あの男 - みる会図書館


検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ひつあな これさえあれば、ほんの二、三分で、あの櫃に穴の三つや四つはあけられるよ。」 あな 「われわれの見つけた穴のことかね ? 」 「そうさ。」 じしん あな 「すると、あの穴をあけたのは、クレイトン自身だというのか ? あな ひっ 「そうともーーーそのとおりさ ! あの穴をきみはなんと見た ? のぞき穴じゃない。櫃の とうぜんくうきあな うしろがわにあけてあったからね。じゃあ、なんのためのものだろう ? 当然、空気穴さ。 はんにん したい しかし、死体のために空気穴をつくってやるばかはない。したがって、あれが犯人によっ てあけられたものではないことはたしかだ。とすれば、考えられる答えはひとつだけ だれかがあの櫃のなかにかくれようとしていたのにちがいない。 さいくん すじみち かせつ この仮説にたてば、たちまち話の筋道がはっきりしてくる。クレイトン氏は、細君と しようさ なか たび リッチ少佐の仲をうたがっていた。そこで、古い古い手を用いた。旅にでるふりをして、 二人をスパイしようというわけだ。 しようさがいしゆっ でんごんの リッチ少佐が外出するのを見きわめて、クレイトンは口実をもうけて家にはいり、伝一言 しよう ひつあな を書くと称してひとりきりになったうえ、すばやく櫃に穴をあけて、なかに身をひそめる。 さいくん 細君はその夜そこへやってくる。リッチはおそらくほかの客を帰したあと、彼女と二人き ひっ ウィ こうじっ きやく もち

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

外へでると、さっそくわたしはたずねた。 ついたてけん ゅうりしようこ 「ねえボワロ、あの衝立の件だがーーーあれはリッチに有利な証拠になるのかね。」 せいはんたい ふり ちんつう ついたてひっ 「正反対だよ、彼にはたいへん不利になる。」彼は沈痛なおももちでいった。「衝立が櫃を どうじ けっこん やくめ 室内の客の目からかくしていた。それは同時に、じゅうたんの血痕をかくす役目もする。 ちひっ おそかれ早かれ、血が櫃をとおしてにじみたし、じゅうたんにしみこむことはわかってい るんだ。衝立はとりあえずそれをかくすのに使われた。それはいい。 しかしーーー・ちょっと なっとく じゅうほく だけ納得しかねるところがある。あの従僕だよ、〈イスティングズ。あの従僕だ。 「あの男がどうかしたのかね ? なかなかかしこい男のように見えるが。」 「そのとおり、ひじようにりこうだ。そうだとすると、すこしへんだとは思わないかね ? したい しようさ あの男が朝になれば死体を発見しないわけがない。そんなことにリッチ少佐が気づかな きようこうちよく′」 かったと思うかね ? 凶行の直後は時間がないから、なんとも手のうちょうがなかったの したいひっ ついたて きやく はわかる。そこでとりあえず死体を櫃におしこみ、衝立でそれをかくして、客が帰るまで なにくわぬ顔でおしとおす。だが、客が帰ったあとはどうかね ? それこそ死体を処分す るのにうってつけの時間じゃないか。」 じゅ、つほく けっこん 「従僕が血痕には気がつくまいと考えたのかもしれんよ。」 しつないきや′、 ついたて はつけん しよぶん

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

し サタースウェイト氏は思わず息をのんだ。世のなかにはこういう顔があるということ、 ちしき れきし それを知識では知っていた。この種の顔ーーー歴史をうごかした顔 し むすめつうろ わか その娘は通路のほうへ歩きだした。連れの若い男があとを追った。サタースウェイト氏 ちゅうもく しゅうい が見まわすと、周囲の男たちはみんな彼女に注目している。しかも、彼女がとおりすぎて すがた しまってからも、めだたぬようにそのうしろ姿を見送っている。 し みりよく び 「美しい ! 」サタースウェイト氏はつぶやいた。「こういう美もあったのか。魅力でもな あいきよう いし、愛嬌でもない。人の心をひきつけるなにかでもない。 こういう場合によく使われ けしよ、つ じゅんすい び りんかく る、うすっぺらな形容のどれでもない。たんなる純粋な美、美そのもの。あの顔の輪郭、 まゆの線、あごのまるみーーーー」 彼はそっとロのなかで引用した。 いくさぶね 美女ヘレンをトロイのヘレンになそらえた 「『こは、かのかんばせか、一千の軍船をば進め : : : 』」 ( マーロウの戯曲「フォースタス博士」の一節 しん りかい そしていまはじめて、これらの語句の真に意味するところを理解できたと思った。 サタースウェイト氏はちらりとクイン氏を見やった。自分を見つめているクイン氏のま かんぜん りかい ひつよう なざしに、完全な理解の色らしきものがあるのをみとめて、べつになにもいう必要はない と感じた。 うつく せん いんよう しゅ っ よ すす び 0 156

