「やつばり、ひとりぐらいバカがおってもよからす。むかしむかし、和太郎 おんきゅう せんし ちゅう。ハカじいやんがおって、戦死したむすこの恩給をもらっちゃあ、町 せんそう へ行って、子どもらにだまされだまされ、戦争おもちやをたんと買いあっ めて : じいやんは自分の物語のはじめを考えると、ふしくれだった手を見つめ て、ひとりでハハと笑った。 三どめのおもちや買いにでかける日、じいやんはさらしの布を見つけだし ふで て、ふとい筆で、ます一まいに、 『戦争おもちや買います』 と書いた。つづいて、もう一まいには、 わたろう 『平和の和太郎じいやん』 せんそう こ じぶんものがたり わら かんが ぬの わたろう まち 175
しようねんこ、つく、つへ やがて、むす一、は少年航空丘 ~ になっこ。 はんたい ばあやんがしきりに反対をしたけれど、じいやんは晴れがましい気持で、 ひじしま、つじ 「この非常時のときだに、ひとりむすこた 0 ても、すすんでお国〈ささげにや いけんがのう。わし、かくごしておるで。」 と、村じゅうの人にいったんじゃ。 しゆっじん 戦争がせ 0 ばつま 0 てきて、いよいよ出陣というときには、夫婦して土浦 まで見おくりに行 0 た。なぜか、じいやんはまた心のなかでは、日本が戦争 くんしよう に勝っ 0 て一、とや、むすこがてがらをたて勲章をもら 0 て帰 0 てくること かんが ばっかし考えとっこ。 はんとし にわしろ しかし、それから半年もたたない春、庭の白いモクレンがさきだした日に、 せんし 戦死の知らせをうけと 0 た。じいやんは、しんそう〈ドッンと五寸くぎをぶ おも かた ちこまれる思いがし、泣きくすれたばあやんの肩をだいて、 せんそう むら ひと はる こころ 157
とし そのうち、三人めも戦死 ? しちま 0 て、一、 0 ちかたには年かさの大将だ けがのこ「た。すると、「よし、見てろや」ちゅうて、きかんじゅうをかかえ その子にしてみれば、かっこ、 しいつもりなんじやろうが カタカタと うちまくった。 「わ、わあ , ーっ。」 む一、う 0 かたの子は、四人も五もい 0 ペんになぎたおされ、大げさなた おれかたで、ごろごろひっくりかえった。 「あんがい敵は弱かったで、へえ、おわりだ。みんな起きろ。」 かお 年かさの子の、なんととくいけな顔。そればかしじゃない、すぐまた、大 将ぶっていったんたと。 「日がくれてきたから、もう一回、畑のほうへ行 0 てベトナム戦争やれや。」 「うん。」 しよ、つ てきょわ せんし はたけ おお たいしよう 154
らせておるのかわからんかった。 : と、みな首をかしげたが、戦争に どがいしよったんじゃ、あのむすこ : ひと ろくた にんじよ、つ まけたあとでも濟のにんげんの人情はあつい。六太があばれて人を困らせる かお こともなかったので、その顔にできたあざをみるにつけ、 「軍隊ちゅうのは、ひどいところだそうじゃのう。うちのむす一、も戦死して かえ しもうたが、たとえ手足が無うなっても、ひょっこり帰ってきてくれたら おも と思うとる。あんた、ようめんどうをみてあげんさい。」 と、おっかさんをなぐさめたりした。 た ろくた なぜ、六太があほうになったか、浜の者だれも立ち入ってはきかんかった。 ろくた うしろゅびをさして、あざける者もおりやせんかった。おっかさんは六太を ひもの つれていっては、山の畑をかいこんし、また、おっかさんひとりで干物など 」ようしよう を仕入れて行商にでかけ、ほそ。ほそとくらした。 ぐんたい し やまはたけ てあし もの はまもの , 」ま 6 せんし せんそう 135
「そうだ、早いとこ焼いてしまえばいいんだに。焼いてけむりにすりゃあ、 たかそら 高い空へきえていくで。」 ちゅうと、ポンと手をうった。 いねか あしたから、旧リ - お・ , メ . り - をい一つ日のこ A 」。 し′」と むらゆうびんきよく ちよきん じいやんはさっさと仕事をかたづけ、村の郵便局へ行って貯金をすこしお せんし おんきゅう ろした。戦死したむすこの恩給をためとったお金だった。その足で、てくて せんそうあそ く町へでかけた。はしめに、一、のあいだ子どもらが戦争遊びをしとった横丁 へ入ってみたが、しんとして、きようはだれもおらない。 カっこ、つ かえ 「また学校から帰ってこなんたか。まあ、そのうちにや : よこちょう よこちょう ある 横丁から横丁へ、路地から路地へ、じいやんはまんべんなく歩いてまわっ た。すると、四つくらいの小さい子どもがひとり、。ヒストルのおもちやを持っ て立っとった。 まち はや こ かね あし よこちょ、つ 166
