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検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

まど りようしん 身にしみついている。彼は良心の声にしたがって窓をしめた。 が、それほどいそいでしめたわけではなかった。 彼女の声「ーーあの、えもいわれぬ美しい声が聞こえてきた。 くる 「わかってるわーーーよくわかっててよ。あなたはとても苦しんでいらしたのね。わたしも どうじ いったんは疑 まえにはそうだったわ。愛していながら、同時に信じたりうたがったり もうそう いをはらいのけてみるんだけど、すぐまたその妄想が、にたにた笑いながら頭をもたげて くるの。わかってるわ、アレック、よくわかってるの。でもね、じつはそれよりもつらい ことがあるのよーーーあなたといっしょにすごしてきたこの地獄。あなたの顔に疑いが わたしへの恐れがあるのを、わたしはいつも見ていなきゃならなかった。それがわたした どく ちの愛に毒をそそいできたんだわ。 でもさっきのひとがーーーあのとおりがかりの男のひとが、わたしたちをすくってくれた。 こんや ねえアレック、じつをいうと、わたし、もうがまんができなくなっていたの。今夜ーーー今 夜死のうと思っていたのよーーーアレックーーー・おおアレックー うつく じごく わら うたが うたが 148

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

しきようみ ふさい サタースウェイト氏の興味をひいたのは、このポータル夫妻だった。 しょたいめん アレック日ポータルとはこれが初対面だったが、この男のことはすっかりわかっていた。 じしん てんけい 父や祖父とも知りあいだったし、アレック自身も、そのタイプの男の典型といっていい。 けとくゆ、つ す しよ、つぶ 年は四十にちかく、ポータル家特有の金髪に青い目、スポーツや賭事が好きで、勝負に強 そうぞうりよくひんこん ぜんりよう く、だが想像力は貧困である。どこにもかわったところなどない : さらにある善良かっ健 えいこくじんけっとう 全な、よき英国人の血統だ。 し だが細君はそうではなかった。サタースウェイト氏の見たところ、どうやらオーストラ リア人らしい。ポータルは二年まえにオーストラリアへいき、そこで彼女と知りあって結 けっこん 婚し、故国へつれてかえってきたのだ。 , 彼女は結婚するまでイギリスにきたことがなかっ た。にもかかわらす彼女には、サタースウ = イト氏の知っている、どのオーストラリア女 性ともちがったところがあった。 いまサタースウェイト氏は、ひそかに彼女を観察していた。 きようみ じつに興味ぶかい女性だ。ものしずかで、それでいてひじように いきいきしている。 そう、それたー まさしく、いいしているということばがびったりだー かならずし びじん ましよう も美人ではない そう、彼女を美人とよぶことはできないだろう。が、ある種の魔性の ぜん こん さいくん じよせい し きんばっ かんさっ かけ ) 」と しゅ けん 108

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

あれはデレク日ケイベルのことをいっているのだろうか、それともそれにかこつけて、 自分のことをいっているのだろうか ? 彼を観察していたサタースウェイト氏は、どうも あとのほうらしいと思わずにはいられなかった。そうだ、それがまさにアレック日ポータ やくわり うんめいちょうせん そうぞうりよく ルの演じている役割なのだ。ーー・運命に挑戦する男。酒のせいでにごっていた想像力が、い きようめい そう まとっぜん、この会話のなかのひびきと共鳴しあい、それまでひそかにあたためていた想 ねん 念をよびさましたのだ。 彼女はまだそここ サタースウェイト氏は、ちらと上を見た。 , 冫いた。見まもり、耳をそば しにん だてているーーーあいかわらず凍りついたようにうごかず、死人のように身じろぎもせず。 、こうふん 「まったくそのとおりだ」と、コンウェイがいった。「ケイベルはたしかに興奮していた あっとうてき 異様なほど、といっても、 しい。いうなれば、大きな賭けをした男が、圧倒的なハンディ をくつがえして勝った、とでもいったところかな。」 「でなければ、なにかやろうと心にきめたことがあって、それにたいして勇気をふるいお こそうとしていたのかもしれない。」 ポータルがほのめかした。そして、まるで自分のことばに触発されたかのように、席を ても 立っと、またしてもお手盛りで自分のグラスをみたした。 えん こお かんさっ しよくはっ ゅうき せき 130

