ポインツ - みる会図書館


検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

にはことのほか気をくばっていて、ズボンの折り目やボタンひとつにいたるまで、神経が せん ゆきとどいている。髪は黒く、膚あさ黒く、どこか東洋ふうのおもざしが、びんとした船 員帽のひさしの下からのそいている。 かんきよう また、彼の環境についていうと、これは現在の連れを意味すると解釈してもよいだろう きようふさい きようどうけいえいしゃ が、まずは共同経営者のレオⅡスタイン氏、つぎにジョージマロウェイ卿夫妻、アメリ じよがくせい まなむすめ じつぎようか 力の実業家サミエルレザーン氏と、その愛娘 , ーー・・これはまだ女学生で、イーヴとよば せいねん れているーーーそれに、ラスティントン夫人と、エヴァン日ルウエリンという青年。 ) 」う じようりく いっこう 一行はついいましがた、ポインツ氏のヨット、メリメイド号から上陸したところだっ ふんいき みなとまっ けんぶつ た。午前中はヨットレースを見物し、そのあと、しばらく港祭りの雰囲気をたのしむため 簿 り ) 、 にんげんぐも みせものかいてんもくば みな に、陸へあがったのだ。やしの実投げ、でぶ女や人間蜘蛛の見世物、回転木馬など、さま事 の ゅうきようしせつのき ン ざまな遊興施設が軒をならべている。 イ これらをだれよりもたのしんでいるのが、イーヴレザーンであることは、うたがう余 ち ホインツ氏がそろそろロイヤル・ジョージ・ホテルへひきあげて、食事にカ 地がなかった。。、 めい しよ、つと いいだしたとき、ただひとり反対の声をあげたのが彼女だったことも、それを明 はくかた 白に語っていた。 いんばう かみ はだ し はんたい ふじん し げんざい お っ め とうよう かいしやく しんけい よ 197

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「あら、ポインツのおじさまーーーあたし、幌馬車に乗った本物のジプシーに、運勢をうら なってもらおうとたのしみにしてたのに。」 し ほんもの ぎわく ポインツ氏は、その本物のジプシーとやらの正体に疑惑をもってはいたが、ここでは、 むすめ この娘のわがままに一歩ゆずらざるをえなかった。 べんかい 彼女の父親が弁解がましくいった。 むちゅう 「娘はこういう祭りとなると夢中でしてな。しかし、早くホテルへおいでになりたいん どっこら、どうカこいつにはおかまいなく。」 あいそう じよう 「いや、時間はたつぶりありますよ。」ポインツ氏は愛想よくいった。「お嬢さんには気の な すむまでたのしませてあげましよう。われわれはそれまで投げ矢でもするとするかね、レ オ ? ・ や きどばんはな 投げ矢の小屋では、木戸番が鼻にかかった声で、うたうようにいっていた。 しようひん 「二十五点以上とったかたには、賞品をさしあげますよ。」 ポインツ - 氏はいっこ。 そうごうてんか 「どうだね、レオ、総合点で勝ったほうが五ポンド いただきというのは ? 」 くちょうおう 「よしきた」と、スタインがきびきびした口調で応じた。 むすめ な し こや いじよう まっ ほろばしゃの しようたい ほんもの や うんせい 198

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「おい、イーヴ、まさかのみこんじまったんしゃあるまいな ? レザーン氏がたまりかね たようにいった。「そんなまねをしたら、からだをこわしちまうそ。」 「のみこめば、わたしが気づいたはずです」と、レオⅡスタインがしすかにいった。「ずつ じよう とお嬢さんのようすを見てましたが、ロもとには手もあけませんでしたからね。」 「あんなごっごっしたもの、のみこめるわけがないじゃない。」イーヴはいって、両手を こし 腰にあてがうと、ポインツ氏をながめた。「さあ、どうなさる、おじさま ? 「そこに立っててください。うごくんじゃありませんよ。」ポインツ氏はいっこ。 じよせい それから男たちは、女性の手をかりずにテーブルの上のものをかたづけ、それをひっく にゆうねん りかえした。すみずみまで入念にあらためてから、ポインツ氏はさらに、イーヴが腰かけ 簿 件 ていたのと、その両どなりのいすに注意をむけた。 事 の しな そうさくかんべき 捜索は完璧におこなわれたが、もとめる品はでてこなかった。他の四人の男も手をかし、ン かべ ついたて じよせい くわ さらに女性たちも加わった。そのあいだイーヴⅱレザーンは、衝立に近い壁ぎわに立って、 わら ひとり得意そうに笑っていた。 ひく 五分後、ポインツ氏は低くうなりながら身を起こし、うかぬ顔つきでズボンのちりをは らった。さいぜんまでのいきおいはどこかへ消えていた。 とく ちゅうい こし 215 カ

