牛 - みる会図書館


検索対象: ごんぎつね
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1. ごんぎつね

見ている百姓たちは、あまり息をころしていたので、胸が苦しくなったほどであり ました。 牛はまた、。 - へろりとなめました。そしてあとは、ペろりペろりとなめ、おまけに、 ふうふうという鼻息までくわわったので、たいそういそがしくなりました。 「牛というもなア、酒のすきなけものとみえるなア。」 、ました。 と村びとのひとりが、ため息まじりにいし ほかのものたちは、じぶんが牛でないことをたいそうざんねんに思いました。 和太郎さんは、牛がおいしそうにおりをなめるのを喜んで見ていました。 せわ 「おオよ。たべろたべろ。いつもおまえの世話になっておるで、お礼をせにゃならん と思っておったのだ。だが、おまえが酒ずきとは知らなかったのだ。」 牛はてまえのおりがなくなると、一足すすんで、むこうのおりをなめました。 「牛てもな、大酒くらいたなア。 と村びとのひとりが、ほしいもののもらえなかった子どものように、なげやりにいし ました。 ひやくしよう おおざけ はないき むね

2. ごんぎつね

「いくらでもええだけたべろ。」と和太郎さんは、牛の背なかをなでながらいいまし 「ようまでたべろ。よってもええそ、きようはおれが世話してやるで。きようこそ、 おん いっしよう 一生に一ペんのご恩がえしだ。」 ついに牛は、おりをなめてしまい、土だけがのこりました。もうあたりはうす暗く なっていました。和太郎さんはまた牛をくびきにつけました。 かきね 青いタかけが流れて、そこらの垣根の木いちごの花だけが白くういている道を、腹 おん いつばい食べた牛と、日ごろのご恩をかえしたつもりの和太郎さんが、ともに満足を お。ほえながらのろのろといきました。 四 けっしん さて、和太郎さんも、きようだけはじぶんがお酒をのむのをよそうと決心していま うしか した。和太郎さんの意見では、牛がのんだうえに、牛飼いまでがのむのは、だらしの ないことであったのです。 せ まんぞく

3. ごんぎつね

牛引きの和太郎さんは、たいへんよい牛を持っていると、みんながいっていました。 ばね たが、それはよ。ほよ・ほの年とった牛で、おしりの肉がこけ落ちて、あばら骨もかそえ られるほどでした。そして、から車を引いてさえ、じきに舌をだして、苦しそうに息 をするのでした。 「こんな牛の、どこがいいものか、和太はばかだ。こんなにならないまえに、売って しまって、もっと若い、元気の、 しいのを買えばよかったんだ・。」 じろうざえもん と、次郎左衛門さんはいうのでした。次郎左衛門さんは若いころ、東京にいて、新聞 せんきようし げなん くろう の配達夫をしたり、外国人の宣教師の家で下男をしたりして、さまざま苦労したす はいたっふ 和太郎さんと牛 わたろう にく した

4. ごんぎつね

てやります。なにしろ酒のみは、平気で人に世話をさせるものです。 わたろう 和太郎さんは、およしばあさんに世話をさせるばかりではありません。これから牛 ) も歩くと、和太郎さんは「夜道はこう のお世話になるのです。二ー三町 (k メロト ~ たづな も遠いものか。」と考えはじめるのです。そして手綱を牛の角にひっかけておいて、じ ぶんは車の上にはいあがります。 こうすれば、もう夜道がどんなに遠くても、和太郎さんにはかまわないわけです。 こだ、ねむっているあいだに、車からころげ落ちないように、荷をしばりつける綱を 輪にして、しぶんのあごにひっかけておくことを忘れてはいけないのです。 目がさめると、和太郎さんは、じぶんの家の庭にきています。牛がちゃんと道を知っ ていて、家へもどってきてくれるのです。 こんなことはたびたびありました。い っぺんも、牛は道をまちがえて、和太郎さん を海のほうへつれていったり、知らない村のほうへ引いていったことはなかったので す。 だから和太郎さんにとって、この牛はこんなよ・ほよぼのみす。ほらしい牛ではありま ちょう つの

5. ごんぎつね

じろうざえもん したが、たいへん役にたつよい牛でありました。もし、次郎左衛門さんのすすめにし わたろう たがって、この牛を売って若い元気な牛とかえたとしたら、こんど和太郎さんがよっ 一里は約 ばらうとき、どこで目がさめるかわか 0 たものではありません。十里 ( 四キ。 ) さきの なごやまち 名古屋の街のまん中で、よいからさめるかもしれません。それともこの半島のはしの、 海にのそんだがけっぷちの上で目がさめ、びつくりするようなことになるかもしれま せん。なにしろ若い牛は元気がいいので、ひと晩のうちに十里くらいは歩くでしよう から。 「和太郎さんはいい牛を持っている。」とみんなはいっていました。「まるで、気がよ くきいて親切なおかみさんのような。」といっていました。 ところで、和太郎さんのおかみさんのことです。 和太郎さんは、おかみさんについて悲しい思い出がありました。 和太郎さんも、若かったとき、ひとなみにお嫁さんをもらいました。 よめ