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

けろと警告しておられるんだ。それを警告しに、きようわざわざここへ : ボワロはうなずいた。するとハリスンは、いきなりはじかれたように立ちあがった。 ぶんめいこく 「しかし、それはばかげていますよ、ボワ口さん。ここは文明国イギリスなんですよ。そ どく こいがたきせなかさ ういうことはこの国では起こりません。ふられた男が恋敵の背中を刺したり、毒をもった ) 」かい りすることはないんです。それにあなたは、ラングトンという男をも誤解しておられる。 あの男ははえも殺せない男ですよ。 「はえの生死はわたしには関ありません。」ボワ 0 はおちつきはら 0 てい 0 た。「しかし、 かりにあなたのおっしやるように、ラングトン氏がはえも殺せない男だとしても、その彼 じゅんび が、数千びきのすずめばちの命をとろうと準備している、それをわすれてもらってはこま ります。」 たんてい ハリスンはすぐには返事ができなかった。かわって小男の探偵が立ちあがると、友人の こうふん あいて おおがら あゆ かた そばに歩みより、その肩に手をかけた。ひどく興奮して、相手の大柄なからだをがくがく ゆすらんばかりにしながら、その耳もとで強くささやきかけた。 そら、 「しつかりしなきゃいけません。目をさますことです。そして、ごらんなさい わたしのゆびさしているところを。あの斜面の上、大きな木の根もとのところです。見え ころ け いのち しやめん ころ ゅうじん 19 ボワロの事件簿

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

せいがくかしばう いしています。あたしは声楽家志望なんですけど、あのひとはそのことでいろいろ世話を しようかい ほうめん ゃいてくれて、その方面のいい手づるを紹介してくれたり、それはもうロではいえないほ ね おんがくきよう ど親切にしてくれました。あのかた、根っからの音楽狂ですのよ。今夜だって、親切にあ よゅう のオペラへつれてってくれましたけど、ほんとうはそれほどふところに余裕があるわけ じゃないんです。 ところがそこへく ーンズさんがきあわせて、話しかけてきました とても気持ちのい ィーストニーさんは、すっかりつむじを い態度だったんですけど、それでもフィルは じ わる まげちゃって。なぜ、あのひとがきげんを悪くしなきゃならないんでしよう ? ここは自 おんこう 由の国ですのに。。、 ーンズさんのほうは、いつもほがらかで、温厚なひとなんです。 ちかてつ ーンズさんがきて、いっ そのあと、あたしたちが地下鉄のほうへ歩いていると、またバ ふたこと しょになりました。それからがたいへんなんです ーンズさんが二言と話さないうち に、いきなりフィルが気ちがいみたいにとびかかって。そしてーーー・ほんとにあたし、ああ いうの大きらいですわ。」 「ほう、おきらいですか ? ・」 し サタースウェイト氏は、ことのほかおだやかにいった。 ゅう しんせつ こんや せわ 164

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

そうだん 「ばかだなんてとんでもない。」。 ハイン氏はいった。「わたしこそ、ご相談をう ふこう けるのに最適の人間ですよ。いわば、不幸をあっかう専門家ですからね。この事件があな くつう そうぞう たにひとかたならぬ苦痛をあたえていることは、容易に想像がっきます。で、事件がいま お話しくださったとおりのものであることに、まちがいはありませんな ? 」 いちどう 「なにも、 しいもらしたことはないつもりです。ポインツがダイヤをとりだして、一同に見 せましたーーーそれをあのアメリカ人のばか娘が、自分のハンド。ハッグにくつつけた。とこ ろがあとでバッグをあらためてみると、ダイヤは消えていた。だれもそれをかくしもって じしんしんたいけんさ はいませんでした もちぬしのポインツ自身、身体検査をうけているんですーー自分か らそういいだしたんです。かといって、部屋のなかにかくせるような場所がなかったこと ちか は、誓ったっていし それに、部屋をはなれたものもひとりもいなかったーーー」 。ハイン氏は水をむ 「ウェイターはどうですかーーー出入りしませんでしたか ? 」 けた。 ルウエリンは首を横にふった。 むすめ 「ウェイターがでていったのは、あの娘がダイヤを落としたといって、さわぎだすまえで かぎ す。そしてそのあとは、ポインツがドアに鍵をかけてしまいましたから、出入りできたは さいてき むすめ せんもんか じけん 222

7. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「われわれとおっしやると ? 「さよう、われわれです。あなたのお力をかりたいのです。」 「それでここへおいでになったのですか ? 」 あいて またしてもボワロは相手を見つめ、こんどもまたある漠然としたなにかが、ノ 不安におとしいれた。 「ここへきたのは、、 ノリスンさん、あなたがーーーそのーーー好きだからですよ。」 ちょ、つし それから、がらりとかわった調子になって、ボワロはつづけた。 ハリスンさん、お見うけしたところ、お宅の庭にはすずめばちの巣があるようですな。 たいじ あれは退治してしまわなけりやいけませんよ。」 ふしん わだい ハリスンは不審そうにまゆをひそめた。それから、ボワ きゅうに話題がかわったので、 しせん ロの視線を追いながら、ややうろたえぎみに答えた。 「じつをいうと、わたしもそうするつもりでいたのですよ。というより、ラングトン君が そうしてくれるはずです。クロードⅱラングトンのことはお・ほえておいででしよう ? ・わ ばんさんかい しゆっせき たしがお目にかかったあのときの晩餐会に、彼も出席していたはすです。たまたま今夜、 すたいじ あの巣を退治しにきてくれることになっていましてね。どっちかというと、おもしろい仕 ふあん たく にわ ばくぜん す す 、リスンを こんや くん し

8. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

る地区における最近の死亡者の名簿だった。 ボワロの指がとまった。 「ヘンリー 日ガスコイン、六十九歳か。これから最初にあたってみるとするか。」 それから数時間後、エルキールⅡボワロは、キングズ・ロードのはすれで開業してい し ちょうしんあかげ しんさっしつ るマカンドリュー医師の診察室にいた。マカンドリ = ーは長身、赤毛のスコットランド人 ちてきふうばう で、知的な風貌をしていた。 「ガスコインですって ? 」彼はいった。「ああ、あのひとですな。かわった老人でしたよ。 こわれかかったような古い家に、たったひとりで住んでいましてね。あの地域はぜんぶと きんだいてき りこわして、近代的なアパートに建てかえることになっているんですが、そこにがんばっ しんさっ すがた ていたわけです。わたしは診察したことこそありませんが、姿はちょいちょい見かけてい ましたから、どこのだれかは知っていました。 ぎゅうにゆうはいたっ 最初に異変に気づいたのは、牛乳配達でしてね、とどけたびんがそのままになってい きんじよれんちゅうけいさっ るので、へんに思ったわけです。けつきよく、近所の連中が警察にとどけでて、警察がド し はねお ろうじん アをこわして踏みこんだところ、老人は死んでいた。階段から落ちて、首の骨を折ったん です。・ほろ・ほろのひものついた、古ぼけたガウンを着ていましてね。ーーそのひもに足をと さいきん しばうしやめいば た かいだん ろうじん かいぎよう

9. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ちくおんき ている。カーティスはふたをあげ、ナイフをふるうーーーそばでは蓄音機が〈ウォーキン・ ー・バック・ホーム〉を流しているという寸法さ。」 マイ・ベビ わたしはやっとのことで声をし・ほりだした。 「しかし、どうして ? なぜそんなことを ? 」 かた ボワロは肩をすくめた。 じさっ 「男はなぜ。ヒストル自殺をするんだろうかね ? なぜ二人のイタリア人は決闘なんかし ひ じようねっ じみ ないめん た ? カーティスは地味だが、内面に強い情熱を秘めた男さ。彼はマーガリータⅱクレイ ていしゅ トンに思いを焦がした。じゃまものの亭主とリッチをとりのそけば、かならず自分になび いてくるーーーすくなくとも本人はそう考えたわけだ。」 かんがい そのあと彼は、感慨をこめてつけくわえた。 きけんしゅぞく じよせい てんしん 「ああいった天真らんまんな子どもつ。ほい女性 : : : あの手の女性はきわめて危険な種族だ 簿 てぐち げいじゅってき モン・デュ よ。それにしても、まったく、なんとみごとな、芸術的な手口だったろう ! あんな男を事 じしんてんさい だんちょう こうしゆだい ロ ワ 絞首台に送るなんて、断腸の思いだよ。はばかりながら、わたし自身天才であるだけに、 かんぜんはんざい れんちゅうてんぶん ほかの連中の天分をおしむことしきりなんだ。完全犯罪だよ、きみ。このエルキュール タ ン かんぜん ボワ口がそういうんだからまちがいない。完全なる殺人 : : : たいしたものだ ! 」 ほんにん さつじん すんばう 工 モナミ けっと、つ

10. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「さよう、じつのところスペンス夫妻は、もつばら夫婦で踊りたがりましてね。あの二人、 もっか ねっちゅう 目下ダンスに熱中しているんです・ーーーこったステップとかなんとか、いろいろやってま すよ。」 「すると、クレイトン夫人はおもにリッチ少佐と踊ったことになりますな ? 」 「そういうわけです。」 「で、そのあとポーカーをなさった ? 「ええ。」 「おひらきになったのは ? 」 「わりと早い時間でしたね。十二時ちょっとすぎだったかな。 「みなさん、いっしょにお帰りになった ? 」 あいの 「ええ。じつのところ、タクシーに合乗りしましてね。まずクレイトン夫人をおろし、つ ふさい ぎにわたし、最後にスペンス夫妻がケンジントンまでいったはすです。」 ざいたく つぎにわたしたちがたずねたのは、スペンス家だった。在宅していたのは夫人のほうだロ しようさ けだったが、 / 彼女の話は、カーティス少佐のそれとこまかなところまで一致した。ちがっ しようさ うん ていた点といえば、リッチ少佐のカード運の強さを、いくらかいやみまじりに聞かされた ふじん ふさい しようさ おど ふうふおど ふじん ふじん