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検索対象: 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡
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1. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

枕草子 312 もない。 りぬべきかな もしも届け場所をまちがえて持って来などしたの ( 口に出して申しあげるのも恐れ多い「神」ー御下賜の であるのなら、自然とまたきっと言いに来ることだろう。 「紙」のおかげによりまして、鶴のように千年も生きられそ中宮様のあたりに内情を問いに人を参上させたいけれど、 うでございますよ ) やはりだれがいいかげんにこうしたことはするだろうか ) 一んじよう おおげさ あまり大袈裟でございましようかと言上なさってくださ中宮様の御命令なのだろうと、ひどくおもしろい だいばんどころぞうし い」と書いて、差しあげた。台盤所の雑仕を御使いとして 二日ばかり、これについて何の音沙汰もないので、疑い さきよう・ ひとえ 御便りが来ているのだ。禄として青い単衣などを与えて。 もなくて、中宮様からの御品だと思って、左京の君のもと そうし ほんとうに、この紙を、草子に作って騒いでいると、わ に、「こうこうい , っことがあるのです。そうしたことにつ ずらわしいこともまぎれるような気持がして、おもしろく いてそれらしい様子を御覧になりましたか。こっそりそち 心の中も感じられる。 らの様子をわたしにおっしやってくださって、もしそうし 二日ほどたって、赤い着物を着た男が、畳を持って来て、 たことが見えないのなら、わたくしがこうあなたにお話し 「これを」と言う。「あれはだれだ。無遠慮なこと」などと、 申しあげたとも、どうか他人にはお洩らしにならないでく 取っつき悪く言うので、男は畳を置いて立ち去る。「どこ ださい」と言いに、使いを送ったところ、返事に「中宮様 からなのか」とたずねると、「帰ってしまいました」と言 がひどくお隠しあそばされたことなのです。決して決して ごぎ って、取り入れたところ、特別に , 御座という畳のようになわたしがこうあなたに申しあげたと、あとでもおっしやら こうらいべり っていて、高麗縁などがきれいだ。心の中では、中宮様で ないで」とあるので、やはりそうだったよと、思ったとお 。オしかと田む , つので・ーーーしかしやはりはっきりしないから りで、おもしろくて、手紙を書いて、またひそかに中宮様 - 一うらん さが 人々を出して探させたところ、その使いの男は消え失の御前の高欄に置かせたところが、その手紙は、使いの者 があわててまごまごしていたうちに、そのまま下にかき落 せてしまったのだった。妙なことだといぶかしがって笑う みはし けれど、使いの男がいないのだから、言ってもどうしよう して、御階の下に落ちてしまったのだった。

2. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

枕草子 2 いのです」とおっしやる。ひどく現代風で、わたしの身分 何かお話しあそばされたついでに、中宮様が、「わたし 年齢には似合わぬことで、いたたまれない感じである。中を思うかーとおたずねあそばす。御返事として、「どうし そうがな そうし 宮様は、だれかが草仮名などを書いた草子を取り出して御てお思い申しあげないことが : : : 」と申しあげると同時に、 だいばんどころほう 覧あそばす。大納言様は、「だれの手だろう。あれにお見台盤所の方で、だれかが音高く、くしやみをしたので、中 せあそばしてください。少納言こそ今の世にいる人の手は 宮様は、「ああ、いやなこと。うそをついたのね。まあい だれのでも見知っておりましよう」と、いろいろ妙なこと い」とおっしやって、奥へお入りになってしまった。「ど なみたいてい を、ただ何とかわたしに応答させようとしておっしやる。 うしてうそであろうか。並大抵にさえお思い申しあげてよ ひとかた お一方でさえ恥ずかしくて困るのに、また先払いの声を いことであろうか、ありはしないのだ。くしやみこそうそ のうしすがた っ かけさせて、同じような直衣姿の人が参上あそばして、こ をついたのだった」と感じられる。「それにしても、 のお方は大納一 = ロ様よりもう少し陽気にばっとしていて、冗 たいだれがこんなにぐらしいことをしているのであろう」 談などとばし、ほめ、笑っておもしろがり、女房たち自身と、「だいたい気にくわない」と感じられるので、自分が てん がまん も「だれそれの、ああしたこと、こうしたこと」など、殿 くしやみの出そうな折も、我慢して押しつぶして引っ込ま じようびと 上人の身の上などのうわさを申しあげるのを聞くと、やは せているのを、こんな大事な折に、ましてにくらしいと思 へんげ り、ひどく、変化のものか、天人などが地上に降りて来て うけれど、まだ宮仕えはじめで物馴れないから、どうこう みやづか いるのかしらなどと感じられたのだったが、宮仕えに馴れも弁解申しあげることができないで、夜が明けてしまった ひかず つばね うすよう て、日数が過ぎると、たいしてそうでもないことだったの ので、局へ下がるとすぐに、薄緑色の薄様の紙で、優美な だ。わたしがこうして今驚嘆して見る女房たちも、はじめ うつくしい手紙を、使いが持って来ている。見ると、 そら て自分の家から出たであろうころは、そんなふうに感じら 「いかにしていかに知らましいつはりを空にただすの れたことであろう。あれこれ宮仕えしつづけてゆくと、自 神なかりせば 一と 然馴れて平気になってしまうにちがいない。 ( どういう方法によってそなたのそら言をどう知ったろうか、

3. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

こうべん はり、ひどくわれながら身の程知らずに、どうしてこのよ さるのを、抗弁のことばなどを申しあげるのは、目を疑う うに宮仕えに立ち出てしまったことかと、汗がにじみこば ばかりで、あきれるほどまで、赤らめたところでどうしょ うもないことながら、顔が赤らむことであるよ。大納言様れて、ひどくつらいので、いったい何を御応答申しあげよ くだもの うか。ちょうどよい具合に陰になるものとして差しあげて は御果物を召しあがりなどして、中宮様にも差しあげなさ いる扇をまで大納一言様がお取り上げになっているので、ふ る。 ひたいがみ みきちょう りかけて顔を隠すべき額髪のみつともなさをまで考えると、 大納言様が、「御几帳の後ろにいるのは、だれだ」とき 「すべてほんとうに、わたしのそうした様子がみすばらし っと女房におたずねになるのであろう、そして女房が「こ く見えていることであろう、早くお立ちになってくださ れこれです」と申しあげるのであろう、座を立ってこちら い」などと思うけれど、扇を手でもてあそんで、「この絵 においでになるのを、どこかほかへいらっしやるのであろ はだれが描かせたのか」などとおっしやって、急にもお立 うかと思うのに、たいへん近くお座りになって、お話など ふ そで みやづか なさる。わたしがまだ宮仕えに参上しなかった時に、お聞ちにならないので、顔に袖を押し当てて、うつぶしに臥し もからぎぬ ているのは、裳や唐衣におしろいが移って、顔はまだらで きおきなさったのだったことなどを、「ほんとうにそうだ あろう。 ったのか」などとおっしやるので、今まで御几帳を隔てて、 大納言様が長いこと座っていらっしやるのを、もちろん 遠くからよそ目にお見申しあげるのでさえ気おくれをおば えていたのだったのに、ひどく思いがけなくて、じかにおつらいとわたしが思っているだろうと中宮様はお察しあそ 段 こればしていらっしやるのだろうか、大納言様に「これを御覧 向い申しあげている気持は、現実とも感じられない。 ぐぶ ぎようこう なさい これはだれが描いたのですか」と申しあげあそば まで、行幸などを見物するのに、供奉の大納言様が、遠く 第 からこちらの車のガにちょっとお目をお向けになる場合は、すのを、うれしいと思うのに、「いただいて、見ましよう」 したすだれ と申しあげなさるので、中宮様は、「やはりここへ」と仰 車の下簾の乱れをあらため、こちらの人影が透いて見える せあそばすと、大納言様は「わたしをつかまえて立たせな かもしれないと、扇をかざして顔を隠した、それなのにや おうぎ す

4. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

思って聞いたのに。だれがしたことなのか。見たのか」とすけれど、『われより先に』起きていた人がいたと思って 引仰せになる。「そういうわけでもございません。まだ暗く おりましたようでございました」とわたしが言うのを、関 て、よくも見ないでしまったのでございますが、白っぱい 白様はとても早くお聞きつけあそばして、「そうだろうと 子 ものがございましたので、花を折るのかしらなどと、気が 思っていたことだよ。決してほかの人は、何をおいても出 草 さいし、よう かりだったので申したのでございます」とわたしは申しあ て見つけたりはしまい。宰相とそなたとぐらいの人が見つ 枕 げる。「それにしても、こんなにすっかりはどうして取ろ けるかもしれないと推察していた」とおっしやって、ひど うか。殿がお隠させになっていらっしやるのであるよう くお笑いあそばす。「事実そうでありそうなことなのを、 はるかぜ だ」とおっしやってお笑いあそばされるので、「さあまさ少納言は春風に罪を負わせたことよ」と、中宮様がお笑い はるかぜ かそんなことではございませんでしよう。春風がいたしま あそばしていらっしやるのは、すばらしい。関白様が「少 したことでございましよう」と啓上するのを、「それを言納言はどうやら恨み言を負わせたのでございますようです。 やまだ おうと思って、隠したのだったのね。あれは盗みではなく でも、今の季節では山田も作るでしように」と歌をお吟じ て、雨がひどく降りに降って古びてしまったのだというわあそばしていらっしやるのも、とても優雅でおもしろい けでーと仰せになるのも、珍しいことではないけれど、た 「それにしても、しやくなことに、見つけられてしまった いへんすばらしい のだったよ。あれほど気をつけるように言っておいたのに。 関白様がおいでになるので、寝乱れたままの朝の顔をお人の所にこうしたばか者がいるのこそ困ったものだ」と仰 見せするのも、時はずれのものと御覧あそばすだろうかと せあそばす。「春風とは、そらでとてもおもしろく言った 思って、自然引っ込んでしまう。おいであそばすやいなや、ものだな」などと、その歌をまたお吟じあそばす。中宮様 「あの花はなくなってしまったね。どうしてこうまでみす は「ただの言葉としては、持ってまわってわずらわしい思 みす盗ませたのだ。寝垪すけだった女房たちだね。知らな いっきでございましたよ。それにしても、今朝の桜の様子 いでいたのだったよ」とわざとお驚きあそばすので、「で はどんなにひどくございましたでしようね」とおっしやっ

5. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

てみな一緒にかたまってさえいるのなら、隠れ所があるだ を刺し、化粧をする様子は、あらためて言うまでもなく、 ろうが、四人ずつ、書きあげたものに従って、「だれそれ、 髪などというものは、明日からのちは、もうどうでもよい だれそれ」と呼び立ててお乗せになって、その呼名につれ といったふうに見えるほど、今日一日に熱中している。 とら て車のもとまで歩いて行く気持は、ひどくほんとうに思い 「寅の時に、中宮様はお出かけあそばすはずだということ おうぎ がけない感じがして、あらわだといっても、世間並で、何 です。どうして今まで参上なさらなかったのですか。扇を みす 一カ 御簾の内側に、大勢のお方の御 とも言い表しようがない。 / 使いに持たせて、あなたをお探し申しあげる人がありまし ひとり 目の中でも、とりわけて中宮様が「見苦しい」と御覧あそ た」などと、一人の女房がわたしに告げる。 ばそうのは、あらためてまたやりきれない気持がすること そういうことで、ほんとうに寅の時かと思って、すっか からだ カ限りもない。身体から汗がにじみ出るので、きれいに り身支度を整えて待っているのに、時が過ぎて夜が明けて、 さかだ からびさし 日も出てしまった。「西の対の唐廂に、車を寄せて乗るは整えた髪なども、逆立つであろうと感じられる。何とかう ふたり わたどの まくそこを通り過ぎたところが、お二人ともたいへん、こ ずだ」というので、いる限りの女房が全部、渡殿を通って しんざんもの ちらが気おくれするはどおうつくしく見える御様子で、大 行く時には、まだうぶな新参者たちは、ひどく遠慮してい さんみ 、、ゝ、ここにこしてこちらを御覧になる るような様子なのに、西の対には関白様がお住いあそばす納一言と三位の中将と力し のは、現実とは感じられない。けれど、倒れないで、そこ ので、中宮様におかせられてもそこにおいであそばして、 はじめに女房たちを関白様が車にお乗せあそばすのを御覧まで行き着いてしまったことこそ、いったいえらいのか、 しげいしゃ みすうち あっかましいのかと、われながら感じられるけれど、みな あそばすということで、御簾の内に中宮様、淑景舎、三の かた 君、四の君、関白様の北の方、その御妹君がお三方、立ち乗り終ってしまったので、車を御門から引き出して、二条 第 の大路に榻を立てて、物見車のようにして立ち並べている 並んでおいであそばす。 さんみ のは、たいへんおもしろい。きっと人もそう見ているであ 車の左右に大納言と三位の中将のお二方で、簾を上げ、 00 したすだれ 下簾を引き上げて、わたしたち女房をお乗せになる。せめろうと、自然胸がどきどきする。四位、五位、六位などの けしよう すだれ おおじ しじ

6. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

もかう めくら きちゃうかたびら へりたる。ゑしの目暗き。几帳の帷子の旧りぬる。帽額のなくなりぬる。七尺一「絵師」であろう。一説「衛士」。 すだれ ニ簾の上縁に布を横に長く渡し お えびぞめ はひ てつけたもの。 のかづらの赤くなりたる。葡萄染の織物の灰かへりたる。色好みの老いくづほ えびぞめ つばき 五 子 三葡萄染や紫色は、椿の灰を加 うきくさみくさ こだち 草れたる。おもしろき家の木立焼けたる。池などはさながらあれど、浮草水草なえて染めるので、色があせること を「灰かへる」という。 枕 四「おもしろき」は「木立」にかか どしげりて。 る。 五荒廃のさま。 六たのもしい感じがしないもの。 一六八たのもしげなきもの セ飽きやすく移り気なこと。 〈妻の家に通うことがなくなり むこよ 九 たのもしげなきもの心短くて人忘れがちなる。婿の夜がれがちなる。六位がちなの。 九六位では出世の望みはない。 ごと かしら の頭白き。そら言する人の、さすがに人の事なし顔に、大事うけたる。一番に一 0 事を成してみせるという顔で。 = 最初勝っと後負けると言う。 すぐろく 勝っ双六。七八十なる人の、心地あしうして日ごろになりぬる。風吹くに帆あ三読みあげるものとしての経。 一三昼夜の別なく交替に僧が読み 続ける経。 げたる舟。 ↓二三三段。陰陽師が修する 長寿・立身を祈る祭。正月・十二 月の上午の日に行われるもので、 年を越えて接近している。 一五幾重にも曲った道。 一六一年の差がある。 宅『阿弥陀経』では十万億土の遠 きにあるといし 、『観無量寿経』で ( 現代語訳一一七六ハー ) 一六九読経は不断経 どきゃう 読経は不断経。 ふだん だいじ

7. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

( 原文一五五ハー ) ついて人が言うことは、決してうそではない。それを拝見う少し明るくあらわであるのに、大納言様は、たいへんど したがさねきょ したあとでは、髪の毛の悪かろう人も、それにきっとかこ っしりとしていておうつくしげで、御下襲の裾がたいへん すだれ つけるであろう。あきれるほどおごそかにお立派で、やは長く、あたり狭しといった様子で、車の簾を引き上げて、 りどうしてこうした中宮様のようなお方に親しくお仕え申「早く」とおっしやる。かもじを入れて整えてあるわたし からぎめ しあげるのだろうと、わが身ももったいないと感じられる の髪も、唐衣の中でふくらんで、妙なかっこうになってし ので、御輿が前をお通り過ぎあそばす間、わたしたちの車まっているであろう、その髪の色の黒さ赤さまで見分けら ながえ の、榻にいっせいに轅をおろしてあった、それにまた牛どれてしまうに違いないほどの明るさであるのが、とてもや ーをーー - し、刀ナ′ . し もをかけて、中宮様の御輿の後ろにつづいて行く気持の、 りきれない感じなので、急にも降りるわナこま、 すばらしく興味のある様子は、言いようもない 「先に、後ろに乗っている人からこそ」などと言っている とう だいもん 積善寺にお着きあそばしたところが、大門のそばで、唐時に、その人もわたしと同じ気持なのであろうか、大納言 しよう こまいぬおど つづみ もったいのう 楽を奏して、獅子や狛犬が踊り舞い、笙の音や鼓の声に、 様に、「後ろへお離れあそばしてください じようき 上気して何もわからなくなってしまう。これま、、 ございます」などと言う。大納言様は「恥すかしがりなさ どこの仏の御国などに来てしまったのだったのかしらと思 るね」と笑って、お立ち離れなさった。やっとのことで降 われるほど、楽の音は空に響きのばるように感じられる。 りたところ、近寄っていらっしやって、「『むねたかなどに あげばり 門内に入ってしまうと、いろいろな色の錦の幄に、御簾を見せないで、隠して降ろせ』と中宮がおっしやるので、こ へいまん 段 たいへん青々と掛けわたし、屏幔などを引きまわしている うしてやって来ているのに、察しの悪いことだ」とおっし 様子は、すべて全くこの世のこととは感じられない。中宮 やって、わたしを引き降ろして、連れて中宮様の所に参上 さじき 第 様の御桟敷に車を差し寄せたところが、またこの御きよう なさる。「中宮様が大納一言様にそのようにきっと申しあげ あそばしているのであろう」と思うことが、もったいない 幻だいの殿方がお立ちになって、「早く降りよ」とおっしゃ る。乗った所でさえすでにそうだったのに、ここでは、も 中宮様の御前に参上すると、はじめに車から降りた女房 がく

8. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

枕草子 262 どうなのか』などとたずねる。『ただわたしにまかせてお るのも、また、わからなくて自分で考えるのも、おもしろ おきなさい。そのように申しあげて、しかもひどく期待は 御返事を差しあげて、少し時がたってから参上した。どずれでがっかりだというようなことはあるはずがないでし みきちょう よう』と言うのを、なるほどそうでもあろうという気にな うだろうかと、いつもよりは遠慮されて、御几帳に少し隠 しんぎん る。そのうちにその日がたいへん近くなってしまったので、 れているのを、「あれは新参の者か」などとお笑いあそば 『やはりこのことをおっしゃい。思いがけなく同じことが されて、「気に入らない歌だけれど、この場合は、そんな 二つ出ることでもあると困るから』と言うと、『それは、 ふうに言うのが当然だったのだと思うよ。そなたを見つけ さあ、わからない。それならば、どうかお頼みにならない ださないでは、当分の間気を晴すことがとてもできそうに きげん もない」などと仰せあそばされて、前と変っている御様子でください』などと機嫌を悪くしたので、不安だと思いな がら、その当日になって、みな左方右方それそれの男や女 もない。女の子に歌の上の句を教えられたことなどを申し てんじようびと を分けて座らせて、殿上人など若い人たちがたくさん並ん あげると、たいへんお笑いあそばされて、「そういうこと こ、たいへん心づかい なのですよ。あまりにも知りつくしてばかにしている古歌で座って謎を合せるのに、左の一番し - 一うしゃ は、そういうこともきっとあるにちがいない」などと仰せ十分にふるまっている例の巧者な人の様子が、いったいど んなことを言い出すのだろうと見られるので、あちらの右 になって、そのついでに、「ある人がなぞなぞ合せをした 所で、味方の人というのではなくて、そのようなことに巧方の人もこちらの左方の人も、その結果が待ち遠しく落ち しゃ 者だった人が、『左方の一番にわたしが入ろう。そのつも着かない思いでじっと注目して、その人が『何そ、何そ』 と声をかけるその間が、ひどく待ち遠しい。ところが『天 りでいてください』などと頼みにさせるので、いくら何で へた もきっと下手なことは一言い出すまいよと、頼もしく , つれし に張り弓』とその人は声に出して言った。右方の人は、と くて、人々がみな謎の問題を作り出して、それを選んで決ても興のあることだと思っているのに、こちらの左方の人 ばうぜん は、茫然自失して、あきれてしまって、ひどくにくらしく、 める時に、人々はその人に『そのなそなその事は聞こう。 かみ 、」う

9. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

ところえ らぬが、親の来たるに所得て、ゆかしがりたる物を、「あれ見せよや、母ーな一見たがっているもの。 一一「正無し」の語幹で、語幹止め おとな は感動を表す。ここでは禁止に近 ど引きゅるがすに、大人などの物言ふとて、ふとも聞き入れねば、手づから引 子 い意となる。いけません、だめよ。 まさな 草きさがし出でて見るこそ、いとにくけれ。それを「正無」とばかりうち言ひて、三三巻本などに「と」はない。 四そうはいっても、やはり。 枕 取り隠さで、「さなせそ」と、「そこなふな」とばかりうちゑみて言ふ親もにく五親が間の悪い思いをするよう しんえん 六青くて底も知れぬ深淵。 し。われはたえはしたなくも言はで見るこそ心もとなけれ。 セ洞穴。 ^ 板塀の類。 九鉄。黒く冷たい感じをいうか。 一五七名おそろしきもの 一 0 土塊。 = 暴風。「ち」は風の古名。 はたいた九 あをふち 名おそろしきもの青淵。谷のほら。鰭板。くろがね。っちくれ。いかづち三不祥雲か。凶変の前兆。 ほ・一ばし 一三矛星。北斗七星の第七星。一 ぐも一三 すいせい 説、彗星。 は名のみならず、いみじうおそろし。はやち。ふさう雲。ほこ星。おほかみ。 一四 一四不詳。牛をはさむものか。 をさ 牛はさめ。らう。ろうの長。いにすし。それも名こそは。見るおそろし。なは一 = 牢。下の「ろう」と仮名遣いを 変えているので「霊」の直音表記と ひぢかさあめニ 0 むしろがうだう 筵。強盗、またよろづにおそろし。肘笠雨。くちなはいちご。いきすだま。鬼も考えられる。 ニ四 一六牢の役人であろう。 ばうたんうしおに ずし 宅不詳。一説「貽鮨」のこと。 ところ。鬼わらび。むばら。からたち。いかすみ。牡丹。牛鬼。 むしろ 天わらなわを横に織り込んだ筵。 にわかあめ ひじかさ 一九肘を笠代りにするような俄雨。 ニ 0 へびいちご。 三生きている人の霊が祟るもの。 一セ

10. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

( 現代語訳三一一一 なほいかでかかる御前になれつかうまつらむと、わが身もかしこうおばゆれば、御綱の助がその端をとって供奉す る。 しぢ 御輿過ぎさせたまふほど、車どもの、榻人だまひにかきおろしたりつる、また、一 = 感動で髪が逆立っということ。 一六作者自身のことをさす。 きよう ここち 牛どもかけて、御輿のしりにつづきたる心地のめでたう興あるありさま、言ふ宅感動のあまり髪が乱れたなど とかこつける、の意とみる。 天この一文整わない。「人だま 方なし。 ひ」は、お供の者に賜る牛車。仮 もろこしがく しぢ おはしまし着きたれば、大門のもとに、唐土の楽して、獅子、狛犬をどり舞に「榻にひとたびにかきおろした りつる、また、牛どもかけて」の さうおとつづみ ひ、笙の音、鼓の声に、物もおばえず。こはいづくの仏の御国などに来にけるように考える。 うちい そらニ 、い日」 0 にかあらむと、空にひびきのばるやうにおばゅ。内に入りぬれば、色々の錦の一九総「 ・一うらい ニ 0 獅子舞・狛犬舞。高麗の舞 へいまん あげばりに、御簾いと青くてかけわたし、屏幔など引きたるほど、なべてただ = 一楽の音が空に。 一三参列の人を入れるために庭に ニ四 にこの世とおばえず。御桟敷にさし寄せたれば、またこの殿ばら立ちたまひて、設けた仮屋。 ニ三幔幕。 「とくおりよーとのたまふ。乗りつる所だにありつるを、いますこし明かう顕 = 四伊周と隆家。 ニ五乗る時でさえ明るくまるみえ したがさねしり せう だったのに、まして今は 段証なるに、大納言殿、いと物々しく清げにて、御下襲の尻いと長く所せげにて、 からぎめ すだれ 簾うち上げて、「はやとのたまふ。つくろひ添へたる髪も、唐衣の中にてふ = 六ふくらんで。ぶくぶくになっ て。 第 くみ、あやしうなりにたらむ、色の黒さ赤ささへ見わかれぬべきほどなるが、 毛先に、後ろに乗っている人か らこそお降りなさい いとわびしければ、ふともえおりず。「まづしりなるこそは」など言ふほどに、 かた さじき だいもん ニ七 、 ) ま・いめ にしき ニ六 みつなすけ ・一まいめ ぐぶ