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検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「あっ これはすまん。どうかしてるな、・ほくは。」 イヴシャムが、彼のわびるのをさえぎった。 「なあに、かまわん。かまわんよ、気にするな。それよりきみ、ふしぎなのは いまの 音で思いだしたことがあるんだ。たしか彼女もーーー・アプルトン夫人もーーーそれとおなじこ とをやったんじゃなかったかね ? つまり、ワインのびんをたたきこわしたんじゃなかっ たかね ? 」 「そうだ。アプルトン老人は、毎晩ーーーたった一杯だけだがーーポートワインを飲んでい し た。ところが彼の死んだ翌日、夫人がそのデキャンターをもちだして、たたきこわしてい めしつか たね ふうふなか るのを召使いのひとりが目撃した。当然、そのことがうわさの種になりだした。夫婦仲が しゅうち うまくいっていないことは、周知の事実だったからね。うわさはうわさをよんで、だんだ し んひろがっていった。そしてとうとう、何か月もたってから、故人の親類のひとりが、死 たいはつくつきよか しんせい ひそ どくぶっし 体発掘許可を申請した。調べてみると、案のじよう、老人の死は砒素による毒物死たった。 そうだったね ? 」 し 「いやーーーストリキニーネじゃなかったかな。まあそれはどっちでもいい、とにかく、死 どくぶつ こんせき はつけん 体からは毒物の痕跡が発見された。それをやれたと思われる人間はひとりしかいない。ア ろうじん しら よくじっ もく・けき まいばん ふじん とうぜん じじっ あん こじんしんるい ふじん 138

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

せいねん ねっしん 青年は前かがみになって、熱心に話していた。娘はそれに耳をかたむけている。どちら し じんしゅ げいじゅっかしほう もサタースウェイト氏の世界には属さない人種だ。二人とも〈芸術家志望〉だろう。娘の やすものみどりいろきぬくっ せいねんかた ドレスは、すこしくたびれた安物の緑色の絹、靴はよごれた白いサテンである。青年は型 やかいふく どおり夜会服を着こんでいるが、いかにもきゅうくっそうな感じだ。 二人の男は、何回かその男女の前をいったりきたりした。四度目にとおりかかったとき、 くわ きんばついろじろせいねん ふたりづ かいしゃいん 三人目の人物がその二人連れに加わったーー金髪色白の青年で、見たところ会社員ふうだ。 しゆきんちょうしよう くわ この青年が加わったことで、三人のあいだにある種の緊張が生じた。新しく加わった男 むすめうつく も、しきりにネクタイをいじったりして、おちつかぬようすだ。娘の美しい顔が、きまじ ひょうじよう めな表情でその青年のほうへむけられると、連れの男はひどくにがにがしげな渋面をつ くった。 さだ すじがき 「お定まりの筋書ですな。」 その前をとおりすぎながら、クイン氏がごく低い声でいった。 「さよう。」サタースウェイト氏はため息まじりに答えた。「さけられんことでしような。 ほね よ 二ひきの犬が一本の骨をまえにしていがみあう。 いつだってあったことですし、世のなか けつか がつづくかぎり、なくなりはしますまい。とはいえ、たまにはちがった結果をのそんでも じんぶつ し っ むすめ じゅうめん 158

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

をごそんじでしたか ? 「ええ、知っていました。」 たいど へんか イヴシャムの態度がわずかに変化した。イギリス人というものの気質を研究したことの ないひとだったら、まず気づかなかったろう。それまでは、どことなくよそよそしさが あったのだが、いまではそれがすっかり消えてしまっている。クイン氏はデレクⅱケイベ ルを知っていた。したがってイヴシャムの友だちの友だちであり、それだけで全面的に人 ほしよう しんらい 物を保証され、信頼できる男ということになるのだ。 ちょうし じけん 「じっさいおどろくべき事件でしたよ、あれはと、イヴシャムはうちとけた調子で話し だした。「ちょうどいま、そのことを話していたところなんです。そりやね、わたしも正直 てきとう なところ、この屋敷を買うのは気がすすみませんでしたよ。ほかに適当なところがあれば事 ばんの じさっ よかったんですが、それがなくってね。ごそんじかどうか知らんが、あの男が自殺した晩、 わたしはこの家にいたんですーーーここにいるコンウェイもそうですが。そんなわけで、わ ば、つれい たしはいつも思っているんですよ いまにあの男の亡霊がでてきやせんかとね。」 くちょ、つ ようじん じけん ふかかい 「ひじように不可解な事件でしたな」と、クイン氏はゆっくりした用心ぶかい口調でいう せりふ と、ちょっと間をおいた。そのようすにはどこか、だいじなきっかけの台詞をいいおえた ぶつ やしき きしつけんきゅう ぜんめんてきじん しよ、つじき 121

