ウイルス - みる会図書館


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1. リング

然、大石智子と岩田秀一も恋人どうしではないかという疑問も出てくるが、いくら調べて もそれを裏づける事実は出てこない。ひょっとしたら、大石智子と岩田秀一は一面識もな いかもしれない。とすると、この四人をつなぐ糸は一体どこにあるのか。正体不明の存在 がアトランダムに犠牲者をつまみ上げたにしては、四人の関係はあまりに親し過ぎる。た とえば、この四人は他の人間が知らない秘密を持っていて、その秘密のせいで殺されたと か : : : 。浅川は、もう少し科学的に考えた。四人は、ある時同時に、ある場所にいて、心 臓を冒すウイルスに感染した。 ・ : おいおい 浅川は歩きながら首を振った。 ・ : 急性心不全を起こさせるようなウイルスなんてあるのかよ。 ウイルス、ウイルスと、浅川は階段を上りながら一一度つぶやいた。そして、やはりまず 第一に科学的な説明を試みることが先決ではないかと思い直す。ここで、急激な心臓発作 い ) 、ら - 、刀 を生じさせるウイルスの存在を仮定したとしよう。超自然の力を仮定するより、 現実的であり、他人に話して笑われる心配も少ないように思われゑ現在まだ地球上で発 見されていないにしても、隕石の内部に閉じ込められてごく最近宇宙から飛来したとも限 らない。あるいは、細菌兵器として開発されたものが漏れた可能性もないとはいえない。 そうだ。まず、これをウイルスの一種と考えることにしてみよう。もちろん、そうするこ きようがく とによって全ての疑問点に答えられるものでもないが。四人が四人とも驚愕の表情を浮か いんせき

2. リング

242 ネス・フックに様々な記録が載る昨今、こういった記録にどれだけの価値があるか知らない が、吉野にはおもしろいと感じられたに違いない。天然痘、浅川や竜司の世代にとって、 この病名はもう死語になりつつある。 「竜司、おまえ、天然痘にかかったことあるか ? 」 浅川が聞いた。 「ハカか、おまえ。あるわけねえだろ。死滅したんだ、そんなもの 「死滅 ? 」 「ああ、人類の叡知によって根絶された。もうこの世に天然痘は存在しない」 竜司の言う通り、世界保健機構 (>ääO) のワクチンによる徹底的な掃討作戦により、 天然痘ウイルスは一九七五年、ほ・ほ地球上から姿を消してしまった。世界最後の天然痘患 はっしん 者、この名ももちろん記録に残っていゑ一九七七年十月二十六日に発疹したアフリカ、 ソマリアの青年である。 「ウイルスが死滅するフ : なあ、そんなことがありうるのかい」 ウイルスに関する知識を、浅川はあまり持ち合わせてはいない。しかし、殺しても、殺 ぬぐ しても、姿を変え、しぶとく生きるという印象がどうも拭い切れない。 「ウイルスはなあ、生命と非生命の境界線をさまよっているものなんだ。もとはといえば 人間の細胞内の遺伝子だって説もあるくらいだ。どこでどう産まれてきたのかはわからな 、。こだ、生命の誕生とその進化に大きく係わっていることは確かだ」 えいち

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244 ねるため、わざわざ船の便を利用したのだ。 前方に、熱海後楽園の観覧車が見えてくる。時間通り、十時五十分の着。浅川はタラッ プを降りると、レンタカーを止めてある駐車場に走った。 「おい、そう焦るなって 竜司があとからのんびりと続く。長尾の医院は、伊東線来宮駅のすぐ近くにあった。竜 司が車に乗り込むのをいらいらした気分で見届けると、浅川は坂と一方通行の多い熱海市 街に向かって車を走らせた。 「おい、この事件の裏で手を引いているのは、ひょっとして悪魔かもしれねえな」 乗り込むやいなや、竜司が真顔で言った。浅川には、道路標識を見るのに忙しくて答え る余裕がない。竜司は続ける。 「悪魔はなあ、いつも異なった姿でこの世に現れるんだ。十四世紀後半にヨーロッパ全土 を襲ったベストを知ってるかい。全人口の約半数近くが死んだ。信じられるか ? 半分、 日本の人口が六千万に減るのと同じだ。もちろん、当時の芸術家はベストを悪魔になそら えた。今だってそうだろ、エイズのことを現代の悪魔とかって呼ばないかい。だがなあ、 やっ 悪魔は決して人間を死滅に追いやることはない。なぜか : : : 、人間がいなければ、奴らも 存在できないからだ。ウイルスはなあ、ウイルスも宿主である細胞が滅んでしまったら、 てんねんとう もはや生きられないんだ。ところが、人間は天然痘ウイルスを死滅に追いやった、本当か

