ひょうか どの絵本が相次いで出版され、いすれも、アメリカの図書館員達の間で高い評価を得ま 私はニューヨークでの一年と、それから帰国後働いたアメリカン・スクール・ ジャパンという学校の図書館での一年間、これらの絵本を、くりかえし、さまざまな国 ふくいんかんしょてん の子どもたちといっしょに楽しみましたが、一九六三年に福音館書店から月刊絵本とし て出版され、後に「こどものとも傑作集」のひとっとして世に残ることになった『ふし ぎなたけのこ』 ( 瀬川康男・画 ) と出会ったとき、また、目をみはらされてしまいました。 ふうど ぜんしゆっ しゅうかん アメリカで出版された前述の三冊の絵本は、日本という国の風土と生活習慣を濃くに しませながら、古今東西を問わす子どもの心に共通のよろこびや不安、ひそやかなあこ がれなどをたくみに描き出していて感心させられたのでしたが、ここにまた、ちがった はねよと タイプの、たいへん骨太でおおらかな、はら話的要素をもった、昔話と見まがうような さいのう 『ふしぎなたけのこ』を見て、すい、ぶん幅広い才能をもった作家だと、舌をまいたので おぎたろう どうしんしやかん そして、『ばくのきんぎよ』 ( 荻太郎・画Ⅱ一九七二年・童心社刊 ) では、私たちの現 133
れが地面におちたとき、表が出るか裏が出るか、それによ 0 て明日の大気を占う " てん きあてあそび。をしていたところ、だいしなだいしな下駄にひびがはい「てしまいます。 それまでカラコロ、カラコロと鳴っていた下駄が、い まはがラガラ、ゴロゴロとい、つよ マコは悲しくてなりません。 古き良き時代の素朴などもの胸のたかまりや痛みをみごとに描き出しているこの作 きようしゅう 品に、私は大変郷愁をかきたてられました。 ( その郷愁は遠くはなれた故郷をなっかし む思いではありましたが、それだけでなく、過ぎ去「た日々ーー、自分の、そして、すべ ての丘ども時代への郷愁でもありました。 ) 同時に、 この主人公の女の子の思し い所有物に対する誇りや愛着、それがそこなわれた時の心のうすきなど ) はまた、風土 や文化のちがいを超えて、万国共通のものでもあることを感しました。 = = ーヨークの 子どもたちにこの絵本を読んでやるたびに、きいている丘どもたちが主人公のマコと心 をおなしくしてよろこんだり心配しているさまを目にし、この本の持っ力にいたく心を 動かされました。 その後、『たろうとおとうふ』 ( 一九六二年 ) 、『ちえのうんどうかい』 ( 一九六五年 ) な 132
いわなみしょてん もも - 」 ・ミルン作石井桃子訳Ⅱ一九六二年・岩波書店刊 ) や、『たのしい川べ』 ( ケネス・ グレアム作石井佻子訳Ⅱ一九六三年・岩波書店刊 ) を読んだときに感じたと同じよう に、草原の草いきれや、あたたかい日射しや、そよ風、土のにおいやあたたかさ、木の いま自分がそこにいてかぎ、さわり、聞いている 葉をわたる風の音などを、あたかも、 ソとして、深いよろこびが湧きあが よ、つに感じることができ、それに気ついたとき、 ってくるのをおばえました。 主人公の心の動きはもちろんのこと、それだけでなく、主人公の住む世界を実際に経 させてくれる筆力をもった子どもたちの本の作家はそう多くはありません。ことばだ かんねん びようしゃ けでの、文学の上だけの自然描写は、おとなは観念としてうけとめることはできても、 子どもの読者には何の意味ももち得ません。観念ではなく、実感として感しとられてこ そ、その体験が子どもの心の中で生きるのです。 私は、自分自身の体験から、また過去二十数年にわたって親しく接してきた子どもた ちとの経験から、本の中で五感が豊かに目ざめさせられ、働いて、そこによろこびを感 豊かに働くよ しることができたら、その後自分の実際の生活の中でも五感が鋭くなり、 135
にえることを確信して手わたせる本の一冊として、『こうさぎけんたとホットケーキ』 は貴重な存在です。この中の五つの話は、私の文庫で「お話の時間」に、また読みきか せに、そして、貸し出しにフル回転しています。それを聞いているときの子どもたちの 目のかがやきや、なごやかな表情が、子どもたちがすばらしい経験をしてくれているこ とを、私に知らせてくれます。 137
