ケイベル - みる会図書館


検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

まど リチャード日コンウェイ卿のお話によると、窓のカーテンはひいてなかったということで まど くるままわ すし、窓ごしに車回しを見おろせるわけです。彼はなにを見たのでしよう ? そこで見た じさっ どんなものが、彼を自殺に追いやったのでしよう ? 「というと ? なにを見たのです ? けいかん 「わたしはこう思います。ークイン氏はいった。「彼は警官を見たのだと。犬のことでやっ けいかんすがた てきた警官の姿を見たのです。ですがデレク日ケイベルには、そういう用事できたという けいかん ことはわからなかった ただ警官がやってくるのが見えただけです。」 りかい かんぜん 長い沈黙があったーーーさながら、その意味するところを完全に理解するには、しばらく かかるとでもいうようだった。 「なんてこった。」ややあって、ようやくイヴシャムがかすれた声でいった。「まさかそん事 なことが ? ケイベルがあのアプルトンを ? しかし、アプルトンが死んだとき、ケ ろうじんさいくん イベルはそこにはいなかったんだ。老人は細君と二人きりだったんだ いたんじゃありませんか ? ストリキニーネは、塩酸塩の状 「しかし、一週間まえには、 たい ようかい 態でないと、かなり溶解しにくい物質です。ポートワインに入れた場合、大部分はびんの 最後の一杯にとけこむでしよう。おそらくは彼が去って一週間後ぐらいにね。 ちんもく きよう ぶっしつ だいぶぶん えんさんえんじよう 143

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

クインといいます。」 わたしはクイン 「おかけなさい、クインさん。」イヴシャムはいった。「こちらはリチャードⅱコンウェイ し きよう 卿、サタースウェイト氏、ポータル氏。わたしはイヴシャムです。」 しようかい 紹介がすむと、クイン氏は、イヴシャムが気をきかせて前によせてやったいすにすわっ こし ち よこいちもんじかげ た。腰をおろした位置のかげんか、ちょっとした炎の反射がその顔に横一文字の影を投げ いんしよう いっしゅん かけ、それが一瞬、黒い仮面をつけているような印象をあたえた。 まるた イヴシャムがさらに丸太を二、三本くべたした。 「一杯どうです ? 」 「ありがとう。 いただきます。」 イヴシャムはグラスを客のところへもってゆき、それをわたしながらきいた。 「このへんにはおくわしいんですか、クインさん ? 「何年かまえにもきたことがあります。」 「ほう、ほんとうですか ? 「ええ。そのころは、ここはケイベルというひとの家でした。」 「そう、そのとおりです。ーイヴシャムはいった。「気のどくなデレクⅱケイベル。あの男 きやく し かめん ほのおはんしゃ 120

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

あれはデレク日ケイベルのことをいっているのだろうか、それともそれにかこつけて、 自分のことをいっているのだろうか ? 彼を観察していたサタースウェイト氏は、どうも あとのほうらしいと思わずにはいられなかった。そうだ、それがまさにアレック日ポータ やくわり うんめいちょうせん そうぞうりよく ルの演じている役割なのだ。ーー・運命に挑戦する男。酒のせいでにごっていた想像力が、い きようめい そう まとっぜん、この会話のなかのひびきと共鳴しあい、それまでひそかにあたためていた想 ねん 念をよびさましたのだ。 彼女はまだそここ サタースウェイト氏は、ちらと上を見た。 , 冫いた。見まもり、耳をそば しにん だてているーーーあいかわらず凍りついたようにうごかず、死人のように身じろぎもせず。 、こうふん 「まったくそのとおりだ」と、コンウェイがいった。「ケイベルはたしかに興奮していた あっとうてき 異様なほど、といっても、 しい。いうなれば、大きな賭けをした男が、圧倒的なハンディ をくつがえして勝った、とでもいったところかな。」 「でなければ、なにかやろうと心にきめたことがあって、それにたいして勇気をふるいお こそうとしていたのかもしれない。」 ポータルがほのめかした。そして、まるで自分のことばに触発されたかのように、席を ても 立っと、またしてもお手盛りで自分のグラスをみたした。 えん こお かんさっ しよくはっ ゅうき せき 130

