ふたり - みる会図書館


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1. リング

250 て全て知ってるのですからね」 竜司はまず浅川を指差し、それからその指を自分の目にもっていった。 「そんな、ばかな : 目撃しただと、そんなことはありえない。あの茂みにはだれもいなかった。第一、 このふたりの男の年齢は : 、当時・ : 「信じられないのも無理ねえな。でもよお、オレたちふたりとも、あんたの顔、よーく知 ってんだぜ 急に竜司の言葉遣いが変わった。「なんなら教えてやろうか、あんたの肉体的特徴 : ・ その右肩にはまだ傷跡が残ってんじゃねえのか、ええ ? 」 長尾の両目が大きく見開かれ、顎のあたりががくがく震えた。竜司は充分に間を置いて、 一 = ロった。 「あんたの肩の傷が、なぜ、そこにあるのか言ってやろうか」竜司はにゆっと頭を突き出 して、長尾の肩先に口を運ぶ。「山村貞子に噛みつかれたんだろ ? こうやってよお , 竜 司はロを開け、白衣の上から噛むふりをした。長尾の顎の震えは一段と増し、彼は必死で なにか言おうとしたが、歯と歯がうまく噛み合わず、言葉にならない。 「な、わかっただろ。 いいかい、オレたちはあんたから聞いた話を絶対だれにも喋らない。 約束する。ただ、知りたいのは、山村貞子の身に起こったことの全てだ」 つじつま とても思考力の働く状態ではなかったが、長尾にはどうも話の辻褄が合わないように思 しゃべ

2. リング

218 たという。ところが、小角の示した予知能力は文武の世を治める権力者たちを恐れさせ、 彼は社会を惑わす罪人としてここ伊豆大島に流されてしまった。今から千三百年近くも前 どうくっ の話である。小角は海際の洞窟にこもってますます修行を積み、島人たちに農業や漁業を 教えその人徳を敬われたが、その後許され、本土に戻り修験道を開くことになる。彼が大 島に居た期間は三年ほどとされているが、その間に鉄の下駄をはいて富士山にまで飛んだ という伝説も残っている。島人の彼を慕う気持ちは強く、行者窟は島内一の霊場となり、 行者祭と呼ばれる祭りは毎年六月十五日に行われていた。 ところが太平洋戦争の終戦直後、神仏に対する政策の一環として、占領軍は、行者窟に 祭られた役小角の石像を海中に投棄してしまう。この瞬間を志津子は見逃さなかったらし い。小角への信仰の厚い志津子はミミズ鼻の岩陰に隠れ、米海軍の巡視艇から投げ込まれ たた た石像の位置をしつかりと頭の中に叩き込んだのだった。 釣り上げるのが行者様の石像と聞いて、源次は耳を疑った。漁師としての腕は確かだっ たが、石像を釣り上げた経験はこれまでに一度もない。しかし、密かに思いを寄せる志津 子の頼みをむげに断れるはずもなく、ここはぜがひでも彼女に恩を売ろうとばかり、夜の 海に舟を出した。なによりも、こんなきれいな月夜にふたりだけで海に出られるのはとて も素晴らしいことと思われた。 行者浜とミミズ鼻のふたところに火をたいて目印とし、沖へ沖へとこぎ出した。ふたり ともこのあたりの海は熟知していた。海底がどうなっていて、深さがどのくらいなのか :

3. リング

を夢中で引きちぎろうとする智子の姿を思い浮かべるたびに、目に見えないモノの影を想 たと 像した。そして、彼女を駆り立てた喩えようのない恐怖を。 「わからねえな。おまえさんよお、先入観を持ち過ぎてるんじゃねえか。どんな事件だっ て、共通点を捜そうと思えば何かしら見つかるものだ。ふたりともようするに心臓の発作 で死んだってことだろ。なら、苦しかったはずだ。頭かきむしったり、夢中でヘルメット を取ろうとしたり : : : 、案外、普通のことじゃねえのか」 その可能性もあると認めながら、浅川は頭を横にふった。簡単に言い負かされるわけに をい力ないのだ。 「編集長、胸ですよ、胸、苦しかったのは。どうして、頭をかきむしる必要があるんです 「おまえさん、心臓の発作を起こしたことあるのかい ? 」 : ないですよ 「じゃ、医者に聞いたのかい ? 「何を ? 」 「心臓発作を起こした人間が頭をかきむしるかどうか 浅川は黙る他なかった。 , を : そりや、 彼よ実際に医者に聞いていた。医者はこう答えた。 ないとも限りませんねえ。あやふやな答えであった。逆の場合はありますがね つま りクモ膜下出血や脳出血の場合、頭が痛くなると同時にお腹のあたりが気持ち悪くなるか か」

