サタースウ - みる会図書館


検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

もののもっ魅力があって、どんな相手でもーー・どんな男でもそれを見のがすことはあるま し サタースウェイト氏の男性としての一面はそうささやく。 どうじ たぶん だが、女性的な面 ( 彼には多分に女性的な要素があった ) は、同時にもうひとつの問題 そ ふじんかみ かんしん にも関心をいだいているーーーなぜポータル夫人は髪を染めているのだろう ? そ ほかの男ならば、たぶん髪を染めているのには気がっかなかったろう。だがサタース けしよ、つ じよせい ウェイト氏は気がついた。女性の化粧とか、そういったことにはくわしいのだ。それにし そ ても、ちょっとおかしい。黒い髪の女性が金髪に染めることはよくある。しかし、金髪の 女性が、わざわざ髪を黒く染めているのにであったのははじめてだ。 きみようちょっかん し こうきしん 彼女のすべてが、サタースウ = イト氏の好奇心をかきたてた。奇妙な直観が彼に、彼女 簿 ふこう こうふく はひじように幸福であるか、さもなければ、ひじように不幸であるかのどちらかにちがい事 かた ン と語っているーーーだが、どちらかはわからない。そのわからないことが彼をなやま イ きみようえいきようりよく ク せた。さらにふしぎなのは、彼女が夫にたいして奇妙な影響力をもっていることだ。 しむね ( 彼は細君にそっこんまいっている ) と、サタースウ = イト氏は胸のうちでつぶやいた。 ( にもかかわらす、ときどきー・ー、そう、彼女をおそれているようなそぶりを見せる。ひじよ うにおもしろい。なんともはや、たいへんおもしろい。 ) さいくん じよせいてきめん みりよく だんせい かみ かみ おっと いちめん きんばっ ようそ もんだい 109

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

大晦日の夜だった。ロイストン荘のホーム・ ーティーに出席した客たちは、全員、大 ひろま 広間にあつまっていた。 きやく 客のひとり、サタースウ = イト氏は、子どもたちが寝てしまったのでほっとしていた。 にがて しゅうだん おおぜいの子どもにわいわいさわがれるのは、どうも苦手だった。集団ともなると、子ど みりよく そんざい もは魅力のない、そうそうしい存在になる。繊細さにも欠ける。年をとるにつれて、サター にんじようきび スウェイト氏は、人情の機微というものを愛するようになっていた。 サタースウ = イト氏は六十二歳・ーーやや猫背で、干からびた感じである。人をうかがう きみよう かんしん ような顔つきが、奇妙に小鬼じみていて、他人の人生になみはずれた強い関心をもってい しようがい かんきやくせきさいぜんれつ る。生涯をつうじて、いわば観客席の最前列で、目のまえにくりひろげられるさまざま おおみそか と、つじ、よ、つ 日クイン登場 し こおに そう し ねこぜ たにんじんせい せんさい しゆっせき きやく ぜんいんおお 106

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

じさっ 「また例の自殺だろう、きっと。」彼はうんざりしたようにつぶやいた。「よくここらでは 自殺がありましてね。」 りゅう 「きっとそれそれに理由があるんだろうよ。ーサタースウェイト氏はいった。 けいかん 「金ですよ、たいがいはね」と、警官はいった。「ときにそれが女のこともある。」彼は歩 と、つにん きだそうとして、つけたした。「かならずしも当人たちの罪じゃないんでしようがね 女のなかには、いろいろやっかい事の種をまきちらすのがいますからね。」 「そう、なかにはねーと、サタースウ = イト氏はおだやかにあいづちをうった。 きり けいかん 警官が立ちさると、彼は、たちこめてくる霧のなかで、河岸のべンチに腰をおろした。 しゆくふく びばう そうしてトロイのヘレンのことを考え、もしゃ彼女は、そのすばらしい美貌のために祝福 ぜんりよう のろ されたにせよ、また呪われたにせよ、じつはただの善良な、平凡な女ではなかったかと思事 うのだった。 かね ごとたね つみ 193

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

さっ サタースウェイト氏は、オペラ座の広いポックス席にただひとりすわっていた。桟敷席 だんめ の一段目にあるその専用のポックスのとびらの外がわには、サタースウ = イト氏の名が印 刷されたカードがはってある。 げいじゅっあいこうしゃ 彼はすべての芸術の愛好者であり、目ききであったが、とりわけ好んでいるのは、よい事 かげきじようていきかいいん 音楽で、毎年かならずコヴ = ント・ガーデン歌劇場の定期会員として、シーズンをとおしン よやく て火曜と金曜の夜のポックス席を予約していた。 こがらしやこうす とはいえ、彼がひとりきりでこの桟敷にすわることはめったになかった。小柄な社交好 じよう しやこうなかま せき しんし きな紳士であるサタースウェイト氏は、いつもこの席へ、社交の仲間である選りぬきの上 げいじゅっか しようたい りゅうしんし 流紳士たちを招待したがったからだ。このことはまた、有名な芸術家たちのあいだでも ヘレンの顔 せんよう さじき せき ゅうめい この さじきせき いん 149

