クイン - みる会図書館


検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

クインといいます。」 わたしはクイン 「おかけなさい、クインさん。」イヴシャムはいった。「こちらはリチャードⅱコンウェイ し きよう 卿、サタースウェイト氏、ポータル氏。わたしはイヴシャムです。」 しようかい 紹介がすむと、クイン氏は、イヴシャムが気をきかせて前によせてやったいすにすわっ こし ち よこいちもんじかげ た。腰をおろした位置のかげんか、ちょっとした炎の反射がその顔に横一文字の影を投げ いんしよう いっしゅん かけ、それが一瞬、黒い仮面をつけているような印象をあたえた。 まるた イヴシャムがさらに丸太を二、三本くべたした。 「一杯どうです ? 」 「ありがとう。 いただきます。」 イヴシャムはグラスを客のところへもってゆき、それをわたしながらきいた。 「このへんにはおくわしいんですか、クインさん ? 「何年かまえにもきたことがあります。」 「ほう、ほんとうですか ? 「ええ。そのころは、ここはケイベルというひとの家でした。」 「そう、そのとおりです。ーイヴシャムはいった。「気のどくなデレクⅱケイベル。あの男 きやく し かめん ほのおはんしゃ 120

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

しいはずです。美というものはーーー」 彼はいいさして、やめた。サタースウェイト氏にとっては、美とはなにか特別にすばら かた しいものを意味するのだ。それについて語ることはむずかしい。クイン氏のほうを見ると、 彼はわかったというように、おもおもしくうなずいてみせた。 まくめ 二幕目がはじまるので、二人は席にもどった。 ゅうじん ねっしん ぜんぶの幕がおわると、サタースウェイト氏は友人をかえりみて、熱心にいった。 「今夜は雨もようです。車がありますから、送らせてください そのーーーどこへなり と。」 この最後のことばは、サタースウェイト氏らしい心くばりがいわせたものだった。「お宅 まで送るでは、せんさくがましいとうけとられかねない。クイン氏は自分のことになる と、いつも、ことのほかひかえめなのだ。クイン氏については、サタースウェイト氏もお どろくほどなにも知らない。 「しかしたぶん、あなたも車を待たせておありなんでしような ? 小柄な男はつけくわえた。 「いや。」クイン氏は答えた。「車は待たせてありません。」 こんや こがら せき とくべっ たく 160

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

じんぶつ ふかかい チャーリー ーンズのほうをえらんだのだ。世のなかとは、なんとふしぎな、不可解な ところなのだろうー しむね ジリアン日ウエス このときふと、サタースウェイト氏の胸にこんな思いがきざした かいこう びばう トのこの世のものとも思われぬ美貌にであったおかげで、あの夜のクイン氏との邂逅が、 しんびてき せいさい いささか生彩を欠いたものになったのではないか、と。これまではいつも、あの神秘的な でき ) 」と 人物にでくわすときには、なにかふしぎな、予期せざる出来事が起きる結果となったもの だが。あるいは今夜あたり、うまくいくとあの謎の人物にめぐりあえるかもしれん。 サタースウェイト氏がレストラン〈アルレッキーノ〉へ足をはこぶ気になったのは、こ きたい んな期待からだった。ずっとまえに一度、このレストランでクイン氏にであったことがあ り、クイン氏もちよくちよくここへくるというのを聞いていたからだ。 きたい 〈アルレッキーノ〉の店にはいると、サタースウェイト氏はもしゃの期待にひかされて、 いちじゅん 力とこにもクイン氏のあさ里 あたりを見まわしながら部屋から部屋を一巡してみた。 : 、。 おだやかな笑みをうかべた顔はなく、かわりに、見おぼえのあるべつの顔にぶつかっ た。とある小さなテーブルに、フィリップ = ィーストニーがひとりですわっていたので ある。 こんや みせ なぞじんぶつ けつか 178