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

かんそう きようどうけいえいしゃ きた。このとき、じつはレオのほうでも、共同経営者にたいしておなじ感想をいだいてい ほとけ いわしの たところなのだが、知らぬが仏のポインツ氏、上きげんにレザーン氏にむかい、 ほんば 本場はコーンウォールではなくデヴォンなのだと訂正したり、食事をたのしむ心がまえを 説いたりしていた。 かくじ 湯気のたっさばが各自のまえにおかれ、ウェイターたちがひきさがったところで、イー ヴがいった。 「ねえ、ポインツのおじさま。」 じよう 「なんですか、お嬢さん ? 「いまもあの大きなダイヤモンド、もっていらっしやる ? ゅうべ見せてくれて、いつも はだみ 膚身はなさずもっているとおっしやった、あれよ。」 ポインツ氏はくつくと笑った。 「もっていますよ。わたしのマスコットですからね。片時もはなしたことはありません。」 「あぶない話ね。さっきの人ごみのなかで、よく盗まれなかったものだわ。」 ようじん 「盗まれるようなへまはしませんよ。用心に用心をかさねていますからな。」 、よった。「ギャングがいるのはアメリカだ 「でも、万一つてこともあるわ。」イーヴよ、 ぬす わら じよう ていせい ぬす かたとき = パインの事件簿 205

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

しゅ かくせいき の小屋が三つもあって、それそれがべつの音楽を拡声器から流している。 まど 「窓をしめよう。これでは話もでぎない。」 まど し ポインツ氏がふきげんにいって、自分から窓をしめにいっこ。 いちどう 一同がテーブルをかこんで席につくと、ポインツ氏は満面に笑みをたたえて客たちを見 じしん まわした。この客たちをじゅうぶんにもてなしているという自信があったし、そのうえ、 よろこ しせんじゅん 彼の視線が順ぐりに客のうえにとまった。 ひとをもてなすのがなによりの喜びでもあった。 / かんぜんほんもの じようりゅうふじん きようふじん りつばな上流夫人だ。むろん、完全な本物とはいえない。 まず、マロウェイ卿夫人 じん クレム・ド・ラ・クレム いっしよう それはよくわかっているーー、彼が一生をつうじて〈社交界の粋〉とよびならわしてきた人 しようち そんざい ふさい 種は、マロウ = ィ夫妻などとはほど遠い存在だということは、じゅうぶん承知のうえだ。 簿 し いちりゅうじんし しかし、そうよばれるほどの一流人士となると、むこうがポインツ氏を相手にしてくれ事 の ン / . し イ きようふじん いきびじん だから、たまにブリッジでい ともあれ、マロウェイ卿夫人はすばらしく粋な美人だ きよう かさまをやることがあっても、大目に見ることにしている。だが、ジョージ卿にはそんなカ まねはさせない。見るからにこすからそうな目をして、金もうけとなると、どんなことで ばあい . し、刀十 / もやりかねない男だ。しかし、このアイザックⅱポインツが相手の場合は、そうま、 こや せき おおめ え まんめん かね あいて きやく 203

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

さけごえはっ ろたえた叫び声を発した。 「あら ! 落としちゃったわー 彼女はいすをうしろにおしやると、かがみこんでテーブルの下をさぐった。 / 彼女の右ど きよう なりの席にいたジョージ卿も、テーブルの下をのぞきこんだ。そのさわぎで、グラスがひ ふじん とつ、テーブルからころげ落ちた。スタインや、ルウエリン、ラスティントン夫人らも、 こうなっては知らぬ顔をしているわけにはいかず、最後にはレディ ー・マロウェイも捜索 くわ に加わった。 し くわ ただひとりポインツ氏だけが、さわぎに加わろうとせず、いすにすわったまま皮肉な笑 みをうかべて、グラスのワインをなめていた。 「こまっちゃったわ」と、イーヴがあいかわらずきどった、わざとらしい調子でいった。 「どこへころがってっちゃったのかしら ? どうしましよう ! どこにも見あたらないわ。」 そ、つさく 捜索に手をかしていたものたちも、ひとりまたひとりと立ちあがった。 きよう しようしつ 「きれいに消失したようだよ、ポインツ」と、ジョージ卿がほほえみながらいった。 めいじよゅう 「うまくやりましたな。」ポインツ氏はうなずいていった。「あんたはたしかに名女優にな じよう もんだい れますよ、お嬢さん。そこでです、問題は、あんたがそれをどこかにかくしたか、それと せき し ちょうし ひにく そうさく え 212

7. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

そうだん 「ばかだなんてとんでもない。」。 ハイン氏はいった。「わたしこそ、ご相談をう ふこう けるのに最適の人間ですよ。いわば、不幸をあっかう専門家ですからね。この事件があな くつう そうぞう たにひとかたならぬ苦痛をあたえていることは、容易に想像がっきます。で、事件がいま お話しくださったとおりのものであることに、まちがいはありませんな ? 」 いちどう 「なにも、 しいもらしたことはないつもりです。ポインツがダイヤをとりだして、一同に見 せましたーーーそれをあのアメリカ人のばか娘が、自分のハンド。ハッグにくつつけた。とこ ろがあとでバッグをあらためてみると、ダイヤは消えていた。だれもそれをかくしもって じしんしんたいけんさ はいませんでした もちぬしのポインツ自身、身体検査をうけているんですーー自分か らそういいだしたんです。かといって、部屋のなかにかくせるような場所がなかったこと ちか は、誓ったっていし それに、部屋をはなれたものもひとりもいなかったーーー」 。ハイン氏は水をむ 「ウェイターはどうですかーーー出入りしませんでしたか ? 」 けた。 ルウエリンは首を横にふった。 むすめ 「ウェイターがでていったのは、あの娘がダイヤを落としたといって、さわぎだすまえで かぎ す。そしてそのあとは、ポインツがドアに鍵をかけてしまいましたから、出入りできたは さいてき むすめ せんもんか じけん 222

8. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「たいへんな金額ですわね : : : お金だけじゃなく、宝石そのものの魅力もありますし : ・ きれいな石ですわ。」 たんそ 「ただの炭素のかたまりにすぎないんですがね」と、エヴァン日ルウ = リンが口をはさ んだ。 こばいしゃ ほうせきどろばう 「まあ、よく聞かされることだが、宝石泥棒のいちばん苦しむのは、故買者を見つけるこ きよ、つ 、つこ。「なんとか見つけても、うまい汁はそいつにすわれ とらしいね」と、ジョージ卿がしオ じよ、つ ちまうーーーえ、なんだね、お嬢さん ? 」 こうふん 「はじめましようっていってるのよ。」イーヴは興奮していった。「さあポインツのおじさ ま、ゆうべのようにダイヤモンドをだして、あのときいったのとおなじことをいうのよ。」 し いんき レザーン氏がもちまえの低い陰気な声でいった。 こうふん むすめ 「こまった娘で、申しわけありません。ちょっと興奮しているようですし しいのよ 。。、パはだまってて。」イーヴはいった。「さあ、おねがい、ポインツのおじ さま。」 彼の手の ほほえみながら、ポインツ氏は内ぶところをさぐって、なにかをとりだした。 / ひらにのったそれは、光をうけて燦然ときらめいた。 きんがく ひく かね うち さんぜん ほ、っせき くる みりよく しる = パインの事件簿 209 カ

9. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

けじゃないでしよう ? イギリスだってあぶないって聞いたわよ。」 みようじよう 「それでも、〈明けの明星〉だけはとらせはしませんよ。」ポインツ氏はいった。「まず第 うち とくべつじた 一に、特別仕立ての内ポケットに入れてありますからね。それにどっちみちーーわたしも ねんき みようじよう この道では年季を入れてますから、そこにぬかりはありません。〈明けの明星〉だけは、 だれにもとらせるものですか。 ィーヴは笑った。 「ふ、ふ、ふーーーあたしなら盗んでみせるわー 「そうはいきませんよ。ーポインツ氏は、目をきらめかせて相手を見かえした。 ねどこ しいえ、やれるわ。ゅうべ、寝床のなかで考えてみたのーーーおじさまがあれをみんなに まわして、見せてくたさったあとで。すごくうまい方法を考えたのよーー。あれならぜった い盗みだせるわ。」 ほ、つほう 「ほう、どんな方法です ? 」 きんばっ ィーヴはいきおいよく金髪をふって、首をいつ。ほうにかしげた。 「教えられませんよーだ いまはね。なにか賭けるっていうんならべつだけど。」 わか ポインツ氏の胸に、若ゃいだ気分がわきあがった。 ぬす わら むね ぬす あいて 206

10. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

けんあく 「ハンガリーの情勢がだいぶ険悪らしい。」 きよう ちほうし 「それは地方紙だね ? ージョージ卿がたずねた。「わたしのねらいをつけてた馬が、きょ しゆっそう う、ホールドンで出走したはずなんだが。ーーナッティ・ポーイというんだがね。」 かぎ いつけん 「レオ。」ポインツ氏がいった。「ドアに鍵をかけてくれ。この一件がかたづくまで、こう るさい給仕どもにうろちょろされたくないんでね。」 「ナッティ・ポーイは勝ちましたよ。配当は三倍です。」エヴァンがいった きよう 「たいしてつかんな」と、ジョージ卿。 きじ 「ほとんどがきようのヨットレースの記事です。」エヴァンがさらに紙面に目を走らせな っこ 0 がら、 ついたて 三人の女性が衝立のおくからでてきた。 かげかたち 「影も形もありませんわ。」ジャネットⅡラスティントンがいった 、つ ほ、っせき 「請けあってもよろしいですよ このひとは宝石を身につけてはいません。」マロウェ きようふじん イ卿夫人もことばをそえた。 し そのことばにまちがいのないことは、ポインツ - 氏もすぐにさとった。 / 彼女らの声にはき そうさくてっていてき びしいひびきがあり、それが、捜索が徹底的なものだったことをものがたっている。 きゅうじ じよせい じようせい し か み しめん 214