死ぬるというは誠ならねば 男がいいおわるかおわらないかに、七十さいをこした一休さんは、プーツと大きなお な , りをしました。 かえ おとこ 男はびつくりして、だまって、こそこそと帰っていきました。 一休さんは、 「生死をのりこえたという男が、おなら一つにおどろいて、にげだした。ははははは。」 とわらいました。 おも こまったぼうさんですね。けれども、みんなが一休さんを生き仏のように思うのです ばとけ から、せわはありません。それだけますます、一休さんは、じぶんが生き仏でないこと しようめい を証明するのです。 たきぎむら しかし、薪村も、いつまでも平和ではありませんでした。一休さんがひ「こんだあく おとこ いっきゅう し まこと おとこ いっきゅう いっきゅう いっきゅう いっきゅう ばとけ おお 187
「ありがとうございます。」 にながわ かえ 一休さんは、蜷川とよろこんで帰ってきました。 あ せけん 「おもしろいやつに会った。世間にはなかなかおもしろいやつがいるものだね。」 ナカナカししのでした。 一休さんのきげんは、よゝよゝ、、 ひろくぞう そのあくる日、六蔵がやってきました。 「早いな。」 さすがの一休さんもおどろきました。 はやし 「早く死ぬとたいへんですから。」 「ははははは。そういそがなくってもいいだろう。だが、よくきた。それならひとつ、 いんどう 引導をわたしてあげよう。」 「ありがとうございます。」 一休さんは恥ぼうずをよんで、池からかめを一つと「てこい、といいました。 はや いっきゅう いっきゅう いっきゅう いっきゅう 13 5
ぢややひとやす つまり、この世は、まえの世から、のちの世へ いく、道中のかけ茶屋で一休みしてい かぜ あめ るようなもの。ほんのつかのまのことだから、どんなに風がふき、雨がふろうとも、し んぼうしよう。いや、どんなあらしがやってきても、ゆうかんにたちむかっていこう、 み という意味です。 かそう 華叟は、それを見るといいました。 「おまえの名は、これから一休としたらいいだろう。」 そうじゅん こうして、宗純は、一休となったのです。 と・つじよう いよいよ一休さんの登場です。 そうじゅん 一休さんとなった宗純は、その後もゆだんはしませんでした。 ねん それから二年たって、ほんとうにさとったという印証を、師の華叟からあたえられま いっきゅう かみひ したが、 一休さんは、その紙を火の中へすててしまいました。 いっきゅう たよ いっきゅう よ み いっきゅう いっきゅう よ なか よ いんしよう どうちゅう かそう
と書いてあります。 ひとびと 人々がそれを見ると、すぐにひょ うばんになりました。そして、つぎ みえいどう つぎにききったえて、御影堂にくる いっきゅう と、一休さんはもうせんをしいて、 せんめんじ 扇面に字を書いています。 そこでみんな、われもわれもとせ んすを買っては、一休さんに書いて も , りいます。 せんめん なかには扇面一つに、一両をおい ていくものもありました。 みえいどう たちまちのうちに、御影堂の白い いっきゅう りよう しろ 162
でしの一人が一休さんにききました。 一休さんはすましていいました。 「かたつむりを知っているか。」 「知っています。」 「あいつの目を知っているか。」 「知っています。」 「あいつの目のうちには、五百ずつの世界があるのを知っているか。」 「知りません。」 ほんか ほんか ある本に書いてある。もっとも、ない本に書いてあったのか 「わしも知らないのだが、 もしれない。 うちゅう うちゅう つまり、両方の目に千の宇宙があるわけで、その一つの宇宙に、やはりこの世界とお ちきゅう たいよう なじように、星もあれば太陽もあり、月もあれば地球もある。 いっきゅう ひとり りようほうめ いっきゅう つき せかい せかい
といいました。 いっきゅう 一休さんはなにか考えついたのか、その浪人にいいました。 「なにか芸のこころえはないゝ。 ろうにん 浪人はなにもありませんといいました。 「こまったな。だが、なにか知っている歌くらいあってもいいはずだが。」 「ところが、なにひとっぞんじませんので。」 うた 「そんなことはないだろう。なにか一つぐらいは知っているだろう。どんな歌でもいし のだ。」 「ぞんじませんので。」 「そうか。それならしかたがない。わしがひとっ教えてやろう。」 「ありがとうぞんじます。」 「『たけにすずめ』という歌だ。こういうふうにうたうのだ。」 かんが うた ろうにん おし 165