、つになることを知りました。 お話の世界へ思わす知らすつれこまれ、その世界の空気を吸い においをかぎ、空や 木々を見、小鳥のさえすりを聞き、ほおに日の光を感してこそ、私たちはそのお話の主 人公といっしょに、その人の体験を自分のこととして感しとることができるのです。 " けんた。とい「しょに〈おばあちゃんのたね〉をまき、ホットケーキを焼き、それに 舌鼓をうち、おたふくかぜの熱と痛みにあえいだ子どもたちは、自分じゃない誰か ( け んた ) といっしょに、さまざまな経験をし、その経験から豊かな滋養をくみとり、それ によって豊かになっていくでしよう。 それはとりもなおさす、ひとのよろこびをわがよろこびとし、ひとの悲しみをわが悲 しみとする人間の心を育てることであり、お父さんやお母さんに温かく見まもられ、そ はうようりよく れと意識しないでその包容力を感じとり、おばあさんの限りないやさしさと愛を身にう けるしあわせを経験し、自らもそのような存在になっていくよう、成長する力をきたえ られることではないでしようか 幼い子どもたちがよろこび、おとなである私たちが、それが豊かな栄養を子どもの心 136
宅丞弉み フォア A040 フォア文庫 こうさきけとホケーキ I S B N 4 ー 4 9 4 ー 0 2 6 5 2 ー 2 C 8 2 9 5 \ 3 9 0 ・「解説」より 幼い子どもたちがよろこび、おとなである私たちが、それが 豊かな栄養を子どもの心に与えることを確信して手わたせる 本の一冊として、『こうさぎけんたとホットケーキ』は貴重な 存在です。 ( 中略 ) 「お話の時間」に、また読み聞かせに、そし て貸したしにフル回転しています。それを聞いているときの 子どもたちの目の輝きや、なごやかな表情が、子どもたちが すばらしい体験をしていることを、私に知らせてくれます。 ( 間崎ルリ子 ) けんたは、ちょっぴりわがままで、わんばくざかりの、うさ ぎのばうやです。けんたには、やさしいおはあさんがいます。 野ねすみのチーコや、あひるのガアキチや、子ぶたのププ も、けんたの楽しいお友だちです。のどかな田園を舞台に、 けんたをめぐる、家族や友だちとの交流をあたたかくえがい た、五つの小さなお話が入っています。 ・ユーモラスで、ほのばのとした幼年童話。 フォア文庫 A 040 童心社 定価 390 円 フォア文庫の整理番号 ・アルファベットとシンポル・マークの色によって対象 を表示してあります。 ・数字は対象別の通し番号です。 ・定価の変更によって広告表示と実際の定価が変っ ている場合もあります。 松野正子・作 鎌松 暢正 子子 画作 A = 小学校低・中学年 B = 小学校中・高学年 C = 小学校高学年・中学 FOUR 装丁安野光雅 BUNKO
「ああ、どうしよう。けんたがびようきなんだって ! わたしのかわいいた いしなまごのけんたが。けんたがたべにこられないんなら、もう、おりようり なんかやめた。それより、けんたのうちへいってみましよう。もう、びようい んへいってるんですって ! 」 ) 亠まーレた。 おばあちゃんが、しし 「さあー、はっきりわからないけど。とにかく、けんたちゃんのパンとミルク しいおてんきだから、きようは、みんなで、たんばばはら をおいていきます。 もり おがわ 川のめだかをみてから、森でおひるをたべるんで つばへたんけんにいって、 す。じゃ、けんたちゃん、おだいしに。 といって、ふわ子せんせいと子どもたちは、い ってしまいました。
んだくるみ。ぶどうジュース。にんしんにレタス。 「ごつ。 と、けん子のけんたがつばをのみこんだ、ちょうどそのとき、おもてに、 やかな子どもたちのこえがちかついてきて、 「ごめんください。おばあちゃん、けんたくんをしりませんか ? 」 と、ようちえんのふわ子せんせいのこえ , 「きよ、フはよ、っちえんへこないので、お、っちへきゅ、フしよくのパンとミルクを とどけにいったんですけど、だれもいないんです。ひどいびようきでびようい んへいったのかもしれないとおもって、おばあちゃんにききにきたんです。」 ました。 ふわ子せんせいが、いい 「まああああ ! けんたがびようきー ようちえんをやすんでる ! びようい に、
