松谷さやか 昔、ロシア ( 今のソビエト ) の人たちはきびしい自然との闘いや、身分の低い人た ちの苦しみ、あるいは生活の中で味わったさまざまな思いをお話や歌に託して表現し ました。こうして生まれたお話が口からロへと語り継がれて現在に至ったのが民話で、 ロシア民族の遺産ともいうべきものです。寒く、長い冬の夜、ロシアの子どもたちは、 あかあかと燃えるべチカのそばで、先祖代々伝わるお話を、おしいさんやおばあさん から聞きながら成長していきました。 現在のソビエトには大小百二十以上の民族が住んでいて、それぞれが民話を受けっ いでいるわけですから、ソピエトは民話の宝庫を抱えている、といえます。 今から百五十年ほど前の一八三〇年代に、ロシアの国民文学の父といわれるプーシ キンが、ロシアに伝わる民話をもとにして、芸術陸豊かな作品『サルタン王物語』、『 師と魚の物語』などを書きました。 「どん底』などの作者でソビエト児童文学の基礎 を築いたマクシム・ゴーリキーは、幼いときこれらのプーシキンの作品をすっかり暗 てんしさフ 記してしま、つ位なんども読んだと語っています。また皮は、 " 民間伝承を読むことによ 7 解説
り子どもたちは民衆の生活や風俗に親しんだり、民衆の考えや願いを知るなど多くの祐 ことを学ぶことができる。〃と主張しています。 ーうーう 一八六〇年頃には、アファナーシェフが、ロシアの民話を蒐集して系統的に整理し たものを出版しました。その数は六百篇以上もあり、質も高いもので、現在でもロシ ア民話の原典となっています。エルショーフの『せむしの小馬』や、レフ・トルスト イの『イワンのはか』など、民話をとり入れた作品もつぎつぎに生まれました。 現在でも大勢の作家や研究者たちが、ロシア民話ととり組んでいます。出版点数か らいっても、絵本の三分の一は民話が占めるということで、ラチョフ、ワスネッオフ、 マヴリナをはしめ多くの画家たちが、いかにもロシアのにおいのする絵で、民話の世 界を彩っています。長い時代を生きぬいて現在に伝わっている民話は、選びぬかれた 言葉が巧みに用いられ、くり返しゃ歌もとりいられて構成も整い、たいへん洗練され たものになっています。 キツネやクマ、オオカミなど色々な動物が人間と同じように話をし、行動する動物 こうみよう 民話があります。動物の習性とその動物で表現しようとするキャラクターが巧妙に結 びついて、みごとです。魔法を使う空想的な民話もあります。この種類のお話には、 〈主人公がある禁を犯したために良くないことが起こる、主人公はさまざまな試練を
乗り越えた末、聘などの助けを借りて魔法を使い、幸せをつかんでめでたしめでた し〉といったパターンが多いようです。魔女のババヤガー、不死の老人力シチェイ、 はらんばんじよう 火の鳥、空飛ぶ舟など、登場するのはさまざまで、波瀾万丈のストーリ ーが展開され ます。しかし空想だけに終わることなく、正義が常に勝利をおさめ、不当に民衆を虐 げた支配階級は亡びていきます。 『かますのめいれい』の主人公もそうですが、ロシアの民話には〃はかのイワン〃が よく登場します。三人兄弟の末っ子で、農家の息子のときもあれば王子のときもあり、 なま さいごはみんな幸せになります。イワンは徹底的にはか正直だったり、怠け者だった り、とにかく素朴で誠実です。要領がよくて変り身の早い人間とは、まるで反対の人 物です。頑固なまでに独自の生き方を貫くこんなイワンの中に、ロシア民族の国民性 の一端をうかかうことができるのではないでしようか。 さいごに『かますのめいれい』の再話をしたアレクセイ・ニコラーエヴィチ・トル ストイ ( 一八八三 5 一九四五 ) に触れておきます。彼は『ピヨートル一世』、『苦悩の 中を行く』などおとなの小説を書いた作家ですが、一方では児童のためにソピエト版 ピノキオといえる『プラチーノの冒険』、自伝小説『ニキータの少年時代』や、数多 くの民話の再話を手がけています。 カん - 一