4. リング

「ちえ、おまえがそう一一一一口うんじゃよお : 浅川は懇願する目を向けた。話の続きを促す視線。 「何かが起こったとしか考えられないんだよな。男と女が、今からやろうって時に窒息す るかよ、笑い話にもならねえ。あらかじめ飲まされた毒が効き始めたってことも考えられ 、まあ、反応が出ない毒物もあるにはあるが、予備校生と女子高 るがその反応はなし : 生の男女にそう簡単に手に入るものとは思えねえしなあ 吉野は、車の発見された場所を思い浮かべた。実際に足を運んだため、かなりはっきり おおくすやま と印象が残っている。芦名から大楠山に上る未舗装の県道沿いに、小さな谷間の、木々の うっそうと茂った空き地があり、上ってくる車からテールがチラッと目に留まるような格 好で、車は止められていたのだ。運転していた予備校生がどういうつもりでこの場所に車 ほとん を運んだのか、想像に難くない。夜になるとこの道を通る車は殆ど一台もなく、山肌から 横に伸びた樹の葉が目隠しとなって、お金のないカップルにとっては格好の密室となる。 「そこで、男はハンドルとサイドウインドウに頭を押しつけるように、女は助手席のシー トとドアの間に頭を埋めるようにして、死んでいた。オレはこの目で、ふたりの死体が車 から運び出されるところを見たんだ。ドアを開けたとたん、ふたつの死体はそれぞれのド アから転がり出た。死の間際、内側から強いカで押されたように、そして、その力が死後 三十時間たってもまだ残っていたかのように、捜査員がドアに手をかけたとたん、弾かれ るように飛び出したんだ。いいか、その車はな、 2 ドアで、キイを中に置いたままではド はじ

5. リング

214 浅川は怒りをどこにぶつけていいかわからない。 : こんなところに来るんじゃなかった。毎ゃんでも毎やみきれない、しかし、どこま さかのぼ で遡って後悔すればいいのか、あんなビデオなど見るべきじゃなかった、大石智子と岩田 秀一の死に疑念をはさむべきじゃなかった。あんなところでタクシーを拾うんじゃなかっ た。ええい、クソったれー 「おい、落ち着けっていうのが、わからねえのかい ? 早津さんに文句言ったって仕方ね えだろうが」 妙に優しく竜司は浅川の腕を握った。「考えようによっちゃあよお、オマジナイの実行 はこの島でなければできないかもしれないだろ。な、そういう可能性だってある。例の四 人のガキどもがなぜオマジナイを実行しなかったか : : : 、大島まで来るゼニがなかったか ら : ・ : 、な、有り得るだろ。この嵐を恵みの風と考えてみろや。そうすりゃあ、気分も治 まる」 「それは、オマジナイを発見してからのことだろう ! 」 浅川は竜司の手を振り払った。いい年をした男がふたり、オマジナイオマジナイと騒い でいるのを見て、早津と妻のふみ子は顔を見合わせたが、浅川にはふたりが笑っているよ うに見えた。 「なにがおかしいんですか ? ふたりに詰め寄ろうとした浅川の手を、竜司は以前よりも強く引いた

6. リング

135 行社のであった静と知り合った。彼女のフロアーは三階で浅川は七階、時々エレベー ターで顔を合わす程度であったが、たまたま取材のための周遊券を取りに行ったおり、担 当の者がいなくて静が応対したのだ。この時彼女は二十五歳、旅行が好きでしかたがない せんぼうまなざ という静は、取材であちこち飛び回る浅川に羨望の眼差しを向けたのだが、彼はその目に 初恋の女性の面影を見いだした。互いの顔と名前を知ったことにより、エレベーターの中 で出会えば挨拶を交わすようになり、ふたりの仲は急速に深まった。二年後、ふたりは家 族の反対もなくすんなりと結婚した。実家に頭金を援助してもらって北品川にのマ ンションを購入したのは結婚する半年前のことだった。地価高騰を予想し、あわてて結婚 前に新居を購入したわけではない。ただ単に、なるべく早く口ーンを払い終わろうとした だけである。もしこの時期を逃していたら、浅川夫婦は永久に都心部に住居を構えること はできなかっただろう。マンションは一年後に約一一一倍に値上がりしたのだ。しかも、毎月 のローンは賃借りした場合の半分以下に過ぎない。狭い狭いと常に文句を言ってはいるが、 この財産によってふたりとも大きな余裕を得ていることは確かだった。残してやれるもの グがあってよかった、と浅川は思う。生命保険の受け取りを残りのローンにあてれば、ここ ンはそっくりそのまま妻と娘のものになる。 ・ : 死亡時に受け取る生命保険の額は確か一一千万だと思ったけれど、ちゃんと確認して おく必要があるな。 も、つろう 浅川は、朦朧とした頭で金額をあちこちに振り分け、アドバイスできることがあったら あいさっ

7. リング

「いいかい、今から言うことをよく聞くんだ。義父さん、義母さんにぜひ見てもらいた いものがある。しかも、今すぐにだ。だから、オレがそっちに着くまで、ふたりをどこ にも出さないでくれ、 いいかい、わかったね、とっても重要なことだ」 ・ : ああ、自分は悪魔に魂を売ろうとしているのか、妻と娘を助けるために、義父と 義母を一時的な危険に陥れようとしている。しかし、娘と孫を救うためなら、ふたりは 喜んで協力するに違いない。彼らもまた、ダビングして他のだれかに見せれば、それで 、その先はフ 危険を回避できるのだ。でも、その先は : 「どういうことなのか、さつばりわからないわ 「いいから、言われた通りにするんだ。今からすぐそっちに向かう。ああ、そうだ。そ こにビデオデッキあるかい ? 」 「あるわよ」 「べータかか」 「わかった、すぐに向かう。絶対こ、 冫しいか絶対にどこにも行くな」 「ちょっと、待って。ねえ、お父さんとお母さんに見せたいものって、例のビデオじゃ ない ? 」 浅川は返事に窮し、黙り込んだ。 「そうなの ? 」 と

