ィーストニー - みる会図書館


検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

つうこうにん しゅんかん この瞬間に、サタースウェイト氏は、通行人の目から見れば、ふいに気がくるったとし しんぶんやぶ こうどう ま一度、新聞を破れんばかりのいきおいでひらくと、ラジ か思われない行動をとった。い がいろ ばんぐみらんいちへつ オの番組欄を一瞥し、しずかな街路を死にものぐるいに走りだしたのだ。通りのはずれで、 ゆっくり走ってくるタクシーを見つけた彼は、それにとびのるなり行く先を告げ、ついで もんだい に、生死にかかわる問題だ、いそいでくれとどなった。 かねも 運転手は彼のようすを見て、頭はおかしいらしいが金持ちらしいと見てとり、せいいっ ようきゅう ばいその要求にこたえる努力をした。 だんべんてきそうねん ざせきせ サタースウ = イト氏は座席の背にもたれた。頭のなかは、さまざまな断片的な想念で かがくちしき がくせいじだい 、つばいだった。学生時代にならったうろお・ほえの科学知識、今夜ィーストニーの使った しゅうき ′」くきようめい しぜんしゅうき たしか、 語句。共鳴ーーー自然周期ーー・もしもある力の周期が自然周期と一致すれば ほちょう しゅう こうしん つばしかん 吊り橋に関した例があったーー兵隊が吊り橋の上を行進する。そして彼らの歩調が橋の周 もんだい けんきゅう き : ィーストニーはその問題を研究していた。ィーストニーは知ってい 期と一致すると : てんさい る。そしてイーストニーは天才なのだ。 ほうそう ョアシ = ビンが放送するのは十時四十五分。ちょうどいまだ。そう。しかし、最初は うんてんしゅ 0 し どりよく へいたい し し つばし こんや っ 186

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

はんのう かんじようばくはっ 彼はなんらかの反応を予期していた。感情の爆発、気ちがいじみた弁解ーーーなにかを。 だが、なんの反応もなかった。 フィリップィーストニーはおちつきはらって答えると、くるっときびすをかえして、 あゆ そのまま歩みさった。 すがたやみ 彼のうしろ姿が闇にのまれてしまうまで、サタースウェイト氏は見送っていた。われに しんきんかん げいじゅっか もなく、イーストニ ーにたいしてふしぎな親近感をおぼえた。芸術家が他の芸術家にたい ばんじんてんさい かんしようか こい かんじよう していだく感情、あるいは、感傷家がほんとうの恋を知るものにたいして、凡人が天才に し子ーしい 4 に「つ、つか たいしていだく感青、とでも、つこら、 ややあって、ようやくはっとわれにかえった彼は、イーストニーの去ったのとおなじ方事 けいかん 角へ歩きだした。霧がでてきた。まもなく、ひとりの警官にであった。警官はうさんくさ そうに彼をながめてたずねた。 「たったいま、ポチャンという水の音を聞ぎませんでしたか ? 「いいや。」サタースウェイト氏は答えた。 けいかんかわも 警官は河面をすかし見た。 きり・ べんかい 191

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

せいねん 店はこみあっていたから、サタースウェイト氏はさりげなく青年の向かいの席にすわる きみようこうふん とっぜん ことができた。彼は、突然の奇妙な興奮をお・ほえた。自分がなにかの力にとらえられ、さ でき′」と まざまな出来事のあやなす、きらきらした。ハターンの一部になったような気がした。自分 かちゅう はその渦中にいるーーーそれがどんなものであるにせよ、そのまっただなかに。いまはじめ し ざ しんこう て、あの晩クイン氏がオペラ座でいったことの意味がのみこめた。ここでは芝居が進行し じゅうよう ている。そしてそのなかに、サタースウェイト氏の役がーーー重要な役があるはずなのだ。 せりふ きっかけをのがさず、いうべき台詞をいうように気をつけねばならない。 フィリツ。フ日ィーストニーの向かいがわにすわったとき、サタースウェイト氏は、さけ も いよく カたいことをなしとげるのだという意欲に燃えていた。 簿 ぞうさ かいわ 会話のきっかけをつくるのは、造作もないことだった。ィーストニーは話がしたくてう事 の し ずうずしているようだったし、サタースウェイト氏はいつものように、はげましじようず、 イ どく 聞きじようずだった。二人は戦争のこと、爆弾のこと、毒ガスのことを話しあった。とく = どく いっかげん に毒ガスのことについては、イーストニーは一家一言をもっていて、それというのは、戦争 ちゅうだいぶぶん せいぞうじゅうじ 中の大部分を、その製造に従事してすごしたからだということだった。サタースウェイト きよ、つみ 氏は、ますます興味をそそられた。 みせ ばん せんそう ばくだん し いちぶ せき し せんそう 179