6. ごんぎつね

・ほけんとしているあいだに、牛の子を持たされてしまったかしらは、くッくッと笑 いながら牛の子を見ました。 たいていの牛の子というものは、そこらをびよんびよんはねまわって、持っている のがやっかいなものですが、この牛の子は、またたいそうおとなしく、ぬれたうるん むしん だ大きな目をしばたたきながら、かしらのそばに無心に立っているのでした。 「 , く、ツ ~ 、ツッ 0 」 と、かしらは、わらいが、おなかの中からこみあげてくるのが、とまりませんでした。 じまん 「これで弟子たちに自慢ができるて。きさまたちがばかづらさげて、村の中を歩いて いるあいだに、わしはもう牛の子を一びきぬすんだ、といって。」 そしてまた、くッくッくッとわらいました。あんまりわらったので、こんどはなみ だが出てきました。 「ああ、おかしい。あんまりわらったんで、なみだが出てきやがった。」 ところが、そのなみだが、流れて流れてとまらないのでありました。 「いや、はや、これはどうしたことだい、わしが、なみだを流すなんて、これじゃ、

7. ごんぎつね

わたろう おかあさんは年をとって、だんだん小さくなっていきます。和太郎さんも、今は男 ざかりですが、やがておじいさんになってしまうのです。牛もそのうちには、もっと ばね しりがやせ、あばら骨がろく・ほくのようにあらわれ、ついには死ぬのです。そうする と、和太郎さんの家はほろびてしまいます。 お嫁さんはいらないが、子どもがほしい、とよく和太郎さんは考えるのでありまし 人間はほかの人間からお世話になるとお礼をします。けれど、牛や馬からお世話に もんく なったときには、あまりいたしません。お礼をしなくても、牛や馬は、べつだん文句 ふこうへい をいわないからであります。だが、これは不公平な、いけないやり方である、と和太 郎さんは思っていました。なにか、よ・ほよぼの牛のたいそう喜ぶようなことをして、 日ごろお世話になっているお礼にしたいものだ、と考えていました。 すると、そういうよいおりがやってきました。 よめ

8. ごんぎつね

と人びとはあいづちをうちながら、道にたまった、たくさんのおりをながめて、のど を鳴らしました。 . 「さて、こりや、どうしたものそい。ほっときや土がすってしまうが。」 ひやくしよう と年とった百姓がわらすべをおりにひたしては、しゃぶりながらいいました。 ほんとに、ほっとけば土がすってしまう、とみんなが思いました。そのとき和太郎 さんがいし 、ことを思いついたのでした。 和太郎さんは、牛をくびきからはなしました。そして、こ・ほれたおりのところにつ れていきました。 「そら、なめろ。」 牛は、おりの上に首をさけて、しばらくじっとしていました。それは、においをか いで、これはうまいものかまずいものか、と判断しているように見えました。 見ている百姓たちも、息をころして、牛は酒をのむかのまぬか、と考えていました。 した 牛は舌をだして、ペろりとひとなめやりました。そしてまたちょっと動かずにいま した。ロの中でその味をよくしらべているにちがいありません。 はんだん

9. ごんぎつね

牛はのろのろと、ものうげにからだを動かして、まずしりのほうを起こしました。 前あしは二つに折って地についたままでしばらくいて、大きい鼻息をたてつづけにす るのでした。 「あら、いやだよ。この牛は。かじゃのふいごのように、ふうふう、 いうんだもの。」 と、およしばあさんよ、 レししました。 「まるで、よいどれみたいだよ。」 そのことばで、和太郎さんは、ようやく牛もたくさんのんだことを思いだしました。 そこでおかしくなって、げらけら笑っていいました。 「それにちげえねえ。」 やっとのことで牛が前あしをたてると、和太郎さんはいよいよ家にむかって出発し ました。 ちやや いつも茶屋のおよしばあさんは、和太郎さんが出発してから、かなり長いあいだ、 和太郎さんの車の輪がなわて道の上にたてる、からからという音を聞いたものでした。 それが、その日は、じき聞こえなくなってしまいました。へんだと思いましたが、・よ はないき

10. ごんぎつね

え、りくつがすきで仕事がきらいになって村にもどったという人でありました。 わたろう しかし、次郎左衛門さんがそういっても、和太郎さんのよ・ほよ・ほ牛は、和太郎さん にとっては、たいそうよい牛でありました。 どういうわけなのでしようか。 人間にはたれしもくせがあります。和太郎さんにも一つわるいくせがあって、和太 郎さんはそれをいわれると、いつもおそれいって頭をかき、ついでに背なかのかゆい ところまでかくのですが、それというのはお酒をのむことでありました。 ちゃみせ 村から町へ行くとちゅう、道ばたに大きい松が一本あり、そのかげに茶店が一軒あ りました。ちょうどうまいぐあいに、松の木が一本と茶店が一軒ならんであるという ことが、和太郎さんにはよくなかったのです。というのは、松の木というものは牛を つないでおくによいもので、茶店というものはお酒のすきな人が、ちょっと一服する によいものだからです。 そこで和太郎さんは、そこを通りかかると、つい、牛を松の木につないで、ふらふ らと茶店にはいって、ちょっと一服してしまうのでした。 ぶく けん