歩い - みる会図書館


検索対象: ごんぎつね
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1. ごんぎつね

それは、土橋のたもとにむかしからある小さい地蔵さんだ ことにきまりました。 ろう。わらじをはいていたというのがしようこである。な・せなら、どういうわけか、 この地蔵さんには村人たちがよくわらじをあげるので、ちょうどその日も、あたらし 小さいわらじが、地蔵さんの足もとにあげられてあったのであるーーーというのでし 地蔵さんがわらじをはいて歩いたというのはふしぎなことですが、世の中には、こ れくらいのふしぎはあってもよいと思われます。それに、これはもうむかしのことな のですから、どうだっていいわけです。でも、これがもしほんとうだ 0 たとすれば、 ぬすびと 花のき村の人びとがみな心のよい人びとだ 0 たので、地蔵さんが盗人からすく 0 てく れたのです。そうなら。は、また、村というものは、心のよい人びとが住まねばならぬ ということにもなるのであります。 ( 一九四二年作 ) どばし じぞう

2. ごんぎつね

「それがわからんのだよ。おれの知らんうちに、おいていくんだ。」 ごんは、ふたりのあとをつけていきました。 「ほんとかい ? 」 「ほんとだとも、うそと思うなら、あした見にこいよ。そのくりを見せてやるよ。」 「へえ、へんなこともあるもんだなあ。」 それなり、ふたりはたまって歩いていきました。 かすけ 加助がひょいと、うしろを見ました。ごんはびくっとして、小さくなって立ちどま きちべえ りました。加助は、ごんには気がっかないで、そのままさっさと歩きました。吉兵衛 ひやくしよう というお百姓の家までくると、ふたりはそこへはいっていきました。 : ホンポンポンポ しようじ ンと木魚の音がしています。窓の障子に明かりがさしていて、大きなぼうず頭がうつつ て、動いていました。。 こんは、 ねんぶつ 「お念仏があるんだな。」 ど と思いながら、井戸のそばにしやがんでいました。しばらくすると、また三人ほど、 人がつれだって、吉兵衛の家にはいっていきました。 もく一よ

3. ごんぎつね

した。はちまきをした顔のよこっちょに、まるいはぎの葉が一まい、大きなほくろみ ナいにへばりついていました。 しばらくすると兵十は、はりきりあみのいちばんうしろの、ふくろのようになった ところを、水の中から持ちあげました。その中には、しばの根や、草の葉や、くさっ た木ぎれなどが、、 こちやごちやはいっていましたが、でも、ところどころ、白いもの がちらちら光っています。それは、太いうなぎの腹や、大きなふなの腹でした。兵十 はびくの中へ、そのうなぎやふなを、ごみといっしょにぶちこみました。そして、ま た、ふくろのロをしばって、水の中へいれました。 兵十はそれから、びくを持って川からあがり、びくを土手においといて、何をさが しにか、川上のほうへかけていきました。 兵十がいなくなると、ごんは、びよいと草の中からとびだして、びくのそばへかけ つけました。ちょいと、 いたずらがしたくなったのです。ごんは、びくの中のさかな をつかみだしては、はりきりあみのかかっているところよりしもての、川の中をめが けて、。ほん。ほん投げこみました。どのさかなも「と・ほん」と音をたてながら、にごっ かわかみ へいじゅう ふと

4. ごんぎつね

「かしら、こりや、夜っぴてさがしてもむだらしい、もうよしましよう。」 えびのじよう と、海老之丞がくたびれたように、道ばたの石に腰をおろしていいました。 「いや、どうしてもさがしだして、あの子どもにかえしたいのだ。」 と、かしらはききませんでした。 「もう、手だてがありませんよ。ただひとつのこっている手だては、村役人のところ へうったえることだが、かしらもまさかあそこへは行きたくないでしよう。」 かまえもん ちゅうざいじゅんさ と、釜右衛門がしし 、ました。村役人というのは、今でいえば駐在巡査のようなもので あります。 「うん、そうか。」 と、かしらは考えこみました。そして、しばらく子牛の頭をなでていましたが、やが 「じゃ、そこへ行こう。」 といいました。そしてもう歩きだしました。弟子たちはびつくりしましたが、ついて いくよりしかたがありませんでした。

5. ごんぎつね

よしのやま の用心」といってはドンとたたく、あのねぼけたような音のたいこです。もと吉野山 せんだっ 参りの先達をなんべんもやった亀菊さんは、ひさしぶりに鳴らしてやろうというので、 はうぞうぐら が 宝蔵倉からほらをとりたしてきました。しかしひと吹きふいてみて、おどろいたこ とにもうそのほら貝は、しゅうしゅうという音をたてるばかりで、鳴りませんでした。 むすこ 「こりや、ひびがはいっただかや。」と亀菊さんはいいましたが、息子の亀徳さんがふ いたら、そのほら貝はよい音で鳴ったのです。そこで亀菊さんは、じぶんが年とった ことがよくわかりました。そして年をとることは、あほらしいことである、と思った のでありました。青年団のラツ。 ( 手林平さんは、月の光でも。ヒカ。ヒカ光るよいラツ。 ( を持ってきました。こいつなら三里ぐらいは聞こえるだろう、と林平さんは心のなか で得意でした。 そして男たちは、手に手にちょうちんを持って、山にはいっていきました。かねや たいこはたたかれ、ほら貝もふかれました。林平さんはラツ。 ( をどんなふしでふこう かまよいました。 しかし、きつねにばかされた人間と牛をさがすためのラツ。 ( のふしというものはあ とく かめぎく りんべい かめとく