8. リング

り、信じてもいないくせに。人から非科学的な奴だとバカにされぬがために、そのことを 口にしないのではない。想像もっかない恐怖を身近に引きつけてしまうようで認めるのが 恐いのだ。それならまだ、納得はいかなくても科学的な説明に甘んじているほうが、なに かと都ムロがいし 同時に浅川と吉野の背筋に悪寒が走った。やはりふたりとも同じことを考えていた。し ばらくの沈黙が、ふたりの胸に湧き上がったある種の予感を確認し合った。これで終わっ たわけじゃない、何かが起こるのはコレカラダ。どれほど科学的な知識を身につけようと、 根本的なところで、人間は科学の法則で説明できないある存在を信じている。 「発見された時、男と女は手をどこに置いていましたか ? 」 唐突に浅川が聞いた。 いや、頭というより、両手で顔を被っていたって感じかな」 「こんなふうに、髪の毛をごっそり抜いていたとか」 浅川は自分の髪を引っ張って見せた。 「あん ? 」 「つまり、その、自分の頭をかきむしって、毛髪を抜いていたかどうか 「いや、そんなことはなかったと思う 「そうですか。吉野さん、その予備校生と女子高生の住所と名前、教えてもらえないでし ようかねえ」 おお やっ

9. リング

273 浅川の体を引き起こすと、竜司は黙ってー 4 号棟のバルコニーの下にもぐり込んだ。 浅川も続く。バルコニーの下の、ー 4 号棟を支える柱と柱の間の板壁が一枚剥がれかけ すきま ていた。竜司は隙間に手を差し入れ、カまかせに手前に引いた。板は・ハリッと音をたてて 斜めに裂けた。室内の装飾はモダンだが、縁の下を隠す板壁は人の手で簡単に引き剥がさ れるほどやわにできている。目に見えぬところは徹底的に安普請なのだ。竜司は、そこか らサーチライトを入れて縁の下を照らした。そして、見てみろというふうに顔を振った。 のぞ 浅川は壁の隙間に目を固定させて中を覗く。サーチライトが照らしたのは、中央よりちょ っと西側に位置する黒い出つばりであった。よく見ると、表面には石を積み上げたときに できる荒い格子模様の曲面がある。上部をコンクリート製の蓋で覆われていて、石と石の 間からも、コンクリートの割れ目からも草がのび放題にのびていた。浅川は、その上に何 があるのかすぐに思い至った。井戸の上にはロッグキャビンの居間があり、しかも井戸の 丸い縁のちょうど真上にはテレビとビデオのセットが置かれている。一週間前、例のビデ オを見た時、山村貞子はこんな近い場所に隠れて上の様子をうかがっていたのだ。 竜司は板壁を次々と引き剥がし、人が通り抜けできる穴をこしらえた。ふたりは壁穴を くぐり、井戸の縁までい進んだ。ロッグキャビンは斜面に建っているので、進むほどに 床が下がってきて圧迫感を与えゑ暗い縁の下にも空気は充分あるはずなのに、浅川は息 苦しさを覚えた。床下の土は外と比べてひんやりとしている。これから何をすべきか、浅 川にはちゃんとわかっていた。わかっていてもまだ恐怖心は湧かない。床板がすぐ頭上に ふた

10. リング

146 ごと カエルの如く立ちすくみ言葉も出なかった。 「おい、なんとか言えよ」 竜司にわきばらをつつかれてようやく、「こんにちはとぎこちなく応じたけれど、目 はまだうつろなままだ。 「先生、ゆうべはどこに行ってらしたの ? 」 つまさき 舞は、ストッキングに覆われた爪先を優雅に滑らせて竜司のほうに二、三歩近づいた。 「実は、高林君と八木君に誘われて : : : 」 ふたり立ち並ぶと、舞の方が竜司よりも十センチ程背が高い。しかし、体重は竜司の半 分程度だろう。 「帰らないなら、ちゃんとそう言ってくれないと : 、待ちくたびれちゃった」 浅川はふと我に返った。ゅうべの電話の声を思い出したからだ。昨夜、この部屋で浅川 からの電話を取ったのは、間違いなくこの女性であった。 竜司は母親に叱られた少年のように首をうなだれている。 「まあ、いいわ。今回は許してあげる。は、、 コレ」 舞は紙袋を差し出した。「下着、洗っておいたわ。お部屋も片付けようと思ったけれど、 本の位置が変わると、先生怒るから・ : 浅川は、交わす言葉でふたりの関係を推し量る他なかった。どう見ても、師弟関係を越 えた恋人同士としか映らない。しかも、昨夜遅くまでこの子は竜司の部屋で彼の帰りを待 しか