4. リング

324 でんば 一週間という猶予期間は伝播するうちに短縮されるだろう。見せられた人間は一週間を 待たずしてダビングし、他人に見せ : 一体、この環はどこまで広がるのだ。人間が 本能的に持っ恐怖心に働きかけ、疫病と化した、ヒデオテープはまたたく間に社会に広が るにきまっている。しかも、恐怖に駆られて人々はとんでもないデマを作り上げてしま わないとも限らない。たとえば、「見せられた人間は、二つ以上のコビーを作り二人以 上の人間に見せなければならない」などという条件が加わったら、ねずみ講式に、一本 の流れとはまったく比較にならないスビードで波及し、半年のうちに日本の全国民がキ ャリアとなって、感染は海外に及ぶ。その過程で、何人かの犠牲者が出る、すると、 人々はビデオテープの予告が嘘でないことを知ってますます必死にダビングを繰り返す。 どのようなパニックを引き起こし、どのような事態へ収束していくのか予想もっかない のだ。犠牲者が何人出るのかも・ : 。二年前、空前のオカルトプームが襲った時、届い た投書は一千万通にも上ったのだ。どこかが狂っている。その狂いに乗じて、新種のウ イルスは猛威をふるう : えいち 父と母を死に追いやった大衆への恨み、人類の叡知によって絶滅の縁にまで追いつめ られた天然痘ウイルスの恨み、それは、山村貞子という特異な人間の体の中で融合され、 思いもよらない形で再び世に現れた。 浅川も家族も、ビデオを見てしまった者はみな、このウイルスに潜在的に感染してし まったことになる。キアリアだ。しかも、ウイルスは、生命の核ともいえる遺伝子に直 てんねんとう

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258 「いや、できない てんねんとう 「それともうひとっ確認したい。山村貞子を犯した時、あんたはもう既に天然痘にかかっ ていたんだな」 長尾はうなずいた。 「てことはよお、日本で最後に天然痘に感染したのは山村貞子ってことになるんじゃねえ か ? 」 死の間際、山村貞子の身体に天然痘ウイルスが侵入したのは間違いない。しかし、彼女 はその後すぐ死んだのだ。宿主である肉体が滅べば、ウイルスも生きていることはできな 、感染したとはいえないだろう。長尾はどう答えていいかわからず、伏し目がちに竜司 の視線を避けるだけで、はっきりとした返事は返さなかった。 「おい、なにしてる ! 早く行くそ」 浅川は玄関口に立って、竜司を急かした。 「けつ、 しい思いしやがってよ 竜司は人差指でピンと長尾の鼻頭を弾くと浅川の後を追った。 理屈で説明できるわけではないが、小説を読んだり、くだらないテレビドラマを見たり じようとう の経験から、話の展開がこうなった場合の常套手段のように感じられた。しかも、展開の からだ せ はじ

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319 裏に挿入されてきた。そこを開く。瞬間、浅川の目の中にひとつの単語が段階的にグッグ ッグと拡大されて飛び込んできた。 増殖増殖増殖増殖 ウイルスの本能、それは、自分自身を増やすこと。『ウイルスは生命の機構を横取り して、自分自身を増やす』 「おおおおおお ! 浅川はすっとんきような声を上げた。オマジナイの意味にようやくつき当ったのだ。 オレがこの一週間のうちにやったこと、そして竜司がやらなかったこと、明らか じゃないか。オレはあのビデオをビラ・ロッグキャビンから持ち帰ると、ダビングして 竜司に見せた。オマジナイの中身、簡単じゃないか、だれにでもできることだ。ダビン グして人に見せること : 、まだ見てない人間に見せて増殖に手を貸してやればいいん だ。例の四人は、あんなイタズラをして、愚かにもビデオテープをビラ・ロッグキャビ ンンに置いてきてしまった。だから、わざわざ取りに戻ってオマジナイを実行しようとし やっ こ又よ、よ、。 どう考えてもそれ以外の解釈はできない。浅川は受話器を持ち上げて足利の番号を回 した。電話口に出たのは静だった。

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日が日曜日であることに気付いた。そのせいか、いつもは数珠つなぎになっている海底 トンネルにも車の数はめつきり少なく、合流地点でさえ渋滞は見られない。 この調子で いけば予定通り九時には足利の実家に着き、二本のダビングに充分な余裕をもってのそ むことができる。浅川はアクセルをゆるめた。ス。ヒードの出し過ぎで事故に巻き込まれ るほうがずっと恐かった。 隅田川沿いを走りながら下を見ると、日曜日の朝の、まだ起きたばかりの街の表情が あちこちに見受けられた。平日とは違った動きかたで、人々は歩いている。平和な日曜 日の朝 : ・ 浅川は考えてしまう。このことがどういう結果を生むのか : : : 。妻の分と、娘の分と、 二方向に分かれて放たれたウイルスは一体どのように広まってゆくのだろうか。既に一 度見た人間にコビーをつくって渡し、ある特定のグループ内で受け渡しを繰り返せば、 蔓延を防ぐことができるとも思える。しかし、それでは増殖を望むウイルスの意志に反 することになり、その機能がどういった仕組みでビデオテープに組み込まれているのか は今のところ知りようがない。知るためには実験が必要となる。果たして、命をかけて まで真実を解明しようという人間が現れるのは、かなり深刻な状態にまで蔓延してから のことになるだろう。コ。ヒーをつくって人に見せるだけで危険を回避できるとすれば、 難しい方法ではない故に人は必ず実行に移すものだ。そうして、ロコミで伝わるうちに、 「まだ見ていない人にーという条件は、必ず付される。それと、もうひとつ、おそらく まんえん じゅず

