど あるところに、ひとりのおかあさんがおって、そのおかあさんには、七人 のむすこがおったそうな。 昭和十二年という年、中国とのせんそうがおこって、なかなかやまんで、 とうとう世界しゅうをあいてにするような大せんそうへひろがってしもうた。 りくぐん いちろう 大きくなったむす「たちは、いちばんうえの一郎からじゅんしゅんに、陸軍 かいぐん 、ことられていった。 だの、海軍たのへ、 そのとき、おかあさんは、なんとおもいなさってだろう。 、ことられるたんびに、うらのあきちへ、キリの木の むすこたちがへいたし じろ、つ しちろ、つ なえを一。ほんすつうえて、〈一郎〉〈二郎〉〈三郎〉と、なまえもつけた。毎 しよ、つわ せかい ねん としちゅうごく さぶろう き

7. おかあさんの木

あさ き みす 朝、その木に水をやるやら、ささえをたててやるやらしては、 「一郎、おはよう。」 「二郎、おはよう。」 せんち 「三郎、おまえも戦地でげんきかいな。ひきようなまねはせんと、おくにの ために、てがらをたてておくれや。」 いいなさったそうな。 まだ家におった末のむすこたちは、おかあさん、そんなことして、子ども みたいたと、わろうた。どうせうえるなら、葉っぱ。はかりの木よりか、実が よ、と , もい、った。 なってたべられる木のほうがいし それでもなんでも、おかあさんは、わたしのすきですることだからといし き なさり、だいじに、だし こ、じに、むすこたちのキリの木をそだてた。そして、 じろ、つ だれのいたすらだやら、〈二郎〉の葉がむしられておるのをみては、 さぶろう いちろう じろ、つ すえ き き み

8. おかあさんの木

「なにも、おまえたちのせいではないそえ。日本じゅうの、とうさんやかあ こよやられん、 さんがよわかったんじゃ。みんなして、むすこをへいたい冫冫 いっしようけんめいいうておったら、一、うはならん せんそうはいやだと、 かったでなあ。」 いいなさったそうな。 ふゅ 秋がすぎて、せんそうにまけた年のさむい冬がきた。 かえ 。ほっり。ほっり、生きのこったへいたいが帰ってくると、おかあさんはまち ゆきせんろ きれなくてならなんで、汽車がくるたび、雪の線路。はたへでてみなさった。 しろ、つ ′」ろう よなか 夜中に、風がコトンと戸をたたけば、「四郎かや、五郎かや」と、起きてみな さりもした。 かえ けれど、だれひとり帰ってこないで、一年がすぎた。いつやら、おかあさ んの目はかすみ、ほおは一、け、こしもすっかりまがってしもうた。 あき かぜ きしゃ とし ねん につばん

9. おかあさんの木

かえ 「おかあさん、おどろかんでください。五郎が、いま、生きて帰ってきまし ゅめではない。 ビルマのジャングルのたたかいで、 ゆくえしれずになっこ ′」ろう A 」い一つ、 五郎じゃっこ。 でも、なぜかしらん、家のなかはひっそりとしておって、へんじひとっき こえんかった。それで、五郎がふしぎにおもうて、うらのあきちへいってみ たら、おかあさんは、ひろうたキリの葉をだきしめ、〈五郎〉の木に、もたれ たままになっていなさった。 「おかあさん、おかあさん : : : 」 とよんでも、ゆすぶっても、もう、目をあけてはくださらんかったそうな。 しばらくして、五郎は、おかあさんのおもいでに、あまい実のなるクルミ ′」ろ、つ ごろう ′」ろう ′」ろう

10. おかあさんの木

とうさんはくたびれ、波をかぶって体がしずみかける。 やぐるま なにくそ、ここであきらめてなるもんかと、また矢車のようにうでをふり まわし、抜手をきって行く。 ふじさん 「一郎、一郎、もうじき富士山がみえてくる。浜へついたら、とうさんは足 ある がなくて歩けないんた。かあさんといっしょに、むかえにきてくれ。リヤ かえ カ , ーがいいな。リャカ , ーに乗せてもらって帰ろう。それから、一郎、おま ぐんたい えは大きくなったって、けっして兵隊にはならないんだそ。軍隊も、戦場 も、おそろしくつらいさびしいところだ。おまえは、兵隊さんのゆめなん かみるなよ。」 こえ かた とうさんはむちゅうで語りかける。その声は、ふしぎにやさしかったが、 したいに弱よわしくなっていった。 とお 、 0 ここらで、休んで行くとしよう。おまえの、だい 「ああ、ほんとに、遠し いちろう おお ぬきて よわ いちろう なみ からだ やす はま へいたい いちろう せんじよう 105