《フォア文庫》刊行のことば 三十年一則、わが国が、いちはん苦しみ、もっとも迷っていたとき、ただひとつ、確かな 希望の灯がともされました。いちばん巨きな未来をもった人間・少年少女たちに対する熱 い期待です。自分の足で立ち、自分の頭で考える「新しい日本人」の誕生によせる祈りで す。いわは自立的な精神の形成こそが、わが日本の第一の課題でありました。 この課題にとりくんで、子どもの本の出版にはけんできた私たちの歩みをふりかえって みますと、あたかも壮大な一つのピラミッドのように、明日の世代の心の糧が積みあげら れているではありませんか。今やそれは、自立的な精神の支柱として必要な多面性と底辺 のひろがりとをゆるぎなくそなえた共同作品として、ふり仰ぐことさえできましよう。 わが児童図書出版界の良心が築き上けてきたこの成果を、今こそ、名実ともに一体化し た《本の宝庫》として結集し、より多くの読者に、ひろく愛読されるように選択してみま した。おそらく出版史上に一則例のない協力出版というこの創造的な企てが、親と子を結ぶ 温かい本の環を史にひろけてくれることでしよう。 もしも今、わが少年少女たちが、親子の断絶とか、競争社会の重圧とか、さまざまな灰 色の壁に直面しているとしたら、私たちは、かのゲーテにならって、「生活の樹は緑だ」 と、ささやきかけすにはいられません。この《本の宝庫》には、そんなささやきにも似た しの糧や知識の実を、緑濃き森からの贈りもののように、とりそろえるつもりです。 一九七九年ト月 岩崎書店・金の星社・童心社・理論社
定価 3 9 0 円 5 5 0 0 円 長崎源之助 年安房直子 手島悠介 渋谷重夫 ふしぎなかぎはあさん空とぶ大どろほう 魔女になりたいわたし 学まはうをかけられた舌 椋鳩十・編 寺村輝夫毎日出版文化賞 佐藤さとる 椋鳩十・編厚生省児童福祉文化奨励賞他 ほノ、は一上癶、土 6 年ひみつのかたつむり号 ねしょんべんものがたり いたすらわんばくものがたり 長崎源之助 古田足日 小沢正児童文芸奨励賞他 低神沢利子サンケイ児童出版文化賞 ュここねこおまえはどこだ ふとったきみとやせたばく 校ちびつこカムのば、つけん目をさませトラゴロウ ・ア -L 凵′ ー・作神宮輝夫・訳新美南吉 谷真介 学椋鳩十・編 ピン・ポン・ サム・ピッグだいかつやく ごんぎつね ハンがやってきた はらふきうそっきものがたり ホフミル・ジーハ・作井出弘子・いめいとみこ・訳 ー・作神宮輝夫・訳木暮正夫 < 福島正実 二ちょうめのおはけやしきホンジークのたび こんや円盤がやってくるサム・ピッグおおそうどう 土家由岐雄 寺村輝夫 飯沢匡 神沢利子 おしゃべりなたまごやきかわいそうなぞう むぎわらのうた プーフーウー ドロシ ! ウォール・作井出弘子・訳 岩崎京子 トロノ ! ウォール・作井出弘子・訳 松野正子 大きくなったプリンキー いたすらプリンキー ガムをたべたかばのはなしみどりいろの小大 中野みち子 生源寺美子 大石真 手島悠介 さあゆけ ! ロポッ 先生のおとおりだい , かぎはあさんの魔法のかぎ はじめてのおこっかい あまんきみこ わたなべめぐみ 長崎源之助 与田準一 よわむしおばけ つりばしわたれ うみひこやまひこ しつのぼけっと 渋谷重夫 松野正子 平塚武ニ 上崎美恵子 こうさぎけんたとホットケーキ いろはのいそっふ ゅめみるカネしいさん空とぶ大どろばうおっとしつれい / さねとうあきら 手島悠介 ろひしいのりこ児童文芸新人賞後藤竜ニ ゆきこんこん物語 ふしぎなアイスクリーム くおはけのゆらとねこのにゃあ風の子たちのとりで 手島悠介 大石真 も神沢利子 杉みき子 こんやはおまつり にせもののかぎはあさんドラキュラなんかこわくない 庫こぶたのプウタ 大城立裕・原作 文増村王子 小山、勇 、舮可・凡さよ、つな、り沖縄 コップの海 アタッタカ先生と子どもたち先生のおよめさんみつけた オ 松野正子 灰谷健次郎 以下続刊 フ こぎつねコンとこだぬきポン いえでばうや