というて、いやがるのだったと。 せいねん あるとき、のぶ子は、とてもまじめで仕事ねっしんな青年としたしくなっ けっこん せいねん せんし て、結婚をもうしこまれた。その青年は、おとうさんに戦死され、くろうし てそだったというので、のぶ子も、あの。ヒカドンのときの一、とをおぼえてい るままに話した。すると、 「いままでの不幸をとりもどすために、きっと、 しい家庭をつくりましよう。 。ほくもがんばりますよ。」 と、手をとっていうてくれたから、のぶ子は、なみだがこ。ほれるほどうれし うちもいいおくさんになります。」 と、一、たえたのじゃっこ。 せいねん それなのに、それつきり、青年はすがたをみせなくなってしもうて、し。は ふこ、つ し ) 」と かてい
せんし あばれん・ほうのサプは、とうさんがとっくに戦死して、かあさんひとりで、 うえ さかな屋をやってる家の子だったと。上ににいさんがおったけど、その日は こうじよう くろ でんとう 工場にとまりこみだったから、かあさんとふたり、黒いきれをかぶせた電燈 の下で、ちゃぶ台についた。 ほね そして、サプが、ひさしぶりのさかなを、あたまの骨までがつがっしゃぶ うおがし 「かあちゃん、一、んどっから、おれ、はたらく。 いっしょに魚河岸へもいっ てやるよな。」 かお というたら、かあさんはたまげた顔で、 した ーツとくずれおちてきてしもうたと。 こ
きんじよひと でも、おそうしきがすんで、しんるいや近所の人がもどってしもうと、こ らえきれんように、うらのあきちへとんでいった。〈一郎〉の木にとりすが り、かたいみきにほおすりしながら、 いちろう 「一郎、一郎、さそっらかったろうね。たまにあたって、どんなにかいたか たろうね、死にたくなかったろうね。」 というて、泣きなさったそうな。 いちろうせんし まいあさ そればかりではない。 一郎が戦死してからというもの、毎朝、キリの木に はなしかけるおかあさんの一、とばは、すっかりかわっていった。 まえには、ひきようなまねはせんと、おくにのためにてがらをたてておく れや : : : そう いいなさっておったのが、 しちろう 「二郎も、三郎も、四郎もな、一良冫し にこ、さんみたいに死んだらいけん。てが じろ、つ いちろう さぶろう しろ、つ いちろう
なにひとっしりなさらん。しまいには日本がまける、せんそうだということ もしりなさらん。 せんし たた戦死した一郎が、かわいそうでならなくて、ほかのむすこたちが、あ んじられてならなくて、そうねがっただけじゃっこ。 ひと それから、おかあさんは、ちかくの人がへいたし冫 、ことられれ。は、行ってぶ こっかえ っしょに位きなさるしした。 じをいのるし、だれかの遺骨が帰ってくれ。は、 じろう しろ、つ かえ さぶろう また、二郎や、三郎や、四郎が、げんきで帰ってくるときのことをおもうて、 せっせこ畑をたがやし、イモやら、キビやら、マメやらを、たくさんにつく りなさった。 けれど、せんそうはやむど一、ろか、ますますひどくなった。 うらのあきちには、いつやら七ほんのキリの木がならんで、すっくら、すっ くらとのびたが、あべこべに、おかあさんのこしは、す一、しすつまがっていっ しちろ、つ につばん
あねふたり と姉二人があった。兄たちがつぎつぎ兵隊になっていって戦死、姉たちはよ せんいん なんばううみ めに行ったあと、船員だったおとうさんも南方の海にしずんた。それまでの ろくた せんもんがっこう 六太は専門学校へかよい 小鳥をかわいがる、おとなしくてすなおなむす一、 じゃったそうな。 じぶんにゆうたい けど、ひとり子ひとりにな 0 て、自分の入隊が近づいたころから、その おも ことをひどく思いつめ、 「おっかさんをおいては行かれん。人ごろしには行かれん。」 と、ロ、はしつこ。 しんばい 「お国のためなら、いまさら、どうもならんけえ、わたしのことは心配せん で、行ってつかあさい。」 にゆうたい おっかさんはそういうたが、い よいよ入隊の日がきて、だまり一、くってで けんさかん かけていくと、検査官のまえでわめきだした。そこにキツネがおるとか、ヘ くち は 」とり ひと ちか せんし あね 137