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ようじ 「さあて、たいした用事とも思わなかったがーーあのときはだ。そうだ ! 思いだしたそ 郵便だ。みんな、おぼえていないかーーーあの威勢の、 しいベルの音がして、いあわせた かっき ものみんなが活気づいたのを ? なにしろ三日も雪に降りこめられていたんだからね。何 きろくてき どうろ ふつうしんぶん 年来という記録的な大雪でさ。道路は不通。新聞はこない。郵便もこない。それが、やっ となにかとどいたというんで、ケイベルが見にいった。 ゅうびんたば とどいたのは、山のような新聞と郵便の束だった。彼は新聞をひらいて、なにかニュー じゅうせい スはないかと目をとおした。それから、手紙をもって二階へあがった。三分後にーーー銃声 ふかかい だ。わからんーーーまったく不可解だ。」 ふかかい 「不可解とはいえないんじゃないかな。」そういったのはポータルだった。「あきらかに彼 は、手紙でなにか思いがけない知らせをうけたんだ。もちろんそうだよ、そうにきまっ てる。」 「やれやれ ! そんなわかりきったことを、われわれが見のがすと思うのか ? 検死官が 最初にたずねたのもそれさ。ところがケイベルは、まだ一通も手紙を開封していなかった けしようだい んだ。うけとったのが、そっくりそのまま化粧台の上にのっていたよ。」 ポータルは見るからにがっかりした顔をした。 ゅうびん いせい ゅうびん けんしかん 132

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

はっぴょう 「みなさんは夕食の席にいます。ケイベルが婚約を発表します。そのときはみなさんは、 かくしん その相手をマージョリーⅡディルクだと思う。だがいまは、それほどの確信はおありにな こうふん うんめい ちょうせん らない。彼はそわそわした、興奮したようすをしていて、さながら運命に挑戦して、まん あっとうてき まと成功した男のようだったーーーみなさんのことばをかりれば、圧倒的なハンディをくっ おおあな がえして、みごと大穴をあてた男です。それから、ベルが鳴りひびく。彼は席を立って、 はいたっ ゅうびんぶつ かいふう ひさしぶりに配達された郵便物をうけとりにゆく。うけとった手紙を開封はしないが、ど なたかがおっしやったとおり、その場で新聞をひろげて、ニュースを読む。 これは十年まえのことですーーしたがって、その日のニ = ースがなんであったか、いま えんばう じしん てぢかせいじきき では知るよしもありません。遠方の地震かもしれないし、手近な政治危機かもしれない。 しめん とにかくわれわれにわかっているのは、その紙面に小さな記事がのっていたということだ けーーーっまり、三日まえに、アプルトン氏の死体発掘許可を内務省がくだしたという記事 です。」 「なんですって ? 」 クイン氏はかまわずつづけた。 じしつ 「デレクⅱケイベルは二階の自室へ あいて せいこう し せき まど いく。そしてそこから、窓の外に、あるものを見る。 こんやく せき 142

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

のそみますわ。なにしろ、子どもというのはなにをしでかすかわからないんですもの。こ ういうときになると、すっかりはしゃいじゃいましてね。 ふきつよかん ー・ローラはしずしずと階段を いいたげに首をふりながら、レディ 不吉な予感がすると のぼっていった。 ふじんれん ご婦人連のいなくなったところで、あらためていすが、あかあかと丸太の燃えさかる大 きな炉ばたをかこんでひきよせられた。 おうよう 「どれくらいつぐか、し 、ってくれーと、イヴシャムが主人役らしく鷹揚にいって、ウイス キーのデキャンターをさしあげてみせた。 わだい めいめいに酒がゆきわたると、話題はしぜんに、それまでタブーとなっていたところへ もどっていった。 「あんた、。 テレクⅱケイベルは知ってるだろう ? ・ーと、コンウェイがサタースウェイト氏 に話しかけた。 「ああ いくらかね。」 「じゃあ、きみは、ポータル ? 」 「いや、会ったこともない。」 ろ さけ しゅじんやく まるた かいだん し = クインの事件簿 115

7. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「いや、ぜんぜんそうじゃないね。」イヴシャムがするどくいった。「そんな気配はまった おおあな だんげん コンウェイのいうとおりだよ。みごと大穴をあてながら、 くなかったと断言してもいい。 たいど こううん 自分の幸運にとまどっているギャンブラー。そういう態度だった。」 こんわくみ コンウェイが困惑の身ぶりを見せていった。 「ところがだー・ーーそのわすか十分後に : : : 」 ちんもく いちどう 沈黙が一同を支配した。それから、イヴシャムがこぶしでドンとテーブルをたたいた。 お だが、それはなんだろ 「その十分間に、なにかが起こったんだ。そうにちがいないー う ? もういちど、じっくりとあのときのことを考えなおしてみようじゃないか。われわ れは話をしていた。そのさいちゅうに、ケイベルがふいに立ちあがって、部屋をでていっ こ 「なぜです ? ーと、クイン氏がいった。 こしお 話の腰を折られて、イヴシャムはまごっいたようだった。 「なんといわれたかね ? ー 「こ。こ、 『なぜ ? 』とおたずねしただけですよ。」クイン氏はいった。 きおく イヴシャムは記憶をさぐろうとして顔をしかめた。 し = クインの事件簿 131

8. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ふじんほうてい プルトン夫人は法廷にひきだされた。けつきよくは放免されたが、それは絶対的な無実の しようこ しようこふじゅうぶん 証拠があったためじゃなく、たんに証拠不十分というにすぎなかったんだ。いいかえれ うん しやくほう ば、運がよかったのさ。彼女がやったということはまずまちがいない。釈放されたあと、 どうなったんだったかな ? 」 「なんでもカナダにいったそうだ。いや、オーストラリアだったかな ? いずれにせよ、 おじき じじよう そこに伯父貴かなにかがいて、ひきとられたらしい。まあ事情が事青だから、それがいち ばんよかったんじゃないかな。」 し サタースウェイト氏は、グラスをにぎっているアレックポータルの右手に目をとめた。 なんとまあ、かたくにぎりしめているんだろうー ( 気をつけないと、そのうちそれをにぎりつぶしてしまうそ、きみ ) と、サタースウェイ ト氏は思った。 ( それにしても、こうも話がおもしろくなってくるとは。 ) イヴシャムが立ちあがって、自分のグラスに酒をついだ。 じさっ 「けつきよくのところ、気のどくなデレクⅱケイベルがなぜ自殺したのか、そこのところ きゅうめい の究明はあまりすすまなかったわけだ。彼はいった。「そうでしよう、クインさん、この しんもん 審問は、さほどの成果をあげなかったようですな ? ほうめん ぜったいてきむじっ 140

9. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「いえ、けっこうです。いすをすこしうしろへずらしますから。」 なんていい声なんだろうーーー・例の低い、ささやくような、それでいて、いちど聞いたら きおく 彼女の顔はいまかげに いつまでも記憶にのこる声だ、そうサタースウェイト氏は思った。 , ざんねん なっている。残念しごくだ。 せき そのかげになった席から、彼女があらためてたずねた。 「その ケイベルさんとおっしやるのは ? 」 じさっ 「ええ。この家のもとのもちぬしでしてね。。ヒストル自殺をなさいましたの。ええ、ええ、 わかってますよ、トム。あなたがおいやなら、この話はやめることにしましよう。ほんと じけん に、トムにはひどいショックでしたわ。なにしろ、事件が起こったとき、この家にいあわ せたんですから。あなたも、でしたわね、リチャード卿 ? 「ええ、そうです。」 ゆかお どけい このとき、部屋のすみにおかれた大きな時代ものの箱入り床置き時計がうめきだし、ひ としきり、ぜんそく病みのようにぜいぜいうなったあげくに、おもむろに十二時を打った。 ちょうし 「新年おめでとう」と、イヴシャムがおざなりな調子でいった。 あみもの レディ ー・ローラはひざにひろげていた編物を、どこかわざとらしい手つきでゆっくり しんねん へや じだい きよう 112

10. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

つうかいふう 「たしかかね、一通も開封していなかったというのは ? 読んだあとで、破りすててし まったのかもしれんじゃないか。」 「いや、その点はまちがいない。たしかにそれがしぜんな見かたかもしれんがね。だがま しようきやく ゃぶ けいせき つうかいふう ちがいなく、手紙は一通も開封していなかったし、破りすてた形跡も、焼却した形跡もな その部屋には火の気はなかったんだ。」 ポータルは首をかしげた。 「おかしな話だな。」 じゅうせい じけん 「とにかくいっさいがいやな事件だった。」イヴシャムは声をおとしていった。「銃声を 聞くとすぐ、コンウェイとわたしは二階へかけあがった。そして、ケイベルがたおれてい 簿 件 るのを発見した ショックだったよ、じつに。 事 の 、つ て けいさつでんわ 「すると、警察に電話するよりほかに、打つ手はなかったというわけですな ? 」と、クイン ク ン氏がいった。 だいどころ ちゅうざい けいかん 「いや、ちょうどおりよく、というか、駐在の警官がそのとき台所にきあわせていてね。 か ほら、お・ほえているだろう、コンウェイ、あのローヴァーのやつだ 飼いだの一びきが にばしゃ ゆくえふめい よーーーそれがまえの日から行方不明になってたんだが、とおりがかりの荷馬車ひきが、半 し ぬ はつけん ゃぶ 133