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

女をだきとめた。 きけんかんち 「いや、いかをーー命にかかわるんだ。においもない。だから危険を感知することもでき まま ない。ほんのひと吸いで、すべてはおわりだ。どんなに危険か、だれも知らない。い で使われたどんなものともちがうんだ。」 サタースウェイト氏がくりかえしているのは、さいぜん夕食の席でフィリップィース トニーのいったことばだった。 ジリアンはなにがなんだかわからず、ただまじまじと相手を見つめるばかりだった。 じこく フィリップィーストニーは時計をとりだし、時刻をたしかめた。ちょうど十一時半。 かしどお すでに四十五分ちかくも、このテムズ北岸の河岸通りをいったりきたりしている。彼はし事 かわも とたんに鼻先にあらわン ばし河面を見わたし、それから思いきったように向きをかえた れたのは、だれあろう、夕食のとき、テーブルでいっしょになった小男の顔だった。 はち こんばん みよう 「こりや妙だ。」そういってイーストニーは笑った。「どうやら今晩は、あなたと鉢あわせ うんめい ばかりする運命らしい。」 うんめい 「もしきみがそれを運命とよぶならね」と、サタースウェイト氏はいった。 いのち ほくがん わら せき はなさき 189

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

けっこん いれてくれたんです。ごらんになってーーーけさ、これをとどけてくれましたのよ。結婚の お祝いですって。りつばでしよう ? きようぐうせいねん それはたしかに、フィリップⅱィーストニーのような境遇の青年にとっては、なかなか じゅしんき さいしんがた ぜいたくな贈りものだった。最新型のラジオ受信機だ。 せつめい だいおんがくず 「ごそんじのとおり、あたしたちは二人とも大の音楽好きですの。」ジリアンは説明した。 たしよう 「これで音楽を聞けば、多少は自分のことも思いだしてもらえるかもしれないから、そう フィルはいいましたわ。たしかにそのとおりです。だってあたしたち、いつもとてもいし お友だちだったんですもの。」 じまん 「自慢できるお友だちをもちましたね。」サタースウェイト氏はやさしくいった。「お話の ぐあいでは、イーストニー氏はじつに男らしく、いさぎよく打撃をうけとめたようです な。」 ジリアンはうなすいた。たちまちその目に涙がにじんでくるのがわかった。 こんや 「ひとつだけ、自分のためにしてほしいことがあるっていいましたわ。今夜はあたしたち きねん が知りあった記念の日なんです。だから、今夜だけは家にいて、しずかにラジオでも聞い てほしい、チャーリーとはどこへもいかずに・・丨・ーそういうんですの。もちろんそうするつ おく なみだ し 1 174

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

にすわって、ラジオを聞いている図だ。 しんぶんしようねん サタースウェイト氏は、ちょうどとおりかかった新聞少年に小銭をほうると、新聞を ほ、っそ、つ ばんぐみらん 一部ひったくった。あわただしくべージをくって、ロンドン放送の番組欄をさがす。ョア こんや えんもく かげき シュビンが今夜うたうことになっているのが目にとまった。演目は、まず歌劇『ファウス とくい みんよう ひつじか さかな ト』から、〈サルウェ・ディモラ〉、そのあとお得意の民謡から、〈羊飼いの歌〉、〈魚の 歌〉、〈小鹿〉など。 サタースウェイト氏は新聞をたたんだ。ジリアン日ウエストがラジオを聞いていること すがた を知っているためか、い っそうあざやかにその姿が目にうかんできた。たったひとり自室 にこもって きみようようきゅう 奇妙な要求だーーーあのフィリツ。フィーストニーの要求は、まったくあの男らしくな かんしようへき そう、まったくだ。あのイーストニ ーには、そんな感傷癖はないはずだ。あの男は激 じようてき きけん 情的な男、おそらくは危険な男だ きけん 待てよーーーふたたび思考にぐいとブレーキがかかった。危険な男ーー・こいつはなにかあ こんや りそうだ。糸はぜんぶあなたがにぎっているのですよ。今夜のあのフィリツ。フィースト ニーとの出会い なにかへんだ。幸運な偶然、そうイーストニーはいった。偶然だった こじか 0 し し しんぶん こううんぐうぜん 0 じしつ 184

7. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

フィリツ。フィーストニーは、一瞬けわしい目で相手を見なおしたが、すぐにその表 じよう 情をかえた。 「というと ? [ と、彼はしずかにいった。 たんとうちよくにゆう サタースウェイト氏は単刀直入にいっこ。 「わたしはミス・ウエストのア。ハートからきたところだ。 ごちょう きみ わる まえとおなじ声、おなじ気味の悪いほどしずかな語調だ。 「われわれはーー死んだ猫を部屋からつれだした。」 ちょっと沈黙があった。それからイーストニーはいっこ。 「だれだ、あんたは ? 」 し サタースウェイト氏は答えた。そのまましばらく話しつづけて、事件のいきさつを一気 にものがたった。 「だからおわかりだろう , ーーわたしはまにあったというわけだ。」そう彼は話をしめくく ま い一つことは、ない ると、ちょっと間をおいてから、しすかにつけくわえた。「で、なにか かね ? ちんもく し し いっしゅん あいて じけん ひょう いっき 190

8. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

しゅどく ィーストニ ーによると、まだ一度も使われたことのない、ある種の毒ガスがあるという。 ただい こうか きたい きゅうせん 使われるまえに休戦になってしまったのだ。それには多大の効果が期待されていた。ひと いのち くちょうかっき 息すっただけで命にかかわるほどだ。話しているうちにしだいに熱がはいり、口調は活気 づいてきた。 わだい 糸口がほぐれたところで、サタースウェイト氏はめだたぬように話題を音楽にむけて じようねっ たべん おんがくあいこうか いった。ィーストニーのやせた顔がかがやいた。彼は音楽愛好家らしい情熱と、多弁さを くちょう ろん せいねん もって話しだした。二人はヨアシュビンについて論じあい、青年の口調はいよいよ熱をお よ びてきた。 / 彼もサタースウェイト氏も、この世のなかに、真にすばらしいテノールの声を いけん ということで意見が一致した。 しのぐものは存在しない、 しようねんじだい ィーストニーは少年時代にカルーソーの歌を聞いたことがあり、いまだにそれをわすれ られないと話した。 わ 「彼がワイングラスを前においてうたうと、グラスが割れたという話をごそんじですか ? 」 と、彼は熱つ。ほくたずねた。 「それは伝説だとばかり思っていましたがね。」 し サタースウェイト氏はほほえみながら答えた。 でんせつ ね そんざい し しん ね 180

9. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

きようめい しんじっ 「いや、絶対の真実ですよ。ぼくはそう信じます。ありえないことじゃないんです。共鳴 もんだい の問題ですからね。」 せんもんてきせつめい ィーストニーはこまかい専門的な説明をはじめた。ほおが上気し、目がかがやいた。そ ねっちゅう ないよう はあく わだい かんぜん の話題にすっかり熱中しているようだった。その話の内容を、完全に把握したうえでしゃ し べっているらしい。それがサタースウェイト氏にもよくわかった。 とくしゆずのう いま相手にしているのは、特殊な頭脳ーーーおそらくは天才的ともいっていい頭脳をもっ さいき た男なのだ。才気にみち、気まぐれで、不安定ーーーまだいまのところは、その才気をどこ へむけてやったらいいのか自分でもっかみかねている。が、まちがいなく天才ではある。 ーンズをえらん そしてサタースウェイト氏は、チャーリー ーンズのことを考え、 おんなごころ だジリアン日ウエストの女しをはかりかねた。 ふとわれにかえって、時間がすっかりおそくなっているのに気づいたサタースウェイト きゅうじ かんじよう 氏は、おどろいて給仕をよび、勘定をたのんだ。ィーストニーはちょっときまりわるそう = な顔をした。 「すみませんーーーっいしゃべりすぎちゃって」と、彼はいった。「でも今夜、あなたとお近 こううんぐうぜん づきになれたのは幸運な偶然でしたよ。・ほく 今夜はだれかと話したくてたまらなかっ し ぜったい し ふあんてい てんさいてき じようき こんや てんさい 181 クインの事件簿

10. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

が、ごくかすかにだ。そこには、そういう自分の強い魅力を 彼女はほおを赤らめた 鼻にかけているそぶりは見あたらなかった。あったとすれば、二人の男の争いの的になっ しぜん たしようかいかんこうふん カサタースウェ これはいたって自然なことだ。 : 、 ていることへの、多少の快感と興奮 けねんこんわく ばあい イト氏の見たところ、彼女の場合、なによりも先にたっているのは、懸念と困惑であるら じじっ しい。そしてまもなく、彼がその事実をたしかめる手がかりを得たのは、彼女がこんな見 当ちがいなことを口走ったときだった。 「彼が、あのひとにけがをさせなきゃいいんだけど。 くら 暗いなかでひとりほほえみながら、サタースウェイト氏は考えた。 ( さて、どっちがどっちを、だろう ? ) はんだん いかえした。 それから、みずからの判断はひとまずおいて、 ーンズさんにけがをさせなきや、 ィーストニーさんが。ハ 「というのはーーーええと いうことですな ? 」 彼女はうなずいた。 けつまっ 「ええ、そうですわ。そんなことにでもなったらと思うと、そっとします。結末を見とど けてこられればよかったんだけど。」 はな と、つ あらそ まと みりよく けん = クインの事件簿 165