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のを義務と考えるのが当然だ。大手新聞社の記者という身分を証し、その調査目的を明確 ここはまず地元の支局に連絡をと に告げたとしても、管理人は電話では絶対に教えない。 り、コネのある弁護士を動かして宿帳を見せるよう頼んでもらうのはどうだろう、と浅川 は考えた。こんな場合、管理人が宿帳を見せる義務が出てくるのは警察と弁護士に限られ る。浅川がそういった身分を装ってもまず見破られるし、会社に迷惑がかかる。ここはち ゃんと筋を通すのが安全かっ的確だ。 しかし、その場合どうしても最低三、四日の日数がかかってしまう。浅川にはそれがも どかしかった。今、知りたいのだ。三日もがまんできないほど、事件解明にかける情熱は 強い。一体、ここから出てくるモノは何なのか。もし、四人が八月の終わりに南箱根パシ フィックランド、ビラ・ロッグキャビンで一泊したとして、そのことが原因で謎の死をと げたとしたら、一体そこで起こったことは何なのか。ウイルス、ウイルス。そいつをウィ ルスと呼ぶことが、神秘的なモノに気圧されないための強がりであることぐらいわかりき っている。超自然の力に立ち向かうのに科学の力を用いるのは、ある程度理にかなってい るのだ。わからないモノをわからないコトバで論じてもしかたがない。わからないモノは グ ンわかるコト。ハに置き換えていかねばならない。 陽子の泣き声を、浅川は思い出す。なぜ、今日の午後、あの子は鬼の顔を見て、あれほ おび ど怯えなければならなかったのか。帰りの電車の中で浅川は妻に聞いた。 「なあ、おまえ、陽子に鬼のこと教えたか」 あか

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べて死んでいたのはなぜか、辻遥子と能美武彦が狭い車の中で、互いに相手から離れるよ うにして死んでいたのはなぜか。検死の結果何も発見できなかったのはなぜか。もし、細 菌兵器が漏れ出たとすれば三番目の疑問には容易に答えることができる。その筋からの箝 こうれい ロ令が敷かれたのだ。 さて、この仮定のもとに論を進めると、被害者がこれ以上現れないという事実からも、 このウイルスが空気感染をしないということは明らかである。ェイズのように血液感染す るモノなのか、あるいは極めて感染しにくいモノなのか。そして、もっとも肝心なのは、 四人はソレを一体どこで拾ったのかということ。八月から九月にかけての四人の行動をも ふさ う一度洗い直し、共通する時間と場所を探り出さなければならない。当事者のロが塞がれ た今となっては、そう簡単に発見することはできないだろう。四人だけの秘密として、両 親や友人のだれ一人知らないことであれば探りようがない。しかし、必ず、この四人はあ る時、ある場所で、あるモノを共有したはずである。 いったん 浅川はワープロの前に座ると、正体不明のウイルスを一旦頭から払い退けた。今取材し 。記事は今日 グたばかりのノートを取り出し、カセットテープの内容を素早くまとめていく ン中に完成しなければならない。明日の日曜日は妻の静とともに義姉の大石良美宅を訪ねる ことになっていた。智子が死んだ場所を実際に目で確かめ、雰囲気がまだ残っていればそ れを肌で感じたかった。ひとり娘を亡くしたばかりの姉を慰める意味もあって静は本牧に 行くことに同意したが、 , 彼女はもちろん夫の真意を知らない。 かん

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一杯目のグラスが空になった。おかわりは少な目にした。酔いつぶれるわけこま、 。水を多く入れ、今度は水道の水で割る。危険に対する感覚が、多少麻痺してきたらし 。仕事の合間を縫ってこんな処にまでやってきた自分が愚かに思え、浅川は、メガネを はずし、顔を洗い、鏡に自分の顔を映した。病人の顔であった。ひょっとして、もう、既 に、ウイルスに感染したのではないか。浅川は作ったばかりの水割りを一気に飲み干し、 また別のを作った。 ダイニングルームから戻る時、浅川は電話台の下の棚に一冊のノートを発見した。「旅 の思い出表紙にはそう書かれている。彼はページをめくった。 四月七日土曜日 ノンコは、今日という日をけっして忘れません。な・せかは、ヒ、ミ、ツ。ュウイチって とっても優しいの、ウフフ D Z O Z O ペンションなどによく置いてある旅の思い出や感想をメモするノートであった。次のペ ージにはお父さんとお母さんの顔がへたくそに描かれている。幼児を連れた家族連れだろ う。日付は四月十四日、やはり土曜日である。 まひ