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

さいのう 本編では、ボワロは自分の才能を誇らしげに語ります。ロぐせの「わたしは偉大なる男だ」と はくしゅ いうせりふもみられます。また、ボワロは、「自分に匹敵する才能のぬしに出会ったら拍手しよう はんにんこうしゆだい かんぜんはんざい ともいいます。そして最後に、完全犯罪にやぶれた犯人を絞首台に送らねばならないことを嘆い てみせます。 どくしゃ しんし そっちよく このようなイギリス紳士らしからぬ率直さが、つつしみが美徳のイギリス読者に、かえって受 けたのでしよう。 と、つじよ、つ “クイン登場」 (The Comming of Mr. Quin) 十二月三十一日の夜のパーティの席上 ろうじん きみようちゅうねんふうふ のドラマです。サタースウェイト老人は、奇妙な中年夫婦に惹きつけられます。深く愛しあって なぞ みようあいて いる彼らなのに、妙に相手の心をさぐっているようすなのです : : : その謎を、だしぬけにあらわ やみき と はめつ れたクインが解いて、夫婦を破減からすくいだし、ふたたび夜の闇に消えていぎます。 ばうかんしゃ ものがたり じんせい 人生の傍観者であるサタースウェイト老人は、この物語ではじめて、芝居の観客の立場をすて なぞと えんぎしゃ て、演技者のようにふるまうことになりますーーーっまり、謎を解いたクインにかわって事件の真 しせん 相を語り、人びとの視線をあびる立場にたつのです。 ほんべん クイン登場ーと同じように、短編集 「ヘレンの顔」 (The Face of Helen) 本編も「ハ じけんば しゅうろく 『クイン氏の事件簿』に収録された作品です。 たんていやく かつやく この物語では、サタースウ = イト老人が探偵役として活躍します。古代ギリシアの国トロイと そう ほんべん し ひってき ひ びとく かんきやくたちば じけんしん たんべんしゅう せきじよう なげ 241

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

くろかみ せ 黒髪で背の高い、やせた人物でしよう。 「自分の好むときのほかは、だれからもその姿をかくして見えなくなれる存在です。すこし人間 じけん かんしん こいびと ばなれしていますが、人間の事件、ことに恋人たちに関心をもっています。彼は死んだ人たちの じけんば じよぶん 弁護者でもありますーと、クリスティは『クイン氏の事件簿』 ( 一九三〇年 ) の序文で語っています。 ゅうれい れんあい 肉体をもった幽霊とよぶにふさわしいクイン氏は、恋愛がらみの事件が起きそうになると、だ しゆっげん しぬけにその場に出現します。そして、愛するあまりにたがいに信じられなくなった恋人たちを むじっ つみ すくったり、無実の罪におとされた恋人を助けたりするのです。 とうじよう クイン氏が登場するとき、そこにはかならずといってよいほど、小柄なサタースウェイト老人 げんば ねこぜ たにん も現場にいあわせます。〈やや猫背で、干からびた感じの人物〉で、他人の生活ぶりに深い関心を じんせい ほうかんしゃ いだいています。いわば人生の傍観者というべき老人ですが、クイン氏のさりげないことばから、 ひげき 悲劇の裏にある真相を見ぬいて、恋人たちを助ける役をはたすことになるのです。 こうふく そうだん ハイン「あなたは幸福ですか ? そうでないかオを こよ、わたしに相談してください。 リッチモンド街一七番地 。ハイン」 べんごしゃ ページぜんぶを、ボワロ探偵の死亡記事で埋めたほどです。それほどボワロ探偵ファンが多かっ た、ということでしよう。 にくたい ー丿ー この ′ーリクイン クイン探偵役として、もっともふしぎな人物が、道化師という奇妙な名前をもつ、 すがた しんそう たんていやく たんてい ひ し じんぶつ こがら そんざい きみよう ろうじん 238

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

るまでもなく、それはありえない、自分はひとりきりだということがわかっているのだ。 しかし、クイン氏のことは頭にこびりついてはなれなかった。そしてそれとともに、あ おもくる いっしゆききかんしようそうさいやく るべつのものもーー一種の危機感、焦燥、災厄がせまっているという重苦しい感じ。なに ふきっ さっきゅう か自分のしなければならないことがあるーー・・それも早急に。なにかひどく不吉なことが起 ころうとしていて、それをふせげるかどうかは、自分のはたらきいかんにかかっているの よかん その予感はひじように強かったので、サタースウェイト氏は、それとたたかおうとする のをあきらめた。かわりに目をとじると、クイン氏の面影を、より近くへひきよせようと した。いまここでクイン氏にたずねてみることさえできたらーーだが、その考えが頭にひ きたい らめいたときには、すでにその期待があやまりであることがわかっていた。クイン氏にな事 にかをたずねて、むくいられたことはけっしてないのだ。「あやつりの糸は、すべてあなたン こんな返事がかえってくるのがせきのやまだろう。 がにぎっているのですよ。」 かんじよう いんしようちゅうい 糸。糸とはなんの ? サタースウェイト氏は、自分の感情および印象を注意ぶかく分析 げんざい きけんよかん してみた。現在のこの危険の予感。はて、だれが危険にさらされているのだろう ? じようけい がんぜん ふいに、ある情景がまざまざと眼前にうかんできた。ジリアンⅱウエストがひとり自室 おもかげ ぶんせき 183

7. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「いや、ぜんぜんそうじゃないね。」イヴシャムがするどくいった。「そんな気配はまった おおあな だんげん コンウェイのいうとおりだよ。みごと大穴をあてながら、 くなかったと断言してもいい。 たいど こううん 自分の幸運にとまどっているギャンブラー。そういう態度だった。」 こんわくみ コンウェイが困惑の身ぶりを見せていった。 「ところがだー・ーーそのわすか十分後に : : : 」 ちんもく いちどう 沈黙が一同を支配した。それから、イヴシャムがこぶしでドンとテーブルをたたいた。 お だが、それはなんだろ 「その十分間に、なにかが起こったんだ。そうにちがいないー う ? もういちど、じっくりとあのときのことを考えなおしてみようじゃないか。われわ れは話をしていた。そのさいちゅうに、ケイベルがふいに立ちあがって、部屋をでていっ こ 「なぜです ? ーと、クイン氏がいった。 こしお 話の腰を折られて、イヴシャムはまごっいたようだった。 「なんといわれたかね ? ー 「こ。こ、 『なぜ ? 』とおたずねしただけですよ。」クイン氏はいった。 きおく イヴシャムは記憶をさぐろうとして顔をしかめた。 し = クインの事件簿 131

8. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

もくじ じけんば ボワロの事件簿 す すずめばちの巣 : わ 二十四羽の黒っぐみ : ひみつ 、、ハグダッドの櫃の秘密 : じけんば クインの事件簿 とうじよう クイン登場 ヘレンの顔 ハインの事件簿 あ みようじようしようしつじけん 明けの明星消失事件 解説 せつ ひっ : 芻 じけんば 各務三郎 : かがみさぶろう

9. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

し冫しったり、コーヒーやレモネード の売り場に殺到しはじめるま そろと席を立って手洗、こ、 よゅう じようない えに、ものなれた目でひとわたり場内を見まわす余裕がもてた。 じようない ていさっ ちょうせつ オペラグラスを調節したサタースウェイト氏は、それで場内を偵察して、これそという しゆっげき よういしゅうとうさくせんむね 獲物にねらいをつけた。そして、用意周到な作戦を胸に、勇んで出撃していったのだが ふ」、つ さくせんじっこう ーーー幸か不幸か、その作戦を実行するまでにはいたらなかった。というのは、ポックスを ちょうしん かみ でたすぐのところで、ひとりの長身の、髪の黒い男につきあたり、その男がだれであるか こうふん 見てとって、たちまち、胸のわくわくするような興奮にとらえられてしまったからである。 「クインさんじゃありませんか」と、サタースウェイト氏は叫んだ。 叫びながら彼は、友人の手をかたくにぎったが、そのにぎりかたたるや、まるで相手が、 けむり いまにも煙のように消えうせてしまわないかとおそれているかのようだった。 「ぜひ、わたしのポックスにおいでいただきたいですな」と、サタースウェイト氏は断固 ちょうし たる調子でいった。「お連れはないんでしよう ? 」 ひらどま 「ありません。平土間にひとりでいますよ。」 し クイン氏はほほえみながら答えた。 「じゃあ、きまりましたな。」 えもの せき てあら ゅうじん き っ むね し し さっとう = クインの事件簿 151

10. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

きみよう クイン氏は笑った。それは奇妙な笑いだった。あざけるような、それでいて悲しけな笑 いちどう いだ。それは一同をぎくりとさせた。 「申しわけありません。」彼はいった。「しかし、イヴシャムさん、あなたはまだ過去に生 せんにゆうかん きておられる。まだ先入観にとらわれておいでになる。ですがわたしはーーー部外者であ じじっ り、とおりがかりの人間にすぎない。わたしはただーーー事実だけを見ます。」 じじっ 「事実を ? 」 「さようーー事実をです。」 「どういう意味です ? 」イヴシャムがいった じじっ 「みなさんの話された事実と事実をつなげると、全体がひとつづきのものとして見えてき 簿 ます。みなさんはその意味するものに気づいておられない。十年まえに立ちかえり、そこ事 の いけんかんしようさゆう ン に見えているものを見てごらんなさいーー個人的な意見や感傷に左右されない、あるがま イ ク まの事実を。 ちょうしん いちどう すがた クイン氏は立ちあがった。一同の目には、その姿がひじように長身に見えた。その背後 だんろ では、暖炉の火がちらちらおどっている。低い、おさえつけるような声で、クイン氏は話 しだした。 し わら し ひく こじんてき かな ぶがいしゃ 141