歩い - みる会図書館


検索対象: ごんぎつね
172件見つかりました。

1. ごんぎつね

えいぞう 栄蔵はわるいことをしているさいちゅうを、見つけられたと思ってうつむいた。 おしいさんは、まだはまらない本箱のふたの、うしろからのそいている本と、栄蔵 の顔を見くらべた。そしていった。 「おまえは本を見とったのか。」 栄蔵はもうしかたがないと思って、こっくりとうなすいた。 するとおじいさんは、やさしい声になって、 えいばう がくもん 「そうか。栄坊は本がすきだったのか。そんならこれから、おまえに学問をさせて本 を読ませてやるそ。ここにある本は、みんなおまえのものになるのだ。」 A 」、つこ。 おじいさんは、小さい栄蔵のうちに、学問をこのむ一つのたましいのめばえを見た のである。おじいさんにはそれがうれしかった。ーー、代々たちばな屋は学問を愛して しようらい きた。この子もまたそれをうけついで愛してゆく。こうしてたちばな屋の将来は、し つまでもかがやかしく発展するのだ : おじいさんが、本をぬすみ見していた自分を、しかるとばかり思っていた栄蔵は、 ほんばこ 152

2. ごんぎつね

と、はやしたてたことがありました。松吉、杉作は、もうすっとまえから、そんなこ 力あまり、克巳がおもしろそうにはやしたてるので、いっしょ とは知っていました : 、、 になって、これも、 「わはい、おじいさんの耳、毛がはえている。」 と、はやしたてたものでした。すると、おじいさんが、松吉、杉作をにらみつけて、 「なんだ、きさまたちゃ。おじいさんの耳に、毛のはえとることくれえ、毎日見て、 よく知ってけつかるくせに。」 と、しかりとばしました。そんなこともありました。 克巳はからうすをめずらしがって、米をつかせてくれとせがみました。しかし、二 十ばかり足をふむと、もういやになって、おりてしまいましたので、あとは、松吉と 杉作がしなければなりませんでした。 あしたは、克巳が町へ帰るという日の昼さがりには、三人でたらいをかついで、う きぬいけ ら山の絹池に行きました。絹池は、大きいというほどの池ではありませんが、底知れ ず深いのと、水がすんでいてつめたいのと、村から遠いのとで、村の子どもたちも遊 かつみ 157

3. ごんぎつね

くれたから、ことしだってくれるだろう。五十銭くれると、それでなにを買おうか。 ざいりよう いくらするだろ 模飛行機の材料ーーあの米屋の東一君が持っているようなのは、 五十銭では買えないかなア。それとも、雑誌を買おうかなア。弟は、よこ。、 というかしらん : ゅめ 松吉の、とりとめのない夢は、とっ・せん、「どかアん ! 」という、とてつもない音 で、ぶちゃぶられました。松吉はきもをつぶして、あやうく、持っていた竹を、はな してしまうところでした。 そんな声をだしたのは、すぐ前を歩いている弟の杉作でした。杉作であることがわ かると、松吉ははらがたってきました。 「なんだア、あんなばかみてな声をだして。」 すると杉作は、うしろも見ないで、こういうのでした。 「あっ、この木のてつべんに、とんびがとまったもんだん、大砲を一発うっただげや。」 それでは、しかたがありません。 また、しばらくふたりはだまって行きました。 こめや ざっし たいはう 168