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

俳優といったおもむきがあった。 ふかかい じけんかんぜんなぞ 2 「不可解もなにもーーー」コンウ = イがいきおいこんでロをはさんだ。「あの事件は完全な謎 ですよーー・・おそらくこれからもずっとね。」 「さあ、どうですかな。」クイン氏はあいま、こ、 し ~ しった。「あ、失礼しました、リチャード きよう 卿。どうかお話しを。」 じけん しゅやくおとこざか 「おどろくべき事件だーーそういっとるのですよ。事件の主役は男盛り、明朗にして快 くろう かつじんせい ゅうじん しようたい 活、人生の苦労なんてこれっぽっちもない。親しい友人を五、六人招待していた。夕食の じよう しようらい けいかく 席では上きげんそのもの、将来の計画をあれこれ話しておった。ところが、食事がすむ じしっちょっこう ひきだ けんじゅう と、そのまま二階の自室へ直行して、引出しから拳銃をとりだし、自分にむけて引き金を ひいた。なんのために ? わからん。だれにも永久にわからんでしよう。」 きよう 「そうですかな、リチャード卿 ? その断定はいささかあらつ。ほすぎるのでは ? クイン氏がかすかにほほえみながらいった。 コンウェイはむっとしたように彼を見つめた。 「どういう意味かね、あらつぼすぎるとは ? わたしにはよくわからんが。」 かいけっ かいけっふのう 「いままで解決されなかったからといって、解決不能ときめてかかる必要はないというこ せき はいゅう し し した えいきゅう しつれい ひつよう めいろう ひがね

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ちくおんき ている。カーティスはふたをあげ、ナイフをふるうーーーそばでは蓄音機が〈ウォーキン・ ー・バック・ホーム〉を流しているという寸法さ。」 マイ・ベビ わたしはやっとのことで声をし・ほりだした。 「しかし、どうして ? なぜそんなことを ? 」 かた ボワロは肩をすくめた。 じさっ 「男はなぜ。ヒストル自殺をするんだろうかね ? なぜ二人のイタリア人は決闘なんかし ひ じようねっ じみ ないめん た ? カーティスは地味だが、内面に強い情熱を秘めた男さ。彼はマーガリータⅱクレイ ていしゅ トンに思いを焦がした。じゃまものの亭主とリッチをとりのそけば、かならず自分になび いてくるーーーすくなくとも本人はそう考えたわけだ。」 かんがい そのあと彼は、感慨をこめてつけくわえた。 きけんしゅぞく じよせい てんしん 「ああいった天真らんまんな子どもつ。ほい女性 : : : あの手の女性はきわめて危険な種族だ 簿 てぐち げいじゅってき モン・デュ よ。それにしても、まったく、なんとみごとな、芸術的な手口だったろう ! あんな男を事 じしんてんさい だんちょう こうしゆだい ロ ワ 絞首台に送るなんて、断腸の思いだよ。はばかりながら、わたし自身天才であるだけに、 かんぜんはんざい れんちゅうてんぶん ほかの連中の天分をおしむことしきりなんだ。完全犯罪だよ、きみ。このエルキュール タ ン かんぜん ボワ口がそういうんだからまちがいない。完全なる殺人 : : : たいしたものだ ! 」 ほんにん さつじん すんばう 工 モナミ けっと、つ

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

もんだい しんばい 『ファウスト』からだから心配はいらない。問題は〈羊飼いの歌〉だ。あれは、くりかえし なにをする ? のところで高く叫ぶような声をだす。その声がおそらくーーおそらく がくおんばいおんはんおん そうねんまんげきよう ふたたび、さまざまな想念が万華鏡のように回転しはじめた。楽音、倍音、半音。こう いったことにはあまりくわしくない。しかし、イースト = ーはくわしい。ああ神よ、どう かまに亠めいます - ようにー わかうんどうせんしゅ タクシーがとまった。サタースウ = イト氏はひらりととびおりると、若い運動選手顔ま けのいきおいで、息もつがず石の階段を三階までかけあがった。部屋のとびらはわずかに ひらいていた。それをおしあけると、高らかなテノールの歌声が彼をむかえた。〈羊飼いの じようきよう 歌〉の歌詞は、これほどとっぴでない状況のもとで、これまで何度も聞いてよくおぼえて いるものだった。 ひつじか 見よ羊飼いよおまえの馬のなびくたてがみを しめた、まにあったそ。彼は居間のとびらをおしあけた。ジリアンは、暖炉のそばの背 の高いいすにすわっていた。 かいだん かいてん ひつじか だんろ かみ ひつじか せ = クインの事件簿 187

7. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

かんじゃ 一流の医師が、案内されてきた新しい患者をながめるような、あたたかいが、すべてを見 しせん とおすような視線だ。 ややあって、彼はいった。 「奥さまは、ほんとうにわたしがお力になれるとお思いですか ? 」 「アリスはそういっていますわ。」 じしん 「いや、奥さまご自身のお考えをうかがっているのです。」 彼女のほおにかすかに赤みがさした。 「おっしやる意味がわかりかねますけど。 「要するにですね、わたしにどうしてほしいとおっしやるのか、それをお聞かせねがいた いのです。」 「あなたはー・ーあのうーー・ーあたくしがだれだかごそんじでいらっしゃいまして ? 」 「そんじあげています。 そうぞう 「でしたら、あたくしがおねがいしたいことはご想像がおっきになるはずですわ、ボワロ さんー、ーそしてヘイスティングズ大尉も。」ーー・ー・彼女がわたしの名を知っていたことに、わ しようさ おっところ たしはおおいに気をよくした いちりゅう おく おく あんない たいし 「リッチ少佐は、あたくしの夫を殺してはおりません。」

8. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

二人の男は、すぐさま勝負に熱中しだした。 きようふじん それを見てマロウェイ卿夫人が、エヴァンⅱルウエリンの耳もとでささやいた。 「子どもなのはイーヴだけじゃないらしいわね。」 ほうしん びしよう ルウエリンは微笑しつつうなずいたが、そのようすには、どこか放心したようなところ があった。 その日一日、ルウ = リンは、むここにあらずといったふぜいでふるまっていた。一度か 二度は、話しかけられて、とんでもない的はずれな返事をしたこともある。 ハメラマロウェイは、つと彼のそばをはなれると、夫に話しかけた。 わか 「あの若いひと、なにかに気をとられてるみたいね。」 「なにかか、でなければだれかにね」と、ジョージ卿はささやきかえした。 しせん そして彼の視線は、ちらりとジャネットⅡラスティントンのほうへむけられた。 きようふじん マロウ = イ卿夫人はちょっとまゆをひそめた。背のすらりとした、こった身なりの女性 かさんご である。耳につけたまっ赤な珊瑚の玉にあわせて、爪を真紅に染め、黒い目はゆだんのな→ きよう おっと さそうな光をはなっている。夫のジョージ卿は、ごくむそうさに、〈元気いつばいのイギリ やく じようりゅうしんし ス上流紳士〉といった役どころをきどっているが、それでいて明るいブルーの目には、夫 しようぶ ねっちゅう きよ、つ つめしんく おっと じよせい = パインの事件簿

9. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

んば娘 ? まさかね。では、マロウェイ卿夫人 ? しかし彼女の場合は、あなたがそのよ うな離れ業をやってのけたと知ったら、あなたを見なおしこそすれ、さげすみはしないで たしよう ふじん しような。わたしは多少あのご婦人を知っているのです。すると、のこるのはラスティン ふじん トン夫人しかありません。」 っこ 0 ルウエリンはややしばらくしてから、 いいに / 、みごっにしオ けいけん 「あのひとは いままでずいぶんつらい経験をしてきてるんです。夫にえらんだ男が、 ふだ しんよう 札つきのごろっきでしてね。それからというもの、すっかりひとを信用しなくなりました。 彼女はーー、もし彼女が・ほくの一」とをーーー」 いじよう それ以上、ことばはつづかなかった。 じたい 「お気持ちはわかります。」。、 パイン氏はいった。「事態の重大さものみこめまし さっきゅうぎわく た。早急に疑惑を晴らす必要がありますな。 わら エヴァンはそっけなく笑った。 「いうだけなら、たやすいことですがね。」 じっこう 「実行することもかんたんです。」 「そうお思いですか ? 」 むすめ はなわざ ひつよう きようふじん し じゅうだい おっと 228

10. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ぎろん いな点はほとんどなかったから、議論をたたかわせても無意味と思われたのである。 じけん しようさ ふさい クレイトン夫妻とリッチ少佐は、かなり長いあいだのつきあいだった。事件の起きた三 うちわあっ 月十日に、クレイトン夫妻はリッチ少佐の家にまねかれ、内輪の集まりに顔をだすことに しようさ さけ なっていた。ところが、その日の七時半ごろ、べつの友人のカーティス少佐というのと酒 をくみかわしていたクレイトンは、思いがけない急用ができてスコットランドにいくこと いいだした。 になり、八時の汽車でたっと じじようせつめい 「そんなわけだから、とちゅうでちょっとジャックのところに立ちょって、事情を説明す とうぜんしゆっせき るだけの時間しかないんだ。もっともマーガリータは、当然、出席するがね。・ほくだけが しつれい 失礼することになるが、ジャックはわかってくれるだろう。」 クレイトンはそのことばどおりに、八時二十分まえにリッチ少佐の家をおとずれた。あ しようさがいしゆっさき いにく少佐は外出先からもどっていなかったが、クレイトン氏をよく知っている少佐の じゅうばく 従僕は、おはいりになってお待ちになっては、とすすめた。それにたいしクレイトン氏件 いっぴっ ざんねん は、残念ながら時間がないので、ちょっと入れてもらって、少佐に一筆書きのこしてゆく口 えき だけにすると答え、駅へいくとちゅうで立ちょったのだとつけくわえた。 きやくまあんない じゅうばく そこで従僕は、彼を客間へ案内した。 きゅ、つよ、つ ゅうじん しようさ