効作。 ュ世。 すばらしい絵と文て、よみがえった永遠の名作童話・・・待望の新シリーズ。 集英社版 《全 30 巻》 * ⑩ー⑩は年 3 月発売予定 ・全圓巻の内容 ⑩しらゆきひめ ①ねむりの森のおひめさま . 一 グリム ( 訳日中村浩三・絵東逸子 ) べロー ( 訳ⅱそややすこ・絵ⅱ渡辺藤こ 一 ? ⑩水をふくたま ②はだかの王さま 中国民話 ( 訳ⅱ君島久子・版画ー儀間比呂志 ) アンデルセン ( 訳ⅱ山内子・絵ⅱ三国よしお ) ③ぞ , フのはなはなせながい 一⑩ハンフティ・ダンフ一百の本 イギリス・アメリカのわらべうた ( 訳 " アン・ヘリング ) キプリング ( 訳日寺村輝夫・絵長新太 ) ⑩みにくいあひるの子 ④ふしぎの国のアリス アンデルセン ( 訳ⅱ岡崎晋・絵岩村和朗 ) キャロル ( 訳Ⅱ久米積・絵Ⅱ緒方直 ) ⑩こびとのはなすけ ⑤森のごてん ハウフ ( 訳ⅱ大島かおり・絵岡本颯子 ) ビアンキ ( 訳日田中かな子・絵 " ながさわまさこ ) ⑩ソリマンのおひめさま ⑥あかずきん チャベック ( 訳Ⅱ千野栄一・絵Ⅱ・ハレチェック ) グリム ( 訳Ⅱ尾崎賢治・絵田島征三 ) と 2 マッチうりの少女 ⑦つるのおんがえし アンデルセン ( 訳Ⅱ木村由利子・絵 = アリマ・ジュンコ ) 日本民話 ( 文ⅱ西本鶏介・版画Ⅱはらださち ) 学集 ⑩おおかみと七ひきの子やぎ ⑧ジャックとまめのつる グリム ( 訳日矢川子・絵日建石修志 ) イギリス民話 ( 訳八木田宜子・絵Ⅱ山内ふじ江 ) 童気軋 ⑨ほらふき男しやくのばうけん 売⑩うさぎどん・きつねどん アメリカ民話 ( 訳Ⅱ亀井俊介・絵は赤坂三好 ) ビュルガー ( 訳Ⅱ松代洋一・絵Ⅱ鈴木康司 ) 児を夘話発 ⑩くるみわり人形 る家ッ童評 3 きたかせとたいよう イソップ ( 訳日立原えりか ) ・・ホフマン ( 訳Ⅱ植田敏郎・絵 = エム・ナマエ ) す画ピ い好 ⑩かますのめいれい ⑩もじゃもじゃ ( ーター ・回 < ・トルストイ ( 訳ⅱ松谷さやか・絵卩大田大八 ) 舌一新巻 生⑩なかぐっをはいたねこ 0 タ感ん⑩しあわせの王子 ワイルド ( 訳・今江祥智・絵Ⅱ矢吹申彦 ) べロー ( 訳Ⅱ辻昶・絵ⅱ河井ノア ) 線一éば第 ~ ⑩王さまの耳はろばの耳 ⑩シンドバッドのばうけん一ト子ち ギリシア神話 ( 訳宇野輝夫・絵 = 石倉欣ニ ) アラビアン・ナイト ( 文谷真介・絵Ⅱ深沢邦朗 ) 第スっ ⑩みつばちマーヤ ⑩あおいとり 在ラ代ま第 ポンゼルス ( 訳高橋健ニ・絵奥田怜子 ) メーテルリンク ( 訳Ⅱ末松氷海子・絵リ水井郁子 ) し ⑩こぶとりじいさん 衂⑩ほしのひとみ 日本おとぎ話 ( 文は鶴見正夫・絵日斉藤博之 ) トペリウス ( 訳渡部翠・絵Ⅱ・箕田美子 ) ☆ い 集英社
ノし をか童 受び出九 賞よ版一太 すう美八田た るぶ術年大「 。家にノ弋 馬で連生 ぬは盟ま す、会れ び一員る と九 七味長 や七の崎 ま年あ県 な I る出 し B 挿身 も A 画 ぎ国で多 際、摩 他図作美 。聿品術 芸多大 術数学 展卒 金か業 まつや 訳松谷さやか / 一東京に生まれる。早稲田大学大学院修士課程終了。児童 図書の編集をへて、現在、ロシア・ソビエト児童文学の翻 は訳に活やく中。日本児童文学者協会会員。「うそっきウサ ギ」「さむさむおじいさん」「イワンのはか」等の訳書がある。 そうてい ふなばしきくお 装丁 / 舟橋菊男