4. ごんぎつね

和太郎さんはおかあさんとふたりきりになったとき、おかあさんに話しました。 「おチョは、おかあさんのつぶれたほうの目を見ていると、気持ちがわるくて、ごは んがのどを通らんそうです。」 それを聞くと、年とったおかあさんは、豆をたたくのをやめて、しばらく悲しげな 顔をしていました。そしていいました。 「そりや、もっともじゃ。こんなかたわを見ていちゃ、若いものには気持ちがよくあ よめ るまい。わしはまえから、嫁ごがきたら、おまえたちのじゃまにならぬように、どこ ほう、」う ますはん かへ奉公に出ようと思っていたのだよ。それじゃ、あしたから桝半さんのところへ奉 公に行こう。あそこじゃ飯たきばあさんがほしいそうだから。」 つぎの日、年とったおかあさんは、すこしの荷物をふろしき包みにして、日ざかり かど にこうもりがさをさして家を出ていきました。門さきのもえるように咲きさかってい るつつじのあいだを通って、行ってしまいました。 はたけかきね 畑の垣根をなおしながら、和太郎さんはおかあさんを見送っていました。おかあさ んが見えなくなると、つつじの赤が、和太郎さんの目にしみました。 づっ

5. ごんぎつね

りませんでしたので、林平さんは、ただ「。フゥーツ、プウーツ。」とふしなしでふきま かめぎく した。すると、けなすことのすきな亀菊さんが「まるでゾウのおならみてえだ。」とい いましたので、林平さんは気をわるくしました。こんなことをいっても亀菊さんは、 じっさいにゾウのおならを聞いたことなどありはしなかったのです。 みんなは、あちらこちらとさがしまわりましたが、おなじ谷になんどもおりたり、 おなじゃぶになんどもはいったり、おなじ池をなんどもめぐったりしました。これで はまるで、じぶんたちがきつねにばかされているみたいだ、などと思いながら、みん なは十ペんめにまた、おなじ池をぐるりとまわりました。 もうだいぶんくたびれていて、ほら貝やラッパはもう鳴りませんでした。ときどき ねぼけたような音で、たいこが鳴るだけでした。さてこんなにしてさがしましたが、 和太郎さんと牛は見つからなかったのです。それどころか、みんなのうちで、ふたり の人が、どこかへはぐれていってしまったことがわかりました。いやはやです。これ そん では、いつまでさがしていてもむだなばかりか、かえって損というものです。 もう、池の面が、にぶく光っていました。そのとき、池のむこうのやぶで、年とっ おも りんべい

6. ごんぎつね

もうひと仕事しちゃったのだね。」 釜右衛門が子牛を見ていいました。かしらはなみだにぬれた顔を見られまいとして、 横をむいたまま、 じまん 「うむ、そういって、きさまたちに自慢しようと思っていたんだが、じつはそうじゃ ねえのだ。これにはわけがあるのだ。」 といいました。 「おや、かしら、なみだーーーじやございませんか ? 」 えびのじよう と、海老之丞が声をおとして聞きました。 「このなみだってものは、出はじめると出るもんだな。」 といって、かしらは袖で目をこすりました。 ぬすびとこんじよう 「かしら、喜んでくだせえ、こんどこそは、おれたち四人、しつかり盗人根性になっ ちゃがま てさぐってまいりました。釜右衛門は金の茶釜のある家を五軒見とどけますし、海老 くぎ どぞうじよう 之丞は、五つの土蔵の錠をよくしらべて、まがった釘一本であけられることをたしか だいく めますし、大工のあッしは、こののこぎりでなんなく切れる家尻を五つ見てきました かまえもん そで やじり

7. ごんぎつね

おやゅび いい。ほが二つあ 親指と人さし指のさかいのところに、一センチぐらいはなれて、小さ りました。 かつみ この兄弟の家へ、町から、いとこの克巳が遊びにきたのは、去年の夏休みのことで した。克巳は、松吉とおない年の、小学校五年生でした。 すぎさく 克巳は五年生でも、からだは小さく、四年生の杉作とならんでも、まだ五センチぐ らい低かったが、こせこせとよく動きまわる子で、松吉、杉作の家へくると、じき、 はつかねずみというあだ名をつけられてしまいました。 松吉、杉作の家のうら手には、ふたかかえもあるニッケイの大木がありました。そ しいにおいがしたので、おとなたちが、昼寝をして の木の皮を石でたたきつぶすと、 いる昼さがりなど、三人で、まるできつつきのように、木の幹をコッコッとたたいて したりしました。 また、あるときは、おじいさんの耳の中に、毛がはえていることを、克巳が見つけ 「わはア、おじいさんの耳、毛がはえている。」 て、 みき たいばく ひるね 156