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

じよせい 女性が人妻かなにかのように聞こえるじゃないかーーーっまりさ、亭主が死んだばかりだと りこん てつづちゅう か、でなくば離婚の手続き中だとか。」 じじよう 「そうだな、たしかに。」イヴシャムはあいづちをうった。「そういう事情なら、すぐには こんやく はっぴょう 婚約を発表できんというのはよくわかる。それにね、いま考えてみると、あのころは、さ ほど親しくマージョリーとっきあっていたわけでもなさそうだ。二人が親しかったのは、 なか そのまえの年のことで、どうもちかごろは二人の仲は冷えてきてるんじゃないか、そう 思ったのをお・ほえているよ。 「ふしぎですな。」クイン氏がいった。 「さようーーーまるでだれかが割りこんできたという感じだった。」 「ほかの女か。」コンウェイがいって、考えこんだ。 「とにかくだ、お・ほえているだろうーーーあの晩デレクのやっ、いささか不謹慎なほどはン こうふく しゃぎまわっていたじゃないか。いわば幸福に酔っているというかっこうだった。それで みよう せつめい いて、なにかこう うまく説明できないんだがーーー妙につつかかってくるような、挑一 せんてき 戦的なところもあった。」 うんめいちょうせん 「まるで運命に挑戦する男のようにねーと、アレック日ポータルがだみ声でいった。 した ひとづま ていしゅ ふきんしん ちょう 129

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

いんき はと、アレック日ポータルが陰気にいっこ。 そして彼は立ちあがると、自分のグラスにいきおいよく二杯目のウイスキーをついだ。 むね ( あの男にはどこかおかしなところがある ) と、サタースウェイト氏は胸のうちでつぶや 、。いったいなぜなのか知りたいものだ。 ) いた。 ( たしかにひじようにおかしし こんや コンウェイがいった。「風がでてきたそ。今夜は荒れそうだ。」 わらごえ ばん ゅうれい 「幽霊がであるくには、おあつらえむきの晩だ。せ。」ポータルがかんだかい笑い声をたて じ ) 」くあくま ていった。「今夜は地獄の悪魔どもが全員おでましってわけだ。」 こうふく 「レディ ー・ローラにいわせると、そのなかのいちばん〈黒い〉やつですら、幸福をもた らすそうだがね。」コンウ = イがからからと笑っていった。それから、声をひそめて、「お いまのを聞いたか ? どうじ 風がひとしきりすさまじいうなりをあげて吹きすぎ、それがおさまるのと同時に、玄関 の鋲を打ったがんじようなドアに、はっきりと三つ、ノックの音がひびきわたった。 だれもが」くりとした。 「いったい夜のこんな時間に、だれだろう ? 」イヴシャムが、かんだかい声でいった。 いちどう 一同は顔を見あわせた。 びよう ぜんいん わら はいめ げ = クインの事件簿 117

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

きたときとおなじように、色ガラスが一瞬そのうしろ姿をまだらに浮かびあがらせた。 まど サタースウェイト氏は二階へあがった。夜気が冷たかったので、窓をしめようとそのほ くるままわ うへいったとき、クイン氏が車回しを遠ざかってゆくのが見えた。家の横手のドアがひら いて、女がかけだしてゆくのが目にはいった。しばらく二人はそこで立ち話をしていたが、 やがて女は家のほうへひきかえしてきた。 まど ました せいき 彼女が窓の真下をとおったとき、その面にあらわれたかがやくばかりの生気に、サター ゅめ スウェイト氏はあらためて心をうたれた。いまの彼女の身のこなしは、しあわせな夢のな かを歩いている女性のようだった。 「エリナー アレック日ポータルがかけよった。 「エリナー、すまなかったーーーゆるしておくれ。きみは、ほんとうのことをいっていたん かみ だね。だのに、おおーーー神よ、ゆるしたまえーーーぼくは心の底からそれを信じることがで きなかったーーー」 じじよう ひと かんしん サタースウェイト氏は、他人さまの家庭の事情におおいなる関心をもっているーーーが、 どうじ まど しんし 同時に彼は紳士でもある。このさいは窓をしめるべきだ、そう考えるくらいのたしなみは、 じよせい いっしゅん かてい おもて やきつめ すがた そこ = クインの事件簿 147