芝田 - みる会図書館


検索対象: ごんぎつね
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1. ごんぎつね

けれど和太郎さんのおかあさんは、じぶんの考えをいつまでも、 こんま さんもとうとう根負けがしてしまって、 「よし、それでは、捜索することにしよう。」 といいました。 おうえん じけん せいねんだんちゅうざいじゅんさ いつも事件が起こったときには、村の青年団が駐在巡査の応援をすることになって いましたので、芝田さんは青年団の人びとにあつまってもらいました。まもなく青年 せいふく 団員は制服を着てゲートルをまいて、棒きれを持ってよってきました。青年団員ばか りでなく、ほかのおとなや、腰のまがりかかったおじいさんまで、やってきました。 じつは、このような、夜中に人が消えたというような事件は、この村には、もう何 十年も、なかったのでした。このまえ、青年団が芝田さんの応援をしたのは、西山の ふもとのわら小屋に草焼きの火がうつったときのことで、事件はたいそうかんたんで した。しかし、こんどの事件は、これはなかなかむすかしいのです。いっこい、どう そうさく して捜索をはじめたらいいのでしよう。 とみてつ 、ことを思いだしてくれま すると、富鉄さんという、大きい鼻のおじいさんが、いし そうさく しいはるので、芝田 しばた

2. ごんぎつね

ズボンをはき、サーベルを腰につるしながらおりてきました。 しばた しかし芝田さんは、話を聞いて、すこしはりあいがぬけました。 「そりや、また和太さんが一ばいやったんだろう。」 といいました。 「ンでも、こげなこと、一ペんもごぜえませんもの。あれにかぎって、いくらよって おっても、十一時にはちゃんと帰ってきますたがのイ。」 と、和太郎さんのおかあさんはいし 、ました。そして、十一時が二十分すぎてもまだ帰っ てこないのは、きっと、とちゅうでおいはぎにでもっかまったにちがいないといし。 るのでありました。 芝田さんは、このおさまった御代に、おいはぎなどが、やたらにいるものではない しようたい ことをきかせました。和太郎さんが、いつもじぶんは正体もなくよって、牛に引かれ て帰ってくるのだから、今夜は、牛が何かのぐあいで二ー三十分おくれたのだろう、 せいかく なにしろ牛などというものは、あまり時間の正確な動物ではないから、ともいうので

3. ごんぎつね

ならん。」 といいました。 しばた また、芝田さんはひげをいじりながら、 ちょうさしょ ちゅうざいしょ す 「捨て子じやろう。いっぺんあとから駐在所へつれてこい。調査書を書いて本署にと どけるから。」 といいました。 あかばう その後、和太郎さんは、赤ん坊の親たちがあらわれるのを待っていましたが、つい に、そんな人はあらわれませんでした。 そこで、その子には和助という名をつけて、じぶんの子にしました。そして一ばい きげんのときにはいつも、 「おらが和助は、天からさずかりものだ。おらと牛がよっぱらった晩に、天からさず けてくださったのだ。」 じろうざえもん といいました。すると、りこうもんの次郎左衛門さんは、 「そんなりくつにあわん話が今どきあるもんか。子どもにや両親がなきゃならん。 わすけ りようしん ほんしょ

4. ごんぎつね

と、答えました。 むとう 「それで、無燈で歩いとったのか。」 しばた と、おまわりさんの芝田さんは聞きました。 おだわら 「無燈じやごぜえません。ここに小田原ちょうちんがつけてありますに、ごらんくだ といって、和太郎さんは牛車の下へ頭をつつこみました。 とうやら、水 ところが小田原ちょうちんは、上半分しかのこっていませんでした。。 ほね でぬれたため、紙がやぶれて、コイルのようにまいてあった骨がだらりとのび、それ がとちゅうで何かにひっかかって、ちぎれてしまったらしいのです。 「水にぬれたので、こんなになっちめえました。」 と和太郎さんは、ちぎれて半分の小田原ちょうちんをはすして見せました。 きもの 「そういえば、牛車も牛も、和太郎さんの着物も、ぐっしよりぬれているが、こりや よっゅ 夜露にしてはひどすぎるようだ。」 と、だれかがいいました。

5. ごんぎつね

よい月夜で、寝しずまった家々の屋根のかわらが、ぬれて光っていました。道はほ の白くうかびあがり、遠くまで見えていました。けれど遠くには和太郎さんの車のか げはありませんでした。 和太郎さんが夜、家に帰らなかったことといえ。は、今までに、ほんのかそえるほど しかありませんでした。おかあさんは、どんなときに和太郎さんがよそでとまったか、 いせさんぐう ちゃんとおぼえていました。和太郎さんが小学生だったころ、学校から伊勢参宮をし よしのやま わかしゅう たとき二、それから和太郎さんが若い衆であったころ、吉野山へ村の若い者たち といっしょに行ったときが五晩、そしてやはり若い衆であったころ、毎年村の祭りの よばん 夜ひと晩すっ山車の夜番をしに行ったものでした。そのほかに、和太郎さんが、家を あけてよそでとまってきたことは、一ペんもなかったのです。そこでおかあさんは、 しんばい たんだん心配になってきました。 十一時が二十分たちました。まだ和太郎さんは帰ってきません。おかあさんはとう そうだん ちゅうざいしょ けっしん とう決心しました。駐在所のおまわりさんのところへ相談に行ったのでした。 でんとう しばた おまわりさんの芝田さんは、なにか事件が起こったかと、電燈の下であわてて黒い