6. ごんぎつね

た水の中へもぐりこみました。 いちばんしまいに、太いうなぎをつかみにかかりましたが、なにしろ、ぬるぬると すべりぬけるので、手ではつかめません。ごんはじれったくなって、頭をびくの中に つつこんで、うなぎの頭を口にくわえました。うなぎは、キュッといってごんの首へ へいじゅう まきっきました。そのとたん、兵十が、むこうから、 「うわあ、ぬすっとぎつねめ。」 と、どなりたてました。ごんは、びつくりしてとびあがりました。うなぎは、ごんの 首にまきついたままはなれません。ごんはそのまま、よこっとびにとびだして、いっ あな しようけんめいに、にげていきました。ほら穴の近くの、はんの木の下で、ふりかえっ てみましたが、兵十はおっかけてはきませんでした。 ごんはほっとして、うなぎの頭をかみくだき、やっとはずして、穴の外の、草の葉 の上にのせておきました。

7. ごんぎつね

「うん。」 かつみ と、克巳がうなずきました。 三人のはだかんぼうは、ず。ほりず・ほりと水の中にすべりこみ、たらいのふちにつか まりました。そして、うふふふふ、とおたがいに顔を見合わせてわらいました。おか しいのでわらったのか、あまりつめたかったのでわらったのか、じぶんたちにもよく わかりませんでした。 もう、こうなっては、じっとしているわけにはいきません。三人は足を動かしまし ちょうし た。はじめのうちは、調子がそろわないので、一つところであばれているばかりでし た。が、そのうちに、三人はおなじほうへ水をけりました。たらいは、すこしすっ、 池の中心にむかって、すすみはじめました。 長い時間がたちました。 三人はヘとへとになりました。もう、足を動かすのがいやになりました。さて、三 人は、どこまできたのでしよう。じぶんたちの位置を見て、三人はびつくりしました。 今ちょうど、池のまん中にいるではありませんか ? 159

8. ごんぎつね

子どもたちは、こまを足でとめて、御坊の顔と犬とを見くらべながら、 「おらア、知らねえ。」 「おいらも、知らねえ。」 といいました。 じようねん′」ばう 常念御坊は、村を出はずれました。左右は麦畑のひくい丘で、人っ子ひとりおりま せん。うしろを見ると、犬がまだついてきています。 「しつ。」といって、にらみつけましたが、にげようともしません。足をあけて追う 一尺は約三 ) ひきさがって、じっと顔を見ています。 「ちょっ、きみのわるいやつだな。」 常念御坊は、舌うちをして、歩きだしました。あたりはだんだんに、暗くなってき ました。うしろには犬が、のそのそっいてきているのが、見なくもわかっています。 とうげ すっかり夜になってから、峠の下の茶店のところまできました。まっ暗い峠を、足 さぐりでこすのはあぶないので、茶店のばあさんに、ちょうちんをかりていこうと思 いました。 じゃく した むぎばたけ おか

9. ごんぎつね

まっきちすぎさく 牛部屋のかげで、さざんかが白くさくころに、松吉、杉作のうちでは、あんころ餅 をつくりました。農あげといって、この秋のとり入れと、お米ごしらえがすっかり終 ひやくしようや わったお祝いに、どこの百姓家でも、そうするのです。 松吉と杉作が、土曜の午後に、学校から帰ってくると、そのお餅を、町の克巳の家 にくばっていくことになりました。これはもうきのう、お餅をつくっているときから、 ふたりがおかあさんにたのんで、かたく約束しておいたことです。 なぜなら、このことには、二つのよいことがありました。一つは、夏休みになかよ しになった、い とこの克巳にあえるということ、もう一つは、あまりはっきり、 くないのですが、おだちんをもらえることです。そしてまた、町のおじさんおばさん いなかの人のように、お金のことではケチケチしません。いつも五十銭ぐらい おだちんをくれたのです。 おかあさんが、お餅のはいった重箱を、風呂敷につつんでいるとき、松吉は、 のう じゅうばこ やくそく ふろしき かつみ もち 165

10. ごんぎつね

いちはやく気づいたものがもうふたり、ばらばらとそちらへ走っていくので、春吉 がばん どかん 1 君も画板をおいてかけつけると、土手の下に、水を通ずるためもうけてある細い土管 の中へ、竹ぎれをつつこんでいる先生が、落ちかかって鼻のさきにとまっているめが ねごしに春吉君を見て、 「おい、・ほけんと見とるじゃねえ、あっちいまわれ。こん中にいたちがはいっとるだ ぞ。今こっちからつつつくから、むこうで、屁えこき虫といっしょにかまえとって、 つかめ。にがすじゃねえそ。」 と、つばをとばしながらおっしやっこ。 いしたろう むこう側へこしてみると、なるほど、屁えこき虫の石太郎が、このときばかりはじ つにしんけんな顔つきで、そこのどろみその中にひざこぶしまではいって、土管の中 へ、右手をうでのつけねまでさし入れている。うでをすっかり土管の中につつこんで いるので、しぜん頭が横むけに土手の草におしつけられ、なにか、土手の中のかすか ものおと ふぜい な物音に、耳をすまして聞いているといった風情である。 じき近くにあるあひる小屋にいる二わのあひるが、人のけはいでひもじさを思いだ