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

もんだい しんばい 『ファウスト』からだから心配はいらない。問題は〈羊飼いの歌〉だ。あれは、くりかえし なにをする ? のところで高く叫ぶような声をだす。その声がおそらくーーおそらく がくおんばいおんはんおん そうねんまんげきよう ふたたび、さまざまな想念が万華鏡のように回転しはじめた。楽音、倍音、半音。こう いったことにはあまりくわしくない。しかし、イースト = ーはくわしい。ああ神よ、どう かまに亠めいます - ようにー わかうんどうせんしゅ タクシーがとまった。サタースウ = イト氏はひらりととびおりると、若い運動選手顔ま けのいきおいで、息もつがず石の階段を三階までかけあがった。部屋のとびらはわずかに ひらいていた。それをおしあけると、高らかなテノールの歌声が彼をむかえた。〈羊飼いの じようきよう 歌〉の歌詞は、これほどとっぴでない状況のもとで、これまで何度も聞いてよくおぼえて いるものだった。 ひつじか 見よ羊飼いよおまえの馬のなびくたてがみを しめた、まにあったそ。彼は居間のとびらをおしあけた。ジリアンは、暖炉のそばの背 の高いいすにすわっていた。 かいだん かいてん ひつじか だんろ かみ ひつじか せ = クインの事件簿 187

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「わたしの車です。おいやでなければ、お宅までお送りしますよ。 むすめ - 彼のいやしからぬ物腰風采が、好印象を 娘はさぐるようにサタースウ = イト氏を見た。 , えしやく 彼女は会釈して、「ありがとうございますーというと、マスターズが あたえたようだった。 , ドアをあけて待っている車に乗りこんだ。 サタースウェイト氏の尸 いに答えて、彼女はチェルシー地区の、ある番地を告げた。サ タースウェイト氏も乗りこんで、彼女のとなりにすわった。 じようたい 彼女は気が転倒していて、とても話のできる状態ではなかったし、サタースウェイト氏 ものおも も、彼女の物思いに割りこんでゆくほど心ない男ではなかった。それでも、しばらくたっ いくぶん気もしずまったのか、彼女はむきなおって、自分から話しだした。 ぐれつ 「じっさい、人間ってどうしてこう愚劣なんでしようねえ ? 「こまったものですな。」サタースウェイト氏はあいづちをうった。 あんしん じっさいてきたいど 彼の実際的な態度に安心したのか、それとも、だれかにうちあけずにはいられなかった のか、彼女はきゅうにいきおいこんでしゃべりはじめた。 えね、つまりこういうことなんですの。ィーストニーさん 「なにもあたしがわざと とあたしは、古くからのお友だちですーーーあたしがロンドンにきて以来、ずっとおっきあ てんとう たく ものごしふうさい ばんち こういんしよう = クインの事件簿 163

7. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ちばし ポータルが前にとびだした。声はしわがれ、目は血走っていた。 わ 「だったらなぜ彼女はデキャンターを割ったんだ ? なぜ割ったんです ? それを聞かせ てください。」 その夜はじめて、クイン氏はサタースウェイト氏にむきなおり、話しかけた。 ゆた じんせいけいけん 「あなたは豊かな人生経験をおもちだ。それをみなさんに話してあげてくださいますか ? 」 でばん サタースウ = イト氏の声はわずかにふるえた。やっと出番がきたのだ。彼はこの芝居の じゅうようせりふ ようせい はいゅ、つ かんきやく もっとも重要な台詞を述べるように要請されている。いまや彼は俳優なのだーーー観客で はないのだ。 サタースウェイト氏はひかえめにいっこ。 「わたしの見たところ、彼女はデレクⅡケイベルに・ーー好意をもっていた。たぶん、貞淑 おっとな な女性だったのでしよう だから彼を遠ざけた。だが、まもなく夫が亡くなると、彼女 ふりしよ、つこ は真相に気づいた。そこで、すこしでも愛する男をかばうため、彼に不利な証拠をけそう こんきょ うたが なっとく けっこん とした。その後、彼は、その疑いは根拠のないものだということを納得させ、彼女は結婚 しようだく を承諾した。しかし、 いったん承諾してからも、まだためらっていたーーー女性の直感はす るどいといいますからな。」 じよせい しんそう し の し ちょっかん ていしゆく 144

8. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

かんしゃ 、こよとても感激した、あなたのことはいつまでも感謝 て答えましたわ。あなたの心づかし冫 あいじよう と愛情をもって思いだすだろうって。」 し ないしん サタースウェイト氏はうなずいたが、内むでは首をかしげていた。彼は、ひとの性格を はんだん 見ぬくのに、めったにあやまりをおかしたことはない。そして彼の判断によれば、フィ かんしようてき せいねん リップィーストニーという青年は、そのような感傷的なことをいいだすような性格で はまったくないのだ。 へいほんじんぶつ してみるとあの青年は、サタースウ = イト氏が考えたのよりは平凡な人物だったのか。 ジリアンはあきらかに、そういう思いっきが、フィリップという男の性格とまったく矛盾 していないと考えている。 じしんかんしようか しつばう し ほんのちょっとーーー失望した。彼自身も感傷家だ事 サタースウェイト氏は、ちょっと の せけん し、それは自分でもよくこころえている。しかし、自分以外の世間は、もうちょっとりこ イ かんしよう うであるように思いこんでいたのだ。のみならず、感傷などというものは、自分のような = つうよう よ げんざい 年代のものにこそふさわしい。現在の世のなかでは、そんなものは通用しないのだ。 おう サタースウェイト氏は、ジリアンに歌を聞かせてほしいとたのみ、彼女は応じた。聞き みりよくてき おわると彼は、あなたの声は魅力的だとほめたが、心のなかでは、どうひいきめに見て ねんだい かんげき せいかく せいかく むじゅん 175

9. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

しきようみ ふさい サタースウェイト氏の興味をひいたのは、このポータル夫妻だった。 しょたいめん アレック日ポータルとはこれが初対面だったが、この男のことはすっかりわかっていた。 じしん てんけい 父や祖父とも知りあいだったし、アレック自身も、そのタイプの男の典型といっていい。 けとくゆ、つ す しよ、つぶ 年は四十にちかく、ポータル家特有の金髪に青い目、スポーツや賭事が好きで、勝負に強 そうぞうりよくひんこん ぜんりよう く、だが想像力は貧困である。どこにもかわったところなどない : さらにある善良かっ健 えいこくじんけっとう 全な、よき英国人の血統だ。 し だが細君はそうではなかった。サタースウェイト氏の見たところ、どうやらオーストラ リア人らしい。ポータルは二年まえにオーストラリアへいき、そこで彼女と知りあって結 けっこん 婚し、故国へつれてかえってきたのだ。 , 彼女は結婚するまでイギリスにきたことがなかっ た。にもかかわらす彼女には、サタースウ = イト氏の知っている、どのオーストラリア女 性ともちがったところがあった。 いまサタースウェイト氏は、ひそかに彼女を観察していた。 きようみ じつに興味ぶかい女性だ。ものしずかで、それでいてひじように いきいきしている。 そう、それたー まさしく、いいしているということばがびったりだー かならずし びじん ましよう も美人ではない そう、彼女を美人とよぶことはできないだろう。が、ある種の魔性の ぜん こん さいくん じよせい し きんばっ かんさっ かけ ) 」と しゅ けん 108

10. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

つうこうにん しゅんかん この瞬間に、サタースウェイト氏は、通行人の目から見れば、ふいに気がくるったとし しんぶんやぶ こうどう ま一度、新聞を破れんばかりのいきおいでひらくと、ラジ か思われない行動をとった。い がいろ ばんぐみらんいちへつ オの番組欄を一瞥し、しずかな街路を死にものぐるいに走りだしたのだ。通りのはずれで、 ゆっくり走ってくるタクシーを見つけた彼は、それにとびのるなり行く先を告げ、ついで もんだい に、生死にかかわる問題だ、いそいでくれとどなった。 かねも 運転手は彼のようすを見て、頭はおかしいらしいが金持ちらしいと見てとり、せいいっ ようきゅう ばいその要求にこたえる努力をした。 だんべんてきそうねん ざせきせ サタースウ = イト氏は座席の背にもたれた。頭のなかは、さまざまな断片的な想念で かがくちしき がくせいじだい 、つばいだった。学生時代にならったうろお・ほえの科学知識、今夜ィーストニーの使った しゅうき ′」くきようめい しぜんしゅうき たしか、 語句。共鳴ーーー自然周期ーー・もしもある力の周期が自然周期と一致すれば ほちょう しゅう こうしん つばしかん 吊り橋に関した例があったーー兵隊が吊り橋の上を行進する。そして彼らの歩調が橋の周 もんだい けんきゅう き : ィーストニーはその問題を研究していた。ィーストニーは知ってい 期と一致すると : てんさい る。そしてイーストニーは天才なのだ。 ほうそう ョアシ = ビンが放送するのは十時四十五分。ちょうどいまだ。そう。しかし、最初は うんてんしゅ 0 し どりよく へいたい し し つばし こんや っ 186