8. ごんぎつね

月イにいったということを、聞いたような気もします。 ふたりは、つくづくと小平さんの顔とすがたを、うちながめました。 る平さんはなんとなく、おとなくさくなりました。色が白くなり、あごのあたりが とこや こえてきたようでした。頭も、床屋にきたからでしようが、四角なか 0 こうに、きれ いにかりこんでいます。もとから、あまり口をきかないで、目を細くして、にこにこ していました。そのくせ、人のうしろから、よくいたずらをしました。 いちど、松吉は、耳の中へあすきを入れられて、こまったことがありました。ああ いうことを、小平さんは、今でもおぼえてるかしらん、わすれてしまったかしらん ともかく、今も小平さんは、白いうわっぱりのポケットに両手をいれて、ふたり を見ながら、にこにこしています。 こんこうきよう 小平さんは、きようは親方もおかみさんも、金光教のなんとやらへ行っていない、 かつみ 克巳ちゃんもまだ、学校から帰って一、ない、 といいました。 ふたりは、ちょっと失望しました。 「だが、まだ三時だから、もうちょっと待 0 ておれよ。そのうちに、おかみさんが帰っ こぞう しつばう おやかた 173

9. ごんぎつね

背なか〈手をいれたり、わきの下をくすぐ 0 たりしました。そして、小さい目を細く して、にやにやわらっていました。 今も松吉は、、 る平さんが、そんないたずらをはじめるのではないかと、おしりのお ちつかぬ思いでした。ことに小平さんが、松吉の耳をつまんで、二度ばかり、耳の毛 をそ 0 たときには、松吉は、て 0 きり、小平さんが、むかしのいたすらをはじめたと 思いました。もうすこしで、ク〉ク〉とわらいだすところでした。しかし、小平さん の顔を見ますと、ましめな顔をしていました。遊びをしているのではない、仕事をし ているおとなの顔つきでありました。 松吉には、小平さんがおとなにな 0 たから、もう遊ばないということがわかりまし た。おとなは仕事をするのです。たとえ、人の耳をつまんでそるというような、いた ずらみたいなことでも、小平さんは、仕事ですから、まじめにするのです。松吉には、 おとなになるというのは、ふざけるのをやめて、まじめになる約束のように思われま した。なんとなく、さみしい感じがしました。 せんめんじよ こし すみの洗面所で頭をあらい、もう一ペん腰かけにもどり、顔に、ぬるぬるしたもの やくそく 178

10. ごんぎつね

ことをしました。 ある秋のことでした。二ー三日雨がふりつづいたそのあいだ、ごんは、外へも出ら あな れなくて、穴の中にしやがんでいました。 雨があがると、ごんは、ほっとして穴からはい出ました。空はからっと晴れていて、 もずの声がきんきんひびいていました。 ごんは、村の小川のつつみまで出てきました。あたりの、すすきの穂には、まだ雨 のしずくが光っていました。川はいつも水がすくないのですが、三日もの雨で、水が ーべりのすすきや、は どっと増していました。ただのときは水につかることのない、月 きいろ ぎのかぶが、黄色くにごった水によこたおしになって、もまれています。ごんは川し ものほうへと、ぬかるみ道を歩いていきました。 ふと見ると、川の中に人がいて、何かやっています。ごんは、見つからないように、 そうっと草の深いところへ歩みよって、そこからじっとのそいてみました。 へいじゅう 「兵十だな。」と、ごんは思いました。兵十はぼろ・ほろの黒い着物をまくしあげて、腰 のところまで水にひたりながら、さかなをとる、はりきりという網をゆすぶっていま あみ こし