おも 一休は一休であればいし 、と一休さんは思っていたのです。 じだい 一休さんの生きた時代は、みだれていました。 じしんたいかだいみよう 戦争・大こう水・ききん・地震・大火、大名たちのあらそい、ばうさんたちのねたみ。 あしかがしようぐん しかも、足利将軍は、ぜいたくをつくし、農民たちはくるしんでいました。 こころ こうしたなかで、一休さんの心には、いつもゆとりがありました。一休さんには世の ちから 中のくるいをなおす力はありませんでした。だが、一休さんのところにくるものに、強 い力をあたえました。 せんじよう 一休さんは戦場をさけました。一休さんは生命を愛しました。死にたがらない男でし し おも だが、死をおそれているのではありませんでした。ただ生きられるだけ生きようと思 うだけでした。 そして、生きているかぎり、一休さんは一休さんらしく生きて、なにものもおそれま ちから ん そ つ だ いっきゅう いっきゅう いっきゅう いっきゅう すい いっきゅう いっきゅう いっきゅう いっきゅう のうみん いっきゅう いっきゅう し いっきゅう おとこ よ つよ 191
一休さんは、その日も足にまかせて歩きました。日がくれたので、とある寺をたずね て、一晩とめてもらうことにしました。 その寺のぼうずは、ひと目見て、一休さんだということを知りました。それで、よろ こんでとめたのです。 そして、一休さんは、寺にふさわしいごちそうになり、いい気持ちになって、きかれ はなし るままに話をしました。 こた 一休さんは、なにもかくすことはありませんでした。へいきで、きかれることに答え ました。 こた 寺のばうずたちは大よろこびでした。胸がすっとしました。一休さんの答えは、かゆ て しところに手がとどくようでした。 べんじよ 夜もふけてきました。一休さんは、かわや ( 便所 ) へいきました。 いっきゅう すると、一人のわかいぼうずが、一休さんのあとをつけてきて、一休さんがかわやか てら よ いっきゅう いっきゅう ひとばん てら ひとり いっきゅう おお ひあし てら いっきゅう いっきゅう あ むね ひ し いっきゅう いっきゅう てら 110
「どうして、そんなもったいないことをしたのですか。」 こた きかれて、一休さんは答えました。 「さとりは紙ではない。 さとったしようこがなんになりますか。」 てん 一休さんの意気は、天をつくものがありました。 いっきゅう そのとき、一休さんは二十七さいでした。二十七さいは、人々がじぶんというものを こころ 知る年齢です。心でも、からだでも、じぶんというものをはっきりうちたてるときのよ うです。 し しん 一休さんももはや、師を師としてあがめてばかりはいませんでした。じぶんの信じる とおりに生きているのでした。 一休さんがますます一休さんになりだしたのは、そのころからでした。一休さんは、 だ いまやじぶんのほんとうの心をいつわらずに出せたのです。 しかし、まだ、かどがとれていませんでした。 しねんれい いっきゅう いっきゅう いっきゅう かみ いっきゅう いっきゅう こころ し ひとびと いっきゅう
負けた一休さん りよこ・つ 一休さんは旅行がすきでした。よくほうぼうへ出かけていきました。 りよこう あるとき、旅行して、いなかの、とあるそまつなお寺にとまりました。一休さんはど しよくじ だ っこ , つにヘ んなところにとまろうが、また、どんなそまつな食事を出されようが、い きでした。 それは、一休さんは、もっとくるしいめにもさんざんあっていましたし、また、そん キ一 なことを気にするような男ではなかったからです。 いっきゅう 一休さんはどんなところでも、ぐっすりねむることができました。 し し ひとあ 一休さんは、知らないところで、知らない人に会って、知らないところにとまること にんげんあ いっきゅう がすきでした。どこでも、一休さんはいい人間に会うのでした。 いっきゅう いっきゅう ま いっきゅう いっきゅう おとこ で てら し いっきゅう 109